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3.や……やられるっ!
や……やられるっ!②
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「けど……」
「相乗効果ですか?」
「あ、いや。もっとこう思い切ったことができたら面白いのになって。悪くはないんだが、今回のコンペの意図とは外れるかもしれない」
怖い人だと思ったけれど、その真剣な声とアドバイスに意外といい人なの?と美冬は槙野の顔をそっと見る。
「真剣だな」
「え?」
「椿さん」
そんな風に呼ばれて槙野の方からひょいっと顔を覗きこまれた。
先ほどまでは怖いだけだったが、今はとても澄んだその瞳にどきんとする。
だって、今はメリットも何もない美冬の会社のことで真剣になって見てくれている。
「そうですね。いろいろ事情もあるんですけど。今まであまり経営とか考えてこなかったんだなって今回ひしひしと思います。私はミルヴェイユのお洋服が好きなので」
「へえ? どの辺が?」
「金額設定が高いってことは分かっているんです。でもちょっと特別な時に、ちょっと特別なおしゃれがしたいって、絶対にあると思うから。そんな時に気分を上げるファッションであってほしいの。それに価格に見合うだけの作りなんです」
「なるほどな」
槙野は少し口角を上げる。そうしてテーブル越しに美冬を真っ直ぐ見た。
「事情ってのはなんだ?」
「そ……それ、言わなきゃダメですか?」
「言わなきゃダメってことはないが、事情があるなら知ってはおきたいな」
ごくっと唾を飲んで、美冬はここまでの経緯を説明した。
もちろん祖父の条件も。
そして、目の前で爆笑されているのである。
「お前のじいちゃんおもしれーな! 彼氏から結婚って、どれだけお前に結婚してほしいんだよ」
他人事だと思って……。そんなに笑う?
「お前もその条件呑んでまで、ミルヴェイユが大事か?」
笑いを収めた槙野が切り込むように美冬を見つめる。
槙野の鋭い眼はまるで肉食獣のようだ。
本人もきっとそんなことは分かっていて、それも十分に意識した上で交渉に使っているのだろう。
「大事です。私、好きだもん。ミルヴェイユが好き。でも、今回のことで好きってだけでは守れないってことが分かりました。槙野さん助けてくれますか?」
大事かと聞かれて、美冬は迷いなく好きだと答えた。
それが真っ先に心に浮かんできたことだったから。
美冬の企画書を持って立ち上がった槙野が美冬を一瞥して鼻で笑う。
「それなら、いっそ契約婚でもするか?」
突然頭の上から聞こえてきたその言葉に美冬は身体を動かすことができなかった。
──契約婚⁉︎
ドラマやコミックスでは見たことがある。結婚前に様々な条件を決めて婚姻することだ。
契約がある分、利害関係もハッキリしやすい。
「契約婚……?」
それならば、祖父の条件にも当てはまるし、お互いが条件なら面倒も少ないのかも。
悪くはない、と美冬は判断したのだ。
「ま、お前には無理だろうけどな」
そう言った槙野は美冬の顔を見て、ふっと余裕のある笑みを浮かべ、立ち上がり書類を手にして、美冬に背中を向けた。
(行っちゃう!)
美冬はガシッと彼の仕立てのいいスーツを後ろから掴む。
「なんだ?」
その顔は不機嫌そうだ。
「相乗効果ですか?」
「あ、いや。もっとこう思い切ったことができたら面白いのになって。悪くはないんだが、今回のコンペの意図とは外れるかもしれない」
怖い人だと思ったけれど、その真剣な声とアドバイスに意外といい人なの?と美冬は槙野の顔をそっと見る。
「真剣だな」
「え?」
「椿さん」
そんな風に呼ばれて槙野の方からひょいっと顔を覗きこまれた。
先ほどまでは怖いだけだったが、今はとても澄んだその瞳にどきんとする。
だって、今はメリットも何もない美冬の会社のことで真剣になって見てくれている。
「そうですね。いろいろ事情もあるんですけど。今まであまり経営とか考えてこなかったんだなって今回ひしひしと思います。私はミルヴェイユのお洋服が好きなので」
「へえ? どの辺が?」
「金額設定が高いってことは分かっているんです。でもちょっと特別な時に、ちょっと特別なおしゃれがしたいって、絶対にあると思うから。そんな時に気分を上げるファッションであってほしいの。それに価格に見合うだけの作りなんです」
「なるほどな」
槙野は少し口角を上げる。そうしてテーブル越しに美冬を真っ直ぐ見た。
「事情ってのはなんだ?」
「そ……それ、言わなきゃダメですか?」
「言わなきゃダメってことはないが、事情があるなら知ってはおきたいな」
ごくっと唾を飲んで、美冬はここまでの経緯を説明した。
もちろん祖父の条件も。
そして、目の前で爆笑されているのである。
「お前のじいちゃんおもしれーな! 彼氏から結婚って、どれだけお前に結婚してほしいんだよ」
他人事だと思って……。そんなに笑う?
「お前もその条件呑んでまで、ミルヴェイユが大事か?」
笑いを収めた槙野が切り込むように美冬を見つめる。
槙野の鋭い眼はまるで肉食獣のようだ。
本人もきっとそんなことは分かっていて、それも十分に意識した上で交渉に使っているのだろう。
「大事です。私、好きだもん。ミルヴェイユが好き。でも、今回のことで好きってだけでは守れないってことが分かりました。槙野さん助けてくれますか?」
大事かと聞かれて、美冬は迷いなく好きだと答えた。
それが真っ先に心に浮かんできたことだったから。
美冬の企画書を持って立ち上がった槙野が美冬を一瞥して鼻で笑う。
「それなら、いっそ契約婚でもするか?」
突然頭の上から聞こえてきたその言葉に美冬は身体を動かすことができなかった。
──契約婚⁉︎
ドラマやコミックスでは見たことがある。結婚前に様々な条件を決めて婚姻することだ。
契約がある分、利害関係もハッキリしやすい。
「契約婚……?」
それならば、祖父の条件にも当てはまるし、お互いが条件なら面倒も少ないのかも。
悪くはない、と美冬は判断したのだ。
「ま、お前には無理だろうけどな」
そう言った槙野は美冬の顔を見て、ふっと余裕のある笑みを浮かべ、立ち上がり書類を手にして、美冬に背中を向けた。
(行っちゃう!)
美冬はガシッと彼の仕立てのいいスーツを後ろから掴む。
「なんだ?」
その顔は不機嫌そうだ。
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