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ジュタ 5
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タイキが俺を探して施設内をウロウロしている。と、戻って来たリオンから聞いたのはタイキのメンテナンスが終わってから2時間後の事だった。
リオンは今まで全ての改造人間の情報を確認していたようで、それを資料にまとめて見せてくれた。
能力順に分けられた見やすい資料には、番号や名前、メンテナンスをしたか否かが書かれている。
今日看たのは前線から戻ってきた改造人間だけだったから、改造人間全員をメンテナンスするとなれば大変だろうな……なんて思ってた訳だけど、こうして資料にまとめられてしまうと全体の3分の1すらメンテナンス出来ていないって事実を突きつけられ……溜息が出た。
「無理させると思うけど、メンテは早く終わらせて欲しいんだ」
はいはい。
統計か何か取ってるんだよな?それを元に今後の事も考えたいんだろ?だからメンテナンスが終わらない限り先に進めない……。
「ちょっと休憩入れたら再開する。A級の奴から連れて来て」
疲れたなんて言ってる場合じゃない。俺は改造人間のドクター。命をこれ以上無駄にしない為ここに来たんだ。
月にいるお偉い人間からしてみれば、俺のしようとしている事は不本意だろうな。
改造人間を使い捨てにして、常に改造人間の材料不足でなければならないんだろ?本気でこの戦いを終わらせる気なんかないんだよな?そうでなければ気に食わない態度だからって理由で破棄なんかにはしない筈だ。
「連れて来たよ」
よし、ゴチャゴチャ考えるのは後回しだ!
A級とB級能力者のメンテナンスが終了したのは3日後の事。
休憩を挟みつつやっていたとは言っても極度の睡眠不足。それなのに集中力をかなり使う作業を延々と3日……頑張った。俺もスイも、勿論別行動をとっているリオンも。
リオンは改造人間全員の情報をまとめるばかりではなく、その個々にあった訓練メニューや食事、加えて研究員達に改造人間との接し方と題したセミナーまで開いたりしていた。
「スイ、生きてるかぁ~?」
「なんとか……ドクターはぁ~?」
俺達がメンテナンスで忙しかった間、ガドルの部屋からは相変わらずタイキ達の話し声がしていて、だからスイは部屋に2人きりになっても俺をドクターと呼んでくれている。
「なんとか。次C級能力者だけどいけるか?」
俺は少し仮眠を取りたいんだが……
「3時間位寝たい」
意見が一致した。
3時間と言わずに明日になるまで眠りたい所ではあるが、メンテナンスを急げって言われてるし……いや、こうして考えてる時間が勿体無い。
俺達はまるでゾンビのようにノソリノソリと仮眠室まで移動し、倒れ込むようにしてベッド横になるとそのまま眠ってしまった。
ピピピッ、ピピピッ。
「ん……」
重たい瞼を無理矢理にこじ開けた時、俺の横で目覚まし時計が鳴っていた。隣にはまだ気持ち良さそうに眠っているスイがいたので慌てて目覚ましを消し、眠気覚ましに大きく伸びながら診察室に出ると、そこには作業中のリオンがいた。
「おはよう。残りはC級能力者だね、もう少し時間空ける?もういけそう?」
相当急いでるんだな。スイはもう少し休ませてやりたいけど……まぁ、修理ならともかくメンテナンスなら俺1人でも大丈夫だろう。それにC級能力者は30人程度しかいない上にC級の訓練は体が傷む程激しい物ではない。だから多分後1日もあれば全ての……まだ前線に残っているA級能力者を省いた全員のメンテナンスが終わる。
リオンによって呼び出されたC級能力者を1人ずつ診る事5時間。
あまりにもスイが起きて来ないから心配になって様子を見に行ってみると、幸せそうな顔して眠ってて……何故だかそれで疲れが吹き飛んだと言うか、幸せな気分になったと言うか……なので、起こさずにそっと仮眠室のドアを閉めた。
「ゴメンッ!がっつり寝てた。大変だった?マジでゴメン!」
スイが起きてきたのは10人目のメンテナンスが終わってからだから、時間にして大体7時間程経ってからで、申し訳なさそうに俯く顔色は物凄く良くなっている。
「気にすんなって」
無理して倒れるよりよっぽど良いんだから。って、これ「倒れないように気をつけろ」とか言い返されそうだから言わないでおこう……。
約20時間かけてC級能力者全員のメンテナンスが終わり、その達成感を声にする事も、共に戦ったスイと喜びを分かち合う事も、パソコン前に座って何かの作業をしているリオンに挨拶する事もせず、俺は仮眠室に足を向けた。
パタンと仮眠室のドアを閉め、ズット付けっ放しで蒸れていた気持ち悪いマスクを顔から剥ぎ取り、上着だけを脱いでベッドに潜り込む。
コンコン。
診察室の方でノックする音が聞こえた。
誰が来たのだろう?
いいや、誰が来たとしても俺は仮眠室の中にいるんだから関係ない。
もし、タイキだったら?
押し入って来たら?
マスクだけはしていた方が良いのかも知れ……あれ?マスク何処だ?
ガチャ。
診察室ではなく仮眠室のドアが開く音がして、見るとそこにはスイがいて、キョロキョロとした後ベッドに入ってきた。
「俺の知り合いかも知れないし」
あぁ、なるほど。
ダブルサイズのベッドの中は2人で眠るには少々狭いが、マスクもない状況でバレルかも知れない。と言う恐怖感があると全く気にならない。それ所か、身を寄せ合ってお互いの顔をお互いの体で隠している状態で頭から布団を被っていた。
「はい。どうしました?急患ですか?」
リオンがドアを開けて訪問者に声をかけている。
「じゃなくって……先生に俺まだちゃんと御礼言ってなかったから……」
聞こえて来たのはルルの声。
「先生、いねぇの?」
タイキまでいるようだ。
「ドクターはお休み中です」
まるで受付嬢のような話し口調のリオンが可笑しくて、思わずスイと顔を見合わせて笑ってしまった。そんな些細な声に敏感に反応したルルは、
「先生起きてるよ?」
なんて指摘し、
「起きてんだったら会わせて……」
と、タイキが無理矢理に入ってきたのだろう、ガチャリと仮眠室のドアが開く音がして、無言。
そして少ししてからゆっくりとドアが閉まった。
なんだろう、何かとんでもない勘違いをされた気がする……。
「分かった?ドクター達はお休み中なの」
リオンもタイキがしたであろう勘違いを助長するような物言いしてさ、もしかして楽しんでる?
くそっ。
でも、その勘違いのお陰でバレずに済んだんだから良いとしよう……。
部屋に戻ったタイキとルルは、妙なテンションでガドルに勘違いしたままの情報を伝え、ガドルはガドルで、
「確かにあの2人は仲が良いもんなぁ」
とか言ってさ!
そりゃー俺とスイの仲は良いよ!ツイてる仲間だし、反乱軍仲間だし!第一俺達改造人間にはそー言う浮ついた感情の部分は不必要だって事で排除されてる筈だろ?多分……生殖機能はあるけど……じゃなくて!何を考えてんだろう、俺は……きっと寝不足で頭が混乱してるんだな、うん。寝よう。
「ねぇ2人共、俺がいない間なにがあったの?」
ガドルの言葉で新たな勘違い野郎が1人……。
何もないわ!
しいて言うなら、反乱軍としての活動の度にスイと2人きりになる口実を色々言っただけだし!
全然怪しくないし!
そう言って抗議する為に身を乗り出して触れた肩。隣には俺を見ているスイがいて、同じように身を乗り出していた。
2人同時に抗議をしようとした。たったそれだけの理由で触れた肩が、何故だか恥ずかしくて言葉に詰まり、スイは顔を赤くして俯いてしまった。
可笑しい。
さっきから俺は何故こんなにも必死なんだ?こんな感情の起伏なんかもうないと思ってたのに……なんだよ、これ。
あ、そうだ。俺は寝不足で、疲れてて、頭が変なんだ。
そうそう、寝れば治るし。
「ちょっと寝る……」
クスリと笑うリオンに何か言おうと思ったけど、それより先に意識が遠のいた。
目覚まし時計の音で目を覚まし診察室に出ると、机の上に見慣れた地図が広がっていて、その地図には既に赤ペンで俺達のアジトの丸印は罰点に書き換えられていた。
しばらく無言で地図を眺めていると、戸締りを確認したスイと、パソコンに向かっていたリオンも地図の前に集合し、これからの事を話し合う準備が整った。
「この施設は俺達のアジトと考えて良いだろう。で、ロボット達は前線に向けていた戦力をマザーの守りに向けた。一気にここを攻める気でいるんだろうね。もしかしたら偵察用のロボットが既に来ているかも知れない。そこで……」
机から離れたリオンはパソコンを操作すると、モニターを俺達に見せてきたのだが、それは何の変哲もない今後の予定表。
物資が届く日程は知ってるんだけど?
あぁ、そうか。
ロボット達は俺達の動きをハッキングするか、盗撮するかして襲撃しやすい時を狙ってくるだろう。そこを迎え撃つんだな?
ここはアジトみたいなシールドもないのに堂々とパソコン作業をしていた意味がやっと分かった。
データを盗ませる為だったんだな。
「戦場がこの施設に移るなら、生身の人間は避難させた方が良いね」
状況を把握したスイが的確な意見を述べた。
人間の身なんか案じた所で何にもならない上に、研究員なら守る価値すらないとは思ってるんだけど、スイがそう思うんならそうなんだろう。
「それには2、3問題かあるんだ」
腕を組みつつ赤ペンを口に咥えていたリオンはその赤ペンを左手で持つと、トントンと数回地図上を叩き、
「生身の人間が皆月に避難する中で俺達がここに残る言い訳は?俺達がここに残り、かつ怪しまれずに月への避難を納得させたとしよう。で、どうやって月まで行く?シャトルの打ち上げなんて、ロボット達にとっては丁度良い襲撃機会だと思わない?」
と。溜息を吐いた。
まぁ、確かにそうだ。
って事は、生身の人間は既に袋のネズミ?けど、シャトルの打ち上げがビッグイベントなら、物資の補給で月から来るシャトルの受け入れは?それも立派なビッグイベントになるんじゃないか?
狙われないと考える方が不自然だ。
「物資の補給は10日後……その時に襲われる可能性は高いな」
改造人間のメンテナンスは全員分終わってるし、C級能力者を鍛えての底上げも行ってるし、出来るだけの事はしたと思う。
人間は施設の奥で匿えば良いんじゃないか?
「どうしたら良いのかな……今、月に連絡したって盗聴されてる可能性があるから下手に連絡も出来ないし……」
月に避難させるのが難しいんだろ?だったらこうして人間を助ける為だけに悩んでる時間そのものが勿体無い。
押して駄目なら引いてみろって言葉があるけど、引けない場合は押すしかないんだ。それとも横にスライドするか。
「10日後に物資が届くんだから、それまでにこっちから仕掛けるのは?」
攻めて行くのは守る時の3倍の兵力が必要になるって言うが、相手はロボット。どんな攻撃をしてくるのか……。
「物資の補給が1週間早まった。そう嘘の予定を盗ませてみるよ。人間の避難は施設の地下って事にはなるけどね」
その手があったか!
「10日から7日早めるって事は、後……3日……」
その3日の間に、負傷した改造人間をいち早く修理出来るよう準備しておかないとな。破棄場に行って使えそうな部品を集めに行くか。
「終に大詰めだね……単純な話、死ぬかもしれない。で、お二人さん。正体、明かさないままで良いの?」
どこか諭したような口調のリオンは俺達の顔を穏やかな表情で見据えていて……でも、明かしたくないと思った。
ここの責任者という立場のガドルにどう振舞って良いかも分からないし、タイキに対してどんな顔をしたら良いのかも分からないんだ。
俺は最後までドクターでいようと思う。
それが1番楽だし……生き残れば正体を明かす切欠なんかいくらでもあるんだろうから、こんな土壇場で言うような事じゃないと思うし。
「俺は言わなくて良い」
「俺も、別に良い」
俺とスイがほぼ同時にした返事に、リオンは苦笑いを浮かべていた。
それから3日経った夜明け、全体の半数の改造人間はリオンとスイの指揮の元にマザーがいる円形状の建物へ進軍を始めた。そして俺は施設の中でドクターとして残りの半数に守られる立場となっている……。
イザって時は俺も戦おうとは思ったのだが、そうすると修理する存在がいなくなるからって止められてしまった。
そりゃそうだ……。
俺の所に最初の患者が運び込まれたのは、リオン達が出発して数時間後の事。
その患者はリオン達と共にマザーの所へ行った奴ではなく、施設の見張り役。
全く実感はないが、終にロボット達が攻めて来て戦争が始まったようだ。
「ガドルさんとドクターは何が何でも守るんだ!!」
部屋の前では何人もの改造人間が俺とガドルを守る為に配置していて、遠くの方からは戦争に相応しい爆発音が地鳴りと共に響いている。
俺は……本当にこのままで良いのだろうか?
リオンの作戦通り事は進んでる筈だが、俺は守られるべき人物ではない。
確かに改造人間のデータを頭に記憶する唯一の人物ではあるが、それでも改造人間。戦わずにこんな所で隠れてて良いのか?
「ドクター!怪我人です!!」
次の患者が運ばれ、それを切っ掛けにしたように次々と怪我人が運ばれて来た。
正直、1人では対応に追われて辛いが、外ではもっと辛い目に合っている改造人間達がいるのだろうと考えたら、弱音なんか吐いてる暇なんかない。
あぁ、俺に託された戦場はここか……怪我人をいち早く治療し、前線に出す事が俺の仕事。始めから分かってた筈なのに、何を今更……戦場に出る事だけが戦う事だと思ってたんだろうな。そう研究員に教え込まれたんだから、しょうがない?って事にしとこう。
ロボット達の攻撃の手が少し和らいだのは戦争が始まってから僅か1日後の事で、リオンやスイ達がマザーの所に着いて攻撃を始めたからだろうと想像がついた。
リオンの作戦内容は、マザーにコンピュータウイルスを流し、システムをクラッシュさせる。その後フォーマットし、全てのロボットの停止命令を出してからマザーを物理的に処分して終わり。リオンはこの作戦は完璧だと胸を張っていたから、きっと成功するのだろう。
なのに、なんだろうこの胸騒ぎは……。
そこから更に1日が経った頃、ロボット達の動きは完全にストップした。戦う手を止めたとかそんな事ではなくて、機能停止。
敷地内には攻撃態勢のまま停止したロボット達が彼方此方にいて、今度はそれらの解体作業で忙しくなった。
作戦が成功したんだとなれば、後は皆が帰って来るのを待つだけだな……どんな武勇伝が聞けるのか楽しみだ。それに、どうやってマザーにウイルスを流したのか、その方法を教えてもらおう。後は、あの円形状の建物の屋上部分にある入り口までどうやって行ったのか……その入り口からどうやって中に入ったのかも。ロボットは邪魔しに来なかったのか?ウイルスを流してフォーマットするのにかかった時間は?
あれ?
何だろう、俺達の作戦なのに分からない事ばかりだ。
「ドクター。施設の中にもこんなのがあったぞ」
と、俺にネズミ程の大きさしかないロボットを持って来たのはタイキで、その隣にはルルがピッタリとくっついていた。
このロボットには覚えがある……あの爆破した偵察専用のちっこいのだ。今は機能停止しているが動き出すと厄介だな。
「何処にあった?」
「ガドルの部屋」
またトップ狙いか……これだけ外で派手に攻撃していたのは囮か?なら施設内にまだコレが残っている可能性がある。
「これは小型だが爆弾になっている。他にもないか調べてくれ」
大きなマスクとメガネ姿の俺の正体を見抜けないでいるタイキ達は、そのまま施設の中へ入って行った。
俺を俺だと気が付かないのは制御装置がないからだろう。だから多分、似た人。位にしか思ってないかも知れない。なら顔を隠す必要はなかった……いや、瓜二つの他人ってのは無理があるか。
戦争も終わったし、いつ正体を明かそう?けど、月のお偉い人間達が改造人間の材料と称して月の人間に体を提供させる事はなくならない。
物価上昇で得た税金の極一部を、材料提供者の家族に支払えば良いだけの美味しいシステムを誰が止める?
戦争が終わったら改造人間は必要なくなるけど、きっと地球を住めるようにする為の作業員かなんか理由をつけて材料提供をし続けるだろう……そんな改造人間を造れる唯一の存在である俺。改造人間だとバレたらデータの入った頭部の部品を取られて終わるだろう。
正体は明かさない。
明かしてはいけない。
そう心に決めた所で、
「ジュタ~~~!」
大音量で俺の正体を明かす者が1人……。
向こうから人間とは思えない速さで走って来るのはスイで、だから俺もスイの方に走り出して何故そんなに急いでいるのかを尋ねた。
「リオンが大変なんだ!!」
え?
慌てて俺を呼びに来るんだから単なる怪我とかじゃなく、修理が必要になる程のダメージを受けたとか?
「故障?」
作戦は成功してるんだから無事ではあるんだよな?
「分からない……とにかく来て!」
俺の手を引いて全力疾走するスイ。
その横顔は真剣そのもので、リオンが置かれている状況が相当やばいんだとソレで悟った。
マザーのいる円形状の建物前に行くと、屋上までよじ登れるような突起が出ていて、それを上がると目の前に大きな扉がこじ開けられたように歪んで開いている。そこから建物内部に入り、長い廊下を奥に向けていくと何人かの改造人間が頑丈そうなドアの前で待機していた。
「リオンは?」
スイが声をかけると、手前にいた改造人間が軽く頭を下げてから、
「まだ出ていていません」
と、ハッキリとした口調で答えた。
こう言う事か……リオンは確かにマザーを停止させたが、いくら待っても出て来ない。と。
何度も試されたのだろうが一応ドアをノックして、それから開けようとしてみたがドアはビクともしない。
中からロックでもかけたとか?
もしかしてマザーが開かないようにしてる?
でも、マザーは停止してるし……。
もう1度ノックしてみるが、やっぱり無反応。
「ジュタ……どうしよう」
スイは情けない声を上げて意見を求めてくる。
リオンは一体何をしてんだろう?
意識はあるのか?
気絶してるのか?
無反応なんだから何の手がかりもない。
じゃあ、ドアを開けて中に入るしかない。
「皆は施設に戻ってマザーを破壊した事を知らせてくれ。俺達はここでリオンを待つ」
とりあえず廊下に並んでいた改造人間に声をかけて退場してもらい、そこからしばらく黙ってリオンを待ってみた。出て来る事を期待しての行動じゃなくて、退場してもらった改造人間が充分にこの建物から離れるまでの時間稼ぎ。
そろそろ、良いかな。
「スイ、出来るだけ早く廊下を走れ。リオン!床に伏せてろよ!」
2人に向かって声を上げ、タイキが持ってきた小さなロボットをドアに張り付け、手動で電源を入れてみた。するとまた行き成り3から始まったカウントダウン。
「走れ!!」
全力で走り、後ろから聞こえてきた爆音と共にスイに覆いかぶさるように伏せた。
背中に感じる衝撃がなくなり、辺りに静けさが戻ってから起き上がり、まず確認したのはスイの状態。
「怪我とかないか?」
色んな角度から眺めてみても特に異常は見られないが、足を捻ったとか、手首を捻ったとか……ない?
「俺は平気……ジュタは?」
あぁ良かった。スイが無事ならそれで良い。
走ってきた廊下をまた戻ってドアを見ると、分厚い鉄板は爆破の衝撃でグニャリと歪な形に歪み、ロックも外れている。
用心しつつ部屋に入ると、中は薄暗くて色んな機械があって、意外と狭い。そして1番大きなモニター前にリオンはいた。
「リオン!!」
駆け寄って声をかけるもリオンからの反応はない。
キーボードで何かを打ち込んでいる最中だった、そんな格好のままのリオンと、完全に電源の落ちたマザー。キーボード横のメモ帳には手書きされたメモが残されていた。
座り込んだスイにリオンのメモを渡すと、スイはそれを1度黙読した後声に出してもう1度読んだ。
「マザーが動かなくなったら俺も生きてはいないだろう。君達を巻き込んで御免。さようなら」
イライラした風に読み終えたスイは怒りに任せたようにメモを破り捨てた。
「使えそうな道具と明かりを……修理しよう!」
本当に腹立たしいよな、何勝手にいなくなろうとしてんだよ……御免って思うなら、さようなら。なんて言うなよ!
「俺に手伝える事はある?」
手伝いなんかいらない。
ただ、隣にいてくれるだけで良い。
他の望みなんか何にもない。
「……祈っててくれ」
「うん……」
リオンの頭部を切り開くと、部屋中にツンとくる臭いが充満した。
腐っている。
それが率直な感想だった訳だが、1番初めに目に入った脳部分に傷みを見て取れなかった。それ所かツヤツヤしてて……まさか?
少し怖かったけど、脳にメスを入れてみた。
生物を切っている感触はしない……薄い金属を切っているような手応えは、機械だ。
リオンの制御装置はロボットが外した……その時にリオンはロボットに造りかえられていたんだな。
でも納得いかない。
マザーを壊せば自分が死ぬって知ってて、何でこんな事を?
「リオンを……アジトに連れて帰ろう」
「……うん……」
2人でリオンを、ちょっと荒れてしまったアジト内の中庭に運び、そこで火葬した。
焼け残った部品1つ残らず地中に埋め、その地面をただ眺めていると、不思議な事に悲しみが薄れてきた。
改造人間ってのは心底便利な生き物だな……友をなくした悲しみも1日足らずで癒え、マザーに対する怒りすら沸いて来ないんだから。
けど俺は……リオンを救えなかった自分が憎くてしょうがない。
リオンが自殺まがいの作戦を立てている事に気付けなかった自分が……。
「ジュタ……」
「今日から、2人だな……」
御免、リオン。
リオンは今まで全ての改造人間の情報を確認していたようで、それを資料にまとめて見せてくれた。
能力順に分けられた見やすい資料には、番号や名前、メンテナンスをしたか否かが書かれている。
今日看たのは前線から戻ってきた改造人間だけだったから、改造人間全員をメンテナンスするとなれば大変だろうな……なんて思ってた訳だけど、こうして資料にまとめられてしまうと全体の3分の1すらメンテナンス出来ていないって事実を突きつけられ……溜息が出た。
「無理させると思うけど、メンテは早く終わらせて欲しいんだ」
はいはい。
統計か何か取ってるんだよな?それを元に今後の事も考えたいんだろ?だからメンテナンスが終わらない限り先に進めない……。
「ちょっと休憩入れたら再開する。A級の奴から連れて来て」
疲れたなんて言ってる場合じゃない。俺は改造人間のドクター。命をこれ以上無駄にしない為ここに来たんだ。
月にいるお偉い人間からしてみれば、俺のしようとしている事は不本意だろうな。
改造人間を使い捨てにして、常に改造人間の材料不足でなければならないんだろ?本気でこの戦いを終わらせる気なんかないんだよな?そうでなければ気に食わない態度だからって理由で破棄なんかにはしない筈だ。
「連れて来たよ」
よし、ゴチャゴチャ考えるのは後回しだ!
A級とB級能力者のメンテナンスが終了したのは3日後の事。
休憩を挟みつつやっていたとは言っても極度の睡眠不足。それなのに集中力をかなり使う作業を延々と3日……頑張った。俺もスイも、勿論別行動をとっているリオンも。
リオンは改造人間全員の情報をまとめるばかりではなく、その個々にあった訓練メニューや食事、加えて研究員達に改造人間との接し方と題したセミナーまで開いたりしていた。
「スイ、生きてるかぁ~?」
「なんとか……ドクターはぁ~?」
俺達がメンテナンスで忙しかった間、ガドルの部屋からは相変わらずタイキ達の話し声がしていて、だからスイは部屋に2人きりになっても俺をドクターと呼んでくれている。
「なんとか。次C級能力者だけどいけるか?」
俺は少し仮眠を取りたいんだが……
「3時間位寝たい」
意見が一致した。
3時間と言わずに明日になるまで眠りたい所ではあるが、メンテナンスを急げって言われてるし……いや、こうして考えてる時間が勿体無い。
俺達はまるでゾンビのようにノソリノソリと仮眠室まで移動し、倒れ込むようにしてベッド横になるとそのまま眠ってしまった。
ピピピッ、ピピピッ。
「ん……」
重たい瞼を無理矢理にこじ開けた時、俺の横で目覚まし時計が鳴っていた。隣にはまだ気持ち良さそうに眠っているスイがいたので慌てて目覚ましを消し、眠気覚ましに大きく伸びながら診察室に出ると、そこには作業中のリオンがいた。
「おはよう。残りはC級能力者だね、もう少し時間空ける?もういけそう?」
相当急いでるんだな。スイはもう少し休ませてやりたいけど……まぁ、修理ならともかくメンテナンスなら俺1人でも大丈夫だろう。それにC級能力者は30人程度しかいない上にC級の訓練は体が傷む程激しい物ではない。だから多分後1日もあれば全ての……まだ前線に残っているA級能力者を省いた全員のメンテナンスが終わる。
リオンによって呼び出されたC級能力者を1人ずつ診る事5時間。
あまりにもスイが起きて来ないから心配になって様子を見に行ってみると、幸せそうな顔して眠ってて……何故だかそれで疲れが吹き飛んだと言うか、幸せな気分になったと言うか……なので、起こさずにそっと仮眠室のドアを閉めた。
「ゴメンッ!がっつり寝てた。大変だった?マジでゴメン!」
スイが起きてきたのは10人目のメンテナンスが終わってからだから、時間にして大体7時間程経ってからで、申し訳なさそうに俯く顔色は物凄く良くなっている。
「気にすんなって」
無理して倒れるよりよっぽど良いんだから。って、これ「倒れないように気をつけろ」とか言い返されそうだから言わないでおこう……。
約20時間かけてC級能力者全員のメンテナンスが終わり、その達成感を声にする事も、共に戦ったスイと喜びを分かち合う事も、パソコン前に座って何かの作業をしているリオンに挨拶する事もせず、俺は仮眠室に足を向けた。
パタンと仮眠室のドアを閉め、ズット付けっ放しで蒸れていた気持ち悪いマスクを顔から剥ぎ取り、上着だけを脱いでベッドに潜り込む。
コンコン。
診察室の方でノックする音が聞こえた。
誰が来たのだろう?
いいや、誰が来たとしても俺は仮眠室の中にいるんだから関係ない。
もし、タイキだったら?
押し入って来たら?
マスクだけはしていた方が良いのかも知れ……あれ?マスク何処だ?
ガチャ。
診察室ではなく仮眠室のドアが開く音がして、見るとそこにはスイがいて、キョロキョロとした後ベッドに入ってきた。
「俺の知り合いかも知れないし」
あぁ、なるほど。
ダブルサイズのベッドの中は2人で眠るには少々狭いが、マスクもない状況でバレルかも知れない。と言う恐怖感があると全く気にならない。それ所か、身を寄せ合ってお互いの顔をお互いの体で隠している状態で頭から布団を被っていた。
「はい。どうしました?急患ですか?」
リオンがドアを開けて訪問者に声をかけている。
「じゃなくって……先生に俺まだちゃんと御礼言ってなかったから……」
聞こえて来たのはルルの声。
「先生、いねぇの?」
タイキまでいるようだ。
「ドクターはお休み中です」
まるで受付嬢のような話し口調のリオンが可笑しくて、思わずスイと顔を見合わせて笑ってしまった。そんな些細な声に敏感に反応したルルは、
「先生起きてるよ?」
なんて指摘し、
「起きてんだったら会わせて……」
と、タイキが無理矢理に入ってきたのだろう、ガチャリと仮眠室のドアが開く音がして、無言。
そして少ししてからゆっくりとドアが閉まった。
なんだろう、何かとんでもない勘違いをされた気がする……。
「分かった?ドクター達はお休み中なの」
リオンもタイキがしたであろう勘違いを助長するような物言いしてさ、もしかして楽しんでる?
くそっ。
でも、その勘違いのお陰でバレずに済んだんだから良いとしよう……。
部屋に戻ったタイキとルルは、妙なテンションでガドルに勘違いしたままの情報を伝え、ガドルはガドルで、
「確かにあの2人は仲が良いもんなぁ」
とか言ってさ!
そりゃー俺とスイの仲は良いよ!ツイてる仲間だし、反乱軍仲間だし!第一俺達改造人間にはそー言う浮ついた感情の部分は不必要だって事で排除されてる筈だろ?多分……生殖機能はあるけど……じゃなくて!何を考えてんだろう、俺は……きっと寝不足で頭が混乱してるんだな、うん。寝よう。
「ねぇ2人共、俺がいない間なにがあったの?」
ガドルの言葉で新たな勘違い野郎が1人……。
何もないわ!
しいて言うなら、反乱軍としての活動の度にスイと2人きりになる口実を色々言っただけだし!
全然怪しくないし!
そう言って抗議する為に身を乗り出して触れた肩。隣には俺を見ているスイがいて、同じように身を乗り出していた。
2人同時に抗議をしようとした。たったそれだけの理由で触れた肩が、何故だか恥ずかしくて言葉に詰まり、スイは顔を赤くして俯いてしまった。
可笑しい。
さっきから俺は何故こんなにも必死なんだ?こんな感情の起伏なんかもうないと思ってたのに……なんだよ、これ。
あ、そうだ。俺は寝不足で、疲れてて、頭が変なんだ。
そうそう、寝れば治るし。
「ちょっと寝る……」
クスリと笑うリオンに何か言おうと思ったけど、それより先に意識が遠のいた。
目覚まし時計の音で目を覚まし診察室に出ると、机の上に見慣れた地図が広がっていて、その地図には既に赤ペンで俺達のアジトの丸印は罰点に書き換えられていた。
しばらく無言で地図を眺めていると、戸締りを確認したスイと、パソコンに向かっていたリオンも地図の前に集合し、これからの事を話し合う準備が整った。
「この施設は俺達のアジトと考えて良いだろう。で、ロボット達は前線に向けていた戦力をマザーの守りに向けた。一気にここを攻める気でいるんだろうね。もしかしたら偵察用のロボットが既に来ているかも知れない。そこで……」
机から離れたリオンはパソコンを操作すると、モニターを俺達に見せてきたのだが、それは何の変哲もない今後の予定表。
物資が届く日程は知ってるんだけど?
あぁ、そうか。
ロボット達は俺達の動きをハッキングするか、盗撮するかして襲撃しやすい時を狙ってくるだろう。そこを迎え撃つんだな?
ここはアジトみたいなシールドもないのに堂々とパソコン作業をしていた意味がやっと分かった。
データを盗ませる為だったんだな。
「戦場がこの施設に移るなら、生身の人間は避難させた方が良いね」
状況を把握したスイが的確な意見を述べた。
人間の身なんか案じた所で何にもならない上に、研究員なら守る価値すらないとは思ってるんだけど、スイがそう思うんならそうなんだろう。
「それには2、3問題かあるんだ」
腕を組みつつ赤ペンを口に咥えていたリオンはその赤ペンを左手で持つと、トントンと数回地図上を叩き、
「生身の人間が皆月に避難する中で俺達がここに残る言い訳は?俺達がここに残り、かつ怪しまれずに月への避難を納得させたとしよう。で、どうやって月まで行く?シャトルの打ち上げなんて、ロボット達にとっては丁度良い襲撃機会だと思わない?」
と。溜息を吐いた。
まぁ、確かにそうだ。
って事は、生身の人間は既に袋のネズミ?けど、シャトルの打ち上げがビッグイベントなら、物資の補給で月から来るシャトルの受け入れは?それも立派なビッグイベントになるんじゃないか?
狙われないと考える方が不自然だ。
「物資の補給は10日後……その時に襲われる可能性は高いな」
改造人間のメンテナンスは全員分終わってるし、C級能力者を鍛えての底上げも行ってるし、出来るだけの事はしたと思う。
人間は施設の奥で匿えば良いんじゃないか?
「どうしたら良いのかな……今、月に連絡したって盗聴されてる可能性があるから下手に連絡も出来ないし……」
月に避難させるのが難しいんだろ?だったらこうして人間を助ける為だけに悩んでる時間そのものが勿体無い。
押して駄目なら引いてみろって言葉があるけど、引けない場合は押すしかないんだ。それとも横にスライドするか。
「10日後に物資が届くんだから、それまでにこっちから仕掛けるのは?」
攻めて行くのは守る時の3倍の兵力が必要になるって言うが、相手はロボット。どんな攻撃をしてくるのか……。
「物資の補給が1週間早まった。そう嘘の予定を盗ませてみるよ。人間の避難は施設の地下って事にはなるけどね」
その手があったか!
「10日から7日早めるって事は、後……3日……」
その3日の間に、負傷した改造人間をいち早く修理出来るよう準備しておかないとな。破棄場に行って使えそうな部品を集めに行くか。
「終に大詰めだね……単純な話、死ぬかもしれない。で、お二人さん。正体、明かさないままで良いの?」
どこか諭したような口調のリオンは俺達の顔を穏やかな表情で見据えていて……でも、明かしたくないと思った。
ここの責任者という立場のガドルにどう振舞って良いかも分からないし、タイキに対してどんな顔をしたら良いのかも分からないんだ。
俺は最後までドクターでいようと思う。
それが1番楽だし……生き残れば正体を明かす切欠なんかいくらでもあるんだろうから、こんな土壇場で言うような事じゃないと思うし。
「俺は言わなくて良い」
「俺も、別に良い」
俺とスイがほぼ同時にした返事に、リオンは苦笑いを浮かべていた。
それから3日経った夜明け、全体の半数の改造人間はリオンとスイの指揮の元にマザーがいる円形状の建物へ進軍を始めた。そして俺は施設の中でドクターとして残りの半数に守られる立場となっている……。
イザって時は俺も戦おうとは思ったのだが、そうすると修理する存在がいなくなるからって止められてしまった。
そりゃそうだ……。
俺の所に最初の患者が運び込まれたのは、リオン達が出発して数時間後の事。
その患者はリオン達と共にマザーの所へ行った奴ではなく、施設の見張り役。
全く実感はないが、終にロボット達が攻めて来て戦争が始まったようだ。
「ガドルさんとドクターは何が何でも守るんだ!!」
部屋の前では何人もの改造人間が俺とガドルを守る為に配置していて、遠くの方からは戦争に相応しい爆発音が地鳴りと共に響いている。
俺は……本当にこのままで良いのだろうか?
リオンの作戦通り事は進んでる筈だが、俺は守られるべき人物ではない。
確かに改造人間のデータを頭に記憶する唯一の人物ではあるが、それでも改造人間。戦わずにこんな所で隠れてて良いのか?
「ドクター!怪我人です!!」
次の患者が運ばれ、それを切っ掛けにしたように次々と怪我人が運ばれて来た。
正直、1人では対応に追われて辛いが、外ではもっと辛い目に合っている改造人間達がいるのだろうと考えたら、弱音なんか吐いてる暇なんかない。
あぁ、俺に託された戦場はここか……怪我人をいち早く治療し、前線に出す事が俺の仕事。始めから分かってた筈なのに、何を今更……戦場に出る事だけが戦う事だと思ってたんだろうな。そう研究員に教え込まれたんだから、しょうがない?って事にしとこう。
ロボット達の攻撃の手が少し和らいだのは戦争が始まってから僅か1日後の事で、リオンやスイ達がマザーの所に着いて攻撃を始めたからだろうと想像がついた。
リオンの作戦内容は、マザーにコンピュータウイルスを流し、システムをクラッシュさせる。その後フォーマットし、全てのロボットの停止命令を出してからマザーを物理的に処分して終わり。リオンはこの作戦は完璧だと胸を張っていたから、きっと成功するのだろう。
なのに、なんだろうこの胸騒ぎは……。
そこから更に1日が経った頃、ロボット達の動きは完全にストップした。戦う手を止めたとかそんな事ではなくて、機能停止。
敷地内には攻撃態勢のまま停止したロボット達が彼方此方にいて、今度はそれらの解体作業で忙しくなった。
作戦が成功したんだとなれば、後は皆が帰って来るのを待つだけだな……どんな武勇伝が聞けるのか楽しみだ。それに、どうやってマザーにウイルスを流したのか、その方法を教えてもらおう。後は、あの円形状の建物の屋上部分にある入り口までどうやって行ったのか……その入り口からどうやって中に入ったのかも。ロボットは邪魔しに来なかったのか?ウイルスを流してフォーマットするのにかかった時間は?
あれ?
何だろう、俺達の作戦なのに分からない事ばかりだ。
「ドクター。施設の中にもこんなのがあったぞ」
と、俺にネズミ程の大きさしかないロボットを持って来たのはタイキで、その隣にはルルがピッタリとくっついていた。
このロボットには覚えがある……あの爆破した偵察専用のちっこいのだ。今は機能停止しているが動き出すと厄介だな。
「何処にあった?」
「ガドルの部屋」
またトップ狙いか……これだけ外で派手に攻撃していたのは囮か?なら施設内にまだコレが残っている可能性がある。
「これは小型だが爆弾になっている。他にもないか調べてくれ」
大きなマスクとメガネ姿の俺の正体を見抜けないでいるタイキ達は、そのまま施設の中へ入って行った。
俺を俺だと気が付かないのは制御装置がないからだろう。だから多分、似た人。位にしか思ってないかも知れない。なら顔を隠す必要はなかった……いや、瓜二つの他人ってのは無理があるか。
戦争も終わったし、いつ正体を明かそう?けど、月のお偉い人間達が改造人間の材料と称して月の人間に体を提供させる事はなくならない。
物価上昇で得た税金の極一部を、材料提供者の家族に支払えば良いだけの美味しいシステムを誰が止める?
戦争が終わったら改造人間は必要なくなるけど、きっと地球を住めるようにする為の作業員かなんか理由をつけて材料提供をし続けるだろう……そんな改造人間を造れる唯一の存在である俺。改造人間だとバレたらデータの入った頭部の部品を取られて終わるだろう。
正体は明かさない。
明かしてはいけない。
そう心に決めた所で、
「ジュタ~~~!」
大音量で俺の正体を明かす者が1人……。
向こうから人間とは思えない速さで走って来るのはスイで、だから俺もスイの方に走り出して何故そんなに急いでいるのかを尋ねた。
「リオンが大変なんだ!!」
え?
慌てて俺を呼びに来るんだから単なる怪我とかじゃなく、修理が必要になる程のダメージを受けたとか?
「故障?」
作戦は成功してるんだから無事ではあるんだよな?
「分からない……とにかく来て!」
俺の手を引いて全力疾走するスイ。
その横顔は真剣そのもので、リオンが置かれている状況が相当やばいんだとソレで悟った。
マザーのいる円形状の建物前に行くと、屋上までよじ登れるような突起が出ていて、それを上がると目の前に大きな扉がこじ開けられたように歪んで開いている。そこから建物内部に入り、長い廊下を奥に向けていくと何人かの改造人間が頑丈そうなドアの前で待機していた。
「リオンは?」
スイが声をかけると、手前にいた改造人間が軽く頭を下げてから、
「まだ出ていていません」
と、ハッキリとした口調で答えた。
こう言う事か……リオンは確かにマザーを停止させたが、いくら待っても出て来ない。と。
何度も試されたのだろうが一応ドアをノックして、それから開けようとしてみたがドアはビクともしない。
中からロックでもかけたとか?
もしかしてマザーが開かないようにしてる?
でも、マザーは停止してるし……。
もう1度ノックしてみるが、やっぱり無反応。
「ジュタ……どうしよう」
スイは情けない声を上げて意見を求めてくる。
リオンは一体何をしてんだろう?
意識はあるのか?
気絶してるのか?
無反応なんだから何の手がかりもない。
じゃあ、ドアを開けて中に入るしかない。
「皆は施設に戻ってマザーを破壊した事を知らせてくれ。俺達はここでリオンを待つ」
とりあえず廊下に並んでいた改造人間に声をかけて退場してもらい、そこからしばらく黙ってリオンを待ってみた。出て来る事を期待しての行動じゃなくて、退場してもらった改造人間が充分にこの建物から離れるまでの時間稼ぎ。
そろそろ、良いかな。
「スイ、出来るだけ早く廊下を走れ。リオン!床に伏せてろよ!」
2人に向かって声を上げ、タイキが持ってきた小さなロボットをドアに張り付け、手動で電源を入れてみた。するとまた行き成り3から始まったカウントダウン。
「走れ!!」
全力で走り、後ろから聞こえてきた爆音と共にスイに覆いかぶさるように伏せた。
背中に感じる衝撃がなくなり、辺りに静けさが戻ってから起き上がり、まず確認したのはスイの状態。
「怪我とかないか?」
色んな角度から眺めてみても特に異常は見られないが、足を捻ったとか、手首を捻ったとか……ない?
「俺は平気……ジュタは?」
あぁ良かった。スイが無事ならそれで良い。
走ってきた廊下をまた戻ってドアを見ると、分厚い鉄板は爆破の衝撃でグニャリと歪な形に歪み、ロックも外れている。
用心しつつ部屋に入ると、中は薄暗くて色んな機械があって、意外と狭い。そして1番大きなモニター前にリオンはいた。
「リオン!!」
駆け寄って声をかけるもリオンからの反応はない。
キーボードで何かを打ち込んでいる最中だった、そんな格好のままのリオンと、完全に電源の落ちたマザー。キーボード横のメモ帳には手書きされたメモが残されていた。
座り込んだスイにリオンのメモを渡すと、スイはそれを1度黙読した後声に出してもう1度読んだ。
「マザーが動かなくなったら俺も生きてはいないだろう。君達を巻き込んで御免。さようなら」
イライラした風に読み終えたスイは怒りに任せたようにメモを破り捨てた。
「使えそうな道具と明かりを……修理しよう!」
本当に腹立たしいよな、何勝手にいなくなろうとしてんだよ……御免って思うなら、さようなら。なんて言うなよ!
「俺に手伝える事はある?」
手伝いなんかいらない。
ただ、隣にいてくれるだけで良い。
他の望みなんか何にもない。
「……祈っててくれ」
「うん……」
リオンの頭部を切り開くと、部屋中にツンとくる臭いが充満した。
腐っている。
それが率直な感想だった訳だが、1番初めに目に入った脳部分に傷みを見て取れなかった。それ所かツヤツヤしてて……まさか?
少し怖かったけど、脳にメスを入れてみた。
生物を切っている感触はしない……薄い金属を切っているような手応えは、機械だ。
リオンの制御装置はロボットが外した……その時にリオンはロボットに造りかえられていたんだな。
でも納得いかない。
マザーを壊せば自分が死ぬって知ってて、何でこんな事を?
「リオンを……アジトに連れて帰ろう」
「……うん……」
2人でリオンを、ちょっと荒れてしまったアジト内の中庭に運び、そこで火葬した。
焼け残った部品1つ残らず地中に埋め、その地面をただ眺めていると、不思議な事に悲しみが薄れてきた。
改造人間ってのは心底便利な生き物だな……友をなくした悲しみも1日足らずで癒え、マザーに対する怒りすら沸いて来ないんだから。
けど俺は……リオンを救えなかった自分が憎くてしょうがない。
リオンが自殺まがいの作戦を立てている事に気付けなかった自分が……。
「ジュタ……」
「今日から、2人だな……」
御免、リオン。
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