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ラスティアの街
神の存在
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「報告は以上だ、人的被害を抑えられたのは運が良かったと言える」
「……それを一人で成し遂げたと?」
あの後、冒険者ギルドに戻ってきて
冒険者達を率いていた、ラスティア・ウルグという男が報告をしていた。
他の冒険者は門で解散し、ギルド内は閑散としている。
帰り道で名乗りあっていたので、その流れで同行する事になったのだ。
「オレもまだまだ精進が足りねぇって事になっちまうな」
「……まだ、現場を確認できていないので判断が付きませんが……」
そう言って、受付嬢がこちらに視線を向けてくる。
今のオレは、顔色が悪くなっているだろう。
被害の請求をされるのではないか気がかりだ、なにしろ……
_____________________________________
「バウンスα」
光が周囲を満たし、直後轟音が鳴り響く、砂埃が舞い上がり目を開けてられない。
地鳴りが収まった後も視界は確保できず、見えてきた光景はひどかった。
木々は倒れ、地面は陥没し、ここが森であったという事を忘れるような有様だ。
当然、巻き込まれたクレイジーベア達は、跡形も無く消え去っていた。
中心の近くに居たオレの周囲には何故か、被害が無い。
(攻撃範囲を細かく指定する魔法文字はない
どうして、ここまで衝撃が届かなかった?)
陥没した地面は、扇状に前方へと広がっていて、違和感を覚える。
上から叩きつけるという攻撃方法なのだから。
円状に広がるのであれば理解できる、これは明らかに法則を無視した被害だ。
「コイツは……お前さん、随分と派手にやったな……」
思考を遮ってくる声が、後ろから掛けられる。
さっき、忠告を投げかけた相手で、門でも声を張り上げていた
リーダーらしき男が地面と、オレとを交互に見ながら声を掛けてきた。
「ここまでしなければ倒せない相手だった……て、事なのか」
「他の方法なら、全滅する可能性もあったからな」
反応に困っていると、そう思い込んでくれたので煙に巻く事にする。
全員で協力して戦えば普通に倒せた可能性を捨て切れないが
ゲームでは全員が役割を把握して、作戦を立てて万全の状態挑み。
それでも負けることがある。
現実では負ければそこで終わってしまう。リトライできない状態で
自分の命運を預けるほどの信頼関係は築けていない。
あの状況ならこれが最善だったと思う、もっと被害を減らせたかを抜きにすれば。
「死体が残ってないから断言はできないが……新種に見えた
お前はあの魔物の事をよく知ってたな?」
「そうでもない、現にここまで出てくる、なんてのは知ってなかったよ」
迂闊な事を言わないように、落ち着いて返答していく。
それだけの知識を、どこから手に入れたかと聞かれても答えられない。
バカ正直にゲームの知識です、なんて言った日には周囲に人は居なくなるだろう。
話を聞きたそうにしているが、先に街に戻らないかと提案し
周辺をざっと周り、今度こそ何も出てこない事を確認してから戻っていく。
帰り道に先ほどの相手に捕まり、自己紹介となった。
「そういや名乗って無かったな、オレはラスティア・ウルグだ
こう見えても、長年冒険者をやってる古参だぜ」
「オレはレスティア、さっき冒険者ギルドに登録したばかりだ」
街の名前を名乗れるぐらいだから、相当に信頼されていそうな人だな。
戦いとは無縁そうな、穏やかそうな顔で、年は30代に見えそうなのだが
その引き締まった体格を見て、バカをやるやつは居ないだろう。
「登録したばかり? それだけの腕がありゃ、どこでもやっていけそうだが」
「色々と事情があってね、詮索しないでもらえると有難い」
一瞬だけ、鋭い目を向けられたが直ぐに表情が戻る。
いい加減、こういった視線にも慣れてきた。
今も距離を置いている冒険者達から不快な視線が向けられてるからな。
その点、ウルグはそういった視線を向けてくる事はない。
その後もいくつか聞かれたが、無難な答えを返していく。
ギルドに報告するために、同行を求められて今に至る。
「後は討伐確認を終わらせるだけだな」
「ギルドカードをこちらに」
先に渡すように促されたので、受付嬢に渡す。
何かの機械に通して、反応を待っている
じっと反応を待っていた受付嬢が突然、驚愕に目を開く。
「フォレストウルフの討伐数が……72匹です」
「かなり大規模な氾濫だったって事か……恐ろしいな」
「そこじゃありません! あ、いえ、それもあるのですが
たった、1人でそれだけの数を倒しているんですっ!」
「なんだと!?」
「他にはクレイジーベア1匹、ベアージャー2匹、グリズリーが1匹です」
「そういえば、そんな名前だったな」
思い出せなかった名前を聞き、つい口を挟んでしまう。
ウルフは数えていないが、そのぐらいは倒しているだろう。
「落とし子だと!?」
「落とし子? どういう意味なんだ?」
聞き覚えの無い単語に首を傾げる、ウルグが教えてくれた内容はこうだ。
世界に何も無かった頃、とある神がこの地へとやってきて。
命を吹き込んだ、すると世界に自然が広がり数多の命が生まれていった。
やがて人々が知能を手にし、その活動を広めていくと
それを気に入らなかった、別の神が自身の身から生れ落ちた悪魔を世に放った。
悪魔は人々の絶望を糧に成長していき、更に絶望を与える為に魔物を生み出した。
中でも強力な個体の事を、人々は恐怖から落とし子と言い伝えられている。
クレイジーベアは御伽噺として存在するが
今では信じるものが居なくなったらしい。
因みに、原初の神は力を失い、それでも人の為と、自身の力を人に分け与え。
悪魔に対抗する手段として、残したという伝承があるらしい。
「あの時ははぐらかされたが、落とし子について詳しそうだったな?
どういう事なんだ? 何を隠して、どこまで知っているんだ?」
「一気に聞かれても同時には答えられないぞ、落とし子って名称は今聞いた
グリズリー系は個体の大きさで強さが大きく分かれるって事だ」
「さっき、名称に反応していたな? どうして名前だけわかる」
「伝え聞いたからな、思い出せなかった、考えが繋がっただけだよ
教えてくれたヤツが今どうしているかはわからん」
「ソイツの見た目は?」
「一度出会っただけだから印象に残ってない
地味な外見をしていたから、聞いた所で見つけるのは難しいだろう」
「一度会っただけにしては、随分と教えてくれたんだな?」
「親切なヤツだったからな、他にも有益な情報もくれたし、助けられたよ」
誘導尋問されるが、その反応は予想していた。
考えていた通りに答えを返していく。
納得できていなさそうだが、話を広げるきっかけが無くウルグは黙り込んだ。
「それよりも、そろそろ宿を見つけたいんだが、いつまでここに留まればいい?」
「行き着けの宿だろう? 話を通してないのか?」
「この街に来たのは今日だ、早めに探したい」
ウルグの名前を出せば泊まれるはずだからと、いくつかの場所を教えてもらった。
それを聞くまでに、どこから来たのかとか色んな質問攻めにされたが
近くの街の名前を挙げたりして誤魔化す。
質問攻めから開放されたオレは、散々無視されて
更に視線が厳しくなった受付嬢からカードを返して貰い
教えて貰った宿に向かう、表には安らぎの宿と看板が出ていて
来る途中に見かけた宿よりも、高そうな店構えに気後れしながら入っていく。
「ラスティア・ウルグという人からこの宿を紹介されたんですが
部屋は空いていますか?」
「……20コルセだ」
「これは使えます?」
そういって8枚の内から一枚取り出し相手の反応を伺う
「この店を潰すつもりかい? こんな大金、釣りを払いきれないよ」
年がいっている女性はそう言った。
「何日も泊まらせて頂きたいので、一度に払いたいのですが・・・」
「……それなら、一月ほど泊まれば釣りを払えなくもないよ」
「30日ですか? 馴染みの無い言い方でしたので
その場合、お釣りはいくらになりますか?」
「9400コルセだ、返金は受け付けないよ、30日で合っているさ」
そこでここでも代筆を依頼して、9395が手元に
計、四種類の通貨を手に入れる
「確認しな、部屋の鍵はこれ、場所は階段上がって左側の一番奥だ」
「いえ、ウルグさんの紹介ですし、信頼していますよ」
そう言って部屋には向かわずに宿を出る。
小腹も空いてきたし、散策ついでにふらふらする為だ。
外で実際に通貨を確認する、大きさがそれぞれ違うのでわかりやすかった。
匂いに釣られふらふらと彷徨ってると、不快な匂いが鼻につく
慣れない街並みに、気づけば迷子になってしまっていた
とにかく元居た場所に戻ろうと、踵を返したオレの耳に声が届く
――――邪神
声のした方へ目を向けるが、そこには誰も見えない。
誰も居ない路地のはずなのに、妙な怖さを感じる暗がりが続いている。
日本では目にする事の無い、街の裏の顔に、その場を足早に去っていく。
散々迷ったお陰で、この街の地理も大分理解できた。
西側は屋敷が多く、東側は一軒家が多く店も多数構えられている。
南は裏路地などのわかりにくい道ばかりで、一種の迷宮と化していた。
北側は武具屋やギルドなどがあり、冒険者があまり行き来しなくともいい作りだ。
中央ではシンボルである巨大な時計塔、協会や図書館などもあった。
歩き疲れたので図書館に入ってみる
入館料で5コルセ支払い中を見てみるが、広い。
持ち出しは厳禁だが、代わりに白紙の本が20コルセで売ってある。
本を無作為に、5冊ほど流し読みしたが、どれも問題無く読むことができた。
そこで職員に伝承系の話が載っている場所はどこか聞き出した
様々な本に興味を引かれたが、ある本で視線が止まる。
ゲームでは一切触れられなかった、邪神についての本だ。
いくつかを抜き出し腰を据えて読み耽る。
とある一文を見つけ、その衝撃に場所すら忘れ、即座に魔術を放つ。
魔術で作り上げた氷が、オレの全身を映し出す。
切れ長の瞳の色は濃い紫色で、白髪の髪がさらりとゆれる。
不自然なほど白い肌は、まるで幼子のように柔らかい。
ゲームの時の姿が映し出されている。
その姿は本に書いてあった通りであるならば、邪神と呼ばれる姿そのものだ。
この見た目で作った理由は、ダンジョン内部に点在している石碑に
目の色と髪の色しか書かれていない(他は欠けて読み解けなかった)
古ぼけた、魔法文字を元にキャラクターを作り直したのだ。
もしかしてあの石碑に書かれていたのは
邪神の見た目を残していたのかっ!?
オレが今、対人関係で物凄く困っているのは全部
邪神が(そう呼ばれる人物が)暴れた風評被害って事かよ!?
感情が高ぶったせいか、氷はいつの間にか消えていた。
少なくとも、この街では伝承が信じられていて
オレが、この街で問題を起こすと、思われていると見てもいいだろう。
なら話は簡単だ、問題を起こさなければいい。
何日か経てば、ありふれた風景に変わるだろう。
平穏な生活を送る為に、決して問題を起こさない事を決意しよう!
_____________________________________
蛇足・通貨設定。
製造はされてるが価値が高すぎて、あまり流通していない通貨を出したせいで
「店を潰すつもりかい」=店がお釣りを払えない(金を使いにくくなる)から。
「……それを一人で成し遂げたと?」
あの後、冒険者ギルドに戻ってきて
冒険者達を率いていた、ラスティア・ウルグという男が報告をしていた。
他の冒険者は門で解散し、ギルド内は閑散としている。
帰り道で名乗りあっていたので、その流れで同行する事になったのだ。
「オレもまだまだ精進が足りねぇって事になっちまうな」
「……まだ、現場を確認できていないので判断が付きませんが……」
そう言って、受付嬢がこちらに視線を向けてくる。
今のオレは、顔色が悪くなっているだろう。
被害の請求をされるのではないか気がかりだ、なにしろ……
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「バウンスα」
光が周囲を満たし、直後轟音が鳴り響く、砂埃が舞い上がり目を開けてられない。
地鳴りが収まった後も視界は確保できず、見えてきた光景はひどかった。
木々は倒れ、地面は陥没し、ここが森であったという事を忘れるような有様だ。
当然、巻き込まれたクレイジーベア達は、跡形も無く消え去っていた。
中心の近くに居たオレの周囲には何故か、被害が無い。
(攻撃範囲を細かく指定する魔法文字はない
どうして、ここまで衝撃が届かなかった?)
陥没した地面は、扇状に前方へと広がっていて、違和感を覚える。
上から叩きつけるという攻撃方法なのだから。
円状に広がるのであれば理解できる、これは明らかに法則を無視した被害だ。
「コイツは……お前さん、随分と派手にやったな……」
思考を遮ってくる声が、後ろから掛けられる。
さっき、忠告を投げかけた相手で、門でも声を張り上げていた
リーダーらしき男が地面と、オレとを交互に見ながら声を掛けてきた。
「ここまでしなければ倒せない相手だった……て、事なのか」
「他の方法なら、全滅する可能性もあったからな」
反応に困っていると、そう思い込んでくれたので煙に巻く事にする。
全員で協力して戦えば普通に倒せた可能性を捨て切れないが
ゲームでは全員が役割を把握して、作戦を立てて万全の状態挑み。
それでも負けることがある。
現実では負ければそこで終わってしまう。リトライできない状態で
自分の命運を預けるほどの信頼関係は築けていない。
あの状況ならこれが最善だったと思う、もっと被害を減らせたかを抜きにすれば。
「死体が残ってないから断言はできないが……新種に見えた
お前はあの魔物の事をよく知ってたな?」
「そうでもない、現にここまで出てくる、なんてのは知ってなかったよ」
迂闊な事を言わないように、落ち着いて返答していく。
それだけの知識を、どこから手に入れたかと聞かれても答えられない。
バカ正直にゲームの知識です、なんて言った日には周囲に人は居なくなるだろう。
話を聞きたそうにしているが、先に街に戻らないかと提案し
周辺をざっと周り、今度こそ何も出てこない事を確認してから戻っていく。
帰り道に先ほどの相手に捕まり、自己紹介となった。
「そういや名乗って無かったな、オレはラスティア・ウルグだ
こう見えても、長年冒険者をやってる古参だぜ」
「オレはレスティア、さっき冒険者ギルドに登録したばかりだ」
街の名前を名乗れるぐらいだから、相当に信頼されていそうな人だな。
戦いとは無縁そうな、穏やかそうな顔で、年は30代に見えそうなのだが
その引き締まった体格を見て、バカをやるやつは居ないだろう。
「登録したばかり? それだけの腕がありゃ、どこでもやっていけそうだが」
「色々と事情があってね、詮索しないでもらえると有難い」
一瞬だけ、鋭い目を向けられたが直ぐに表情が戻る。
いい加減、こういった視線にも慣れてきた。
今も距離を置いている冒険者達から不快な視線が向けられてるからな。
その点、ウルグはそういった視線を向けてくる事はない。
その後もいくつか聞かれたが、無難な答えを返していく。
ギルドに報告するために、同行を求められて今に至る。
「後は討伐確認を終わらせるだけだな」
「ギルドカードをこちらに」
先に渡すように促されたので、受付嬢に渡す。
何かの機械に通して、反応を待っている
じっと反応を待っていた受付嬢が突然、驚愕に目を開く。
「フォレストウルフの討伐数が……72匹です」
「かなり大規模な氾濫だったって事か……恐ろしいな」
「そこじゃありません! あ、いえ、それもあるのですが
たった、1人でそれだけの数を倒しているんですっ!」
「なんだと!?」
「他にはクレイジーベア1匹、ベアージャー2匹、グリズリーが1匹です」
「そういえば、そんな名前だったな」
思い出せなかった名前を聞き、つい口を挟んでしまう。
ウルフは数えていないが、そのぐらいは倒しているだろう。
「落とし子だと!?」
「落とし子? どういう意味なんだ?」
聞き覚えの無い単語に首を傾げる、ウルグが教えてくれた内容はこうだ。
世界に何も無かった頃、とある神がこの地へとやってきて。
命を吹き込んだ、すると世界に自然が広がり数多の命が生まれていった。
やがて人々が知能を手にし、その活動を広めていくと
それを気に入らなかった、別の神が自身の身から生れ落ちた悪魔を世に放った。
悪魔は人々の絶望を糧に成長していき、更に絶望を与える為に魔物を生み出した。
中でも強力な個体の事を、人々は恐怖から落とし子と言い伝えられている。
クレイジーベアは御伽噺として存在するが
今では信じるものが居なくなったらしい。
因みに、原初の神は力を失い、それでも人の為と、自身の力を人に分け与え。
悪魔に対抗する手段として、残したという伝承があるらしい。
「あの時ははぐらかされたが、落とし子について詳しそうだったな?
どういう事なんだ? 何を隠して、どこまで知っているんだ?」
「一気に聞かれても同時には答えられないぞ、落とし子って名称は今聞いた
グリズリー系は個体の大きさで強さが大きく分かれるって事だ」
「さっき、名称に反応していたな? どうして名前だけわかる」
「伝え聞いたからな、思い出せなかった、考えが繋がっただけだよ
教えてくれたヤツが今どうしているかはわからん」
「ソイツの見た目は?」
「一度出会っただけだから印象に残ってない
地味な外見をしていたから、聞いた所で見つけるのは難しいだろう」
「一度会っただけにしては、随分と教えてくれたんだな?」
「親切なヤツだったからな、他にも有益な情報もくれたし、助けられたよ」
誘導尋問されるが、その反応は予想していた。
考えていた通りに答えを返していく。
納得できていなさそうだが、話を広げるきっかけが無くウルグは黙り込んだ。
「それよりも、そろそろ宿を見つけたいんだが、いつまでここに留まればいい?」
「行き着けの宿だろう? 話を通してないのか?」
「この街に来たのは今日だ、早めに探したい」
ウルグの名前を出せば泊まれるはずだからと、いくつかの場所を教えてもらった。
それを聞くまでに、どこから来たのかとか色んな質問攻めにされたが
近くの街の名前を挙げたりして誤魔化す。
質問攻めから開放されたオレは、散々無視されて
更に視線が厳しくなった受付嬢からカードを返して貰い
教えて貰った宿に向かう、表には安らぎの宿と看板が出ていて
来る途中に見かけた宿よりも、高そうな店構えに気後れしながら入っていく。
「ラスティア・ウルグという人からこの宿を紹介されたんですが
部屋は空いていますか?」
「……20コルセだ」
「これは使えます?」
そういって8枚の内から一枚取り出し相手の反応を伺う
「この店を潰すつもりかい? こんな大金、釣りを払いきれないよ」
年がいっている女性はそう言った。
「何日も泊まらせて頂きたいので、一度に払いたいのですが・・・」
「……それなら、一月ほど泊まれば釣りを払えなくもないよ」
「30日ですか? 馴染みの無い言い方でしたので
その場合、お釣りはいくらになりますか?」
「9400コルセだ、返金は受け付けないよ、30日で合っているさ」
そこでここでも代筆を依頼して、9395が手元に
計、四種類の通貨を手に入れる
「確認しな、部屋の鍵はこれ、場所は階段上がって左側の一番奥だ」
「いえ、ウルグさんの紹介ですし、信頼していますよ」
そう言って部屋には向かわずに宿を出る。
小腹も空いてきたし、散策ついでにふらふらする為だ。
外で実際に通貨を確認する、大きさがそれぞれ違うのでわかりやすかった。
匂いに釣られふらふらと彷徨ってると、不快な匂いが鼻につく
慣れない街並みに、気づけば迷子になってしまっていた
とにかく元居た場所に戻ろうと、踵を返したオレの耳に声が届く
――――邪神
声のした方へ目を向けるが、そこには誰も見えない。
誰も居ない路地のはずなのに、妙な怖さを感じる暗がりが続いている。
日本では目にする事の無い、街の裏の顔に、その場を足早に去っていく。
散々迷ったお陰で、この街の地理も大分理解できた。
西側は屋敷が多く、東側は一軒家が多く店も多数構えられている。
南は裏路地などのわかりにくい道ばかりで、一種の迷宮と化していた。
北側は武具屋やギルドなどがあり、冒険者があまり行き来しなくともいい作りだ。
中央ではシンボルである巨大な時計塔、協会や図書館などもあった。
歩き疲れたので図書館に入ってみる
入館料で5コルセ支払い中を見てみるが、広い。
持ち出しは厳禁だが、代わりに白紙の本が20コルセで売ってある。
本を無作為に、5冊ほど流し読みしたが、どれも問題無く読むことができた。
そこで職員に伝承系の話が載っている場所はどこか聞き出した
様々な本に興味を引かれたが、ある本で視線が止まる。
ゲームでは一切触れられなかった、邪神についての本だ。
いくつかを抜き出し腰を据えて読み耽る。
とある一文を見つけ、その衝撃に場所すら忘れ、即座に魔術を放つ。
魔術で作り上げた氷が、オレの全身を映し出す。
切れ長の瞳の色は濃い紫色で、白髪の髪がさらりとゆれる。
不自然なほど白い肌は、まるで幼子のように柔らかい。
ゲームの時の姿が映し出されている。
その姿は本に書いてあった通りであるならば、邪神と呼ばれる姿そのものだ。
この見た目で作った理由は、ダンジョン内部に点在している石碑に
目の色と髪の色しか書かれていない(他は欠けて読み解けなかった)
古ぼけた、魔法文字を元にキャラクターを作り直したのだ。
もしかしてあの石碑に書かれていたのは
邪神の見た目を残していたのかっ!?
オレが今、対人関係で物凄く困っているのは全部
邪神が(そう呼ばれる人物が)暴れた風評被害って事かよ!?
感情が高ぶったせいか、氷はいつの間にか消えていた。
少なくとも、この街では伝承が信じられていて
オレが、この街で問題を起こすと、思われていると見てもいいだろう。
なら話は簡単だ、問題を起こさなければいい。
何日か経てば、ありふれた風景に変わるだろう。
平穏な生活を送る為に、決して問題を起こさない事を決意しよう!
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蛇足・通貨設定。
製造はされてるが価値が高すぎて、あまり流通していない通貨を出したせいで
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