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第十話
時に神が不公平で無情に思える理由【一】
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……はぁ、何やってんだろうな、あたし……
心の中で大きな溜息をつく。今、自宅の応接室で隣り合って座る粋蓮と美女。ガラス製テーブルを挟んで粋蓮の向かい側にあたし、あたしの隣……つまり美女の向かい側に日比谷という順番で座っている。テーブルにはそれぞれの分の白いマグカップが置かれ、ミルクティーがほこほこと温かな湯気を立てていた。淹れたのはあたしだ、勿論市販のお湯を注ぐだけという便利なあれだ。
美女は安心したように花笑みを浮かべ、うっとりと隣に座る粋蓮を見上げる。粋蓮もまた、この上無く優しい眼差しで彼女の視線を受け止めている。蕩けるように輝くオリーブグリーンの瞳に、ただ一人を映して……。まぁ、俗に言う鼻の下を伸ばしてるってやつだ。だけど浮世離れした美形なものだから、間の抜けた面差しには見えない。
……美女の名前は咲く夜と書いて咲夜と言うらしい。
話は少し前に遡る。
あれから、粋蓮も美女をあたしもずぶ濡れだという事で、日比谷の一声で粋蓮の自宅へと直行した。彼らは車で移動してきたらしく、日比谷の差し出してくれた白いタオルを美女に渡して車内に乗り込んだ。あたしは一見細いけど体は丈夫だ、数少ない取り柄の一つ。病弱そうな彼女に風を引かせる訳にはいかない。
車の中での重苦しい沈黙。それは、悲痛な面持ちで俯く美女と戸惑うようにして彼女を見つめる粋蓮のせいだ。当然のように運転席に座ろうとする粋蓮を制して助手席を促し、運転席の後ろに美女、助手席の後ろにあたしという配置となった。今にも泣き出しそうに俯く美女と、助手席から斜め後ろを見てどう声をかけよう、どう切り出そうと迷っているように見える粋蓮。日比谷が運転を変わったのは的確な判断だと思う。
この重苦しい雰囲気、あたしが何か言った方が良いのだろうか、いやいや、待て待て。何をどう切り出せば良いのかノープランだ。美女は薄紅色の薔薇の蕾みたいな唇を噛みしめ、膝の上のコートの生地を両手に握り締めている。何か思い詰めている様子だけれど……あたしから何か声をかけるべきだろうか?
「えーと、あの……」
「あの!」
あたしが声をかけようと口を開くのと、彼女が口声をかけるのが同時に行われた。酷く思い詰めたような表情だ。黒目がちで零れそうなほど大きな漆黒の瞳が、うるうると潤んでいる。その姿はさながら雨に濡れた白い酔芙蓉を思わせた。その儚げな風情に、あたしが男ならきっと抱き寄せたくなるのだろう。彼女は思い切ったように大きく息を吸うと、その美しい声はこう奏でた。
「……あなたとツクヨミ様は、御結婚されているのですか?」
「は?」
反射的に間抜けな声が出た。開口一番、それかよ? と。だけど言われてみれば彼女にしてみたらさぞや衝撃だろう、探し求めていた運命の君が、凡人代表のチンチクリンの上にブチキレ易い凶暴女とあれば。
「いいえ、これには深い訳があって……」
慌てたように口を開こうとする粋蓮を軽く目で制して、仮初の夫婦契約をした経緯、戸籍上は真っ白でありあくまでもカモフラージュである事などを包み隠さず説明した。
車内でそんな経緯があり、冒頭の見つめ合う二人がいる訳だ。
何だろう? もの凄く疲れた。出来れば今すぐシャワーを浴びてベッドに横になりたい。
心の中で大きな溜息をつく。今、自宅の応接室で隣り合って座る粋蓮と美女。ガラス製テーブルを挟んで粋蓮の向かい側にあたし、あたしの隣……つまり美女の向かい側に日比谷という順番で座っている。テーブルにはそれぞれの分の白いマグカップが置かれ、ミルクティーがほこほこと温かな湯気を立てていた。淹れたのはあたしだ、勿論市販のお湯を注ぐだけという便利なあれだ。
美女は安心したように花笑みを浮かべ、うっとりと隣に座る粋蓮を見上げる。粋蓮もまた、この上無く優しい眼差しで彼女の視線を受け止めている。蕩けるように輝くオリーブグリーンの瞳に、ただ一人を映して……。まぁ、俗に言う鼻の下を伸ばしてるってやつだ。だけど浮世離れした美形なものだから、間の抜けた面差しには見えない。
……美女の名前は咲く夜と書いて咲夜と言うらしい。
話は少し前に遡る。
あれから、粋蓮も美女をあたしもずぶ濡れだという事で、日比谷の一声で粋蓮の自宅へと直行した。彼らは車で移動してきたらしく、日比谷の差し出してくれた白いタオルを美女に渡して車内に乗り込んだ。あたしは一見細いけど体は丈夫だ、数少ない取り柄の一つ。病弱そうな彼女に風を引かせる訳にはいかない。
車の中での重苦しい沈黙。それは、悲痛な面持ちで俯く美女と戸惑うようにして彼女を見つめる粋蓮のせいだ。当然のように運転席に座ろうとする粋蓮を制して助手席を促し、運転席の後ろに美女、助手席の後ろにあたしという配置となった。今にも泣き出しそうに俯く美女と、助手席から斜め後ろを見てどう声をかけよう、どう切り出そうと迷っているように見える粋蓮。日比谷が運転を変わったのは的確な判断だと思う。
この重苦しい雰囲気、あたしが何か言った方が良いのだろうか、いやいや、待て待て。何をどう切り出せば良いのかノープランだ。美女は薄紅色の薔薇の蕾みたいな唇を噛みしめ、膝の上のコートの生地を両手に握り締めている。何か思い詰めている様子だけれど……あたしから何か声をかけるべきだろうか?
「えーと、あの……」
「あの!」
あたしが声をかけようと口を開くのと、彼女が口声をかけるのが同時に行われた。酷く思い詰めたような表情だ。黒目がちで零れそうなほど大きな漆黒の瞳が、うるうると潤んでいる。その姿はさながら雨に濡れた白い酔芙蓉を思わせた。その儚げな風情に、あたしが男ならきっと抱き寄せたくなるのだろう。彼女は思い切ったように大きく息を吸うと、その美しい声はこう奏でた。
「……あなたとツクヨミ様は、御結婚されているのですか?」
「は?」
反射的に間抜けな声が出た。開口一番、それかよ? と。だけど言われてみれば彼女にしてみたらさぞや衝撃だろう、探し求めていた運命の君が、凡人代表のチンチクリンの上にブチキレ易い凶暴女とあれば。
「いいえ、これには深い訳があって……」
慌てたように口を開こうとする粋蓮を軽く目で制して、仮初の夫婦契約をした経緯、戸籍上は真っ白でありあくまでもカモフラージュである事などを包み隠さず説明した。
車内でそんな経緯があり、冒頭の見つめ合う二人がいる訳だ。
何だろう? もの凄く疲れた。出来れば今すぐシャワーを浴びてベッドに横になりたい。
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