65 / 74
15.フォンダンショコラな恋人
フォンダンショコラな恋人②
しおりを挟む
こんな語彙力の崩壊している陽平はきっと誰も見たことがないだろう。
そう思うとふっと翠咲の表情も緩んでしまった。
「いいよ。結婚前提の同棲、ね」
「結婚してもいいんだって」
「だーからー、それは順序を経て、にしましょうね?倉橋弁護士?」
「明日、翠咲のご両親に挨拶に行く!」
「急に行ったら、びっくりしちゃうよ」
先日の沢口のことがあってから、陽平はことさらに翠咲に甘くなった。
──甘くなったというか過保護というか……。
その後、一度だけ翠咲は一人暮らししていた部屋に帰ったのだが、妙にさみしかったし、一人になると不安でもあった。
陽平と一緒にいることは、思いのほか楽しかったから。
だから、結局陽平に乞われるがまま、今の陽平のマンションに居着いてしまっていることも間違いのない事実なのだ。
いわく一人では危ない、また何があるか分からない、あげく僕が不安になるから目の届くところにいて、である。
心配してくれる人がいるのは嬉しい。
翠咲は最近は外見はともかく中身が熱くて甘い、この人に甘やかされるのは悪くないなあと思うようになったのだ。
「明日じゃなくてもいい。けど本気でご両親にご挨拶していいと思うならアポ取ってくれる?」
「いいよ」
アポ……って業務じゃないっていうのに……。
けれど、翠咲はすぐにその場で電話する。
『翠咲? どうしたの?』
電話に出た母親が急な翠咲からの電話に驚いていた。
「あ、お母さん? 急にごめんね。えーと、来週……」
陽平の顔に『今週!』と大きく書いてある。
「いや、今週末時間あるかな?お父さんも一緒に。晃希はいる?」
『あら……いいお話?ちょっと待ってね』
電話の向こうの母がやけに楽しそうな声になり、向こうで家族に確認してくれている声が受話器から漏れてきていた。
「晃希?」
陽平が首を傾げている。
「弟なの」
「弟さんいるのか」
「うん。私は大学生の時に家を出てしまっているし、年が離れているからあまり接点はないんだけどね。今、高校生くらいかなあ……」
「ふうん」
翠咲の年を考えると10歳ほども離れている。
確かにそれくらい離れていたら、接点はないのかもしれなかった。
翠咲は携帯をスピーカーにする。
そこへ母の声が聞こえてきた。
『翠咲? 晃希は部活があるから無理だけれど、お父さんと私はいるわよ。どなたかと一緒?』
横にいた陽平が声を出す。
「こんにちは」
『あらっ⁉︎ ご一緒なの? まあ! びっくりしたわ』
「突然すみません。私、翠咲さんと交際をさせて頂いております、倉橋陽平と申します」
もう名乗り方が完全に業務で、翠咲には
『突然すみません。私、翠咲さんの代理人をしております、弁護士の倉橋と申します』
と聞こえてしまって、おかしくて陽平の横で声が漏れないように笑い転げている翠咲なのだ。
『初めまして。翠咲の母です。あら、翠咲、本当にいいお話なのね? まぁー、嬉しいわ』
笑い転げている翠咲に無表情な顔を向けた陽平が、その身体をぎゅうっと抱きしめる。
その仕草に翠咲がドキマギしてしまうと、陽平は嬉しそうな顔になっていた。
「翠咲さんと結婚前提で一緒に住もうという話が出ていまして」
『あら、そうなの。でしたら今週末、お待ちしていますわ』
「お母さん、堅苦しいのはやめてね。私も陽平さんもそういうの、あまり得意じゃないから」
得意ではない、というのは堅苦しくなってしまうと、どこまでも業務になってしまいそうな怖さがあるからだ。
『はいはい』
電話の向こうでくすくす笑っている声が聞こえた。母は翠咲のことがよく分かっているからなのだろう。
その後日程や時間などの打ち合わせをして、翠咲は電話を切った。
そう思うとふっと翠咲の表情も緩んでしまった。
「いいよ。結婚前提の同棲、ね」
「結婚してもいいんだって」
「だーからー、それは順序を経て、にしましょうね?倉橋弁護士?」
「明日、翠咲のご両親に挨拶に行く!」
「急に行ったら、びっくりしちゃうよ」
先日の沢口のことがあってから、陽平はことさらに翠咲に甘くなった。
──甘くなったというか過保護というか……。
その後、一度だけ翠咲は一人暮らししていた部屋に帰ったのだが、妙にさみしかったし、一人になると不安でもあった。
陽平と一緒にいることは、思いのほか楽しかったから。
だから、結局陽平に乞われるがまま、今の陽平のマンションに居着いてしまっていることも間違いのない事実なのだ。
いわく一人では危ない、また何があるか分からない、あげく僕が不安になるから目の届くところにいて、である。
心配してくれる人がいるのは嬉しい。
翠咲は最近は外見はともかく中身が熱くて甘い、この人に甘やかされるのは悪くないなあと思うようになったのだ。
「明日じゃなくてもいい。けど本気でご両親にご挨拶していいと思うならアポ取ってくれる?」
「いいよ」
アポ……って業務じゃないっていうのに……。
けれど、翠咲はすぐにその場で電話する。
『翠咲? どうしたの?』
電話に出た母親が急な翠咲からの電話に驚いていた。
「あ、お母さん? 急にごめんね。えーと、来週……」
陽平の顔に『今週!』と大きく書いてある。
「いや、今週末時間あるかな?お父さんも一緒に。晃希はいる?」
『あら……いいお話?ちょっと待ってね』
電話の向こうの母がやけに楽しそうな声になり、向こうで家族に確認してくれている声が受話器から漏れてきていた。
「晃希?」
陽平が首を傾げている。
「弟なの」
「弟さんいるのか」
「うん。私は大学生の時に家を出てしまっているし、年が離れているからあまり接点はないんだけどね。今、高校生くらいかなあ……」
「ふうん」
翠咲の年を考えると10歳ほども離れている。
確かにそれくらい離れていたら、接点はないのかもしれなかった。
翠咲は携帯をスピーカーにする。
そこへ母の声が聞こえてきた。
『翠咲? 晃希は部活があるから無理だけれど、お父さんと私はいるわよ。どなたかと一緒?』
横にいた陽平が声を出す。
「こんにちは」
『あらっ⁉︎ ご一緒なの? まあ! びっくりしたわ』
「突然すみません。私、翠咲さんと交際をさせて頂いております、倉橋陽平と申します」
もう名乗り方が完全に業務で、翠咲には
『突然すみません。私、翠咲さんの代理人をしております、弁護士の倉橋と申します』
と聞こえてしまって、おかしくて陽平の横で声が漏れないように笑い転げている翠咲なのだ。
『初めまして。翠咲の母です。あら、翠咲、本当にいいお話なのね? まぁー、嬉しいわ』
笑い転げている翠咲に無表情な顔を向けた陽平が、その身体をぎゅうっと抱きしめる。
その仕草に翠咲がドキマギしてしまうと、陽平は嬉しそうな顔になっていた。
「翠咲さんと結婚前提で一緒に住もうという話が出ていまして」
『あら、そうなの。でしたら今週末、お待ちしていますわ』
「お母さん、堅苦しいのはやめてね。私も陽平さんもそういうの、あまり得意じゃないから」
得意ではない、というのは堅苦しくなってしまうと、どこまでも業務になってしまいそうな怖さがあるからだ。
『はいはい』
電話の向こうでくすくす笑っている声が聞こえた。母は翠咲のことがよく分かっているからなのだろう。
その後日程や時間などの打ち合わせをして、翠咲は電話を切った。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
おじさんは予防線にはなりません
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「俺はただの……ただのおじさんだ」
それは、私を完全に拒絶する言葉でした――。
4月から私が派遣された職場はとてもキラキラしたところだったけれど。
女性ばかりでギスギスしていて、上司は影が薄くて頼りにならない。
「おじさんでよかったら、いつでも相談に乗るから」
そう声をかけてくれたおじさんは唯一、頼れそうでした。
でもまさか、この人を好きになるなんて思ってもなかった。
さらにおじさんは、私の気持ちを知って遠ざける。
だから私は、私に好意を持ってくれている宗正さんと偽装恋愛することにした。
……おじさんに、前と同じように笑いかけてほしくて。
羽坂詩乃
24歳、派遣社員
地味で堅実
真面目
一生懸命で応援してあげたくなる感じ
×
池松和佳
38歳、アパレル総合商社レディースファッション部係長
気配り上手でLF部の良心
怒ると怖い
黒ラブ系眼鏡男子
ただし、既婚
×
宗正大河
28歳、アパレル総合商社LF部主任
可愛いのは実は計算?
でももしかして根は真面目?
ミニチュアダックス系男子
選ぶのはもちろん大河?
それとも禁断の恋に手を出すの……?
******
表紙
巴世里様
Twitter@parsley0129
******
毎日20:10更新
恋は襟を正してから-鬼上司の不器用な愛-
プリオネ
恋愛
せっかくホワイト企業に転職したのに、配属先は「漆黒」と噂される第一営業所だった芦尾梨子。待ち受けていたのは、大勢の前で怒鳴りつけてくるような鬼上司、獄谷衿。だが梨子には、前職で培ったパワハラ耐性と、ある"処世術"があった。2つの武器を手に、梨子は彼の厳しい指導にもたくましく食らいついていった。
ある日、梨子は獄谷に叱責された直後に彼自身のミスに気付く。助け舟を出すも、まさかのダブルミスで恥の上塗りをさせてしまう。責任を感じる梨子だったが、獄谷は意外な反応を見せた。そしてそれを境に、彼の態度が柔らかくなり始める。その不器用すぎるアプローチに、梨子も次第に惹かれていくのであった──。
恋心を隠してるけど全部滲み出ちゃってる系鬼上司と、全部気付いてるけど部下として接する新入社員が織りなす、じれじれオフィスラブ。
好きの手前と、さよならの向こう
茶ノ畑おーど
恋愛
数年前の失恋の痛みを抱えたまま、淡々と日々を過ごしていた社会人・中町ヒロト。
そんな彼の前に、不器用ながら真っすぐな後輩・明坂キリカが配属される。
小悪魔的な新人女子や、忘れられない元恋人も現れ、
ヒロトの平穏な日常は静かに崩れ、やがて過去と心の傷が再び揺らぎ始める――。
仕事と恋、すれ違いと再生。
交錯する想いの中で、彼は“本当に守りたいもの”を選び取れるのか。
――――――
※【20:30】の毎日更新になります。
ストーリーや展開等、色々と試行錯誤しながら執筆していますが、楽しんでいただけると嬉しいです。
不器用な大人たちに行く末を、温かく見守ってあげてください。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」
突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。
冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。
仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。
「お前を、誰にも渡すつもりはない」
冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。
これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?
割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。
不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。
これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。
あまやかしても、いいですか?
藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。
「俺ね、ダメなんだ」
「あーもう、キスしたい」
「それこそだめです」
甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の
契約結婚生活とはこれいかに。
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる