極上エリートとお見合いしたら、激しい独占欲で娶られました 俺様上司と性癖が一致しています

如月 そら

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【番外編:雅人くんには分からない】

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『雅人くんには分からないよ』

 そんな声が頭に響いて佐伯雅人さえき まさとは目が覚めた。

 甘さのある端正な顔立ちにくっきりとした二重が特徴の王子様のような雰囲気の持ち主である雅人は、憂いを含んだ目覚めの表情を浮かべて、緩く髪をかき上げる。

(また、この夢か……)
 雅人自身はトラウマとも思っていないはずなのに、何度か見る夢なのだ。雅人は軽くため息をついてベッドから身体を起こす。

 ベッドサイドテーブルのスマートフォンに手を伸ばしてアプリを起動させ、スイッチを押した。するとシャッと音を立てて窓際のブラインドが開いて、朝の光が寝室一杯に入ってくる。

 今住んでいるマンションはいわゆるスマートハウスなので「ブラインド開けて」と言えば開けてくれる仕組みだが、一人の部屋でスマートスピーカーに向かって話しかけるという構図がどうにも微妙な気がして、ついスマートフォンで操作してしまう。

 起き上がって開けにいく手間はないのだし、それで十分だ。
 雅人が住んでいるマンションの部屋は陽光を遮るものがないので、寝室には目一杯の朝日が注ぎ込んでくる。
 それがマンションを購入するときの条件だった。

 ──何が分からないって?
 サイドテーブルのペットボトルの水を飲み、バスルームに向かう途中のキッチンのごみ箱に空のペットボトルを投げ入れ、そのままバスルームに向かう。

 ガラスドアのバスルームのドアを開けて、ヘッドシャワーを思い切り出した。頭の上から最初は水が降り注ぎ一気に頭がはっきりする。

『雅人くんには分からないよ』
 一番最初に言われたのは物心ついてすぐの時期だっただろうから、幼稚園くらいだっただろうか。

 正直に言えば初恋のような淡い気持ちを持っていた彼女に言われて、幼児ながらにがーんとショックを受けた覚えがある。

 その後も何度も言われた。何なら学生の時は言われ続けた。
「ま、佐伯には分かんねーからなぁ」

 友人だと思っていた。そいつの彼女は雅人を見た瞬間、友人を振った。

「どうしても好きなの。付き合ってほしいの」
 雅人は友人がその彼女をどれほど大事にしていたか知っていたから、とてもではないがそんな風に言われたところで、付き合う気にはなれなかった。

 断ってしがみつかれて泣かれていたのを、友人に目撃された。
 違うと伝えたくて友人を追ったら聞こえてきたのだ。

 小学校、中学、高校……とにかく雅人は『雅人には分からない』『佐伯くんには分からない』と言われ続けてきたのだ。

 ──この俺にっ、分からないなんてことあるかよ!

 分からないと言われるのが悔しくて、とにかくひたすらに雅人は勉強をした。ちなみに運動神経もそこそこ良かった。
 方向性が誤っていることに気づいていないのは本人だけだ。

 おかげで生まれつきの顔面最強、さらに成績優秀な他から見たら、天が二物も三物も与えたと言われるほどの大人に成長してしまった。

 結婚式を数日後に控えていた雅人は気分が少し落ち込んでいた。落ち込んでいたからあんな夢を見たのかもしれない。
 結婚式……と言ってもそれは自身のものではない。妹のだ。
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