蔑まれ追放された聖女ですが実は前世板前の究極の熟成&分解魔法でした〜猛毒の魔物を特製生姜醤油の唐揚げや濃厚ラーメンに変えて帝国提督を釣る

リーシャ

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01追放された

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「君の薄気味悪い魔力にはもう耐えられないんだ。パーティーを抜けてくれ、シャルディ」

 潮風が吹き荒れる断崖絶壁の上。
 婚約者であり、勇者パーティーのリーダーでもあるアルドが侮蔑の眼差しで見下ろしていた。
 隣には純白の聖衣を纏い、キラキラと輝く義理の妹のテアビリムが張り付いている。

「ごめんなさいねぇお姉様。でも仕方ないですわ。お姉様の固有魔法の分解って食材を腐らせるみたいで食欲が失せますもの。私の光の浄化の方が、皆も癒やされますし?うふふふ」

 テアビリムがくすくすと笑う。

 シャルディは前世で日本の老舗割烹で板前をしていた転生者。
 授かった力は聖女……のはずだったが、判定された能力は分解と毒素中和。
 触れたものをバラバラに解体したり、熟成させたりするその力は神聖な光を尊ぶ国では腐敗の力と忌み嫌われてきた。

「えっ、でも、魔境の魔物は猛毒を持っています。毒袋を分解して取り除かなければ食料の現地調達は……」

「はっ!無知だな!聖女テアビリムの祈りがあれば、毒など光で消え去るさ!お前のようなやり方の小汚い作業など不要なんだよ!」

 アルドは足元に粗末な鞄を放り投げた。

「二度とおれたちの前に現れるな。汚らわしい女め。分解などとちっぽけなもので粋がるな」

 唇を噛み締め、彼らに背を向けた。悲しみはなく、あるのは呆れと開放感。

(ああそう。毒抜きの手間も知らないで……もう知らない。野垂れ死ぬのはそっちになるくせに)

 一人、魔物が蔓延る死の海岸線へと歩き出した。
 パーティーを追い出されて三日。海岸の洞窟を拠点に悠々自適なサバイバル生活を送っていた。
 目の前には浅瀬に打ち上げられた巨大なイカ型の魔物グランド・クラーケンの死骸がある。

 勇者たちが硬すぎて剣が通らないし、身はゴムみたいで不味いと捨てていった獲物だ。

「もったいない。最高級のアオリイカより旨味が強いのに」

 クラーケンの巨大な足に手を触れる──分解。
 魔力を流すと強靭な繊維がほぐれ、食べられない皮や吸盤の硬い角質が魔法のように綺麗に剥がれ落ちる。さらに熟成をかければアミノ酸が増幅し、身はねっとりと柔らかくなる。

「うん、今日の献立はクラーケンの唐揚げ、特製ネギ塩レモンダレとイカ墨のリゾットしよう」

 魔法収納から旅の必需品である醤油、酒、生姜、片栗粉を取り出す。
 一口大に切ったクラーケンの身をタレに漬け込み、熱した油、魔物の脂を精製したものへ投入する。取るの楽だから使いたい放題だ。

 ジュワァァァァァ……!
 パチパチパチ……!

 洞窟内に香ばしい醤油と生姜の香りが爆発的に広がる。こんがりときつね色に揚がった衣。その中には熱で甘みを増したプリプリの身が詰まっており、見ただけでわかった。

「いただきまああ」

 大口を開けたその時。

 ズズーン……!

 地響きと共に巨大な影が洞窟の入り口を塞いだ。

「美味そうな匂いがする。寄越せ、寄越せ……寄越すのだ」

 立っていたのは漆黒の軍服を着た大男。眼光は鋭く、全身から血と硝煙の匂いを漂わせている。

「ひぃ!」

 海賊さえも震え上がるという、帝国海軍の暴君提督、ガレオスだ。というは後で知ること。

 極度の飢餓状態にあるのか、目が獣のように光っていた。こっわ。人間やめてる。

「あ、あの……なに?」

「問答無用!皿を寄越せと言っている!」

 手から皿をひったくると揚げたての唐揚げを素手で掴み、口に放り込んだ。

 カリッ。サクッ。小気味よい音が響く。

「ふ……んッ!?」

 ガレオスの動きが止まった。サクサクの衣を噛み破ると弾力のある身がプリリッと弾け、中から熱々の肉汁がジュワッと溢れ出す。
 生姜醤油のパンチの効いた味付けにレモンの酸味が爽やかな後味を残した。口の中が天国状態。

「硬いゴムのようなクラーケンが、なぜこれほど柔らかい!?噛むたびに旨味が湧き出してくる!うおおお!」

 彼は猛然と食らいついた。次はイカ墨のリゾット。ああっ、自分の分がなくなっていく。
 見た目は真っ黒だが一口食べれば、凝縮された海のミルクのようなコクとニンニクの香りが鼻に抜ける。

「うまい……!貴様何をした!?」

 は?勝手に食べておいてなにを言う?

「あの、強盗ってこと忘れないでください。分解スキルで下処理と筋切りをして、酵素で柔らかくしただけですけど……聞いてます?強盗の人?」

 全てを平らげたガレオスは目の前に跪き、ガシッと両手を掴んだ。

「船に乗れ!専属料理人になれ!」

「は、はい!?はぁ?」

「皆呪いを受けており、魔物の肉しか栄養にならない。だが魔物は不味くて硬い。こんなに美味い飯を食ったのは生まれて初めてだ!」

 帝国最強の戦艦リヴァイアサンの料理長として迎えられることになった。いや、ちゃんちゃんとかでテロップ流れて終わる流れじゃないからね!?

 しかし、戦艦での生活は過ごしてみると思いのほか快適だった。
 荒くれ者の船員たちは最初は腐敗女と警戒していたが、料理を一回食べただけで掌を返した。

 いや待て!この人たちおかしくない?
 腐敗と色眼鏡で見るには、彼らはその不廃物さえまともに口の中に入れられないのに、おかしな人たちだ。

 夕食のメインは猛毒を持つシーサーペントという海竜の解体ショーから始まった。

「いい皆!毒袋の位置はここ!私の分解で一瞬で取り除くから見てて!」

 シュンッ

 手をかざすと猛毒の紫色の部位だけが綺麗に消滅する。残ったのは透き通るような桜色の白身。

「うおおおお!シャルディ姉御、すげぇ!」

「早く食わせてくれぇ!」

 今夜のメニューは海竜のしゃぶしゃぶと竜骨スープの濃厚ラーメン。
 大鍋には海竜の骨を三日三晩煮込んで白濁させた、コラーゲンたっぷりのスープ。そこに薄くスライスした身をサッとくぐらせる。
 表面が白くなり、半レアの状態になったところを、ポン酢ともみじおろしでいただく。

 それにしても、姉御呼びも慣れたものだな。遠い目になる。

「……とろけるぅぅ!」

「脂が甘い!なのに全然しつこくない!」

「ラーメンの麺、コシがすげぇぞ!スープが絡んで最高だ!」

 船員たちが涙を流して貪り食う。提督のガレオス様専用の席でラーメンをすすっている。分厚いチャーシューにした海竜のバラ肉を頬張り、満足げに溜息をついた。

「シャルディの料理を食べると、力が漲る。魔力効率が段違いだ」

「毒素を完全に抜いてから魔力を旨味に変換してますからね」

「手放した勇者たちはよほどの馬鹿と見える」

 ガレオスは見つめ、不器用に笑った。笑顔に胸がトクンと跳ねた。料理人冥利に尽きる瞬間だ。
 
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