ツクヨミ様の人間見習い

大和撫子

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第五話

(仮初)夫婦のコミュニケーションだとかエトセトラ……【六】

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「月読命としての主な内容としては、夜が夜としての機能を果たすように監視する事でしょうか」
「夜が夜としての機能?」
「ええ……そうですね、具体例を申しましょうか」
「はい。是非!」

 あたしたちはランチを終え、少し食休みをしてから再び歩き出したところだ。バスケットは彼が持ち、中身の日比谷はというと、あたしの右肩にちょこんと座っている。真の姿に戻ってからはまだ一度も言葉を発していない。どうやら徹底してでいるつもりらしい。可愛い、本当にペットのようだ。人語を操れば憎まれ口や皮肉、嫌味が飛び出すとは露ほども思えない。

 相変わらず行きかう人々は、サングラスをかけてバレエダンサーのように優雅に歩く彼を二度三度振り返って見ていく。別に、隣を歩くあたしを見て『なんであんなチンチクリンが隣に……』という眼差しで見ていく人はごく少数だ。大抵は、隣を歩く麗人のあまりの美貌に彼しか目に入らないか、もしかしたら。彼をあたしの保護者だと自動的に思っているのかもしれない。

「……夜の機能、言い換えれば役割ですね。夜には、単純に生きとし生ける者全てに安らぎと休息、そして癒しを与えるという役割があります」
「あぁ、何だかよく分かる気がします」

 生い茂る木々の間から降り注ぐ木漏れ日が、限り無く優しい。時折吹き抜ける風が爽やかな空気を運んで来る。

「けれども、物事というかこの世とあの世には陰と陽があり、それらは表裏一体で成り立ってます。ですから、先程申し上げたのは陽の部分です。では、陰の部分は何かと言いますと……」
 
 反射的にゾクリとした。これは……苦手なホラーの予感がする。けれども次の瞬間、思考が全てぶっ飛んだ!!!

「あ、え、あの……」
「失礼しました! こちらの配慮不足でした。怖いお話が非常に苦手なのでしたね」

 そう言って、抱き寄せらていたから。

 ……落ち着け、あたし! 自意識過剰だぞ! この人はカミサマだから、感覚が違うだけで。ただ謝りたいだけなんだってば!!……

「あ、あの! 大丈夫です。はい」

 あたしは出来るだけハッキリと笑顔で告げた。いや、見上げるあたしは結構切実そうだったかもしれないけれど。

「大丈夫ですので、続けてください」

 と笑みを浮かべた。引きつった笑みだったかもしれないが、どうか努力は認めて欲しい。

「そうですか? では、もしそれ以上聞きたくない、となったら遠慮なく伝えてくださいね」

 彼はそう言ってゆっくりとあたしを腕の拘束から解き放った。

「では、続けますね」
「はい、どうぞ!」

 心配そうに眉尻を下げる。とても優しい方のだと思う。

「夜の陰の部分とは、人ではない者が蠢き出す事です。特に夜中の0時から未明の4時くらいまでは活発な活動時間です」

 あぁ、やっぱりね……

「それって……」
「はい、所謂幽霊とかあやかしとか魑魅魍魎などですね。陰と陽、同時に存在します。昼間の明るい時間帯でも、日の当たらない場所にはそれらが蠢きます」
「その陰と陽は表裏一体、という事はセットで存在する……?」
「そうです。パワースポットと同時にダークスポットが存在するのに同じですね。私の役割は、夜の間その陰と陽が均衡を保っているか監視する、というところでしょうか。万が一崩れていた場合、均衡を保つ為に力を使います。滅多にありませんが……」

 なるほど、均衡を保つ……か。陽極まって陰と為す、みたいになっても困るものね。力を使うのか。神の力、これは聞かない方が良さそうだ。必要ならその内知る機会に恵まれるだろう。

 視界が開け、湖が目の前に広がった。水面が蒼穹と木々を鏡のように反射している。太陽が当たる部分がキラキラと眩しい。湖の周りに設けられたベンチに、カップルや親子連れなどが何組も座っていた。

「わぁ……綺麗。カルガモが可愛い」

 素直に感想を述べる。そんなあたしをニコニコと見つめていた彼が唐突に紡いだ言葉に、再び思考が停止した。

「そうそう、明日で研修期間も終わりますね。明後日からいよいよ実践突入となる訳ですが、夫婦なのですから一緒に住んでしまいましょう」
「え……」
「ご家族の方にはご了承頂いておりますし、夫婦なのに一緒に住んで居ないと、中には不審に思うクライアントが居ないとも限りませんからね。念には念を入れた方が良いでしょう」
「えーと、あの……」

 ツマリ、ドウセイ……
 
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