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第七話
マジですかぁ? 時には、人ではないクライアントも??? 【四】
しおりを挟むカチ、カチ、カチ、と規則正しく時を刻む音が、やけに大きく聞こえる。受付で待機しているあたしに、入り口近くの窓辺で待機している紺色のスーツ、飴色の革靴姿の日比谷と、藤色の着物姿に草履の粋蓮。窓辺に光が差し込んでちょうど逆光に照らされたようになる二人は、後光が差しているように見えて宗教画みたいだ。それも、乙女ゲームにあるような感じの。日比谷の髪は短髪金茶色で、粋蓮の髪は漆黒の長髪。非現実感がひしひしと伝わってくる。
対してあたしは、顎のラインで切り揃えたショートボブヘアに……まぁ、中学校くらいから殆ど変わらない髪型だけど……水色のブラウスにベージュ色の膝丈フレアースカートに黒のナースシューズといういでたちだ。なんだろう、平凡の代表というか。それは別に良いのだけれど、こうしいると何だか3D映画を見ているような気がして。やっぱり、あたしは不慮の事故か何かで臨死体験でもしてるのではないかと思ってしまう。いっそその方が現実的だ。それか、パラレルワールドに迷い込んだ、とか?
そうは言っても、別にあたしに特別な力が授かったり、モテるようになったりする訳でもないから、妙に現実的と言ったらそうかもしれない。一番の傑作は、形だけの夫婦ごっこ。これだ、しかも決して粋蓮に恋愛感情を抱かないとして白羽の矢が当たったとか、何とも夢のない話ではないか。まぁ、それだけの事で破格の報酬、手厚い福利厚生もつけて貰っているのだから不満なんかないしむしろ大満足ではあるけれど。福利厚生の件は、きっと日比谷が一枚絡んでるんだろうな。
粋蓮や日比谷によると、霊感とは本来人間に備わってた感覚なのだそうだ。仲間と遠くからでも意思疎通が出来るようにテレパシーが使えたり。危険を察知する予知能力などなど。けれども、言語や文明が発達していくにつれてそれらの感覚は必要なくなっていき退化していったのだそうだ。だから、その本来持っている筈の力を取り戻せば良いだけだから特別な修業はいらない……という話だった。取り敢えず、今回はいつもと変わらない感じで接客してみなさい、という事だった。だから今、人間のクライアントにするように受付で待機中だ。
色々ととりとめもなく考えてしまうのは、恐怖を紛らわす為でもある。だって、どんな姿で来るのだろうか? 視えなかったら? 接客のしようがないし……いや、でも惑わす系らしいから可愛らしい女の子の姿とか?
その時、来客を知らせるベルが鳴った。粋蓮と日比谷が、あたしに頷く。いつもと変わらない接客を、との意味だ。あたしも頷いて応じ、インターホンに向かって声をかけた。ドキドキと鼓動が荒く波打つ。
「はい、Destiny pointでございます」
声が普通に出せた! ドキドキと更に鼓動が弾む。もしかして、透明な方ならあたしが聞こえないだけでもう中に入って? いや、粋蓮たちもドアを見つめているから沈黙しているだけらしい。
『予約したラン、と申す者です』
しばらくシーンとした後、思いの外高く澄んだ声が響いて来た。いつも通りに、と自分に言い聞かせつつ、
「お待ちしておりました」
と応じつつ、素早く玄関のドアノブに手を伸ばした。
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