ツクヨミ様の人間見習い

大和撫子

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第七話

マジですかぁ? 時には、人ではないクライアントも??? 【十】

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 最早、椅子の上にとぐろを巻いている赤黒い大蛇が、テーブルを挟んで粋蓮と向かい合っているという構図となっていた。恐らく、すがりつこうとした人達の欲望と、もっともっと! と欲を出した人達、そして結局は望み通りにはならなかった事への恨みや憎悪感情……更には、望み通りに出来なかった自分への責め苦に雁字搦めになってしまったランさん自身の念が、それらと混じり合った事によってこうした大蛇の形となったのだろう。

「……では、ラン様。改めて質問いさせて頂きます」

 粋蓮の声が、静かに響いた。時を刻む時計の音が、これは現実なのだと気付かせてくれる。

「……私は、私は……」

 戸惑いながら応じるランさんの声が聞こえてくる。だが、ボソボソとしたしわがれた声が、ランさんの声をかき消す。どうやら大蛇の声のようだ。

……ヨリ、オオクノヒトカラ……アガメ、ラレ、タイ、ダレヨリモ、エラク、ユウメイ二……

 何? 無数の人間の欲望の塊の……最後の足掻き?

「ランさん、耳を貸す必要は無い!」

 凛と天空に突き抜けるような澄んだ声が響く。思わずビクッとした、粋蓮だ。オリーブ色の瞳が、鋭く大蛇を見据えている。お陰で、大蛇の悪足掻きの連鎖に引きずられそうだった自分に気付く。

「わ、私は……」

 どうやらランさんも我に返った様子だ。良かった、負けないで欲しい。

……ヒトカラ、アガメラレ、ルノハ、カイカン、ダ……

「本当のあなたの望みは何です? ランさん、声に出して!」
「私は……」

……コノママ、ユウメイ、二……

「縁《ゆかり》ある唯一の人に、尽したい、です」

……アガメ、ラレタイ……

「負けないで!」
「その人が、心穏やかに過ごせるように、ほんの少しでも、力になれたら……それが、私の出来る……」

……グミンドモノ、カミ二……

「もう少しです! 頑張って!!」
「ささやかで良いので、心穏やかに、優しい時間を、主《あるじ》と過ごせたら……」
「強く言い切って!!」
「私は主の安らぎとなりたい! それだけです!!!」

 グギャ――――――ッ!

 耳を塞ぎたくなる程の咆哮を上げ、赤黒い大蛇はパーン、とガラスのように砕け散った。砕け散った破片は、窓より差し込む陽光に照らされ、キラキラとダイアモンドダストのように輝き、空気に溶け込むようにして消えていった。

 静寂が訪れた。

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