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【番外編:雅人くんには分からない】
⑥
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「いや、こちらこそ、ついシャワーを……ひどくなくてよかった。その、温かいシャワーを浴びて温まって出てきてくれ。もしも痛みがあるようなら病院に連れて行くので、すぐ言ってほしい。着替えは俺のしかないが、用意しておく」
着替えと言われて、彼女も自分がびしょ濡れにされてしまったことに気づいたらしい。
「あ……」
戸惑って真っ赤になっていた。
「す……みません」
「残業はつけるから。ゆっくりで構わない」
「すみません」
小さな声で何度も謝るので、かわいそうになる。
「俺が悪いから。本当に気にしなくていい。ゆっくりでいいよ」
つい普段通りに話してしまったが、穂乃香に話すように話したら、彼女の緊張も少しだけほどけたようだった。
「ありがとうございます」
「温まって、ゆっくりして」
クライアント先でゆっくりしてもくそもないものだとは思うが、雅人にはそうとしか言えなかった。
バスルームのドアを閉めても、ガラス張りなので中は丸見えだ。脱衣所の鏡に写った自分もシャワーでぐっしょり濡れていて、着替えが必要だと判断する。
バスルームの中の彼女は不安げな表情でこちらを見ていた。雅人がここで脱いだらセクハラだ。
やむなく靴下だけ脱いで、脱衣籠に放り込み、バスタオルを持って寝室に向かうことにした。
寝室でさっさと濡れた服を脱ぎ、彼女の着替えを用意する。
(これって賠償問題か?)
Tシャツと紐付きのハーフパンツを手にして、すぐにそんなことを考えてしまう。
急に声をかけた雅人に過失があるということになれば、ある程度責任が発生する気がした。
(話し合いが必要かもな)
また彼女が休業するとなれば、休業補償も検討しなくてはいけない。
雅人は濡れてしまった彼女の衣類を洗濯している間に話し合うことにした。
コンコンっと大きめにバスルームの入口をノックする。
「は、はぁいっ!」
「ドアの外に着替えをおいておく。洗濯機の使い方は分かっていると思うので濡れた服は洗濯してくれ」
「ありがとうございます」
「着替え終わったらリビングへ来てほしい」
「はい……」
リビングにこわごわ入ってきた彼女を見て、雅人はくらっとした。
(確かに、俺の服ならそうなるか?)
友人には聞いたことがある。
──癖はなくても彼シャツ、彼パはいいぞ。
それは認める……。
ぶかっとした男物の服を着ている女性は妙に艶かしいものがあると。
振り切るように目を逸らし、雅人はソファを指さした。
「まあ、座って」
おずおずと彼女はソファに座る。
そこで雅人は気づいた。
どうしてこんなに怯えているんだろう?
彼女の向かいに座る。
「あのっ!」
彼女は思い切りと言ってもいいくらいに頭を下げた。
「お願いします! クビにしないでください!」
「あ、いや顔を上げて。クビにはしない。先ほども言ったが、君はとてもきちんとしてくれている。その……メニューを書いた紙もいつも楽しみにしていた。ありがとう」
「本当……ですか?」
「それで、非常に申し訳ないんだが、君の……名前を聞いていなくて」
着替えと言われて、彼女も自分がびしょ濡れにされてしまったことに気づいたらしい。
「あ……」
戸惑って真っ赤になっていた。
「す……みません」
「残業はつけるから。ゆっくりで構わない」
「すみません」
小さな声で何度も謝るので、かわいそうになる。
「俺が悪いから。本当に気にしなくていい。ゆっくりでいいよ」
つい普段通りに話してしまったが、穂乃香に話すように話したら、彼女の緊張も少しだけほどけたようだった。
「ありがとうございます」
「温まって、ゆっくりして」
クライアント先でゆっくりしてもくそもないものだとは思うが、雅人にはそうとしか言えなかった。
バスルームのドアを閉めても、ガラス張りなので中は丸見えだ。脱衣所の鏡に写った自分もシャワーでぐっしょり濡れていて、着替えが必要だと判断する。
バスルームの中の彼女は不安げな表情でこちらを見ていた。雅人がここで脱いだらセクハラだ。
やむなく靴下だけ脱いで、脱衣籠に放り込み、バスタオルを持って寝室に向かうことにした。
寝室でさっさと濡れた服を脱ぎ、彼女の着替えを用意する。
(これって賠償問題か?)
Tシャツと紐付きのハーフパンツを手にして、すぐにそんなことを考えてしまう。
急に声をかけた雅人に過失があるということになれば、ある程度責任が発生する気がした。
(話し合いが必要かもな)
また彼女が休業するとなれば、休業補償も検討しなくてはいけない。
雅人は濡れてしまった彼女の衣類を洗濯している間に話し合うことにした。
コンコンっと大きめにバスルームの入口をノックする。
「は、はぁいっ!」
「ドアの外に着替えをおいておく。洗濯機の使い方は分かっていると思うので濡れた服は洗濯してくれ」
「ありがとうございます」
「着替え終わったらリビングへ来てほしい」
「はい……」
リビングにこわごわ入ってきた彼女を見て、雅人はくらっとした。
(確かに、俺の服ならそうなるか?)
友人には聞いたことがある。
──癖はなくても彼シャツ、彼パはいいぞ。
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振り切るように目を逸らし、雅人はソファを指さした。
「まあ、座って」
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そこで雅人は気づいた。
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「あのっ!」
彼女は思い切りと言ってもいいくらいに頭を下げた。
「お願いします! クビにしないでください!」
「あ、いや顔を上げて。クビにはしない。先ほども言ったが、君はとてもきちんとしてくれている。その……メニューを書いた紙もいつも楽しみにしていた。ありがとう」
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「それで、非常に申し訳ないんだが、君の……名前を聞いていなくて」
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