王子の僕が女体化して英雄の嫁にならないと国が滅ぶ!?

蒼宮ここの

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第74話 最強魔導士、寝返る

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戦場の中心で、ルシウスとジャオは依然、激しい攻防を繰り広げていた。

ジャオは四肢を火傷させられている。凍傷かもしれない。ルシウスは火と氷の魔法を交互にジャオに打ち付けてとことんまで痛めつけようとしているみたいだ。だけどジャオも‪……‬ふらふらになりながらもルシウスに迫り、何度も拳を、蹴りをお見舞いする。
二人ともかなり消耗している。もう喧嘩両成敗ということで仲直りしてほしい。ダメだろうか。ダメだろうな‪……‬僕が口を挟んでいい問題じゃない。もとはといえば僕がどっちつかずな態度だったからこんなことに‪……‬もう、何も言わないほうがいい。

「‪……‬おい。降参しろよ。お前が死ぬとベルが泣くだろ」
「誰がッ‪……‬お前こそ降参しろ、ベルを悲しませたくない‪……‬」

二人とも、笑っている‪……‬?
楽しい‪……‬わけはないよな‪……‬なんで‪……‬‪……‬。

僕はもうすっかり女人に成り果ててしまったのだろうか。二人とも僕を想って戦っているはずなのに、僕には二人の心情が理解できない。

「降参しないなら殺すしかない、俺とベルが一緒になるためには‪……‬」
「ベルと一緒になるのは俺だ。引き下がれ‪……‬!」

ジャオが前進し、思いっきり握り込んだ拳をルシウスの腹にぶち込む。もろに入った。ルシウスは嘔吐するように唾液を撒き散らしながらも、ジャオの額に手をあてる。
ああ、そんな‪……‬脳天に直接魔法を撃ち込まれたら‪……‬!

「ダメ――――!!!!」
「なっ‪……‬ベル」

ルシウスが慌ててこちらを振り向く。その隙にジャオがルシウスの足元を浚って仰向けに倒した。ダン!! ジャオの足に顔面を思いきり踏み抜かれて‪……‬ルシウスの四肢がぐったりと地に落ちる。

「ジャオ!!」

駆け寄るとジャオはしっかりと僕を抱き締めてくれた。

よかった。ジャオが勝った。
ルシウスも死んではいない‪……‬気絶しているだけだろう。
よかった‪……‬‪……‬。

「ベル、ベルは俺と結婚するよな‪……‬?」
「もちろんだよ‪……‬! 無事でよかった、ジャオ‪……‬!」

回復薬を渡す。すぐに効き目は出ないかもしれないが、ないよりはマシだ。

「お前はもう城の中で待機していろ。フロストもそこだろう」
「でも‪……‬僕、ここにいなきゃならない‪……‬そんな気がするんだ‪……‬」
「‪……‬ッ!!」

不意にジャオが目の前から消えて、後方でキン! と弾く音が響く。僕の頭上に振り下ろされた剣を、ジャオが蹴りで受け止めたのだ。

「どこでもいいから!! 逃げろ!!」
「ごめんっ、ジャオ‪……‬!」

せっかく合流できたのに‪……‬また、離れ離れ‪……‬でもジャオは動ける限り、戦い続けなくちゃならない。この中の誰よりも強いし、誰よりも‪……‬責任のある身なのだ。
ジャオが敵を遠ざけてくれたので駆け出そうとする、が、足を掴まれてその場にすっ転んだ。咄嗟に頭を抱えて攻撃に備えるが、あれ‪……‬何も、来ない‪……‬?

「ベル、俺にも回復薬‪……‬」
「ルシウス‪……‬!?」

気絶したんじゃなかったのか。やはりコイツも化け物級だ。尻もちをついたまま後ずさるが、ルシウスは僕の足首を掴んでずるずるとついてくる。

「お前はダメだ。敵だもん」
「じゃあ寝返る。ベルの味方になるから」
「‪……‬どういう風の吹き回しだ?」
「俺の目的はもともとお前だもん。ジャオを殺せないなら、王のところにいる意味ないよ」

そんなことを言われたってやすやすと信用できるものか。いくら友人でも‪……‬ついさっきまでジャオを本気で殺そうとしていたんだぞ? また付け狙うかもしれない。……だが……。
本気で悩んでいると、後ろから騒々しい足音が近づいて来る。

「ルシウス‪……‬!人質を逃がしたのはお前か‪……‬!?」
「おう、オヤジ」

ルシウスのお父さんか。落ち窪んだ目に蒼い頭髪、あまり似ていないが、僕も会った事がある。

「なんて事を‪……‬!これが王に知れたら‪……‬」

大袈裟に頭を抱えているところで、唐突に僕と視線が交差した。反射で会釈すると、あちらも思わずといった調子で返してくる。

「ベル様‪……‬!? お前、罪滅ぼしにベル様を捕らえたのか!? よくやった!」
「へ? へ?」
「オヤジ、違う‪……‬ベルに手を出すな」
「これで王に許していただける! お前もベル様と結婚できるぞ!」
「触んな!!!」

僕が手首を掴まれる直前に、寝そべったままのルシウスが手を伸ばして魔法で吹っ飛ばした。実の父親を、だ。
起き上がってこないので慌てて様子を見にいくが、気絶している。外傷はほとんどない。

「ルシウス、ありがとう‪……‬」
「ヘッ。こーんなボロボロの息子に一撃でやられちまうんだから、父親ってのも肩無しだよな」

ルシウスのお母さんは魔力を持っていない。ルシウスが魔力持ちとして産まれてきたのは明らかに父親からの遺伝だ。しかしこんなにも差があるとは‪……‬つくづく、不可解なものだ。

「‪……‬ほんとうに僕の味方になってくれるのか?」
「ああ、約束する。もうすぐ王が出てくるぞ、俺の力が必要なはずだ」
「それは‪……‬そうだな。じゃあ二つ、誓いを立ててほしい」

僕はルシウスの手を握る。
コイツに触れるのも‪……‬これで最後になるんだ。

「二度とジャオに危害を加えないこと」
「わかった。誓うよ」
「もう一つ。‪……‬二度と僕と結婚したいとか、言わないでくれ」
「‪……‬‪……‬ヒッデーこと言うよなァ‪……‬‪……‬」

意気消沈するルシウス。遠くを見つめる瞳は乾き切っているが、まるで泣いているように睫毛が震えている。ややあって、大きく息をついた。

「‪……‬はい。二度とベルと結婚したいとか言いません」
「うん。だったら回復させてやる」

甘いと言われるかもしれない。けれど、やっぱりルシウスは大切な友達なんだ。失いたくない。
立てないようなので膝枕をして回復薬を口に流し込んでやる。飲み込まない。僕の太腿がボタボタと濡れていく。

「口移しじゃないと無理かも‪……‬」
「この場で首絞めて僕が引導渡してやろうか」
「あッッそれもなかなかいいかも」
「さっさと飲め」

鼻摘んで顔上向きにして無理やり流し込んでやった。横道に逸れたらしくひどく咳き込んでいる。自業自得だバカ。

「エホッエホッ‪……‬うう‪……‬助かったけどしんどい‪……‬」
「じゃあジャオと仲直りして来い」
「え?」
「ジャオのこと襲ってる敵倒して、謝ってきてって言ってんの」
「ハア‪……‬仕方ねェなあ」

ルシウスは僕の膝の上で頭を回転させる。ようやく起き上がるのかと思ったら、なんとペロリと太腿の間に舌を這わせてきたではないか。バチン! 頬を打ってすぐさま地面に放り出した。

「セクハラしないとは誓ってないもんねー」
「バカ! スケベ! ド変態!」
「あ~ベルの罵倒で元気出たわ。いってきまーす」

ルシウスはジャオの元へと去っていく。
ハア‪……‬。頼む、これ以上、拗らせないでくれよな‪……‬。

ワアアアア‪……‬!

どこからか歓声が上がる。同時に衛兵たちのどよめきが広がった。騒ぎのあるほうに駆け付けると、そこいらの者たちは戦闘を止めてある一点に視線を注いでいる。魔道士軍の列を割って、仰々しい椅子に座ったまま担がれてきたのは‪……‬‪……‬父上だ。
髪も髭も伸び、くたびれているが‪……‬ギラギラとした眼力は強まり、憎しみの波動に満ちている。こんな禍々しい気迫を出せるのは、父上しかいない。

「王が来たぞ!!」
「これで我が軍の勝利だ!!」
「城の軍隊を蹴散らせー!!」

魔法の攻撃が激化する。兵士同士がますます激しくぶつかり合う中で、父上はのそりと首をこちらに向け、

「おお、ベルよ。この父を出迎えてくれるのか」‪

……‬絶対に悟られない場所で見ていたはずなのに。
父上の底知れぬ力に悪寒が走る。どこに隠れていたって見つけ出される、そんな恐怖に息が荒くなる。父上の言葉にすぐさま魔道士軍が父上を輪の中に入れて、そこに僕をも取り囲んだ。

「愛するベルよ、こちらへおいで‪……‬お前に相応しい魔道士の婿もこちらに用意した」
「父上、お久しぶりです。‪……‬僕はジャオ以外と婚姻を結ぶ気はありません。諦めてください」
「女人が口答えをするか!!! この私に!!!」

ドガン!! 父上が激昂して手すりに拳を振り下ろす。球体の、握るためであろう飾りが粉々に砕け散る。

「ベルよ、懲りてはおらぬようだな‪……‬女人の価値は出産にしかありはせん。お前という役立たずを最大限に活用してやろうと言うのがわからんのか」
「女人にしかできない仕事もあります。子どもを産むのも、育てるのも‪……‬生活に工夫をするのも女人の経験からなる知恵です。私は女人を心から尊敬しております」
「‪……‬‪……‬くだらん」

吐き捨てるように言うと、ついと腕を振った。魔道士の一人が僕を後ろから拘束する。衛兵らが息を呑んでこの光景を見守っている気配がする。‪
……‬誰も、助けになど入れない。父上の威厳に圧倒されているのだ。存在するだけで平伏したくなるような絶対的な王。悔しいが、それが父上だ。

「離せ‪……‬!」
「非力で何の力もない女人よ。国民どもに見せつけてやれ。弱きお前が国民を裏切るその様をな」

国民は‪見ている。自宅で息を潜めて‪……‬逃げ込んだ物陰で……避難した城の物見櫓で‪……‬皆が見ている。父上の登場から一気にそれが増えた。今まで豆粒のような人間があちこちで叩き合っているだけでは目が散っただろうが、巨体の父上を取り囲んだ大きな輪は‪、上階からも目に留まるのだろう。

「ルシウス! 前へ!」

いつの間にか魔道士軍に戻っていたルシウスが腫れ上がった顔で現れる。あれ‪……‬なんか傷増えてないか‪……‬? ジャオにやられたのかな。片目なんて開き切ってもいない。

「ここで結婚式を執り行う。この国の王子改め王女のベルは、我が軍が誇る一等魔道士ルシウスと婚姻を結ぶ! 祝福せよ!」

魔道士達がやんややんやと囃し立てる。下品な指笛があちこちから飛んできて耳障りでしかない。ルシウスはにこりと微笑んで僕の背を抱き寄せた。
コイツ、どちらにつく気だ‪……‬約束したよな? 僕ら‪……‬協力して王を倒すって‪……‬。

「このまま結婚しようよ‪……‬ベルぅ‪……‬」

ギュウウッ。切ない声が僕にだけ聞こえる音量で耳元に囁かれる。皆に見えないように身体の間でルシウスの手の甲をつねり上げると、ハアと諦めたようなため息が吐かれた。

「‪……‬逃げるぞ。抱き上げるから掴まれ」

ルシウスがひょいと僕を横抱きにする。ワッと歓声が上がるが、次の瞬間魔道士の輪から全速力で逃げ出すルシウスの背中を見て、慌てて集団で追いかけてくる。

「裏切ったなルシウス!」

王が髪を振り乱して椅子から飛び降りる。ドスドスと驚愕の歩幅で追いかけて来た。まるで怪獣だ。

「魔法を撃ってくる! 右に避けて!」
「ほいほいっと」

しかしルシウスも恐るべき脚力だ。後ろの状況から指示を出す僕に従いながら、まったく遅れを取らない。

「ウワ! 全方向から魔法が来る!!」
「‪……‬マジ!?」

ピタリ。足が止まる。ルシウスは僕を下ろして胸に抱き込み、大きく息を吸い込んだ。
途端に辺りの気温が上がる。ルシウスの体温? いや違う‪……‬。

「わっ!」

避けようのない複数の魔法弾は、見えない壁によってすべて弾き返された。
……防御魔法も会得しているのか。敵ナシだな。

「すごいぞルシウス!」
「惚れた?」
「それはない!」

父上が追いついてくる。僕が振り返ると同時に魔法が放たれた。ルシウスの防御魔法にあたるとピシピシと不穏な音がして、空気が揺れ‪……‬壁が、砕けた。

「グッ!!」

ルシウスが僕を胸の中にしまい込む。四肢もはみ出ないように背を丸めて包んでくれて‪……‬同時に、衝撃で、吹っ飛ぶ。

「ウ!!」

ルシウスは空中でも僕を放さずギュッと抱き締めてくれていた。地面に落ちる時も、自ら反動をつけて下になってくれる。最初に直撃したところ、服が破けて‪……‬ひどく擦りむいて出血している。一撃で防御魔法を砕くどころか、攻撃にまで及ぶとは……なんという威力だ。

「ベル、俺もうダメ、逃げて‪……‬」
「弱気なこと言うなよ!?」
「折れてる、脇腹‪……‬」
「ウソ‪……!?‬」

父上が迫る。死を覚悟したその時――――僕とルシウスは同時にひょいと持ち上げられた。地面を蹴る力強い躍動。顔を上げて確認しなくてもわかった。

「ジャオ!」
「お、俺まで助けてくれるの‪……‬?」
「ベルを助けてもらったからな。これで借りは返した。もう助けない」

ドサッ。衛兵らの後ろに放られ、僕らはひとまず人の壁に護られる。視界を遮られる前に、ジャオが現英雄と合流するのが見えた。父上に二人で勝負を挑むようだ。

「ルシウス、回復薬を」
「あれマズい、いらねーよ。俺自分で回復魔法使えるし」
「は? ‪……‬じゃあさっき回復薬を僕に飲まさせたのって‪……‬」
「ベルとイチャつきたかったからに決まってんじゃーん!」
「うがー!!!」

近くの衛兵と羽交締めにして回復薬を三本胃の中にぶち込んでやった。このチャラ男もう容赦しないぞ。いたいけな乙女を揶揄った罪を知れ!!

「ゲホッゲホッオエッ」
「回復薬と合わせて回復魔法も使えば元気いっぱいだろ。さっさとジャオ達に加勢して来い」
「人づかい荒いね~ベル様。ほっぺにチュッてしてくれたらいくよっ」
「は、や、く、い、け」

地面に突いた手の甲をふたたびつねり上げる。ルシウスは嬉しそうにそこにキスをして、ひらひらと手を振り走っていった。
アイツ、もしかしていたぶられるのが好きなのか‪……‬?
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