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第六話
水琴窟と天然石の館~Fortune House~ の人々
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奥から顔を出したその女の人は……うーん、やっぱり平安コスプレの館だなぁ。よく見たらテーブルのメニュー表に『水琴窟と天然石の館~Fortune House~』って書かれてたけど。Fortune House……つまり『幸運の館』。きっと、平安コスプレが好きな人達が集まる場所なんだろうな。だって着物姿のこの女の人……いや、まずは
「お休みのところすみません、お邪魔しています」
と挨拶をした。
「いいえ。必要があって来てくれたのですもの。大歓迎よ。ゆっくりして行って。私、小野小町。この館の看板娘で通ってるわ」
とその人は微笑んだ。小野小町ってあの? まぁ、源氏名みたいなもんでしょうけど。確かに好みは別にして誰が見ても美女だと感じると思う。この人の漆黒の髪は艶々していて、床についちゃってるんじゃないかというくらい長い。いわゆる垂髪ってやつね。しゃなりしゃなりと上品にゆっくりと歩いて店内に出て来たところ、十二単を身にまとっていた。だから裳が床を引きずるから、髪で床を掃除する事はないみたいだけど。薄い紫色に濃い緑色を重ねた……確か『夏萩』とかいう色目の十二単だ。古典で習った記憶がある。
青みがかった雪みたいな肌によく映える。上品になだらかな弧を描いた眉、スーッと通った鼻筋。紅い椿の蕾みたいな唇。長い睫毛に囲まれたアーモンド型の瞳は濡れたみたいに艶のある黒だ。そもそも今の美的感覚とは異なるけれども、小野小町は美人の代名詞だった訳で。
トントントン、とドアがノックされた。同時にドアが開く。
「ただ今……て、あれ? お客様?」
その人は紙袋に入れた大量の野菜を両手で抱えていた。うん、この三人目で『平安コスプレ館』に確信! だってあの女の人も垂髪で。足首あたりなでありそうな髪を後ろに一つに束ねて。深い萌黄色に淡い萌黄色を重ねた小袖姿だったから。
「お邪魔しています、お休みのところすみません」
とあたしが頭を下げるのと、小野篁さんが入口に歩いて行き、ドアを閉めるのとがほぼ同時だった。
「どうやらご縁があったみたいでね。私が連れて来たんだ」
と篁さんはその女の人に説明した。
「あら、いらっしゃい。ゆっくりして行って」
その女の人はにっこりと親しみ易い笑みを浮かべた。象牙色の肌にきりっとした眉、ツンとした鼻にキツめの切れ長の瞳。髪も瞳も焦茶色のちょっと性格がキツそうな女の人だ。美人の類には入ると思う。
篁さんは両手で女の人から荷物を受け取った。そんまま店内の奥へと歩いて行く。女の人はこっちに近づいて来た。
「私は紫式部よ。宜しくね」
「こちらこそ、宜しくお願いします」
ほほぅ、小野篁さんと紫式部の関係を狙ったのかな? あ、そうだ、名前名乗ってなかった。ちょうど篁さんは戻って来たし、今言っちゃおう。
「申し遅れました、杉浦立夏と申します」
ぺこりと頭を下げた。しかし、妙にリアルな夢だ。
「私たちは時代は違えど、今で言うところの平安時代に共通していましてね。いずれも死後、生前の評判内容に納得が行かなくてこの館を建てた、そこから始まったのですよ」
篁さんはそう説明を始めた。え? どういう事? これ、夢だよね?
「お休みのところすみません、お邪魔しています」
と挨拶をした。
「いいえ。必要があって来てくれたのですもの。大歓迎よ。ゆっくりして行って。私、小野小町。この館の看板娘で通ってるわ」
とその人は微笑んだ。小野小町ってあの? まぁ、源氏名みたいなもんでしょうけど。確かに好みは別にして誰が見ても美女だと感じると思う。この人の漆黒の髪は艶々していて、床についちゃってるんじゃないかというくらい長い。いわゆる垂髪ってやつね。しゃなりしゃなりと上品にゆっくりと歩いて店内に出て来たところ、十二単を身にまとっていた。だから裳が床を引きずるから、髪で床を掃除する事はないみたいだけど。薄い紫色に濃い緑色を重ねた……確か『夏萩』とかいう色目の十二単だ。古典で習った記憶がある。
青みがかった雪みたいな肌によく映える。上品になだらかな弧を描いた眉、スーッと通った鼻筋。紅い椿の蕾みたいな唇。長い睫毛に囲まれたアーモンド型の瞳は濡れたみたいに艶のある黒だ。そもそも今の美的感覚とは異なるけれども、小野小町は美人の代名詞だった訳で。
トントントン、とドアがノックされた。同時にドアが開く。
「ただ今……て、あれ? お客様?」
その人は紙袋に入れた大量の野菜を両手で抱えていた。うん、この三人目で『平安コスプレ館』に確信! だってあの女の人も垂髪で。足首あたりなでありそうな髪を後ろに一つに束ねて。深い萌黄色に淡い萌黄色を重ねた小袖姿だったから。
「お邪魔しています、お休みのところすみません」
とあたしが頭を下げるのと、小野篁さんが入口に歩いて行き、ドアを閉めるのとがほぼ同時だった。
「どうやらご縁があったみたいでね。私が連れて来たんだ」
と篁さんはその女の人に説明した。
「あら、いらっしゃい。ゆっくりして行って」
その女の人はにっこりと親しみ易い笑みを浮かべた。象牙色の肌にきりっとした眉、ツンとした鼻にキツめの切れ長の瞳。髪も瞳も焦茶色のちょっと性格がキツそうな女の人だ。美人の類には入ると思う。
篁さんは両手で女の人から荷物を受け取った。そんまま店内の奥へと歩いて行く。女の人はこっちに近づいて来た。
「私は紫式部よ。宜しくね」
「こちらこそ、宜しくお願いします」
ほほぅ、小野篁さんと紫式部の関係を狙ったのかな? あ、そうだ、名前名乗ってなかった。ちょうど篁さんは戻って来たし、今言っちゃおう。
「申し遅れました、杉浦立夏と申します」
ぺこりと頭を下げた。しかし、妙にリアルな夢だ。
「私たちは時代は違えど、今で言うところの平安時代に共通していましてね。いずれも死後、生前の評判内容に納得が行かなくてこの館を建てた、そこから始まったのですよ」
篁さんはそう説明を始めた。え? どういう事? これ、夢だよね?
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