ツクヨミ様の人間見習い

大和撫子

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第八話

ツクヨミ様の想い人 其の一【五】

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 粋蓮の説明によれば、古来から神々は人や精霊と交わる……つまり異類婚姻とやらを結んだ事は少なくなかったが、得てしてあまり上手く行かないケースが多かった。まぁ、伝説を見る限りでは。
 また、双方の間に生まれた子供の事で争いが絶えなかったりと。その積み重ねてきた負の歴史から神々は会議を重ね、

「神族は神族以外と交わってはならぬ」

 という事に決まったらしい。それも、古事記でお馴染みの天地開闢 の際、万物生成化育の根源となった天御中主神 あまのみなかぬしのかみ 、高皇産霊神 たかみむすひのかみ)神皇産霊神 かみむすひのかみ 造化三神が最終的に取り決めた事なので鉄則なのだそうだ。

「……彼女は神ではなく巫女ですから。から本来は逢瀬自体も禁忌事項なのです」

 彼の言葉に、腑に落ちた。頑なまでに仕事をきっちりとこなしていた彼女の想いが。二人……いや二柱か。誰にも悟られる事のないように最新の注意を払ってきたのだ。

「けれども、ある日突然……」

 薄茶色の瞳に、悲しみの黒い影が走る。そこから先の言葉は……

「何故か姉上……アマテラスが知る事となり、姉上は穏便に澄まそうと奔走してくださったのですが、結局は造化三神の耳に入る次第となり……」

 あぁ、やっぱりね……

「罰として私は人間として、見習い期間を設けられて地上へと参った、という経緯となります」

 予想通りの経緯だ。確信を得たあたしは、彼にこう尋ねた。これ以上、彼に話をして貰うのは気が引けたからだ。彼の状況を鑑みるときっと、喜ばしい事ではないと思うから。

「では、彼女も地上に。人として地上にいらっしゃるのですね?」
「はい」

 哀し気に応じる彼に、グッと氷の手で鷲掴みされたように胸が詰まる。彼の瞳が、暗いオリーブグリーンへと移り変わった。

「ただ、彼女の方は私の、というよりもそもそも天界そのものの記憶を失っているので、仮に出会えたとしても以前と同じように私を想って貰えるかどうかは分からないのです」

 そう言って苦笑する彼があまりにも儚くて、今にも消えてしまいそうで。

「あの! 粋蓮!」

 すがるように彼の名を呼んでしまった。

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