ある聖女候補の生涯と守護する者の記録 或いは管理する天使の視点より

赤村雨享

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聖女候補の生涯

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 アビゲイル・フォスターは小さな農村で生まれた。その村は貧しく食事も粗末なものだった。時代的に見れば世界は人間発達の過渡期──世界中似たような状態であるので然程珍しいことではない。

 農耕と酪農で生計を立てるフォスター家は十人の大家族……その末の娘として生まれたアビゲイルは、当然ながら痩せ細った子であった。

 それでもアビゲイルは家族の愛に包まれ育った。幼いながらも仕事を手伝い、我が儘も言わず、食べ盛りの中で空腹さえ我慢した。そして、神への祈りも欠かさぬ敬虔な宗徒でもあった。

 そして何より、アビゲイルは太陽の様な子だった。笑顔を絶やさず、共に居ることで温かさを感じさせる存在。人を惹き付ける魅力を持つが、その心は正しく慈愛に満ちていた。

(ふむ……。聖女に成り得た素養は幼き頃には既に培われていたようだな)

 まさに神の祝福を受けるに相応しきアビゲイル……しかし、の者の身に不幸が迫る。父の病、その治療代による借金、そして世界に拡がる大戦の戦火──アビゲイルは人の身だからこそ抗えぬ運命に翻弄されていた。

 病で父を失い、母は借金の返済の為に奔走、上の兄弟達は出稼ぎに出るも戦争に徴兵され、残る兄弟達は農業の傍ら街の仕事を見付け働いた。

 アビゲイルが働きに出られるようになった頃……戦火は益々広がり兄弟の何人かが死んだ。兄弟達は農場の切り盛りに専念するも世の不況は広がり閉塞感が増す。
 そんな中でもアビゲイルは笑顔を忘れず前へと進む。兄弟を励まし、母を勇気づけた。やがて戦争が終わる頃にはフォスター農場は少しづつではあるが仕事が増え始めた。

(過酷な試練を乗り越える強さ……しかし、その心の内の悲しみはどれ程のものか……)

 幼いながらに悲しむ姿を見せぬ強さは少々出来すぎではある。大人でもその心が悲鳴を上げていても不思議ではない環境である。守護天使はそういった際、支えになることを許されている。

 現にアビゲイルは夢の中で子供の姿をした守護天使レルエルに幾度も会っている。会話という会話はしていない。守護天使はただアビゲイルの言葉を静かに聞いているだけだった。

 母の体調が回復したのを見計らいアビゲイルは仕事を見付け家を出る。戦火からの復興により特需が生まれた国では寝食付きの仕事もあった。アビゲイルはその殆んどの報酬をフォスター農場に仕送りし、やがて実家の借金は完済となった。

(ここまでは家族の為に生きたのだな……。そして此処からは……)

 アビゲイルが十五歳になった春……奉公先だった家の主に新たな仕事の手伝いを頼まれた。アビゲイルの真面目な働きぶりが評価されたのだ。
 仕事は紡績工場の増設。地方にて新たな事業を立ち上げる際の雑用係だったが、持ち前の明るさと努力により仕事も増えて行く。

 やがてアビゲイルは奉公先の主の子息に見初められ恋に落ちた。

 しかし……アビゲイルの恋人となった子息は結ばれる前に倒れることとなる。当時の流行病は国全土に多大な死者を生み出していた。これにより、アビゲイルは恋人だけでなく母と兄弟の一人も失うこととなった。

(……試練が続くのは人の世の宿命。しかし……何と幸薄いことか)
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