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オヤジのPCに、メールの到着を知らせるランプが点灯したのは、翌日の午後だった。
その内容は “明日、審議会を開く”
「いきなり明日だと!?」
声を上げるオヤジに、銃の手入れをしていた三人が振り返った。
「どうした? オヤジ」
浅葱が立ち上がり、オヤジの側まで行くと、そこにはメール画面が映し出されている。
「明日……?」
その画面を見る浅葱も驚きを隠せない。
「奴等、どれだけ焦ってやがんだ!
そんなに匠を連れて行きてぇのかよ!!
こっちは “準備が出来次第” と返事をしたってーのに……!」
苛立つオヤジが机を殴りつける。
「もう一度、延期を要請する!」
そう息巻くオヤジに、
「いえ。もう、そのまま受けてください」
匠の静かな声がした。
「時間をかければ、それだけ相手に準備期間を与えるだけです。
俺は五日後でも、明日でも構いません」
「だがよ……」
言いかけるオヤジの肩に浅葱は手を置くと、そのまま首を振った。
「……クソッ……! わかった……。
匠がいいなら、もう何も言わねぇがよ……」
オヤジは渋々ながら、机を殴った拳を握り締める。
「明日って……そんな急に……」
深月も、怒りとも動揺ともわからない何かで、自分の心臓がドキドキと激しく脈打つのを感じていた。
その夜、オヤジはいつも通り、リビングのPC前で作業をしていた。
深月は自分の部屋で、ずっとソワソワと動き回っている。
雑誌を見たかと思えば、音楽を聴き、急に何かに追われるように筋トレを始めたりもした。
だがそれも長くは続かない。
壁に掛かっている漆黒の軍服……。
審議会での着用が義務付けられているそれが視界に入る度に、ザワザワと気持ちが落ちつかないのだ。
「今日は早く寝ろ」
部屋に戻る前におやっさんにそう言われたが、居ても立ってもいられず……まして眠る事など到底できそうになかった。
浅葱はベッドに腰掛け、じっと何かを考えていた。
サイドテーブルの引き出しを開けると、そこにジンのタグがある。
手を伸ばしかけ……一瞬躊躇したが、そのままタグを握り取った。
「ジン……。
明日、あいつと……決着が着くかもしれない……。
……それで……いいよな……」
そう呟き、立ち上がった。
匠はひとり、目の前の机の上を見つめていた。
そこにはタグと銃と……オヤジに渡された注射器の入ったケースがある。
ケースに収納できるカートリッジは二回分。
予備として数本を持って行くことになる。
……目を閉じ、銃を握った。
銃の扱いなら、視界が無くても完璧にできる。
だが以前、浅葱に体力的な時間を試された時は、一時間で力尽きた。
明日、そうなったら……。
緊迫した状況で、自分はどれくらい耐えられるのだろう……。
まだ1メートル程しか見えないこの視界は……。
外の明るさで、この目はどうなるのだろうか……。
この腕は……この体は……どこまで……。
そして、またあの男と会ってしまったら……。
その時、部屋の扉が小さくノックされた。
「匠……起きてるか? ……俺だ」
扉を開けると、廊下に浅葱が立っていた。
「ちょっと、いいか……?」
その声に匠が無言で頷き、部屋に招き入れると、浅葱は机の上に並べられた物に目を止めた。
「……怖いか?」
「……いいえ……」
そう言う匠の声は落ち着いていたが、その気からは、ほんのわずかな乱れが感じられる。
「……心配なだけです。
自分の意思とは別に、この体が動くのかどうか……。
あの腕の痛みや……発作を……起こすんじゃないかと思うと、自分がどこまでできるのか……。
それが心配なだけです」
浅葱の、まだハッキリ見えない後ろ姿を見つめながら匠は答えた。
その内容は “明日、審議会を開く”
「いきなり明日だと!?」
声を上げるオヤジに、銃の手入れをしていた三人が振り返った。
「どうした? オヤジ」
浅葱が立ち上がり、オヤジの側まで行くと、そこにはメール画面が映し出されている。
「明日……?」
その画面を見る浅葱も驚きを隠せない。
「奴等、どれだけ焦ってやがんだ!
そんなに匠を連れて行きてぇのかよ!!
こっちは “準備が出来次第” と返事をしたってーのに……!」
苛立つオヤジが机を殴りつける。
「もう一度、延期を要請する!」
そう息巻くオヤジに、
「いえ。もう、そのまま受けてください」
匠の静かな声がした。
「時間をかければ、それだけ相手に準備期間を与えるだけです。
俺は五日後でも、明日でも構いません」
「だがよ……」
言いかけるオヤジの肩に浅葱は手を置くと、そのまま首を振った。
「……クソッ……! わかった……。
匠がいいなら、もう何も言わねぇがよ……」
オヤジは渋々ながら、机を殴った拳を握り締める。
「明日って……そんな急に……」
深月も、怒りとも動揺ともわからない何かで、自分の心臓がドキドキと激しく脈打つのを感じていた。
その夜、オヤジはいつも通り、リビングのPC前で作業をしていた。
深月は自分の部屋で、ずっとソワソワと動き回っている。
雑誌を見たかと思えば、音楽を聴き、急に何かに追われるように筋トレを始めたりもした。
だがそれも長くは続かない。
壁に掛かっている漆黒の軍服……。
審議会での着用が義務付けられているそれが視界に入る度に、ザワザワと気持ちが落ちつかないのだ。
「今日は早く寝ろ」
部屋に戻る前におやっさんにそう言われたが、居ても立ってもいられず……まして眠る事など到底できそうになかった。
浅葱はベッドに腰掛け、じっと何かを考えていた。
サイドテーブルの引き出しを開けると、そこにジンのタグがある。
手を伸ばしかけ……一瞬躊躇したが、そのままタグを握り取った。
「ジン……。
明日、あいつと……決着が着くかもしれない……。
……それで……いいよな……」
そう呟き、立ち上がった。
匠はひとり、目の前の机の上を見つめていた。
そこにはタグと銃と……オヤジに渡された注射器の入ったケースがある。
ケースに収納できるカートリッジは二回分。
予備として数本を持って行くことになる。
……目を閉じ、銃を握った。
銃の扱いなら、視界が無くても完璧にできる。
だが以前、浅葱に体力的な時間を試された時は、一時間で力尽きた。
明日、そうなったら……。
緊迫した状況で、自分はどれくらい耐えられるのだろう……。
まだ1メートル程しか見えないこの視界は……。
外の明るさで、この目はどうなるのだろうか……。
この腕は……この体は……どこまで……。
そして、またあの男と会ってしまったら……。
その時、部屋の扉が小さくノックされた。
「匠……起きてるか? ……俺だ」
扉を開けると、廊下に浅葱が立っていた。
「ちょっと、いいか……?」
その声に匠が無言で頷き、部屋に招き入れると、浅葱は机の上に並べられた物に目を止めた。
「……怖いか?」
「……いいえ……」
そう言う匠の声は落ち着いていたが、その気からは、ほんのわずかな乱れが感じられる。
「……心配なだけです。
自分の意思とは別に、この体が動くのかどうか……。
あの腕の痛みや……発作を……起こすんじゃないかと思うと、自分がどこまでできるのか……。
それが心配なだけです」
浅葱の、まだハッキリ見えない後ろ姿を見つめながら匠は答えた。
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