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「おい、ついて行くって……お前なぁ……。
 年上のお前がリードしなくてどうする」

 深月のを聞いていた浅葱が呆れたように尋ねた。

「えっ! 匠さんって……僕より年下……?」
「ああ、そうだ」

 浅葱は、そんなことも知らなかったのか、と言いた気に笑う。

「だ……だって、階級も僕より上だったし……」
 深月は匠の服についていた階級章を思い出していた。

「ああ、確かに階級は匠の方が上だが、年はお前の方が上だぞ?
 匠とコンビを組むつもりなら、もっとしっかりしろ」

「やっばっ……!!
 ずっと年上だとばかり……。
 じゃあ、じゃあー。
 これからは名前呼びしようかなぁーなんて……。
 ……た……たくみーー……とか……」

 言いかけて、じっと自分を見つめている二人の視線に気が付いた。

「えっ……。
 あ……ウソ……です……!
 冗談です! 調子に乗りすぎました!
 ……はい! すみませんっ!
 あ、でも頑張るのは本当なので……!
 僕、頑張ります!」

 そう言いながら深月は真っ赤な顔で部屋を飛び出して行った。

「ったく……いつまでも賑やかなヤツだ。
 あれでは、まだまだお前を渡すわけにはいかないな」

 軽く溜息をつきながら、浅葱が腕の中の匠に視線を向ける。

「でも……大丈夫でしょうか、流さん……」

 どうみてもから元気としか思えない深月を思い、匠も浅葱を見上げた。

「心配するな、大丈夫だ。
 深月はああ見えて強い」

 浅葱が匠の顔を見て微笑んだ。




 深月はバタンと部屋の扉を後ろ手で閉めると、そのまま扉に体を預けて目を閉じ、大きく天を仰いだ。
 細くフゥーーーと息を吐く。

「いいのか? それで……」

 いきなりオヤジの声がして、深月は慌てて目を開けた。
 目の前の廊下の壁にオヤジがもたれかかり、じっと自分を見ていた。

「おやっさん……」

「流、辛くはないのか?
 恭介も口下手だからな……。
 もうちっとこう……なんていうか……言い方というか、見せ方というかー」
 
「……あ。見てたんですか……?」

 それはオヤジへの問い掛けではあったが、深月はそれに対する答えを聞く前に自ら口を開いた。

「いえ、いいんです。これで。
 浅葱さんの気持ちも、僕、ちゃんとわかっていますから。
 あれは浅葱さんの優しさですよね。
 ジンさんの事、わからないままずっと苦しんでた浅葱さんだから、愛する人の事をちゃんとわかっていたいって思う気持ち。
 今までみたいに、二人の事を……何もわからないまま勘ぐってモヤモヤと考えるより、ああやっててくれた方がずっと楽なんです。
 それに何があっても僕の気持ちは今言った通り、変わりませんから」

「……」

「それに……あのハルを見ていて、わかったんです。
 どうしても匠さんが欲しい……。
 そのためなら強引にでも自分のモノにってとこ……僕も同じだった。
 だけど、それじゃダメなんだ。
 例え無理矢理、力尽くで奪えたとしても、それは僕の欲しい匠さんとは違う。
 おやっさん……。
 上手く言えないけど、僕は僕らしく匠さんの側に居たい。
 そして守りたい……ずっと。
 だから、ここに置いてください!」

 姿勢を正し、深々と頭を下げる深月がいた。

 オヤジは壁に体を預けたまま腕を組み、黙って深月の話を聞いていたが、
「ん、わかった。
 お前の思うようにすればいい。
 透には、俺から返事をしておいてやる」
 そう言ってポンと深月の肩に手を置いた。




「浅葱さん……。
 あの男は……ハルは……」

 深月が部屋から出て行くと、匠は思い切ったようにそう尋ねた。

「ハルは今、取り調べを受けている。
 身元受けは、あの秘書だった男が是非にと申し出たそうだ。
 今でもずっとハルの側についているらしい。
 あの部屋でも、ハルを守り抜こうとする姿勢も気も一度も乱れはしなかった。
 あの男になら任せて大丈夫だと思う」

「そうですか……。
 でも取り調べって……」

「ああ、委員長は全てを剥奪され、一般人として司法で裁くと透さんが決めてくれた。
 その証人としてハルも取り調べを受けている。
 ハル自身が今後、どういう形になるのかはまだ決まっていないが……。
 ……匠、お前はどうしたい……?
 お前もハルの被害者だ。
 罪を償わせたいなら……」

 話しが終わる前に匠は浅葱を見上げた。
 浅葱の少し伏せた瞳が自分を見ていた。

「いえ……俺は何も……。
 前を向けるだけの力は、浅葱さんがくれましたから」

「そうか……」

 浅葱もそれだけ答えると、再び匠を抱きしめた。
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