ツクヨミ様の人間見習い

大和撫子

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第六話

(仮初)新米夫婦のお仕事な毎日……のスタート 【四】

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   【四】

 一つにまとめたタロットの束を、トランプのように切る。そして束のまま再度テーブルに置き、左手で三つの束に分ける。直感の赴くままに左手で一つの束にまとめ、裏返したまま左手で束を持った。右手で素早くタロットを上から一枚ずつ下に置いていく。そして七枚目を表に返してそこから順番に計十二枚を展開していく。『変形ヘキサグラム』と呼ばれる展開法で、恋愛に限らず対人関係に対する相性占いに適しているものだ。

 日比谷はと言えば、月末月初は忙しいとかでこの鑑定室にいる事はほぼない。だが、そして忙しくない時は予めアンケートで調べておいたクライアントが、アレルギーの有無、無しと答えた場合のみ、追加質問で当店には兎がいるが部屋にいても差し支えないかどうかを聞き、大丈夫と答えた方のみ、レジカウンターで看板兎となる。
 ごくたまに、粋蓮の指示により人型に変化《へんげ》して待機する時もあるらしいが今のところ、あたしはその時に当たっていない。今の日比谷は、といえば窓辺で箱座りをして日向ぼっこをしている。

 リアルタイムで聞こえてくる粋蓮の鑑定結果と同時に、またはそれより早く展開したタロットを読み取るリーディングする事が目標だ。素早く展開されたカードを観察する。

 ……彼の状態は『ワンド10・正位置』、彼女との結婚に対しては『星・正位置』、つまり、結婚するからにはこれくらいの年収で地位はこのくらいで、でも今の自分には厳しいから、と頑張っているけれど空回り、という感じか、なるほどね。それに対して彼女は『月・正位置』。うん、大分疑心暗鬼になっている、と。最終結果は『女帝』、自然体で豊かな祈り、妊娠の暗示もある。いいじゃない! アドバイスは『ペンタクル・3、正位置』、落ち着いて話し合いなさい、互いの気持ちを擦り合わせて、か……

「そうですね……彼はあなたとの結婚を考えていない訳ではありません。むしろ、しっかりとそれを視野に入れているからこそ、二の足を踏んでいるというところでしょうか?」
「え? どういう事ですか?」
「彼は、結婚するには大体このくらいの役職にいて年収はいくらくらいで……と考えて、いまのご自分との差に落ち込みつつもがむしゃらに頑張っておられますね。ちょっと空回り気味で周りが見えなくなっているかな」
「そんな、私は別にお金や地位なんて……」
「ええ、わかりますよ。ですからお二人とも一度、結婚するという事についてお互い擦り合わせする為にもしっかりと話しあう事をお勧めします。それが出来れば、自然な流れでお二人の強い結びつきが見えますから。ご結婚は、なさるでしょうね」
「本当ですか! 良かったぁ」

 粋蓮とクライアントのやり取りを聞きながら、自分の鑑定結果と同じだった事にほくそ笑む。ただ、あたしにとっての問題は、この結果をクライアントにどう伝えるかなのだ。伝え方によって、心に沁みいったり何も響かなかったり、反感を抱いかれたりする。だから、彼の言葉の選び方や間の取り方、声の抑揚などが非常に参考になった。クライアント一人一人によって表現も異なる。そういったところも大いに勉強になった。

「……でも、彼はどうして……」
「大抵の男にはそういうプライドがあるものですよ。まして愛して大切にしたい女性ならば尚更ね」
「そういうものでしょうか」
「ええ。最近はそういった気概のある男性は少なくなって来ているようですから、男気がある方ですね」
「そうなんです、彼……」

 それからはクライアントの惚気話に優しく寄り添う彼の声。こういうところも接客において大切なところなのだろう。

 ……愛して大切にしたい女性なら尚更……

 彼が今さっき口にした言葉だ。いまも忘れ得ぬ大切な女性、いつか再会する彼女の為に、彼もまた人間に身をやつして稼いでいるのだろう。全くの憶測だけれども。

 当初心配していたように、クライアントが私に嫉妬を向けたり粋蓮との関係を詮索される事は今のところなかった。拍子抜けするくらいに。リピーターではなく、新規だったのもあるかもしれないが。殆どが、彼を見て目がハートになり、話術に惹き込まれて夢見心地で帰っていく。

 絶対に粋蓮に恋はしない女。どうして私を選んだのかよく分かる気がした。彼とはルックス的に釣り合わないのと、纏うオ-ラが違い過ぎて誰も私を気にも留めないのだ。

 だから、楽だった。それなのに、時折胸が軋むような気がするのは何故だろう?
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