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 体が鉛のように重かった。
 特に背中と左腕は熱く、中心から波打つような痛みがずっと続いていた。

 ……熱い……苦しい……
 ……体がバラバラになる……
 無意識に身を捩ると、傷が擦れ体中が痛んだ。

 ……んッ……っ!! 
 思わず救いを求めるように手を伸ばした。

 
 ……あ……さぎ……さん……。



「どうした、匠。ここにいるぞ……」
 夢遊病のように差し出された匠の右手を浅葱が握り返した。

「……あ……さぎ……さ…………。
 ……ンクッ…………」

 手を握っても、まだうわ言のように繰り返される声。
 聞き取れないその声に、浅葱が匠の手を取ったまま顔を近づける。

「ここに居る。大丈夫だ、無理に話すな……」
 
 耳元で浅葱の声を聞いた瞬間だった。
 匠の右腕に力が入り、浅葱をグイッと引き寄せた。

「……! ……匠……?」
 いきなり握っていた手を引っ張られ、体制を崩した浅葱は危うく匠の上に倒れ込みそうになる。
 咄嗟に右手を匠の体の向こう側へついて、自分の体を支えた。
 匠の右手が浅葱の背中へ回され、覆い被さる形になっていた浅葱のシャツを握り、抱きしめる。

「……どうしたんだ……? 匠……」


 目の前で匠が浅葱を抱きしめていた。
 意識が朦朧としているとはいえ、それは深月にとって少なからず衝撃だった。

「……っ……!」
 思わず小さな声を上げた。
 鼓動が早くなり、ますます胸が苦しくなる。
 ついさっき、自分はそれでもいいと決心したはずの気持ちが動揺し、頭が熱くなった。
 匠の腕は、浅葱を離すのを嫌がるように、しっかりと背中に回されたままだ。

 ……匠さんは……やっぱり……。
 そんな二人を見ていられなくなり、深月はそっと視線を落とした。
 床に置いたままの二丁の銃が視界に入る。


「……あ……あの……僕……。これ……片付けてきますね……」
「ああ、悪いな。頼む」
 匠にしがみ付かれて身動きが取れない浅葱が答える。

「いえ……大丈夫ですから……」
 深月は目を伏せたまま立ち上がると、銃を握って部屋を出た。

 
 パタン――
 
 静かに扉が閉められると、その音に匠の体がビクンと震えた。

 瞳を開く。
 だがそこはまだ暗闇でしかない。

「……閉め……ないで……」
 震える声で匠が呟いた。

 
 まだ意識がハッキリしていないのか……。
 開いた瞳に何が見えているのか……。

「……まだ怖いか……?」
 浅葱の声がすぐそばで聞えた。

 声のした方へ、ゆっくりと顔を巡らせた。
 暗かったその視界にぼんやりと影のような浅葱の顔が浮かんでいた。

「浅葱……さん……」
「ん……。匠、大丈夫だ。
 安心しろ、もう独りじゃない」
 そう言って匠の目を見つめる。


 以前は途中で苦しくなり、見つめ続ける事ができなかった匠の蒼茶の瞳。
 自分の手で伏せさせたその匠の瞳から、浅葱はもう目を逸らさなかった。
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