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2章 森に引きこもってもいいかしら?

6.治療院

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 返事を返すと、直ぐにドアが開いてシェヌが入ってきました。
 どうかしたのかしら? と彼の方を見ました。

「治療院から急ぎの用事があるみたいだ。ちょっと出てきて欲しいって言って来たがどうする?」

 あら。急ぎですって? 何が有ったのかしら?

 ハーナさんも、顔をしかめています。
 そう、あなたも何も聞いていないのね。私に用があるなら、それは薬草関係なのかしらね。

「すぐ会うわ。何処にいらっしゃるの?」

「カウンターの向こうで待っているそうだ」

 ?あら、シェヌはその方には会っていないのね。

「どなたがその伝言を伝えてきたの?」

「ん? ああ、扉の前まで職員の奴がきて言った」

 って、珍しいわね、名前を言わないなんて。




「ハーナ、ギディってやつは今どこにいる?」

 エルムが珍しく厳しい声を出しています。
 私もそれが知りたいわ。
 ハーナさんに視線が集まります。

「懲罰房に……いや、もう出ているころだな。仕事をさせるようには言っていないな」

「コーユ様、どうされますか?」

「ちゃんと守ってくれるのでしょう? だったら、何が目的なのか分からないから会ってみるわ」

 部屋の中が緊張した感じになりました。

「シェヌ、治療院の方と会うからついてきて」

 私はシェヌだけを連れて、カウンターのある方へ歩いていきました。
 シェヌにはまだ部屋の中の話は伝えていませんが、何かを察してくれたのでしょう。
 顔つきが一瞬強張りましたが、すぐいつものへらりとした顔になりました。

 シェヌのこういうところはさすがだと思います。
 私も少しだけ、緊張が解れましたもの。


 二人で表のカウンターに来ましたが、どこにも治療院の方がいません。

「あなたがコーユーさんか? 先ほどまで、治療院の方がいたんだが、急ぎだと言って走って行ったぞ。ああ、こっちに来て欲しいと地図を預かった」

 見知らぬ人がたどたどしく私に話しかけてきて、手紙と地図を渡してきました。
 シェヌの方を見ましたが、首を振るので先程伝言してきた職員の方では無いのでしょう。

 それらを受け取って、エルムたちが来るのを待ちます。
 ドアのそばで立っていると、先ほどの方がチラチラとこちらを気にしているのが見えました。

「あんたはまだ行かないのか?」

 そこで数分待っていると、さっきの人から声を掛けられました。

「いつまでにとは書いてありませんし、仲間が揃うのを待っているのよ」

「お、俺は急ぎだと伝えたぞ。まだ出んのか!」

 少しずつ声が大きくなってきましたね。うるさいですわ。

「一方的な呼び出しにこたえる気は有りませんわ」

「何っ! 治療院と言ったら病気だろうが!早く行かんかっ!」

 どんどん、声が大きくなっています。はぁ。頭に響きます。

「シェヌ。うるさいから行くわよ」

 シェヌに声を掛けてギルドを出ました。地図をみるとどうやら温泉場の向こうになりますね。
 まぁ、とりあえずは治療院にいきましょ。

「ばあさん、地図とは方向が違うが?」
 
 地図を覗き込んだシェヌがいいます。

「まずは治療院の方へ行きましょ。薬も渡したいわ。あ、薬師さんに頼まれていた薬草をギルドに置いてくるのを忘れちゃってたわ。仕方ないわね、後でまた行きましょう」

「ああそうだな。何が有ったのか知らないもんな」

「でしょう?」

「相変わらず落ち着いたもんだ」

「焦っても何にもならないわよ」

 二人で話しながら治療院にやってきました。ここは怪我をした人や病気の人がきて、治療士ヒーラーさんたちに治して貰うところです。魔法で治して貰うのですが、ランクによって金額が違うのですって。
 まあ風邪で病院にかかるのと、インフルエンザでかかるのでは違うのと同じことでしょう。たぶん……

 だって、治療院には薬草を卸していますが、普段はギルドを通しているのでよくは分からないの。
 まだここの治療院にかかった事も無いのですもの。
 ティユルに来てからは、のんびりしているからかしら、風邪も引いたことが無いのよ。

 入ってみると二階建ての建物の中は、いつものように怪我をした人でいっぱいです。

 案内所の女性に声をかけてみました。

「ギルドの方でこちらの方が私に用事があると聞いてきたのですが」

 あら、案内の女性は宿のミーナの料理教室で見たことのある方でした。

「コーユさん? え? 誰もそんな話はしていませんが。ちょっと待ってくださいね。先生に確かめてきますから」

 知っている方がいると、話が速くていいわね。何も言わないでも色々便宜を図って貰えて。
 分かっているわよ。それもこれも、この時期に風邪や体力の衰えに効く薬草を卸しているからだってことは。
 霊気草カミツレも、ヒーラーの方には必要不可欠らしいもの。


 どうやら私に用事が有るのは、治療院の方では無いみたいでした。分かっていましたけれど。
 ついでなので、薬草や霊気草や紫草などを置いていく事にしました。
 卸した数を書いてサインをしてもらいます。これをギルドに持っていけば治療院への通常依頼が一つ達成できたことになるのです。
 どうやら、紫草も霊気草も不足がちだったみたい。今年はいつもより体力不足のお年寄りの病気が少なく、反対に怪我や争いによるイライラが多いそうなの。

 どちらにしてもお医者さんヒーラーは大変ね。



 シェヌと二人で治療院を出たところで、ギルドにいた方に話かけられましたわ。

「おい!いいかげんにしろや。地図を見たんだろう、早く行けよ」

 と、とても小さな声で。
 まあ、恥ずかしがりやさんだ事! こういう事は大きな声で言わないと聞こえないわよ? 年よりなんだから。

「なぁに? 良く聞こえなかったわ。なんておっしゃったの? もう一度大きな声で言ってくださるかしら?」

 もちろん、少し大きな声で聞き返しましたわ。

「地図の所へ行けっ」

 ギルドの時よりはまだ小さいのね。往来なので大きな声で言っても響かないから、頭は痛くならないわ。
 
「あのね、声が小さくて聞こえないの。大きな声で言ってくださる?」

 もう一度、それは大きな声で聞き返しました。

「地図の所へ行くんだっ!」

 それはもう大きな声でした。
 周りが何事かとこちらを見ています。どうやら私の知り合いもいたようです。

「コーユさんっ! 久しぶりじゃないか。どうしたんだい? ああそうか。定期的に届けている薬草の依頼かいっ」

「あら、ミーナ。そうなの。でもこの人が変な事言うんで困っていたのよ。あ、そうだわ。今夜から少しの間、あなたの所に泊まりたいのだけど空いているかしら?」

「いつもの部屋だろう? もちろんだよ」

 今夜の宿も確保した事ですし……

 あら、いつの間にか先程の方がいらっしゃらなくなりましたね……

 ギルドの方に戻りましょうか。薬草を卸すのは治療院だけではありませんから……
 あ、宿もギルドの隣でしたね。


 そして、シェヌには肘で思いっきり突いておきました。
 笑いこけているのですもの……
 もぉ……

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