229 / 232
-228
しおりを挟む
オヤジからようやく外出許可が下りたある日、匠と浅葱は二人は揃って出かけた。
「いいなぁー。
僕もデートしたいなぁーーー」
走り去っていく浅葱の車をオヤジと二人で見送りながら、プゥーと深月が頬を膨らませた。
「そういえば、透から返事が来てたぞ」
オヤジの言葉に深月が「えっ……」と声を上げ振り返った。
組織のナンバーツー。
いや次期ナンバーワンの誘いを、一介の少佐でしかない自分がバッサリと断ったのだ。
気まずさは拭い切れない。
「……ええっと……」
言葉に詰まる深月を見てオヤジが笑う。
「安心しろ。
お前が『行かない』って返事するってこたぁ、透は端っからわかってたさ。
“やっぱりそうですか”……だとさ。
笑ってたぞ。それでこそ自分が惚れた男だ!……ってな。
んで、誘いの事は気にせずに、いつでも本部へ遊びに来いってよ。
お前が透の部屋に自由に出入りできるように、セキュリティーの登録も済ませたそうだ」
深月の気持ちを汲み取ってか、オヤジがいつもに増して明るく話しかける。
「気にするなと言われても……ですね……。
それに自由にって……。
それだと益々、申し訳ないですよ……。
合わせる顔がありません」
深月が困惑した表情で俯く。
「何言ってんだ、遊びに行ってやれ!
その方が透も喜ぶ。
いつも通りのお前でいいんだ。
透はそんな事でヘソを曲げるようなヤツじゃあねぇ。
透の人柄は俺が保証してやる!
良い奴に惚れられたな、流」
「そ……そんな……」
少しだけ安堵したように、深月が顔を赤らめ下を向いた。
「んーー?
おいおいー、流、照れてんのかー?
こいつはもしかするってーと、満更でもねぇ……ってかー?」
「え……えっとーー!
あ……そうそう!
浅葱さん達、どこへデートなんですか!?」
豪快に笑うオヤジの横で、深月が真っ赤になった顔をプイと背け、照れを隠そうとして慌てて話題を変えた。
「んー? 現場だ」
オヤジが答える。
「えっ? 仕事だったんですか?
なぁんだ、デートかと思っちゃいましたよ」
「大事な仕事だ、ケジメをつけるためのな」
「ケジメ……?」
不思議そうにオヤジの顔を見る深月に、オヤジは「ああ」と呟いた。
浅葱の車は都心を抜け、海の方へと走り続けていた。
匠の視界には、わずかばかりの色が戻りつつあったが、それはまだ明瞭と言うには程遠く、車窓から見る海の青と、空の青の境界はハッキリとしない。
匠はずっと黙ったまま、その海を眺めていた。
波が寄せる度に水面がキラキラと輝く。
その反射が目にわずかな痛みを引き起こし、匠はずっと一人、その痛みと戦っていた。
ハルに対する嫌悪や憎しみといった激しい感情はもう無くなっていた。
勿論、全くのゼロになった訳ではないが、恨む気にはなれなかった。
だが、この体の痛みだけは……。
こうやって時折思い出すように痛みだす左腕や目。
この体の痛みだけは、自身ではどうしようもできないものだった。
そして、背中の傷も……。
匠がふっと小さな溜息を漏らした。
「どうした? 大丈夫か? どこか痛むか?」
浅葱がハンドルを握ったまま心配そうに尋ねる。
「いえ、平気です」
匠はゆるやかな微笑みを返した。
車はそのまま海沿いを走り、どこかの施設の門の前で止まった。
守衛らしき人物が声をかけて来る。
浅葱は以前と同様に、一言二言交わした後、開けられた門から敷地内へと進入した。
山道を登る頃には、匠がマンションを脱走した日と同じように陽が沈み始めていた。
「こんな景色だったんですね……」
山道を登りながら、あの日、全く見えていなかった風景を静かに眺めながら匠が呟いた。
「綺麗だな……」
遠くの海に、目の痛みと共に夕日が沈もうとしていた。
「いいなぁー。
僕もデートしたいなぁーーー」
走り去っていく浅葱の車をオヤジと二人で見送りながら、プゥーと深月が頬を膨らませた。
「そういえば、透から返事が来てたぞ」
オヤジの言葉に深月が「えっ……」と声を上げ振り返った。
組織のナンバーツー。
いや次期ナンバーワンの誘いを、一介の少佐でしかない自分がバッサリと断ったのだ。
気まずさは拭い切れない。
「……ええっと……」
言葉に詰まる深月を見てオヤジが笑う。
「安心しろ。
お前が『行かない』って返事するってこたぁ、透は端っからわかってたさ。
“やっぱりそうですか”……だとさ。
笑ってたぞ。それでこそ自分が惚れた男だ!……ってな。
んで、誘いの事は気にせずに、いつでも本部へ遊びに来いってよ。
お前が透の部屋に自由に出入りできるように、セキュリティーの登録も済ませたそうだ」
深月の気持ちを汲み取ってか、オヤジがいつもに増して明るく話しかける。
「気にするなと言われても……ですね……。
それに自由にって……。
それだと益々、申し訳ないですよ……。
合わせる顔がありません」
深月が困惑した表情で俯く。
「何言ってんだ、遊びに行ってやれ!
その方が透も喜ぶ。
いつも通りのお前でいいんだ。
透はそんな事でヘソを曲げるようなヤツじゃあねぇ。
透の人柄は俺が保証してやる!
良い奴に惚れられたな、流」
「そ……そんな……」
少しだけ安堵したように、深月が顔を赤らめ下を向いた。
「んーー?
おいおいー、流、照れてんのかー?
こいつはもしかするってーと、満更でもねぇ……ってかー?」
「え……えっとーー!
あ……そうそう!
浅葱さん達、どこへデートなんですか!?」
豪快に笑うオヤジの横で、深月が真っ赤になった顔をプイと背け、照れを隠そうとして慌てて話題を変えた。
「んー? 現場だ」
オヤジが答える。
「えっ? 仕事だったんですか?
なぁんだ、デートかと思っちゃいましたよ」
「大事な仕事だ、ケジメをつけるためのな」
「ケジメ……?」
不思議そうにオヤジの顔を見る深月に、オヤジは「ああ」と呟いた。
浅葱の車は都心を抜け、海の方へと走り続けていた。
匠の視界には、わずかばかりの色が戻りつつあったが、それはまだ明瞭と言うには程遠く、車窓から見る海の青と、空の青の境界はハッキリとしない。
匠はずっと黙ったまま、その海を眺めていた。
波が寄せる度に水面がキラキラと輝く。
その反射が目にわずかな痛みを引き起こし、匠はずっと一人、その痛みと戦っていた。
ハルに対する嫌悪や憎しみといった激しい感情はもう無くなっていた。
勿論、全くのゼロになった訳ではないが、恨む気にはなれなかった。
だが、この体の痛みだけは……。
こうやって時折思い出すように痛みだす左腕や目。
この体の痛みだけは、自身ではどうしようもできないものだった。
そして、背中の傷も……。
匠がふっと小さな溜息を漏らした。
「どうした? 大丈夫か? どこか痛むか?」
浅葱がハンドルを握ったまま心配そうに尋ねる。
「いえ、平気です」
匠はゆるやかな微笑みを返した。
車はそのまま海沿いを走り、どこかの施設の門の前で止まった。
守衛らしき人物が声をかけて来る。
浅葱は以前と同様に、一言二言交わした後、開けられた門から敷地内へと進入した。
山道を登る頃には、匠がマンションを脱走した日と同じように陽が沈み始めていた。
「こんな景色だったんですね……」
山道を登りながら、あの日、全く見えていなかった風景を静かに眺めながら匠が呟いた。
「綺麗だな……」
遠くの海に、目の痛みと共に夕日が沈もうとしていた。
0
あなたにおすすめの小説
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる