王子の僕が女体化して英雄の嫁にならないと国が滅ぶ!?

蒼宮ここの

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第113話 愛人は浮気性

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目が覚めると、なぜだか動けない。

ガッチリと胸の前で拘束してくる何者かの腕を見下ろして、昨夜の出来事がフラッシュバックする。
腕は僕が与えた刺激で緩んだかと思いきや、今度はしっかりと僕のおっぱいを両手に掴んでグニュグニュと弄ぶ。呼吸を荒げないようにして、手探りでその男の頬に手を添えた。

「‪……‬起きてるでしょ」
「バレたか~」

悪戯な手は動きを止めない。それどころか指先でピンピンと乳首を弾く動きまで加えてきて、たまらず高い声が漏れてしまう。

「おはよう。俺のベル」
「や‪……‬ルシウス、朝だから‪……‬」
「いいじゃん。イチャイチャしよ」
「トルテが戻ってくるかもしれないでしょ……‬!?」

そう。昨日は酔っていて前後不覚だったが、本来ここは僕とトルテの相部屋なのだ。この国の王女であるセイラちゃんと仲良くなったから彼女の部屋に泊まるとか言っていたけれど‪……‬いつ、気まぐれで部屋に戻ってくるかわからない。昨日はそれがなくてほんとうによかった。
トルテにはルシウスとの関係を許してもらっているとはいえ、さすがに実の娘に父親以外の男とイチャつく母親の姿を見せるのは、罪悪感が過ぎる‪……‬。

「トルテちゃん戻ってこないよ。俺だってけしかけられたんだから」
「はあ!? どういう意味?」
「まあいーじゃん。俺ら両想いなんだし」
「ルシウスっ」

起き上がってもまだついてきて、僕の髪を持ち上げ嗅いでいる。僕だってやぶさかではないけど、でも‪……‬朝からラブラブしちゃったら、またシたくなっちゃうかも‪……‬いや、確実にシたくなる。僕ってそういう人間なんだ。だから、そうなる前に自制しないと。
強めに名前を呼ぶと、少し停止したのち、諦めるように解放してくれた。

「‪……‬今夜もここに来ていい?」
「それは‪……いや、‬き、昨日は、酔っていたからで‪……‬」
「今日はシラフで抱いてあげるよ?」

ズルい‪……‬そんなカッコイイ顔で、優しく諭すように‪……‬僕の本当の気持ち知っているくせに、強引に奪ってくれないなんて‪……‬ルシウスって、意地悪だ‪……‬。

「‪……‬自分の部屋、帰って」
「保留な。夜にまた来るよ」
「あ‪……‬」

ルシウスがさっさと服を着始める。僕も慌てて寝巻きに身体を通した。
だってあんまりにもあっさり行っちゃおうとするから、急に名残惜しくなったんだ。離れ離れはいやだ。町に行くにしても、城内にいるにしても、一緒にいて欲しい‪……‬。
無我夢中で、部屋を出たルシウスの腕を取った。

「なに?」
「あ、の‪……‬やっぱり、今夜も‪……‬」
「ん~?」

楽しそうに顔を覗き込んでくる。悪魔め。
でも、僕、翻弄されるの好きかもしれない‪……‬ルシウスとこうなって、はじめて知った‪……‬。

「あ! おはようございます」

駆け寄ってくる足音に、僕らは反射的に繋いだ手を解いた。マナトさんだ。早朝だというのにもうきっちり燕尾服を着込んでいる。にこやかな表情が近づくにつれて少しずつ、怪訝そうに曇っていく。

「おや。昨晩はお二人でお休みになられたのですか‪……‬?」
「い、いえ! 今、たまたまルシウスが来て‪……‬!」
「ベル様、お下着をお付けになっておられないようですが‪……‬」
「‪……‬!」

慌てて胸元を抑える。……どうしよう。ルシウスとの関係が、バレた。
今すぐ部屋に逃げ帰りたいけど、大人なんだからそんなことしちゃいけない。ルシウスも気まずそうに僕の釈明を待っている。

「やっぱり……ハア」

マナトさんのため息に、ビクンと身体が震えた。
呆れられた‪……‬よな。国に旦那や子どもを残して、他国で他の男と‪……‬なんて‪‬。
僕の行動でルアサンテ王国の程度が測られるとわかっていたはずなのに‪……‬まさか初っ端から、こんなミスを犯してしまうなんて‪……‬!

「やっぱり、ベル様の旦那様はルシウス様だったのですね」

え。

恐る恐る顔を上げると、マナトさんはまたいつものニコニコ笑顔に戻っている。

「拝見していると、二人のご様子、ただの主従関係ではなさそうでしたし‪……‬昨夜のルシウス様の剣幕も、これで合点がいきました」
「は、はあ‪……‬?」
「隠さなくてもいいのに。ベル様、水くさいですよ」
「あ‪……‬えっと‪……‬」
「トルテ様もセイラ様のお部屋にいらっしゃるようですし、このお部屋はお二人でお使いください。せっかく長い時間をかけていらしたんです、旅行気分で愉しんでくださいね」

どうしよう。なんだか納得されて、しまった。
さっさと行ってしまうマナトさんを、僕らは、ぽかんと突っ立って見送るしかできない。

「どうしよう‪……‬誤解、されちゃった‪……‬?」
「まあでもあの場合、否定したらマズくね?」
「そうだけど、でも‪……‬」
「まーいいじゃん。これで毎晩エッチし放題ってことで!」
「ちょっと‪……‬!」

怒るふりをしながらも、僕の胸は期待でドキドキ高鳴っていた。
ここは僕とルシウスの寝室で、夜はずっとルシウスと一緒‪で……‬……
ああ、もう、自分がダメになる気しかしない‪……‬。






それから数日間は何もなく、僕らは観光と、それからマナトさんとお酒を交えないごく普通の晩餐会を繰り返すという平和な日常を過ごしていた。
もちろん夜は、ルシウスと‪……‬日に日に大胆になっている自分が恐ろしい。だってあんないい部屋を二人で、ってあてがわれたら、気持ちが盛り上がらないわけない。

ルシウスはいつだって乗り気だし、僕に途方もない愛を囁いてくれる。相変わらず行為はお尻でしかしていないけれど、気分はすっかり新婚夫婦だ。
トルテやフロストとも日中は顔を合わせるし、二人ともなんとなく僕らの関係を察しているだろうけど、咎めたりはしないし‪……結果、‬僕はとことん甘やかされて、ルシウスとの束の間の夫婦生活を愉しんでしまっている。

今日もいつも通り晩餐会の部屋に行くと、待っていたのはルシウスとマナトさんだけだ。

「あとの二人は?」
「トルテ様はセイラ様とお食事を済ませておいでです。フロスト様は、ご実家に帰省されると」
「えっ‪……‬!」

フロスト、黙って行ったのか。僕も同行して、親御さんに謝罪をしないといけないのに‪……‬この数日間は完全に色惚けしていて、正直忘れていた。フロストはそんな僕を、見放したのかもしれないな‪……‬?

悲しいやら情けないやらで、しゅんと落ち込みながら席に着く。食事はどれも美味しくて、話し上手のマナトさんのおかげもあり話は弾んだ。だけど、フロストのことが頭を離れない。

もう食事が終わろうかと言う頃に、部屋に一人の訪問者があった。丁重にノックをして入ってきたのは、あのいかがわしい晩餐会の夜に見た煌びやかな侍女? だ。
長い髪をむき出しの肩に被せ、短いスカートで美脚を惜しげもなく晒している。ひどく蠱惑的なその出で立ちに、僕もルシウスも釘付けになってしまう。

「ルシウス様にお話が‪……‬よろしいでしょうか?」
「え? あ、ハイ‪……‬」

緊張気味で席を立つルシウス。部屋を出る前に横切った顔が少し紅潮していて腹立たしかった。
あの女の人、晩餐会の時もルシウスの隣を陣取っていたような気がする‪……‬せめてどこに行くのか様子を見ようと席を立つと、マナトさんがおもむろに手を握ってくる。

「ベル様、あの」
「‪……‬はい?」
「実はルシウス様にはお渡ししたい物があって‪……‬あの者は私の頼みで動いております」

なんだ。そうだったのか。一気に安心して椅子にすとんと座り直す。マナトさんもいっそう楽しそうに笑みを深めた。

「ほんとうに仲がおよろしいんですね。ベル様でも嫉妬とかされるんだ」
「え!? べ、別に僕はそんなっ」
「僕?」
「あ、違います、えーと‪……‬!」

いけない。最近はマナトさんともだいぶ話しやすくなってきて、素の自分が出てしまう。言い淀む僕を見て、マナトさんは心を読んだかのように僕の手を握り直してきた。

「ありのままのベル様でお振る舞いください。この国はもう、あなたの第二の母国も同然です」
「ええ!? そんな恐れ多い‪……‬!」
「そうなって欲しいと思っております。少なくとも私は」

そう訴えてくるマナトさんの瞳に嘘はなく、切実ささえ窺える。
あれからマナトさん、僕が城内でケンさんに見つかると、どこからともなく現れて遠ざけてくれる。いつだってさりげなく助けてくれる。僕に、この国を好きになって欲しいんだろうな‪……‬。
ケンさんはあくまで王子だから、現王とさえ交渉がうまくいけばそれでいい。まだ不在らしくて謁見できていないけど、待っていればいずれ会わせるとマナトさんは約束してくれた。
それを信じて今は、待つのみだ。

「ご自分の家だと思ってゆっくりしていってくださいね。お金も後でお渡ししますので、町でたくさんお買い物なさってください」
「至れり尽くせりで、申し訳ないです‪……‬」
「いえいえ。私どもは仕事でなかなか城下には出られないので‪……‬是非とも国民の皆様に還元してあげてください」

え。もしかして僕らへのお小遣いって、マナトさんのポケットマネーなのか‪……‬?
だとしたら貰いすぎだ、いつかお返ししないと。
なんだか居た堪れなくなっておもむろに席を立った。

「る、ルシウスの様子を」
「確かにお戻りが遅いですね。お手洗いでしょうか」

今度はマナトさんも一緒になって部屋の外に出てくれる。そこで僕らは言葉を失った。
廊下に出てすぐのところで、ルシウスと侍女のお姉さんが、抱き合って‪……‬濃厚なキスを、交わしている‪……‬!?

「だ、ダメだって、リリィちゃん‪……‬」
「お願い、ルシウス様、今夜は私の部屋にいらしてェ‪……‬?」
「え~? 困ったナア‪……‬」

なんて言いながらも、ルシウス、ニヤケながらリリィさんとやらのお尻を撫でまわしている。怒りを込めて大きな咳払いをすると、二人は弾かれたように身体を離した。

「ルシウス?」
「ち、ちがうってベル! これはこの人が強引に‪……‬!」
「もういい。今夜はリリィさんの部屋で過ごせば。おやすみ」
「おいベルっ‪……‬!!」

スタスタと歩き出すと、後ろから追いかけてくる気配。僕は全力で駆け出した。やっぱりルシウスってこういう男だ。ユーリがいながら僕と関係しているんだもん、そんなの当たり前だ。なのにどうしてこんなに胸が痛むんだろ。
僕だってジャオを裏切っているのに、ああ‪……‬ほんと、バカみたいだ‪……‬。

「ベル!!」

扉を閉めたが一歩遅く、追いついてきたルシウスに足を挟まれて阻止される。無理やりこじ開けて中に入ってきたから、僕は本気で嫌悪した。

「来ないでよ!!」
「ごめんっ‪……‬魔が差して……!」
「あの人の身体撫でまわした手で触らないで!!」

こんな気持ち、知らない。
ジャオは前世から僕にずっと一途で、他の人になんて見向きもしなかったから。好きな人に浮気されるってこんなにも悲しいことだったんだ。
ジャオ‪……‬。
改めて自分の罪の深さを思い知る。痛む胸を包んでいると、後ろからそっと手を添えられた。ルシウスに優しく抱き締められて、罪悪感が浮き彫りになる。

「ごめんな‪……‬」
「別に、謝ることない‪……‬僕たちは夫婦でもなんでもないんだから‪……‬」
「夫婦だろ? この国では」
「ちがう‪。離して」

何が悲しくて泣いてるのか、自分でもよくわからない。僕の涙が腕に落ちて気付いたのか、ルシウスはそっと離れる。

「‪……‬ごめんね。ユーリみたいに寛容になれなくて」

ユーリは僕らの仲すら許すといった。きっと僕の知らないところでもルシウスの浮気性は発揮されていたのだろう。それでもずっと一緒にいるユーリに、僕なんかが敵うはずなかったんだ。

「アイツとは、長いから‪……‬」

気まずそうにルシウスが呟く。ユーリの名前を聞くと、いくら無神経なコイツでも少しは思うところがあるみたいだ。

「ベル。仲直りしよ?」
「ルシウスが他の人にデレデレしてて悲しかった」
「それは、ごめんな。もうしない。俺、ユーリとベルだけは特別なんだよ。捨てられたくない」

ここであえて僕だけじゃなくユーリの名前を挙げたルシウスは、偽りのない本音を言っているように思えた。ルシウスがやがてユーリの元へ帰るなら、僕は笑って送り出せる。ルシウスだってきっとジャオに対してそれくらいの信頼は置いてくれているだろう。
僕らの関係は不安定だけど、そこに他者を介入させなければ‪……‬きっと、うまくいく。

「‪……‬ほんとに、もうしない?」
「もうしない」
「僕とユーリに誓える?」
「誓います」
「またやったらユーリにも言うからね」
「絶対しない!」

これで終わりと思ったのか、喜びを全身で表現するように思いっきり抱きついてくる。なぜだろう、不思議と心が一ミリも動かない。
‪……‬ユーリの冷めてる態度の理由が、少しだけわかった気がする。

「離してってば」
「だって、エッチするだろ?」
「しません」
「え!?」
「一晩自分の部屋で反省して。今日はもうマジでお前に触られたくない」
「そんなぁ~‪……‬!」
「さみしいならさっきの人のところに行けば?」
「行きません! 部屋で一人で反省します!!」
「あっそ」

せっかく付き合いたてのカップルのような気持ちでいたのに‪……‬ちょっと浮気するのが早すぎるんだよな。
僕やユーリとはタイプが全然違う、セクシーな女の人に鼻の下伸ばしてデレデレしてんのがまた気に入らない。ああ、あの時のルシウスのアホ面思い出したらまた腹立ってきた!

「なあ~ベルも浮気すんなよ? あのデカい王子に捕まらんように」
「今日はもう部屋出ないよ。じゃおやすみ」
「ちぇ‪……‬」

ルシウスを追い出したすぐ後で、そうっと扉を開けて背中を見送る。
あれ? 部屋と逆の方向に歩いていく‪……‬。

「ルシウス!?」

大声で呼び止めるとビクー! と跳ね上がって驚いた。
コイツ‪……‬舌の根も乾かないうちに‪……‬!

「大っ嫌い! バカ!!」
「あ‪……‬」

怒りを露わにしてバタン!! と扉を閉める。そのあと耳を澄ましていると、とぼとぼと歩く足音が、大人しく男部屋のほうへ向かっていくのが聞こえた。
最初からそうしていればいいのに。バカ。アホ。クズ男。

……もういいや。あんな浮気男のために気を揉むほうがアホらしい。夜中に抜け出してあの人の部屋に行ったって、もう僕には関係のないことだ。ルシウスがこの国で不祥事を起こしたら遠慮なく置いて行ってやる。
吹っ切れたように装って、ドスンとベッドに腰を下ろした。

もうルシウスなんて、勝手にすればいいんだ。
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