鵺鳴く夜に神の降り立つ

大和撫子

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その二

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 電車を乗り換えた。これで三回目だ。このまま70分程乗って、K駅で降りるのだ。その地図から消えた村の話だけど、地方の村とか集落なんかは市と合併したりして文字通り地図から消えざるを得なくなる事とか少なくないと思うんだ。

 S県T市の地図から消えた村は、名前を『鵺の里』とか呼ばれていたらしい。鵺って妖怪だよな。で、地図から消えて怪奇現象を起こす、て根拠になった話をしよう。

 昭和初期、『鵺の里』は殆ど自給自足の農村で、村人はのんびりと仲良く暮らしてたらしい。だけど、ある村人の家の次男は、見た目も良くなくて暗くて、人を見てビクビクおどおどする子だったらしい。しかも人より頭もあまり良くなかったとか。

 そんな訳で、家族からも周りにからも疎まれて邪魔者扱いされたんだな。だけど年頃になって、好きな子が出来た。その子は村一番の美少女で村一番のイケメンと恋仲だった。イケメン、兄貴の事だ。まぁ、こういった話にはあるある、て感じの叶わない恋、て訳だ。兄弟格差、とかもあったんだな。本人もそれはよく分かってはいて。だけど思い切って思いだけ告げようとしたら、その子と兄貴に思い切り馬鹿にされちまったらしい。酷い話だよな。見た目が良くて頭も良いからって、劣る奴を馬鹿にして良いなんて決まりは無いのにさ。

 で、次男のプライドはズタボロさ。悪いことは重なるもんで、同時期に肺結核も患っちまったんだと。ただでさえ家族や村人に疎まれてたのに、当時はまだ不治の病だった肺結核。当然、山奥の粗末な小屋に隔離されちまったんだ。もうやけっぱちだったんだろうな。次男はある日ブチ切れて、チェーンソーを持ち出して先ずは兄貴を。次に父親、母親、祖父母。そして彼女、その家族、村人達を次々と切断して皆殺しにしちまったんだって。当の次男は全員ぶっ殺したあと、力尽きて大量に喀血して死んじまった、て話だ。

 次男を含め村人49人全員死亡。村人は、首や胴体を切断されてまさに肉塊と血の海だったんだと。で、切断された時の断末魔の声が、『鵺』の声に似てたとかなんとか。

 ま、嘘かホントかは不明だ。これも、ありがちな話ではあるよな。でも俺、次男の気持、分かるような気がする。差別とかさ、苛められてたんだろ? 家族はじめ周りからも兄弟で比べられたりさ。 小さい時からずっと。
 だけどさ、もし家族の誰か一人でも味方で、可愛がってくれる奴がいたら、そんな惨い事はしなかったと思うんだ。だからと言って、全員殺すなんてやり過ぎだけどさ。つーか犯罪はダメだよな。

 それ以来、廃村。あまりに凄惨過ぎて地図から消された、無かった事にされたらしい。以来、遺体だけ回収されただけでそのまんま残されて、呪われた村になったんだって。時々、断末魔の叫び声……鵺の声が聞こえてきたりするらしい。

 次男も村人達も未だに成仏出来なくて村をさ迷っている。それに釣られて、村とは無関係の未成仏霊や魑魅魍魎が集まって怪現象を起こす幻の呪いの村になった、て話だ。

 ついにK駅に着いた。まだ昼を少し過ぎたところた。思ったより早く着いた。

 駅周辺は、コンビニやドラッグストア、ファーストフード、スーパーなんかが並んでいた。これからあるかどうかも分からない村を探して歩くんだ。ドラッグストアで飲み物とホッカイロ、栄養バランス系の菓子なんかを買い込む。11月半ば、きっと日が暮れたら一気に寒くなるだろう。ホッカイロも追加で購入し、全てリュックにしまい込んだ。トイレなんかも行っておこう。ドラッグストアでトイレをお借りした。

 さぁ、いよいよ出発だ! 駅を背にして北東……携帯地図アプリで方角を確認する。なんだかうきうきしてきた。正直、ほんの少しだけ怖いけどさ。きっと見つかる、『鵺の里』に辿り着ける! まるで根拠はないけど、そんな予感がした。

 その時何となく、『鵺の里』を目指した経緯と探検の経緯を、ブログに記しておこう、そう思った。出発前に、今までの経緯を書いてしまおう。後は現在進行形でその都度書いて更新していけば良い。

 駅前に設けられたベンチに腰をおろし、携帯でブログ画面を開いた。たまにくだらない日常なんかを書き綴っているブログだ。最近、全然書いて無かったな。久々に開いたら、IDとパスワードを求められて思わず苦笑しちまった。

 とりあえず今までの経緯からたっ他今のこの瞬間まで書き終えたぞ。後はその都度アップして行こうと思う。

 さぁ、出発進行だ!
 暫く歩くと、田園風景や段々畑が左右に広がり、民家がまばらに立っていたり、林や芒畑なんかが目立って来るようになった。途中、分かれ道とか出て来たりする度に、地図アプリで東北の方角を選んで進んで行く。

 かれこれ40分くらい歩いたろうか。民家は殆ど無くなってきて、徐々に山道が見えてきた。まだ日は明るい。夜は冷え込むだろうし、なるべく日が沈む前には手掛かりを見つけたかった。

 途中、原っぱに転がっている大きな石なんかに腰をおろして休憩を取り、携帯でブログを更新する。
それを繰り返しながら、山道を進んだ。人が行き来した後があるから、まだまだ先なんだろうな。山道だから、方向はあってるとは思うが……。

 所謂、都市伝説の『地図から消えた村』って、異世界に紛れ込んだ説を唱える人が多いけど、俺もそうじゃないかと思うんだよな。だから辿り着くのも奇跡の確立で、元の世界に戻れるのはもっと低い確立なんだと思う。

 戻って来れなくてもいいや、とすら思ってる。こんな低い山で遭難して、白骨化した遺体が発見されるよりは、異世界に紛れ込んで『現代の神隠し』とでも言われた方が格好いいや。

 そんな事を思いながら進んで行くと、気付けば日が傾いて来ていた。徐々に森の中、て感じで樹が鬱蒼と茂り始めてる。あれ? まだ道が二つに分かれてるな。東北……左か。そのまま進んだ。

 徐々に薄暗くなってきた。道は幅2mくらいかな。柵も無いから、足を滑らせて落ちたらヤバイ高さ……になってきたな。とにかく、ひたすら歩き続けた。

 時刻は夕方4時半を過ぎた。黄昏時……逢魔が時、てやつか。何故が広い道になってきた。同時に、霧が立ち込めてきたじゃないか。正直、怖くなってきた。だけど、もしかしたら辿り着けるかも、という期待の方が勝る。何だ? 道が十文字にわかれてるじゃないか! やべーよ、霧で見えねー!落ち着け、まずはすぐそこの切り株で休憩だ。

 地図アプリを確認する。……何だよ? 圏外? さっきまで普通に繋がったじゃないか! 霧はどんどん深くなる。気付けば約1m先まで真っ白じゃないか。何だか気温も下がって来て寒いし。落ち着け、リュックから上着を取り出し、羽織る。

 さて、戻るか? 多分、あの道で間違いない。だけど来た道の方が霧が深いじゃないか。進む……か。道が少しでもハッキリと見えた方が良いよな。東北、恐らく左の道だ。

 俺は覚悟を決めた。ここまでの事をブログに上げ、左の道を進む。リュックから懐中電灯を取り出し、行く先を照らした。良かった、懐中電灯はつく。
 けど、気のせいか進む毎に周りの霧が薄くなって行くみたいだ。もしかしたら、辿り着けるかもしれない。何となくそんな気がする。歓迎されてるような……。

 5分くらい歩いたろうか。徐々に霧が晴れて、周りが見渡せるようになった。星空が広がる。空気は澄んでるんだな。周りは樹が生い茂っている。お? 少し先は開けた道か? 足早に進んだ。

 そこは樹が切られたりして、ちょっとした広場になっていた。辺りを見回す。左斜め先を見てドキリとした。あれは、もしかして鳥居じゃないか? 心臓が恐怖に鼓動を早める。怖いのに、勝手に足が進んじまう。近づくにつれて、懐中電灯の先に映し出されたそれは黒っぽい……鳥居だ。ボロボロに劣化してるけれど立っている。更に近づいた。暗くてよく見えない。近づいて懐中電灯で照らす……紫色だ。

 紫色の鳥居! 一番目の目印だ。じゃあ、近くにボロボロに朽ち果てた民家がある筈だ。更に進んだら、警告の看板がある。恐怖に身が縮み上がる。引き返すか? だけど、元来た道は霧で真っ白になっていた。鳥居から先は、霧が晴れてる。……これは、行くしか無いか。恐る恐る先に進んだ。

  少し歩くと……。あった。左手にボロボロに風化しちまったトタン屋根の小さな家。懐中電灯で先を照らすと、右斜め前に一目で廃墟と分かるボロボロの民家。ビンゴじゃないか。引き返した方がよくないか? だって、もう少し歩けば……。あれは! 左斜め先に、ボロボロに風化してる……木製の看板。心臓が早鐘のように打ちつける。恐さのあまり、貧血起こしちまいそうだ。だけど俺が来た道は振り返れば濃い霧に覆われちまってる。進みしかない。看板は……懐中電灯で照らす。赤い字だ、雫が垂れてて血文字みたいじゃないか。

『警告!!! この先進入禁止! 入れば命の保証は無い。日本国憲法、人間のモラルは一切通用しない!』
 
 ビンゴだ……。これから更に奥の廃村へと進んで行くと……。携帯を取り出す。今までの経緯をブログに書いて更新した。これからリアルタイムでブログに書いて行く。もし都市伝説通りなら、血が滴り落ちるチェーンソーを持った村人の亡霊が襲って来る筈だ。無事に逃げられたら、その経緯を書き記したブログを上げられるけど、もしそのまま襲われたらあの世行きだ。ブログが変なところで止まって更新されて、その後何日も更新が無かったら俺は亡霊に取り殺されたんだ、と解釈してくれ。

 じゃ、先を行ってみる事にする。


 下を歩く道は土だ。ところどころ砂利が混じって、幅は1.5mくらいだろうか。看板から一本道。俺の後ろは濃霧、まるで牛乳をぶちまけたみたいに真っ白になっちまう。行く先は綺麗な星空だ。下弦の月が不気味に見えるけど、白くて小道の行く先を照らし出している。

 あ、右側に元民家発見。廃墟みたいにボロボロだ。左側も、その奥も……ビンゴだ。ここは『鵺の里』だと思う。名前はこのまんまかどうか知らないけど。

 きっともうすぐ、血塗れのチェーンソーを持った村人の亡霊が俺を取り殺しに来るんだろう。何だか不思議と怖さがなくなって、むしろ清々しい気持ちになって来た。誰にも知られないところで野垂れ死ぬの、悪くない。なんてな。
 でも、生きててもロクな事ねーしな。親も俺に何の期待もしてないし、友達も表面的な付き合いのやつしか居なけりゃこれといって夢も無い。せめて彼女でもいたら、霧が出て来た時点で引き返したろうけど。この先生きてても底辺のまんまだろう。せめて、このブログを読んでくれる人が少しでも居てくれたら、思い残して悪霊になる事もないだろうな、

 ひっ! 悲鳴を呑み込んだ。そして立ち止まった。だって物思いに耽って歩いてたら、前から三人ほど、黒っぽい作業着を来たおじさん達が近づいて……。皆、手にはチェーンソーを。懐中電灯で照らした刃先は、血がべったりとついて下に滴り落ちてる。良く見たらおじさん達の作業着にも返り血ちナーーー
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