「十種神宝異聞」~天に叢雲、地上の空華~

大和撫子

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第六話

謀略・その五

「……お気に召さないと、消滅させられる……とか。目が合っただけで消される、とか……」

 風牙は遠慮がちにチラチラと上目使いで禍津日神を見上げながら答える。見かけが小振りでモフモフふわふわな丸っこい生き物のせいか、飼い主に叱られてご機嫌伺いする動物にしか見えないのだが……。

(いや、ちゅーかな、根本的に顔が薄気味悪いねん、特に真っ赤かな目と口が奇怪やねん……なんて本当の事は言えんわなぁ。どうやって出来たか知らんけど、持って生まれたもんは仕方無いもんなー)

 と内心で思いながら。

「……へぇ? 他には?」

 禍津日神は意外にも面白そうに耳を傾けていた。

「え? あ、いや……大体そんな感じです、はい」
「本当に?」
「は、はい!」
「あなたの心の中を読めば、本当の理由が分かりそうですけど」

 揶揄うようにクスクス笑う禍津日神。風牙は(やべー、心の声隠し切れてない? 高位の神々には術は効かねーってか?)と焦る。

「ふふふ、心配しなくてもしっかり防御されてますよ。ま、いいでしょう。こたえてくれて礼を言います。その噂、私ではなく死を扱う妖魔や、死神さんたちが入り混じって広まってるようですねぇ。災厄を司ると聞けば、それだけで恐ろしいでしょうし。本当は私などよりも月黄泉命の方が余程恐ろしいと思うのですが」
「え? あ、あの……」

 風牙はどう反応して良いか戸惑いを隠せない。礼に礼を述べるべきか? 月黄泉命の事はどう反応すべきか。

「……このくらいにしておきましょう。では、本題に入りましょうね。あなた、これから神の捧げモノと半妖の二方に会いに行くのでしょう?」
「あ、はい。そのつもりですが……」
「合流しましたら、あくまであなた自身が感じた予感として去り気なーくこう伝えて欲しいのですよ。『大和の国には来月になって行った方が良い』とね』
「は、はぁ……でも、どうしてご自身が伝えないのです?」

 風牙には禍津日神のお願い事が不可解に思えた。切り返して問いかけた際、ほんの一瞬だけ赤い双眸が泳いだのを見逃さなかった。

「あなたもご存じの通り、彼らが集めようとしているのは十種神宝でしょう?」
「はい……」

 すぐに落ち着きを取り戻す禍津日神。風牙は警戒しながら話しを聞く。

「あの御宝は、饒速日尊にぎはやひのみことが天磐船で降りて来る際、天神御祖あまつかみみおやから授けられたもので、これを授けられたものは天地をも支配する、と言われているものですね?」
「あ、はい。産土神修行の際そう習いました」
「そんな大それたものを大層頑張って探している彼らに、ちょっとした贈り物をしてあげたくてね。私自らよりは、親しみ易い者から言って貰った方が彼らも受け取り易いと思いましてね」
「……その、贈り物とは?」

 風牙は直観的に禍津日神の言葉に違和感を覚えた。

「なーに、いわゆる神の気まぐれですよ。頑張っている彼らをたまたま見て、ちょっとご褒美をあげたくなった。それだけですよ」

 と口元を綻ばせた。それが風牙にはニタリと口が裂けて血が滴り落ちたように見えてゾッとした。けれどもその恐怖に打つ勝つべく、背筋をピッと伸ばし、スッと二足歩行の姿勢を取り、神を真っすぐに見つめた。

「なるほど。神様がた特有の気まぐれな御慈悲、という訳ですね。ですがそれがし、産土神の任期を終えまして妖界に身を置く者故。治外法権(※①)を利用させて頂きとうございまする。よって、その件を伝えるかどうかは某の自由意思にて決めさせて頂きます故、何卒お許しを」

 とハッキリとこたえた。僅かに眉をしかめ、それでいて口元は笑顔を貼りつけせながら禍津日神はこたえた。

「ええええ、勿論ですとも。強制ではないのですから、あなたのしたいようにして頂けましたら。では、お手間取らせましたね」

 というと空気に溶け込むようにしてその場から消えた。

(己忌々しい。百夜といいあの小僧といい、糞生意気な!)

 内心では激しく苛立ちながら。だが、すぐに妙案を思い付いたらしい。ニヤリとほくそ笑んだ。






「有難う。もう随分と楽になったよ」

 翌朝未明、そう言って破顔する氷輪。

「良かった! あの人から買った薬、効いたんだな」

 その笑顔を眩しそうに見つめる琥珀。

「そ、そうだ! 船酔いの薬! 一日三回だ! また飲んでおかないとなっ」

 そして照れたように慌てて立ち上がり、荷物が置いてある場所へと移動した。そんな琥珀を、この上なく優しい眼差しで見つめる氷輪であった。






(※①……百夜と禍津日神の時も出てきたが、この物語内では人間界を除く各界層の事は、例え神であろうと絶対的な命令、支配は出来ないという古来からの決まり事を示す)

 
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