異世界で邪神を拾ってしまった

ミナヅキ@jasin

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ラスティアの街

黒い粘性生物と遺跡の痕跡

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鈍い黒色をした、まるで液体に意思ができたようにうごめくソレは
まるで、腐り落ちるように千切れるが、またすぐに戻っていく。
もっとも、密集している部分でも3メートルはあり
全てを集めればどれほどの大きさになるのか知る事ができない。




前触れもなく、ソレは飛び上がり、押しつぶしてこようと迫ってくる。
それを飛び退いてかわすと、体の一部を触手のようにして叩きつけてくる
あまりにも速いその動きに、必死に避け続ける。
薙ぎ払い、突き、押し潰し
正面から、上から、左右から縦横無尽じゅうおうむじんに振るわれる。
地面は砕け、更に動きづらくなっていく。

「手数が多すぎるんだよっ! クソったれが!!」

敵の特性から考えて、剣は使えないと既に収納している。
相手の動きに慣れてきて、構築できた5重のホーリーレイを放つ
命中するが、動きを止める気配は感じられない。

それどころか、より攻撃が苛烈になってきた。
6重に重ねたマジカルバレットを放ってみるが粘性体ねんせいたいが波打つだけで
まるで感触が感じられない。

(恐らく、6重が一つの境界線だ、そこを越えると文字通り
 桁違いの威力に上がるはず……ここが地下じゃなければ)

とはいえ、蒸発させた所で元に戻るだけなのではないかと。
想像してしまい怖気立つ、ここが地上なら迷わず火を選んでいたからだ。

「これなら……どうだっ!」

片方の陣でバウンスを、マジカルバレットを同時に当てる。
その衝撃に空気が震えるが先ほどまでと変わらずにいる。

一度でダメなら何度でも繰り返す。

避けては放つ、放っては避ける、向かってくる触手に
本体から離れた物体に魔術を当てる、まるで決め事のように
お互いが息をつく暇もないほどに、交互に攻撃を繰り出す。
広々とした空間だけでは足らず、お互いが、通路を破壊しながら移動する。
少しでも、距離を空けようとしているが執拗に追いかけてくる。

「だああっ! 鬱陶しいんだよ!!」

終わりの見えない戦いに、ブチ切れたオレは7重まで高めたバウンスαを放つ
地面に大きなクレーターが作られ、巨大な破片が当たりに飛び散る。
破壊の限りを尽くしたバウンスαだったが
直撃したはずのソレはまだ蠢いていた。

「……生き物としてどうかと思うぜ? そんなのは」

あれほど執拗にこちらを追い立てに来ていたのに
今は大きな動きを見せない。
(効いているようには見えなかったが、どうして動かない?)

とはいえそんな相手を待ってやる事なく、6重のホーリーレイを二つ放つ。
クレーターの中心で動かない相手に、吸い込まれるように当たった瞬間。

とてつもない質量を持つ存在が、まるできっかけを与えられたかのように
瞬く間に縮んで、小柄な人型へと変わる――腐り落ちる気配は感じられない――

距離が離れていたのにも関わらず突然、ソレに殴られる。
なんとか腕で防ぐことができたが、かなりの距離を飛ばされたにも関わらず
既にその距離は意味をなさないほど近づかれている。

剣を取り出し、応戦するが先ほどまでと同じようにまるで手応えがない。
吹き飛ばして距離を取っても、即座にこちらへと向かってくる
魔術を当てるが、特性が残っているのか意に介していない。

「これならっ! どうだ!?」

ならば、と小さくなった敵を上へ打ち上げ、8重のバインドで動きを封じる。
氷がまるでツタのように体中に巻きついて、複雑に拘束する。
魔術陣を構築していき、身動きできずにもがいている相手に叩き込む。



――カラン
手に持ったモノを突き刺した直後、相手はまるで霧のように霧散し
宝石のような物体が地面を音を立てて転がる。


魔術を直接、叩き込む為の無名の刀。
刀身は血を吸ったかのように赤黒く染まり。
まるで妖刀のような印象を受ける。
好きな魔術を組み込めるというところから名づけた
ネームレスという魔術で作られた刀で突いたのだ。

……ネーミングもそうだが、その見た目のせいで普段使わない魔術の代表だ。

「これがアレの核って事……なのか?」

落ちているそれを拾い上げて観察する。
宝石には詳しくないが、アメジストのような輝きをしていて
価値が高そうなほどの大きさだった。

考えるのは専門家に任せる事に決めて、失くさないようにインベントリに
収納してから、惨状を辿ってボスエリアへと戻ってくる。

中央に存在していたのはやはり祭壇のようで
それらしき文字がギリギリ読み取れた。

このダンジョンが今、どうなっているかは知らないが
ギルドに報告するしか思いつかなかった。
今後の事に頭を悩ませていると、はたと気づく。

「な、なんて事をしてしまったんだ……」

慎ましく生きていくつもりだったのに! どうしてダンジョン攻略してる!?
戦闘が長引いて命の危機が迫っていたと言えど
被害を考慮せず、迂闊に魔術を放ち暴れまわって! どうして…………
どうしてこうなったんだ。
街を揺るがすような、大事件の中心人物なんて願い下げだ。

平穏な生活が遠のく気配に足が重くなる。
いや、逆に言えば、危険を知る事ができたんだ
結果的に街に貢献しているんだから、後ろ向きに考えすぎないようにしよう。
例え、邪神と呼ばれていようと、平穏に生きる事ぐらい簡単だ!
物事を前向きに捉えて、少しだけ気持ちが軽くなった。



「この無能共がっ! この程度、早く助け出せ!」

作り上げた壁の前まで戻ってくると不快な声が聞こえてくる。
……忘れていたな、面倒事が残っていた事にうんざりしたが壁を解除した。

「なっ!? 何をしても壊れなかった氷が消えていく?」

「あまりにも危険すぎたからな、通れないようにしておく必要があった」

私兵だろうか、武装した人間が集まっていた。
先手を打って、こちらの言い分を叩き付けておいた。

「……この氷はお前が無断で作り上げたのか?」

「そうするべきだと判断した、そしてこれは個人の手に余る」

そう言って再び壁を構築して通れないようにする。
喚いているクズは無視して、理由を説明していく
ひとしきり聞き終わると、判断に迷っているようで、考え込みはじめる。

「時間が惜しい、確認はギルドに任せればいいだろう、どうせ報告で
 調査の人間がやってくる、まさかギルドが信じられないとは言わないよな?」

「何を勝手な事を言っているんだ! ここは私の屋敷だぞ!?」

「ギルドには今から向かう、逃げないように見張ればいい
 言い忘れていた、そこの人は魔物に遭遇して暴れだしたから拘束したんだ」

間違って、魔物に殺されたらオレの責任になってしまうからな。
そう言い捨てるが、重たい空気が漂うばかりだった…………。
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