蔑まれ追放された聖女ですが実は前世板前の究極の熟成&分解魔法でした〜猛毒の魔物を特製生姜醤油の唐揚げや濃厚ラーメンに変えて帝国提督を釣る

リーシャ

文字の大きさ
3 / 3

03勇者たちはお腹を壊す

しおりを挟む
 一年後。

 帝国は世界で美味しい国として空前の繁栄を遂げていた。
 そして今日はガレオス提督との結婚式。白一色のドレスを纏ったらガレオスは呆れたように愛おしそうに囁く。

「あ~、シャルディ、式の間くらいは、厨房のことを忘れたらどうだ?」

「だってガレオス様、披露宴のメインディッシュは私が自分で仕込みたいんです。幻の海鳥のローストって焼き加減が難しいんですよ?」

「ああ……ふっ、全くだ。君という妻を持ったおれは世界一の幸せ者であり、世界一の美食家になれる。楽しみだ。全てな」

 教会の鐘が鳴り響く。参列した元船員たちが「姐御、おめでとう!」と考案したカツサンドを頬張りながら叫んでいる。
 祖国で腐敗の聖女と呼ばれたこの手で今度は世界を、愛する人の未来を最高に美味しく味付けしていくことを誓う。

 今日のご飯は一生忘れないほど甘い味がした。

 *

 盛大な結婚式から数ヶ月。私たちは今、帝国の最新鋭潜水艦チラシース号の中にいた。

「ねえガレオス様。これって本当に新婚旅行なんですよね?いやいや、え?本当に?」

 窓の外を泳ぐ全長五十メートルの光る古代大アナゴを見つめながら尋ねた。嘘というか仕事と兼ねてるよね?

「ああ。行きたいと言っただろう?未知の食材の宝庫へ」

「それはそうですけど……言い方が悪かったってことですか?」

 普通の貴族なら南の島で日光浴でもするところだがこっちとしては違うってことなのか。
 前世の職人魂が疼き、まだ誰も食べたことのない水深三千メートルの絶品食材を求めてしまったのだ。まあ、なるようになれってことにしておこう。

「いたぞシャルディ、あれが今回の獲物だ」

 ガレオスが指差す先。漆黒の海溝に青白く発光する巨大な蟹──クリスタル・キングクラブが君臨していた。
 殻はダイヤモンドより硬く、肉には致死性の氷結毒があるという。が、中身は天界の甘海老より甘いと伝説に謳われている。

「晩ご飯の準備をしますね」

 潜水艦の魔導アームで鮮やかに蟹を捕獲し、船内の特殊調理室へ運び込む。並の包丁では歯が立たないその殻に分解の魔力を極限まで集中させた。

「は……はぁっ!」

 パキィィィィンッ!

 美しい音と共に水晶の殻が規則正しく割れる。中から現れたのは半透明で真珠のような光沢を放つ、瑞々しい脚肉。

「すごい肉質……毒素を分解しながら冷気を旨味に閉じ込めます」

 クリスタル・クラブの刺身。雪塩を添えて。
 氷の器に盛られた身は口に入れた瞬間、体温でスッと溶けてなくなると同時に濃厚な練乳のような甘みと潮の香りが、鼻を抜ける。

「な、なんだこれは。冷たいのに胸の奥が熱くなるような旨さだ」

「次はこれです。蟹身たっぷり、深海海藻のバター焼き」

 鉄板で熱せられたバターの香ばしい匂い。贅沢にほぐした蟹の身と畑で育てた幻のニンニクを加える。育てたよ、がんばってね。

 ジュワァァァ……! 

 黄金色のバターに蟹の出汁が溶け出し、ソースとなって身に絡みつく。

「仕上げは蟹の甲羅を使った深海リゾット。蟹の蟹味噌をたっぷり溶かし込んでいます」

 深緑色の蟹味噌がお米一粒一粒をコーティングし、濃厚なコクを生み出す。
 ガレオスは一口食べるごとに言葉を失い、ただただ幸福そうに喉を鳴らした。

「シャルディ……君を海に連れてきて正解だった。味を知らずに死ぬところだった。ふぅッ」

「え?ふふ、おかわりはまだありますよ?」

 その頃、昔と付けられるほどになった勇者アルドとテアビリムは、王国の片隅にあるドブ川のほとりにいた。
 二人はあまりの空腹に耐えかね、王国の立ち入り禁止区域にある呪われたキノコを食べてしまったのだ。
 その結果、体中の魔力が暴走してしまい肌には黒い斑点が浮かび、絶え間ない吐き気に襲われていた。

「あ……あ……お腹が、空いた……シャルディ……シャルディの作った出汁の効いたうどんが食べたい……な」

「アルド様……私、あんなに馬鹿にしていた漬物ですら今はご馳走に見えますわ……食べたい。地面に捨てたなんて信じられません」

 彼らの目の前を帝国の豪華な商船が通り過ぎる。船の上からは船員たちが楽しそうにカニクリームコロッケを頬張る匂いが漂ってきた。

「頼む……一口……一口でいいから、恵んでくれ……頼むううう!」

 アルドが必死に手を伸ばすが商船の乗組員は彼らを汚物を見るような目で見下ろした。

「おい、あれを見ろよ。元勇者だってよ」

「あんなに素晴らしい聖女様のシャルディ様を追い出しておいて、今さら食べ物を乞うなんて厚かましいにも程がある」

「ほらよ、これはシャルディ様が家畜の餌にでもしなさいって言ってた、ジャガイモの皮だ」

 投げ捨てられた泥まみれの皮を二人は獣のように奪い合い、啜り泣きながら口にした。それが彼らにとって人生で最後に味わう食事となるのだろう。

 新婚旅行の帰り道に潜水艦の展望デッキで、ガレオスの肩に頭を預けていた。

「ガレオス様。帝国に戻ったら、まずは何をします?」

「そうだな。皇帝陛下に今回の蟹を自慢しに行かねばならん」

「ふふ、陛下はきっと羨ましがりますね」

 ガレオスは手を優しく包み込んだ。

「シャルディ。君は自分の力を腐敗だと言って悲しんでいたが……君の力は死にゆく食材を最高に輝かせる再生の力だ。おれはその手に一生守られていたい。不甲斐ないが許せ」

「はい。私もあなたの胃袋を一生守り続けます」

 空には満天の星。海の中にはまだ見ぬ未知の味が無限に広がっている。次はどんな驚きをどんな美味しいを大切な人と分かち合おうか。
 聖女シャルディの料理帖には今日も新しいレシピが書き加えられていく。

 それは呪いを救い、愛を育む至福の献立。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

聖女の力を妹に奪われ魔獣の森に捨てられたけど、何故か懐いてきた白狼(実は呪われた皇帝陛下)のブラッシング係に任命されました

AK
恋愛
「--リリアナ、貴様との婚約は破棄する! そして妹の功績を盗んだ罪で、この国からの追放を命じる!」 公爵令嬢リリアナは、腹違いの妹・ミナの嘘によって「偽聖女」の汚名を着せられ、婚約者の第二王子からも、実の父からも絶縁されてしまう。 身一つで放り出されたのは、凶暴な魔獣が跋扈する北の禁足地『帰らずの魔の森』。 死を覚悟したリリアナが出会ったのは、伝説の魔獣フェンリル——ではなく、呪いによって巨大な白狼の姿になった隣国の皇帝・アジュラ四世だった! 人間には効果が薄いが、動物に対しては絶大な癒やし効果を発揮するリリアナの「聖女の力」。 彼女が何気なく白狼をブラッシングすると、苦しんでいた皇帝の呪いが解け始め……? 「余の呪いを解くどころか、極上の手触りで撫でてくるとは……。貴様、責任を取って余の専属ブラッシング係になれ」 こうしてリリアナは、冷徹と恐れられる氷の皇帝(中身はツンデレもふもふ)に拾われ、帝国で溺愛されることに。 豪華な離宮で美味しい食事に、最高のもふもふタイム。虐げられていた日々が嘘のような幸せスローライフが始まる。 一方、本物の聖女を追放してしまった祖国では、妹のミナが聖女の力を発揮できず、大地が枯れ、疫病が蔓延し始めていた。 元婚約者や父が慌ててミレイユを連れ戻そうとするが、時すでに遅し。 「私の主人は、この可愛い狼様(皇帝陛下)だけですので」 これは、すべてを奪われた令嬢が、最強のパートナーを得て幸せになり、自分を捨てた者たちを見返す逆転の物語。

【完結】 ご存知なかったのですね。聖女は愛されて力を発揮するのです

すみ 小桜(sumitan)
恋愛
 本当の聖女だと知っているのにも関わらずリンリーとの婚約を破棄し、リンリーの妹のリンナールと婚約すると言い出した王太子のヘルーラド。陛下が承諾したのなら仕方がないと身を引いたリンリー。  リンナールとヘルーラドの婚約発表の時、リンリーにとって追放ととれる発表までされて……。

地味で無能な聖女だと婚約破棄されました。でも本当は【超過浄化】スキル持ちだったので、辺境で騎士団長様と幸せになります。ざまぁはこれからです。

黒崎隼人
ファンタジー
聖女なのに力が弱い「偽物」と蔑まれ、婚約者の王子と妹に裏切られ、死の土地である「瘴気の辺境」へ追放されたリナ。しかし、そこで彼女の【浄化】スキルが、あらゆる穢れを消し去る伝説級の【超過浄化】だったことが判明する! その奇跡を隣国の最強騎士団長カイルに見出されたリナは、彼の溺愛に戸惑いながらも、荒れ地を楽園へと変えていく。一方、リナを捨てた王国は瘴気に沈み崩壊寸前。今さら元婚約者が土下座しに来ても、もう遅い! 不遇だった少女が本当の愛と居場所を見つける、爽快な逆転ラブファンタジー!

【完結】大聖女は無能と蔑まれて追放される〜殿下、1%まで力を封じよと命令したことをお忘れですか?隣国の王子と婚約しましたので、もう戻りません

冬月光輝
恋愛
「稀代の大聖女が聞いて呆れる。フィアナ・イースフィル、君はこの国の聖女に相応しくない。職務怠慢の罪は重い。無能者には国を出ていってもらう。当然、君との婚約は破棄する」 アウゼルム王国の第二王子ユリアンは聖女フィアナに婚約破棄と国家追放の刑を言い渡す。 フィアナは侯爵家の令嬢だったが、両親を亡くしてからは教会に預けられて類稀なる魔法の才能を開花させて、その力は大聖女級だと教皇からお墨付きを貰うほどだった。 そんな彼女は無能者だと追放されるのは不満だった。 なぜなら―― 「君が力を振るうと他国に狙われるし、それから守るための予算を割くのも勿体ない。明日からは能力を1%に抑えて出来るだけ働くな」 何を隠そう。フィアナに力を封印しろと命じたのはユリアンだったのだ。 彼はジェーンという国一番の美貌を持つ魔女に夢中になり、婚約者であるフィアナが邪魔になった。そして、自らが命じたことも忘れて彼女を糾弾したのである。 国家追放されてもフィアナは全く不自由しなかった。 「君の父親は命の恩人なんだ。私と婚約してその力を我が国の繁栄のために存分に振るってほしい」 隣国の王子、ローレンスは追放されたフィアナをすぐさま迎え入れ、彼女と婚約する。 一方、大聖女級の力を持つといわれる彼女を手放したことがバレてユリアンは国王陛下から大叱責を食らうことになっていた。

妹が真の聖女だったので、偽りの聖女である私は追放されました。でも、聖女の役目はものすごく退屈だったので、最高に嬉しいです【完結】

小平ニコ
ファンタジー
「お姉様、よくも私から夢を奪ってくれたわね。絶対に許さない」  私の妹――シャノーラはそう言うと、計略を巡らし、私から聖女の座を奪った。……でも、私は最高に良い気分だった。だって私、もともと聖女なんかになりたくなかったから。  退職金を貰い、大喜びで国を出た私は、『真の聖女』として国を守る立場になったシャノーラのことを思った。……あの子、聖女になって、一日の休みもなく国を守るのがどれだけ大変なことか、ちゃんと分かってるのかしら?  案の定、シャノーラはよく理解していなかった。  聖女として役目を果たしていくのが、とてつもなく困難な道であることを……

聖女を騙った罪で追放されそうなので、聖女の真の力を教えて差し上げます

香木陽灯
恋愛
公爵令嬢フローラ・クレマンは、首筋に聖女の証である薔薇の痣がある。それを知っているのは、家族と親友のミシェルだけ。 どうして自分なのか、やりたい人がやれば良いのにと、何度思ったことか。だからミシェルに相談したの。 「私は聖女になりたくてたまらないのに!」 ミシェルに言われたあの日から、私とミシェルの二人で一人の聖女として生きてきた。 けれど、私と第一王子の婚約が決まってからミシェルとは連絡が取れなくなってしまった。 ミシェル、大丈夫かしら?私が力を使わないと、彼女は聖女として振る舞えないのに…… なんて心配していたのに。 「フローラ・クレマン!聖女の名を騙った罪で、貴様を国外追放に処す。いくら貴様が僕の婚約者だったからと言って、許すわけにはいかない。我が国の聖女は、ミシェルただ一人だ」 第一王子とミシェルに、偽の聖女を騙った罪で断罪させそうになってしまった。 本気で私を追放したいのね……でしたら私も本気を出しましょう。聖女の真の力を教えて差し上げます。

(完結)お荷物聖女と言われ追放されましたが、真のお荷物は追放した王太子達だったようです

しまうま弁当
恋愛
伯爵令嬢のアニア・パルシスは婚約者であるバイル王太子に突然婚約破棄を宣言されてしまうのでした。 さらにはアニアの心の拠り所である、聖女の地位まで奪われてしまうのでした。 訳が分からないアニアはバイルに婚約破棄の理由を尋ねましたが、ひどい言葉を浴びせつけられるのでした。 「アニア!お前が聖女だから仕方なく婚約してただけだ。そうでなけりゃ誰がお前みたいな年増女と婚約なんかするか!!」と。 アニアの弁明を一切聞かずに、バイル王太子はアニアをお荷物聖女と決めつけて婚約破棄と追放をさっさと決めてしまうのでした。 挙句の果てにリゼラとのイチャイチャぶりをアニアに見せつけるのでした。 アニアは妹のリゼラに助けを求めましたが、リゼラからはとんでもない言葉が返ってきたのでした。 リゼラこそがアニアの追放を企てた首謀者だったのでした。 アニアはリゼラの自分への悪意を目の当たりにして愕然しますが、リゼラは大喜びでアニアの追放を見送るのでした。 信じていた人達に裏切られたアニアは、絶望して当てもなく宿屋生活を始めるのでした。 そんな時運命を変える人物に再会するのでした。 それはかつて同じクラスで一緒に学んでいた学友のクライン・ユーゲントでした。 一方のバイル王太子達はアニアの追放を喜んでいましたが、すぐにアニアがどれほどの貢献をしていたかを目の当たりにして自分達こそがお荷物であることを思い知らされるのでした。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 全25話執筆済み 完結しました

【完結】「お前に聖女の資格はない!」→じゃあ隣国で王妃になりますね

ぽんぽこ@3/28新作発売!!
恋愛
【全7話完結保証!】 聖王国の誇り高き聖女リリエルは、突如として婚約者であるルヴェール王国のルシアン王子から「偽聖女」の烙印を押され追放されてしまう。傷つきながらも母国へ帰ろうとするが、運命のいたずらで隣国エストレア新王国の策士と名高いエリオット王子と出会う。 「僕が君を守る代わりに、その力で僕を助けてほしい」 甘く微笑む彼に導かれ、戸惑いながらも新しい人生を歩み始めたリリエル。けれど、彼女を追い詰めた隣国の陰謀が再び迫り――!? 追放された聖女と策略家の王子が織りなす、甘く切ない逆転ロマンス・ファンタジー。

処理中です...