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「だめか……」
「いえ、あれを……」
溜息とも声とも判らない程の声で呟き、額の前で指を組み俯いた透の側で、秘書の男の小さな声がした。
男の目線の先、顔を上げた透の前で、真っ暗だったコンソールの一部にグリーンのランプがポツ……ポツ……点り始めていた。
それは淡く小さく儚気な灯りだったが、それらは確実に増え並んで点灯していく。
暗闇に点り始める光に、透はゾワゾワと全身が総毛立つ感覚を覚えていた。
「これは……解除できたということなのか……?」
監視カメラも何も映さず、状況が把握しきれない透の横で、深月のタブレットが眩しく点滅を始めた。
“Toru, congratulations!”
その文字はしばらく点滅を繰り返した後、また新たな文字を並べ始める。
それはエレベーターが起動した事を示し、これから行うべき作業の手順が事細かに書かれていた。
「深月君……」
緊迫し続けていた状況の中で、やっと透に笑みが戻る。
透はそこで初めて息をした。
もちろん呼吸こそしていたが、重圧から解放された安堵からか、初めて胸の奥深くで本当に息を吸ったという実感があった。
「先生、遅くなりました。
エレベーターが解除できました」
深月のさりげない遊び心に救われ、透はふぅーと息を吐きながら、待ちわびているはずのオヤジへ連絡を入れた。
「よっしゃ!!」
オヤジが飛び上がるように席から立ち上がる。
「30階までは避難誘導中です。
31階以上もこれから順次避難させますが……先生、先に77階をお願いします」
「77階?」
オヤジの声が喜びから一気に訝る声へと変わる。
「はい、申し訳ありません。
深月君が77階を偵察に行き、奥の部屋が気になると言ったまま……連絡が途絶えています」
「深月が!?」
先に声を上げたのは浅葱だった。
「いつだ……いつの事だ!
その77階というのは何がある!」
浅葱はオヤジの携帯をひったくるように取り上げ叫んでいた。
「浅葱君、申し訳ない。3時間ほど前だ。
77階はナンバーツーのうちの二人の執務室と居室があるはずだが、その二人共とまだ連絡が取れていない」
「わかった。もうそこまでは行けるんだな?
大至急上へ向う」
浅葱は携帯をポンとオヤジへ投げて返すと、部屋を飛び出していた。
オヤジも携帯を受け取りながら、浅葱の後を追って部屋を出る。
「俺も恭介と上へ行く。透、後の事は……」
「わかっています、先生。
これからの事も深月君がしっかり指示を残してくれていますから、こちらは我々に任せて下さい。
念の為、携帯はこのままで……お気をつけて、先生」
オヤジが言い終わるか終らないかのうちに、透の声が返ってきていた。
そのまま透はタブレットの指示に従い、防火扉の解除に専心した。
二人を途中で立ち止まらせてはいけない……。
その思いで必死だった。
隣では秘書の男も、引き続き各部屋の開錠と連絡を同時進行させていく。
一般市民の救助。
どんな場合でも、仲間よりもそれが最優先。
その想いは二人の……いや……オヤジ、浅葱、匠、深月……全員の想いでもあった。
防火扉が次々に解除され、解放されていく廊下を浅葱とオヤジは走っていた。
エレベーターホールが見え始めると、
「透、もうすぐエレベーターだ!」
オヤジが叫んだ。
二人がその前に走り着くとほぼ同時、扉は音も無く開き、勝手に上昇を始める。
表示も何もない箱の中で、二人は慌しく装備の点検をした。
77階。
そこが決戦の場になる……。
「いえ、あれを……」
溜息とも声とも判らない程の声で呟き、額の前で指を組み俯いた透の側で、秘書の男の小さな声がした。
男の目線の先、顔を上げた透の前で、真っ暗だったコンソールの一部にグリーンのランプがポツ……ポツ……点り始めていた。
それは淡く小さく儚気な灯りだったが、それらは確実に増え並んで点灯していく。
暗闇に点り始める光に、透はゾワゾワと全身が総毛立つ感覚を覚えていた。
「これは……解除できたということなのか……?」
監視カメラも何も映さず、状況が把握しきれない透の横で、深月のタブレットが眩しく点滅を始めた。
“Toru, congratulations!”
その文字はしばらく点滅を繰り返した後、また新たな文字を並べ始める。
それはエレベーターが起動した事を示し、これから行うべき作業の手順が事細かに書かれていた。
「深月君……」
緊迫し続けていた状況の中で、やっと透に笑みが戻る。
透はそこで初めて息をした。
もちろん呼吸こそしていたが、重圧から解放された安堵からか、初めて胸の奥深くで本当に息を吸ったという実感があった。
「先生、遅くなりました。
エレベーターが解除できました」
深月のさりげない遊び心に救われ、透はふぅーと息を吐きながら、待ちわびているはずのオヤジへ連絡を入れた。
「よっしゃ!!」
オヤジが飛び上がるように席から立ち上がる。
「30階までは避難誘導中です。
31階以上もこれから順次避難させますが……先生、先に77階をお願いします」
「77階?」
オヤジの声が喜びから一気に訝る声へと変わる。
「はい、申し訳ありません。
深月君が77階を偵察に行き、奥の部屋が気になると言ったまま……連絡が途絶えています」
「深月が!?」
先に声を上げたのは浅葱だった。
「いつだ……いつの事だ!
その77階というのは何がある!」
浅葱はオヤジの携帯をひったくるように取り上げ叫んでいた。
「浅葱君、申し訳ない。3時間ほど前だ。
77階はナンバーツーのうちの二人の執務室と居室があるはずだが、その二人共とまだ連絡が取れていない」
「わかった。もうそこまでは行けるんだな?
大至急上へ向う」
浅葱は携帯をポンとオヤジへ投げて返すと、部屋を飛び出していた。
オヤジも携帯を受け取りながら、浅葱の後を追って部屋を出る。
「俺も恭介と上へ行く。透、後の事は……」
「わかっています、先生。
これからの事も深月君がしっかり指示を残してくれていますから、こちらは我々に任せて下さい。
念の為、携帯はこのままで……お気をつけて、先生」
オヤジが言い終わるか終らないかのうちに、透の声が返ってきていた。
そのまま透はタブレットの指示に従い、防火扉の解除に専心した。
二人を途中で立ち止まらせてはいけない……。
その思いで必死だった。
隣では秘書の男も、引き続き各部屋の開錠と連絡を同時進行させていく。
一般市民の救助。
どんな場合でも、仲間よりもそれが最優先。
その想いは二人の……いや……オヤジ、浅葱、匠、深月……全員の想いでもあった。
防火扉が次々に解除され、解放されていく廊下を浅葱とオヤジは走っていた。
エレベーターホールが見え始めると、
「透、もうすぐエレベーターだ!」
オヤジが叫んだ。
二人がその前に走り着くとほぼ同時、扉は音も無く開き、勝手に上昇を始める。
表示も何もない箱の中で、二人は慌しく装備の点検をした。
77階。
そこが決戦の場になる……。
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