鵺鳴く夜に神の降り立つ

大和撫子

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地図から消えた村 その一

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 その時、俺は人生に嫌気がさしていた。やることなすこと裏目に出て、半ば自暴自棄だったと思う。
 思えば、小さい頃から俺の人生はパッとしなかった。わかりやすく言えば、クラスで全く目立たなくて、名前も覚えてないようなヤツいただろう? そう言われてみれば、なんか暗そうなヤツ居たなぁ。とかさそれが俺さ。顔ものっぺりと平面的で奥二重。特別不細工、て訳じゃないが何も特徴が無い。よって誰の記憶にも残らない。成績もごく平均的だ。まだ特別悪い方が印象には残るだろうになぁ。これといって仲の良い友達も居ない。だから彼女なんて出来る訳がない。よって、家族からも空気扱いだ。優秀な兄がいるから、俺の生死なんぞ別にどうでも良いんだろう。もう、人生諦めているからどうって事は無いさ。

 そんな俺はとある私立文系大学に通う一年だ。理系に行きたかったが、頭がついていけなくて無難なとこを選んだ。名前は高梨透たかなしとおる

 あれは今から三カ月ほど前だ。財布を落として札だけ抜かれて大学の事務局に届けられてたり。定期を無くす、家の鍵を無くす、とにかくツイてなかったんだ。

 極めつけは、大学に向かう時の電車内の出来事だ。いつもみたいにスマホを片手に、つり革につかまって乗っていた。スマホの画面は、Bチャンネルというデカい匿名掲示板だ。都市伝説の真相についての話題について読んでいたんだ。昔から都市伝説の話を聞いたり読んだりするのが好きでさ。いつか、都市伝説を体験したらBチャンネルに書き込んでみたい。そんな細やかな夢があったりして。だけど実際は、この通り臆病野郎なもんでさ。噂の真相も確かめに行った事もなかったんだけど……。

「お前、俺の財布盗んでんじゃねーよ」

 突然、俺の左隣で立っていた年若い兄ちゃんに胸倉を捕まれ、因縁をつけられた。

「は?」

 俺は意味がわかなかった。

「とぼけてんじゃねーよ! 次の駅で降りろ!」

 引きずられるようにして降ろされた。周りは見て見ぬふりだ。もし俺が美少女だったら、また周囲の反応も違ったものだったろう。

  ソイツにボコボコにされてる内に数人の男と女が来て、

「コイツ痴漢した上に財布も盗んだんだ」
「最低」
「懲らしめてやる」
「警察突き出すぞ」

 とか言い出した。冗談じゃない。痴漢なんか飛んでもないし財布だって盗むもんか! 濡れ衣だ! と叫びたかった。だけど気持ちだけが空回りして頭
を両手で守る事で手一杯だった。 無理矢理立たされ、

「有り金全部差し出せば示談に応じてやる!」

 と言われてあっという間にリュックの中から財布を抜き取られ、有り金全部持って奴らは立ち去った。口の中が切れて鉄臭い。やっぱり皆、見て見ぬふりだ。体のあちこちに鈍痛がする。そのまま近くのベンチに腰をおろした。財布の中身を確認する。幸い、学生証とキャッシュカードは無事だった。小銭はそのままだ。抜き取られたのは一万円が三枚。一ヶ月分の食費と生活費、今朝おろしたばかりだった。

 奴らはきっと、俺みたいに気弱で泣き寝入りしそうな奴を狙って、金を盗んでるグループなんだろう。

 このまま大学に行くのもばかばかしい。なんだか急に何もかもバカらしくなった。何処か気の向くまま、遠くに行ってしまおうか。ふと、都市伝説を思い出した。地図から消えた村。

 確か、ここから2時間くらいで行ける。その場所があればラッキーだ。単なる噂だったにしても、自然豊かな場所でしばらく過ごすのも悪くない。どうせ誰にも心配されないんだしな。

  地図から消えた村は、インターネット上では何件か囁かれている。一番有名なのはA県の廃村の都市伝説だろうか。何年か前にテレビでも取り上げられた事がある。

 だけど俺が一番気になったのは、S県の廃村の都市伝説だ。新幹線を使わないでも2時間くらいで行けるのも魅力的だった。とりあえず、一旦降りてコンビ二で金を5万ほどおろして携帯充電器と懐中電灯を駅前のディスカウントショップで買う。そして再び電車に乗った。有り金全部おろして、またさっきの奴らみたいのに狙われたら敵わない。

 それからまた再び電車に乗った。S県の廃村について、もう一度詳しく調べてみようと携帯で検索を始めた。中でもこの体験談がリアルだと思うんだな。

ーーーーー

 あるカップルが廃墟巡りをしていた。それは真夏だった。S県の廃村の噂を聞きつけて、T市の東北の方角に向かって車を走らせた。徐々に山道へ……。とうとう車では行き着けなくなって、二人は徒歩で先を進んだ。雰囲気を味わう為、懐中電灯一本で。

 獣道を歩いていたが、途中で道が分からなくなってしまった。だが、それ程高い山ではなく、下れば麓に出られる場所だったので気にする言葉なく、道をさ迷う。40分程経ったろうか。右斜め前方に

『ボロボロに廃れた鳥居』を見つける。近くまで行って懐中電灯で照らすと紫色の鳥居だった。これはもしや! とそのまま進む。すると左右に『ボロボロに廃れて朽ち果てた民家』がいくつか見えてきた。更に、朽ちてボロボロになった木製の看板が懐中電灯の照らされた先に浮かび上がった。近づいて読んでみる。『警告!!! この先進入禁止! 入れば命の保証は無い。日本国憲法、人間のモラルは一切通用しない!』と書かれていた。

「これ、ビンゴじゃね?」

 二人はワクワクしてその先を進んだ。勿論、朽ち果ててボロボロになった民家には灯りもなく、道には外灯も無い。当然、人の気配もしない。さすがに歩き疲れてきた二人は、民家の中で少し休む事にした。

 噂は事実だったんだ、と二人は恐怖よりも好奇心が勝ってしまったらしい。10分程休憩すると、外に出ようと二人は立った。その時、突然懐中電灯が切れる。まだ買ったばかりだし、電池もしっかり新しく入れてきた筈なのに。

 懐中電灯のボタンを何度押してもつかない。さすがに恐怖を感じた二人に、ボタッ、ボタリ、ボタッと何かの液体が床に落ちる音が聞こえた。シーンと静まり返った中、その音は殊更不気味に響いた。

「ヤバイよ、早くここを出よう」

 必死に懐中電灯をつけようとしている彼に彼女は言ったその時、漸く懐中電灯がついた。ホッとしたのも束の間、ボタッ、ボタリと床に落ちる液体が、自分たちの後ろから聞こえるのを悟る。それは銀色に鈍く光るものから滴り落ちる赤黒い液体。視線は徐々に上に向かい、銀色に光る物は……チェーンソー! そして錆色の作業着に身を包み、能面のように無表情にチェーンソーを両手に持つ男の姿が。

「「ギャアーーーーーーッ」」

 二人は同時に悲鳴を上げ、一目散に逃げ出した。カップルは命からがら逃げ出す事に成功したのだった。

ーーーーー

 ありがちな体験談だけど、チェーンソーってのが妙にリアルに感じた。人を切断するのに、鉈やら斧なんかよりも素早く出来そうだ。 人の脂で切れ味が悪くなったら、刃の部分だけ折れたりすっ飛んだりしそうでそれがまた惨劇を招きそうだ。

 その地図から消えた廃村の行き方は、S県T市に着いたら東北の山に向かってひたすら進み、山道へ向かう事。更に

『ボロボロに廃れた紫色の鳥居』
『ボロボロに廃れて朽ち果てた民家』
 更に進んで、
『警告!!! この先進入禁止! 入れば命の保証は無い。日本国憲法、人間のモラルは一切通用しない!』
 と書かれた、朽ちてボロボロになった木製の看板があり、更に奥の廃村へと進んで行く事。

 という事らしい。こんなにワクワクしたのは小学生の時以来だ。

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