蔑まれ追放された聖女ですが実は前世板前の究極の熟成&分解魔法でした〜猛毒の魔物を特製生姜醤油の唐揚げや濃厚ラーメンに変えて帝国提督を釣る

リーシャ

文字の大きさ
2 / 3

02溺愛?

しおりを挟む
一方その頃、勇者アルドたちのパーティーは地獄を見ていた。
 保存食が尽き、現地調達を試みるもテアビリムの光の浄化ではどうにもならなかったのだ。

 光魔法は穢れを払うが、魔物の肉体構造そのものを変えるわけではない。硬い皮は硬いまま。毒袋は光って綺麗になるだけで毒性は消えない。

「痛い!お腹が痛い!うあああ!」

「うが!テアビリム!毒が消えてないじゃないか!」

「そんなはずありません!私は聖女ですもの、キラキラしましたもの!やりましたもの!」

 口にできたのは生焼けで臭みが酷く、痺れ薬のような味がする魔物の肉だけ。
 全員が食中毒で痩せこけて肌は土気色になり、剣を振るう力も残っていなかった。
 そんな時、彼らは海上で遭遇した。巨大な戦艦の甲板で宴を開いているこちらに。

 風に乗って漂ってくるのは暴力的なまでに食欲をそそる焼き肉の匂い。ニンニクと果実を合わせたタレが、炭火で焼ける肉汁と混ざり合う抗いがたい香り。

「な、なんだあれは……くんくんくん!」 

「肉だ……まともな肉だ……ああ!」

 アルドたちは半狂乱で手漕ぎボートを出し、戦艦に近づいてきた。甲板から見下ろす自分と目が合う。

「シャルディ!シャルディじゃないか!」

「ああ、シャルディ!探していたんだ!お前がいなくなって寂しかったぞ!」

 アルドが頬をこけさせながら、必死に猫なで声を出すと隣のテアビリムもプライドを捨てて叫んだ。

「お姉様!私お姉様のご飯が食べたいです!特にお味噌汁!茶色いスープが恋しいの!」

「……茶色いから汚いって、捨てたのは貴女じゃない。ふざけてるのね?」

 冷ややかに見下ろすとガレオスが腰に手を回し、ドスの効いた声で一喝。

「我が船の料理長に気安く話しかけるな薄汚い連中め」

「て、提督!?なぜシャルディがそこに!?え?」

「彼女はおれの女神。貴様らのような舌の腐った連中には勿体無い」

 ガレオスは焼きたての海竜カルビを箸で掴み、わざと見せつけるようにこちらの口元へ運んだ。それをパクりと食べる。
 噛み締めた瞬間、濃厚な肉汁が口いっぱいに広がる。美味しい!

「ぐぬぬ……!シャルディ、命令だ!今すぐ戻ってこい!お前はおれの婚約者だろう!」

「婚約破棄したのはそっちでしょ?私はここで料理を作るので忙しいので」

 合図を送ると船員たちが一斉に残飯(魔物の硬い骨や皮)を海に放り投げた。

「ひぃぃ!」

「それがお似合いです。自分たちの光とやらでお腹を満たせばいい」

 戦艦は加速し、呆然とする勇者たちを波間に置き去りにした。
 彼らがその後、どうなったかは知らない。言えることは、二度と美食を味わうことはできなかっただろうこと。

 提督室にてガレオスと二人きりで晩酌をしていた。肴は新鮮な白身魚の昆布締めと熱燗。

「シャルディ。帝国に戻ったら結婚してくれないか」

 酔いのせいか、それとも本気かガレオスの顔が赤い。

「食料係としてですか?」

「一人の男としてだ……もちろん味噌汁を一生飲みたいという下心も否定はしないが」

 真剣な眼差しで手を取った。手は武骨で大きくてとても温かい。

「私でよければ。ふふ。その代わりに好き嫌いしたら許しませんからね?」

「望むところだ」

 海の上、月明かりの下。腐敗と呼ばれた手は今、誰よりも愛しい人を幸せな笑顔にしている。
 明日はどんな美味しいものを作ろうかおメニューを考える心は、満腹感と幸福感で満たされていた。

 勇者たちを置き去りにした戦艦リヴァイアサンは帝都の港へと帰還した。
 港にはガレオス提督の凱旋と噂の料理聖女を一目見ようと、数万の市民が詰めかけている。いつの間にか自分のことまで伝わっているとはどういうことなのだろう。

「提督!提督~!戻られましたか~!」

 出迎えたのは、帝国宰相の老紳士。しかし、顔は心なしか青白い。
 実はガレオス不在の間に、帝国の食糧事情は最悪の事態を迎えていた。隣国の呪いによって家畜は病に倒れ、穀物は実をつけない。国民は当たり前だが飢えた。帝国は崩壊の危機に瀕している。

「宰相、そんな顔をするな。最高の解決策を連れて帰ってきた」

 ガレオスは力強く引き寄せ、広場に設置された特設ステージへと促す。
 戦艦の倉庫に眠っていた食材を取り出す。道中で討伐した超巨大な深海魚キング・グルーパーの身と魔法で品種改良したミラクルライス。

「帝都の皆さん、お腹が空いているでしょう?今から心も体も熱くなる料理を作りますよ!」

 ステージ上で巨大な鉄板に火をかけた。今日のメニューは帝国の危機を救う海鮮あんかけ黄金チャーハンにしようと黄金色に輝く卵を鉄板に割り入れる。

 ジュワァァァァッ!

 鮮烈な音が広場に響き渡る。間髪入れずに炊きたてのパラパラとしたライスを投入。 分解魔法で米粒一つ一つに魔力を通し、一瞬で卵と油をコーティングしていく。

「見てくれあの手つき!魔法を使っているのか、それとも神の業か!?」

 市民たちが息を呑む中でサイコロ状に切った海竜の肉と、深海魚の身、彩りのパプリカを投入。
 鉄板の上で具材が躍り、香ばしい醤油の香りが風に乗って帝都全域に広がっていく。

「これだけじゃありません。仕上げは特製海鮮あんです」

 海竜の骨から取った濃厚な出汁にホタテに似た魔物の貝柱をたっぷり加え、片栗粉でとろみをつけた黄金のあん。
 山盛りに盛られた熱々のチャーハンの上から、一気に注ぎ込む。

 ドロリ、ジュワッ!

 湯気と共に立ち上る磯の香りと濃厚な旨味の香り。拷問に近いものが数万人の空腹を直撃。

「食べてください!」

 兵士たちが次々と配膳していくものを、一口食べた市民たちが次々と膝をついて涙を流した。

「う、うますぎる……ああ!体の芯から力が湧いてくるぞ!」

「の、呪いが消えていく……すごい!料理に聖なる力が宿っているわ!」

 毒素中和は土地や体に染み付いた呪いさえも不純物として分解し、栄養に変えることができたのだ。後で知ったことだけどね。

 帝都は一瞬にして絶望の淵から歓喜の渦へと変わった。


 一方その頃、ボートで漂流し、ようやく王国の海岸へ辿り着いた勇者アルドとテアビリム。彼らが目にしたのは変わり果てた故郷の姿。

「シャルディがいないせいで、土地が腐り始めている……と?」

 王国の農地は女が密かに毒抜きをしていた頃の肥沃さを失い、文字通り腐敗していた。
 作物には虫が湧き、家畜は逃げ出し、贅沢三昧だった王族たちも今や泥まみれの根野菜を齧って飢えを凌いでいる。

「アルド様、お腹が空きましたわ……何か、何か美味しいものを……なにか」

「うるさい!おれだって腹が減ってるんだ!テアビリムの浄化魔法で泥水をスープに変えろ!」

「そんなの無理です!光を出すことしかできませんから!無茶なことを言われても無理ですもの!」

 二人は泥濘の中で掴み合いの喧嘩を始めた姿は、輝かしい勇者と聖女の面影はどこにもない。
 口にできるのは自分たちがシャルディを追い出して手に入れた不毛な自由の味のみ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

聖女の力を妹に奪われ魔獣の森に捨てられたけど、何故か懐いてきた白狼(実は呪われた皇帝陛下)のブラッシング係に任命されました

AK
恋愛
「--リリアナ、貴様との婚約は破棄する! そして妹の功績を盗んだ罪で、この国からの追放を命じる!」 公爵令嬢リリアナは、腹違いの妹・ミナの嘘によって「偽聖女」の汚名を着せられ、婚約者の第二王子からも、実の父からも絶縁されてしまう。 身一つで放り出されたのは、凶暴な魔獣が跋扈する北の禁足地『帰らずの魔の森』。 死を覚悟したリリアナが出会ったのは、伝説の魔獣フェンリル——ではなく、呪いによって巨大な白狼の姿になった隣国の皇帝・アジュラ四世だった! 人間には効果が薄いが、動物に対しては絶大な癒やし効果を発揮するリリアナの「聖女の力」。 彼女が何気なく白狼をブラッシングすると、苦しんでいた皇帝の呪いが解け始め……? 「余の呪いを解くどころか、極上の手触りで撫でてくるとは……。貴様、責任を取って余の専属ブラッシング係になれ」 こうしてリリアナは、冷徹と恐れられる氷の皇帝(中身はツンデレもふもふ)に拾われ、帝国で溺愛されることに。 豪華な離宮で美味しい食事に、最高のもふもふタイム。虐げられていた日々が嘘のような幸せスローライフが始まる。 一方、本物の聖女を追放してしまった祖国では、妹のミナが聖女の力を発揮できず、大地が枯れ、疫病が蔓延し始めていた。 元婚約者や父が慌ててミレイユを連れ戻そうとするが、時すでに遅し。 「私の主人は、この可愛い狼様(皇帝陛下)だけですので」 これは、すべてを奪われた令嬢が、最強のパートナーを得て幸せになり、自分を捨てた者たちを見返す逆転の物語。

【完結】 ご存知なかったのですね。聖女は愛されて力を発揮するのです

すみ 小桜(sumitan)
恋愛
 本当の聖女だと知っているのにも関わらずリンリーとの婚約を破棄し、リンリーの妹のリンナールと婚約すると言い出した王太子のヘルーラド。陛下が承諾したのなら仕方がないと身を引いたリンリー。  リンナールとヘルーラドの婚約発表の時、リンリーにとって追放ととれる発表までされて……。

【完結】大聖女は無能と蔑まれて追放される〜殿下、1%まで力を封じよと命令したことをお忘れですか?隣国の王子と婚約しましたので、もう戻りません

冬月光輝
恋愛
「稀代の大聖女が聞いて呆れる。フィアナ・イースフィル、君はこの国の聖女に相応しくない。職務怠慢の罪は重い。無能者には国を出ていってもらう。当然、君との婚約は破棄する」 アウゼルム王国の第二王子ユリアンは聖女フィアナに婚約破棄と国家追放の刑を言い渡す。 フィアナは侯爵家の令嬢だったが、両親を亡くしてからは教会に預けられて類稀なる魔法の才能を開花させて、その力は大聖女級だと教皇からお墨付きを貰うほどだった。 そんな彼女は無能者だと追放されるのは不満だった。 なぜなら―― 「君が力を振るうと他国に狙われるし、それから守るための予算を割くのも勿体ない。明日からは能力を1%に抑えて出来るだけ働くな」 何を隠そう。フィアナに力を封印しろと命じたのはユリアンだったのだ。 彼はジェーンという国一番の美貌を持つ魔女に夢中になり、婚約者であるフィアナが邪魔になった。そして、自らが命じたことも忘れて彼女を糾弾したのである。 国家追放されてもフィアナは全く不自由しなかった。 「君の父親は命の恩人なんだ。私と婚約してその力を我が国の繁栄のために存分に振るってほしい」 隣国の王子、ローレンスは追放されたフィアナをすぐさま迎え入れ、彼女と婚約する。 一方、大聖女級の力を持つといわれる彼女を手放したことがバレてユリアンは国王陛下から大叱責を食らうことになっていた。

地味で無能な聖女だと婚約破棄されました。でも本当は【超過浄化】スキル持ちだったので、辺境で騎士団長様と幸せになります。ざまぁはこれからです。

黒崎隼人
ファンタジー
聖女なのに力が弱い「偽物」と蔑まれ、婚約者の王子と妹に裏切られ、死の土地である「瘴気の辺境」へ追放されたリナ。しかし、そこで彼女の【浄化】スキルが、あらゆる穢れを消し去る伝説級の【超過浄化】だったことが判明する! その奇跡を隣国の最強騎士団長カイルに見出されたリナは、彼の溺愛に戸惑いながらも、荒れ地を楽園へと変えていく。一方、リナを捨てた王国は瘴気に沈み崩壊寸前。今さら元婚約者が土下座しに来ても、もう遅い! 不遇だった少女が本当の愛と居場所を見つける、爽快な逆転ラブファンタジー!

妹が真の聖女だったので、偽りの聖女である私は追放されました。でも、聖女の役目はものすごく退屈だったので、最高に嬉しいです【完結】

小平ニコ
ファンタジー
「お姉様、よくも私から夢を奪ってくれたわね。絶対に許さない」  私の妹――シャノーラはそう言うと、計略を巡らし、私から聖女の座を奪った。……でも、私は最高に良い気分だった。だって私、もともと聖女なんかになりたくなかったから。  退職金を貰い、大喜びで国を出た私は、『真の聖女』として国を守る立場になったシャノーラのことを思った。……あの子、聖女になって、一日の休みもなく国を守るのがどれだけ大変なことか、ちゃんと分かってるのかしら?  案の定、シャノーラはよく理解していなかった。  聖女として役目を果たしていくのが、とてつもなく困難な道であることを……

婚約破棄の上に家を追放された直後に聖女としての力に目覚めました。

三葉 空
恋愛
 ユリナはバラノン伯爵家の長女であり、公爵子息のブリックス・オメルダと婚約していた。しかし、ブリックスは身勝手な理由で彼女に婚約破棄を言い渡す。さらに、元から妹ばかり可愛がっていた両親にも愛想を尽かされ、家から追放されてしまう。ユリナは全てを失いショックを受けるが、直後に聖女としての力に目覚める。そして、神殿の神職たちだけでなく、王家からも丁重に扱われる。さらに、お祈りをするだけでたんまりと給料をもらえるチート職業、それが聖女。さらに、イケメン王子のレオルドに見初められて求愛を受ける。どん底から一転、一気に幸せを掴み取った。その事実を知った元婚約者と元家族は……

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

聖女を騙った罪で追放されそうなので、聖女の真の力を教えて差し上げます

香木陽灯
恋愛
公爵令嬢フローラ・クレマンは、首筋に聖女の証である薔薇の痣がある。それを知っているのは、家族と親友のミシェルだけ。 どうして自分なのか、やりたい人がやれば良いのにと、何度思ったことか。だからミシェルに相談したの。 「私は聖女になりたくてたまらないのに!」 ミシェルに言われたあの日から、私とミシェルの二人で一人の聖女として生きてきた。 けれど、私と第一王子の婚約が決まってからミシェルとは連絡が取れなくなってしまった。 ミシェル、大丈夫かしら?私が力を使わないと、彼女は聖女として振る舞えないのに…… なんて心配していたのに。 「フローラ・クレマン!聖女の名を騙った罪で、貴様を国外追放に処す。いくら貴様が僕の婚約者だったからと言って、許すわけにはいかない。我が国の聖女は、ミシェルただ一人だ」 第一王子とミシェルに、偽の聖女を騙った罪で断罪させそうになってしまった。 本気で私を追放したいのね……でしたら私も本気を出しましょう。聖女の真の力を教えて差し上げます。

処理中です...