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第三十九帖 永久の華
枕草子の夢⑦ ~春はあけぼの・中編~
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清少納言は深く溜息をつくと、諦めたように笑った。
「……実はね、定子様からも、戻って来なさいって文は何度か頂いているの」
「それなら、どうして……」
「だからと言って!」
清少納言は強めの口調で鳳仙花の問いを退ける。
「……だからと言って、はいそうですね、なんてほいほい戻れると思う?」
「そ、それは……」
鳳仙花は文壇のみに留まらず、他の部署でも女房たちが陰口を叩いていた事を振り返る。清少納言はそんな彼女を寂しそうに見つめる。
「文壇でも、あからさまだったじゃないの。コソコソと私の方を盗み見しながら話してて。私が側を通るとサッと黙って。そして通り過ぎた頃またコソコソ話始めて」
「確かに、そうですね……」
「でしょ?」
「はい。お気持ちは、お察し致します。でも、定子様は……」
鳳仙花はゆっくりと慎重に言葉を選びながら話始める。
「……あのような事件があって、その後少ししてお邸が全焼されたり。そんな中でご出産を控えてらっしゃいます。どれだけ心細い事でしょう? それだけお辛い中で、定子様は清少納言さんに文壇に戻って欲しい、そう願ってらっしゃる。実際、文壇は荒れ放題になってます。皆様荒み切っているというか。こんな時こそ、清少納言さんのお力が必要! そうお思いになったからこそ、定子様は何度も文をお出しになったのではないでしょうか」
「でも!」
「ええ、清少納言さんのされた仕打ちは理不尽な濡れ衣です! 不当です! お怒りになるのもごもっともです!」
「それなら……」
「でも! それは、あのような状況の中で疑心暗鬼が生じるのは致し方ないかもしれません。本来ならそんな時こそ全員が一枚岩となって乗り切らないといけない、尚更盛り上げないといけない時期だったと思うのです。それでも清少納言さんに矛先が向いたのは、道長様側の方と親しくしていた、と言うのもあるでしょうけど、それ以上に嫉妬の念が吹き出したのではないかと思うのです」
清少納言は、普段は殆ど聞き役の彼女がいつになく熱弁を奮う様子にいつの間にか耳を傾けていた。黒水晶のように深く澄んだ彼女の瞳は焔を掲げたように爛々と輝き、微かに上気した頬は桃の花びらのようだ。
(こんなに綺麗な子だったのか……)
改めて観察する。控えめな化粧を好む彼女。男のなりをしているところがまた妙に色香を漂わせている。
「え? 嫉妬?」
鳳仙花の言の葉に意外な部分があり、感情の赴くままに問いかける。
「ええ、嫉妬です。嫉妬以外の何ものでもありませんわ」
鳳仙花は自信を持って答え、にっこりと笑った。お歯黒前の真っ白な歯が仄かに覗く。そして悠然と話しを続けた。
「清少納言さんの溢れる知識、底知れない学力、そして何よりも抜きんでた文才、更に、定子様が御寄せになる絶大な信頼! これを嫉妬しない人がおりますでしょうか? 要するに、皆さん羨ましいのですよ。表立って認めるのは悔しいし恥。でもそのように感じてしまう自分は浅ましいし誰にも知られたくない、よってそのような自分は認められない。……という訳で普段はそう言ったご自身の感情に蓋をしていた訳です。それが、条件が重なって一気に吹き出した」
そしクスリと笑う。まるで悪戯っ子のように。
「このまま、引き下がっていて宜しいのですの? 是非とも、定子様の御期待にお応えしませんと」
一通り言いたい事を伝え終わり、清少納言の反応を待つ。
(凄い、激流みたいに言の葉が勢いよく流れでて……)
清少納言は、次から次へと言の葉を紡ぎだす様子が普段の鳳仙花からはまるで想像がつかず、目を丸くして聞き入っていた。やがて清少納言の唇が照れたように穏やかな弧を描き、意味あり気に切り出した。
「……嫉妬、ねぇ。これはまた随分と褒めてくれたわね。嬉しくなってしまうわ。ところで、鳳仙花さんも嫉妬を感じたりしたのかしら?」
恐らくは困惑した反応を見せるだろうと鳳仙花を見つめる。けれども彼女は、パッと嬉しそうな笑みを浮かべた。
「はい! 勿論!」
そして意外なほど素直に堂々と答えた。
「あらあら、そうだったの? 例えば、どんな時に?」
あまりにも天真爛漫な鳳仙花に、ほんの少しだけ意地悪してやろうという悪戯心が芽生える。
「それは、御門と定子様と清少納言さんとの知的で楽しそうな会話とか」
「それから?」
「定子様が特別に目をかけてらっしゃる御様子とか」
「それから?」
「男の人に人気がおありなところとか」
「ふふ、そうかしらねぇ? まぁいいわ。それから?」
「そこにいらっしゃるだけで場が盛り上がるし、いつも中心にいらっしゃるところとか」
予想に反してはきはきと素直に即答する彼女に、揶揄おうとした自分を恥じる気もちが芽生える。
「有難う。それだけはっきり言われると照れるわね」
「何よりも……」
不意に、悲し気な笑みを浮かべる鳳仙花にドキリと鼓動が跳ねた。
「何よりも、清少納言さんの類稀なる文才が羨ましいです」
そう言った彼女の声は心なしかかすれ、そして瞳は濡れたように黒々とした艶を湛えている。口を挟む事は憚られ、そのまま耳を傾けた。
「母さ……母が亡くなって、しばらくは悲しくて悲しくて行く末に何も見いだせない日々が続きました。当たり前に、母と過ごす筈だった行く末が絶たれ、一時は後を追おうかとすら思いました」
大粒の涙が頬を伝い始める。抱き締めてやりたくなるも、彼女の話をしっかり最後まで聞くことが最大の癒しになると感じた。
「しばらくは仕事に専念する事で忘れようとしました。でも、その癖忘れ草を枕の下に敷いて眠る事(※①)だけしたくなかった。心のどこかでは、忘れたくなかったんですよね。時間が経つにつれて少しずつ悲しみが薄れ、母との楽しかった思い出、叱られた事、喧嘩した事……色々と思い出すようになったんです。そこで気づきました。人は亡くなっても、大切に思ってくれた人たちの記憶の中で生きてるんだ、て。けれども、時と共に記憶は曖昧に、そして補正されていくものです。だから、母との思い出を日記に記したりしました。その度に思うのです。『清少納言さんみたいに文才があれば、母との思い出を物語風に書いたりして生き生きと永久に、生きていた記録を遺せるのに』て」
そこで一旦言葉を止め、涙を両袖で拭う。そして恥ずかしそうに笑うと話を続けた。
「文字の力は、その人を勇気づけ、楽しませ、希望を抱かせるものがあります。そして時の世(※②)の残り、語り継がれ、永久に生き続けるのです。以前、定子様に頂いた高級な紙、ありましたでしょ?」
「ええ、今も大切にとってあるわ」
「それを使って、定子様の事をお書きになっては如何でしょうか? 定子様ご本人も、御門もお喜びになるでしょうし、今の定子様を大いに癒し、そして勇気づけられると思うのです。何より、後の世に定子様の素晴らしさを知って頂くものとなるのではないでしょうか?」
鳳仙花の言の葉は、不思議な説得力を持って清少納言の胸を打つのだった。
(※① 今でいう萱草の事。枕の下に敷いて眠ると忘れたい記憶を忘れさせてくれると信じられていた)
(※② 歴史)
「……実はね、定子様からも、戻って来なさいって文は何度か頂いているの」
「それなら、どうして……」
「だからと言って!」
清少納言は強めの口調で鳳仙花の問いを退ける。
「……だからと言って、はいそうですね、なんてほいほい戻れると思う?」
「そ、それは……」
鳳仙花は文壇のみに留まらず、他の部署でも女房たちが陰口を叩いていた事を振り返る。清少納言はそんな彼女を寂しそうに見つめる。
「文壇でも、あからさまだったじゃないの。コソコソと私の方を盗み見しながら話してて。私が側を通るとサッと黙って。そして通り過ぎた頃またコソコソ話始めて」
「確かに、そうですね……」
「でしょ?」
「はい。お気持ちは、お察し致します。でも、定子様は……」
鳳仙花はゆっくりと慎重に言葉を選びながら話始める。
「……あのような事件があって、その後少ししてお邸が全焼されたり。そんな中でご出産を控えてらっしゃいます。どれだけ心細い事でしょう? それだけお辛い中で、定子様は清少納言さんに文壇に戻って欲しい、そう願ってらっしゃる。実際、文壇は荒れ放題になってます。皆様荒み切っているというか。こんな時こそ、清少納言さんのお力が必要! そうお思いになったからこそ、定子様は何度も文をお出しになったのではないでしょうか」
「でも!」
「ええ、清少納言さんのされた仕打ちは理不尽な濡れ衣です! 不当です! お怒りになるのもごもっともです!」
「それなら……」
「でも! それは、あのような状況の中で疑心暗鬼が生じるのは致し方ないかもしれません。本来ならそんな時こそ全員が一枚岩となって乗り切らないといけない、尚更盛り上げないといけない時期だったと思うのです。それでも清少納言さんに矛先が向いたのは、道長様側の方と親しくしていた、と言うのもあるでしょうけど、それ以上に嫉妬の念が吹き出したのではないかと思うのです」
清少納言は、普段は殆ど聞き役の彼女がいつになく熱弁を奮う様子にいつの間にか耳を傾けていた。黒水晶のように深く澄んだ彼女の瞳は焔を掲げたように爛々と輝き、微かに上気した頬は桃の花びらのようだ。
(こんなに綺麗な子だったのか……)
改めて観察する。控えめな化粧を好む彼女。男のなりをしているところがまた妙に色香を漂わせている。
「え? 嫉妬?」
鳳仙花の言の葉に意外な部分があり、感情の赴くままに問いかける。
「ええ、嫉妬です。嫉妬以外の何ものでもありませんわ」
鳳仙花は自信を持って答え、にっこりと笑った。お歯黒前の真っ白な歯が仄かに覗く。そして悠然と話しを続けた。
「清少納言さんの溢れる知識、底知れない学力、そして何よりも抜きんでた文才、更に、定子様が御寄せになる絶大な信頼! これを嫉妬しない人がおりますでしょうか? 要するに、皆さん羨ましいのですよ。表立って認めるのは悔しいし恥。でもそのように感じてしまう自分は浅ましいし誰にも知られたくない、よってそのような自分は認められない。……という訳で普段はそう言ったご自身の感情に蓋をしていた訳です。それが、条件が重なって一気に吹き出した」
そしクスリと笑う。まるで悪戯っ子のように。
「このまま、引き下がっていて宜しいのですの? 是非とも、定子様の御期待にお応えしませんと」
一通り言いたい事を伝え終わり、清少納言の反応を待つ。
(凄い、激流みたいに言の葉が勢いよく流れでて……)
清少納言は、次から次へと言の葉を紡ぎだす様子が普段の鳳仙花からはまるで想像がつかず、目を丸くして聞き入っていた。やがて清少納言の唇が照れたように穏やかな弧を描き、意味あり気に切り出した。
「……嫉妬、ねぇ。これはまた随分と褒めてくれたわね。嬉しくなってしまうわ。ところで、鳳仙花さんも嫉妬を感じたりしたのかしら?」
恐らくは困惑した反応を見せるだろうと鳳仙花を見つめる。けれども彼女は、パッと嬉しそうな笑みを浮かべた。
「はい! 勿論!」
そして意外なほど素直に堂々と答えた。
「あらあら、そうだったの? 例えば、どんな時に?」
あまりにも天真爛漫な鳳仙花に、ほんの少しだけ意地悪してやろうという悪戯心が芽生える。
「それは、御門と定子様と清少納言さんとの知的で楽しそうな会話とか」
「それから?」
「定子様が特別に目をかけてらっしゃる御様子とか」
「それから?」
「男の人に人気がおありなところとか」
「ふふ、そうかしらねぇ? まぁいいわ。それから?」
「そこにいらっしゃるだけで場が盛り上がるし、いつも中心にいらっしゃるところとか」
予想に反してはきはきと素直に即答する彼女に、揶揄おうとした自分を恥じる気もちが芽生える。
「有難う。それだけはっきり言われると照れるわね」
「何よりも……」
不意に、悲し気な笑みを浮かべる鳳仙花にドキリと鼓動が跳ねた。
「何よりも、清少納言さんの類稀なる文才が羨ましいです」
そう言った彼女の声は心なしかかすれ、そして瞳は濡れたように黒々とした艶を湛えている。口を挟む事は憚られ、そのまま耳を傾けた。
「母さ……母が亡くなって、しばらくは悲しくて悲しくて行く末に何も見いだせない日々が続きました。当たり前に、母と過ごす筈だった行く末が絶たれ、一時は後を追おうかとすら思いました」
大粒の涙が頬を伝い始める。抱き締めてやりたくなるも、彼女の話をしっかり最後まで聞くことが最大の癒しになると感じた。
「しばらくは仕事に専念する事で忘れようとしました。でも、その癖忘れ草を枕の下に敷いて眠る事(※①)だけしたくなかった。心のどこかでは、忘れたくなかったんですよね。時間が経つにつれて少しずつ悲しみが薄れ、母との楽しかった思い出、叱られた事、喧嘩した事……色々と思い出すようになったんです。そこで気づきました。人は亡くなっても、大切に思ってくれた人たちの記憶の中で生きてるんだ、て。けれども、時と共に記憶は曖昧に、そして補正されていくものです。だから、母との思い出を日記に記したりしました。その度に思うのです。『清少納言さんみたいに文才があれば、母との思い出を物語風に書いたりして生き生きと永久に、生きていた記録を遺せるのに』て」
そこで一旦言葉を止め、涙を両袖で拭う。そして恥ずかしそうに笑うと話を続けた。
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「それを使って、定子様の事をお書きになっては如何でしょうか? 定子様ご本人も、御門もお喜びになるでしょうし、今の定子様を大いに癒し、そして勇気づけられると思うのです。何より、後の世に定子様の素晴らしさを知って頂くものとなるのではないでしょうか?」
鳳仙花の言の葉は、不思議な説得力を持って清少納言の胸を打つのだった。
(※① 今でいう萱草の事。枕の下に敷いて眠ると忘れたい記憶を忘れさせてくれると信じられていた)
(※② 歴史)
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