ツクヨミ様の人間見習い

大和撫子

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第六話

(仮初)新米夫婦のお仕事な毎日……のスタート 【三】

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   【三】

 グノーのアベマリアが厳かに響く店内に、弦楽器のヴィオラを思わせる声が静かに、滑らかに響く。十二畳ほどの鑑定室は、桜色の壁と天井が目に優しい。自然な木目を活かしたフローリングはとても柔らかであたたかく見える。

 大き目の出窓を彩るのは、白レースのカーテンと淡いパステルグリーンだ。カーテン留めは、雫型と楕円形のクリアスワロフスキーを連ねた首飾りよようなものだ。恐らく、サンキャッチャー効果を狙っての事だろう。窓辺には蓮の花の形をしたスワロフスキーをメインに、大小様々なスワロフスキーを連ねたサンキャッチャーが下がっている。それらは晴れた日は陽光を取り込んで光輝き、室内の壁や床にいくつもの小さな虹を映し出す。風が吹く毎に吊るされたサンキャッチャーが風に揺れ、小さな虹の輝きもゆらゆらとする様はまるでファンタジーの国に足を踏み入れたような気分になる。

 ツクヨミノミコトは日本の神様だけれど、北欧や英国のものを程よく取り入れているようだ。出窓には紅水晶ローズクォーツを思わせる花瓶に、カスミソウとピンクのガーベラの花束が活けられている。これは四季折々、または日によって変わるもので、庭から切り取って来るものだ。因みに完全に英国式ガーデンである。

 部屋の一番隅。東の方角の角に、およそ四畳分のスペースをパーティションで囲い、個室のように鑑定室を作っている。黒地に薔薇や葡萄が描かれたステンドグラスのパーティションが。妙に神聖な雰囲気を醸し出している。内部は几帳のような感じで黒のカーテンで覆い、テーブル全面に深い紫色のタロットクロスが敷かれ、その中央に直径30cmほどの丸玉水晶が置かれている。壁側に粋蓮が、テーブルを挟んでその向かい側にクライアントが座る。彼らの荷物は隣のスペースに置いてもらう事にしている。狭い個室の中、浮世離れした美形がいるのだ。しかも和服姿の。乙女ゲームの再現と見紛う事だろう。

 私の役目と言えば、電話、インターネットでの受付、スケジュール管理、クライアントが来た際受付と会計、クライアントの好みやアレルギーの有無……お茶や菓子を出す際に必要だからだ……を、事前に記入して貰い、それ基づいて鑑定が始まる前にお茶とお菓子を出す。そんな感じだ。これで破格の給料を頂けるのだから、本当は臨死体験でもしてるのではないかと疑ってしまう。だが……

「……ええ、彼の気持ちが分からなくて」
「なるほど、なかなか結婚に踏み切らない彼の本心がどうなのか不安、という事え宜しいでしょうか?」
「ええ、お願いします」

 完全予約制、しかも個室にこもっているクライアント。聞こえてくるお悩みに応じてタロットカードを展開し、粋蓮の霊視と同じかどうか鑑定力を鍛える事が出来るのだ。これは、今後の私にかなりのプラスになるに違いない。勿論、守秘義務があるのは基本中の基本だ。

 クライアントの悩みに従い、ウェイト版タロット78枚を裏返しにしたままシャッフルし始めた。
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