年下皇子が離れない

ことわ子

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収まらない熱

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「なんか、変……」
「変ってどういう意味だ……?」
「分からない」

 本人が分からないものを俺が分かるはずもなく、室内に微妙な沈黙が流れた。もう終わりにすると言うからてっきり部屋を出ていくのかと思ったが、レクシリルはその場から動かず、俯いていた。
 徐々に荒くなってくる呼吸に不安感を覚え声を掛ける。
 そう言えば、レクシリルは最初から具合が悪そうにしていた。それなのに俺はそんなこともお構いなしにイライラをぶつける様に暴走して、結果レクシリルに負担をかけてしまった。
 とんでもないことをしてしまったと、慌ててレクシリルの具合を見るために額に手を当てようとする。しかし、すぐに振り払われてしまった。
 荒い呼吸は速度を増して、過呼吸になってしまいそうな程だった。

「明世は部屋から出ていって」

 あれだけ自分が出ていく、と、止めても聞かなかったのに反対のことを言い出す。もし、俺に病気が移ることを気にしているのなら余計なお世話だと思った。レクシリルが俺の言うことを聞かなかったように俺もレクシリルの言うことを聞く気は無かった。

「具合悪いんだろ? 俺が看病するから、ベッドで寝とけって。とりあえず、何して欲しい?」
「いいから!」

 初めてレクシリルが声を荒げたところを見た。
 それも、俺に向かって。
 何となく、レクシリルは怒らないと思っていた。
 自分の中に当たり前のように存在していた自惚れを自覚しどんどん恥ずかしくなってくる。
 
 レクシリルは俺のことが好きだから。
 レクシリルは俺のことが好きなはずなのに。

 相手の好意に甘えて、自分の感情をうやむやにした。今思えばルシファザに怖けず尊大な態度を取っていたのも、レクシリルが守ってくれるだろうという驕りからだった。ずっとレクシリルに守られていたのに、それを当たり前のことのように捉えていた。

「…………悪かった」
「明世は悪くない」

 前も聞いたセリフをすぐに返してくる。
 きっとレクシリルの本音だろう。こういうところにも俺は甘えていた。

「いや、悪い……悪いんだよ。自分のことばっかりでレクシリルの話聞こうともしなかった……」
「そんなことない。明世はオレだけじゃなくクレメリッサも――」

 レクシリルの言葉が途中で途切れた。
 少し蹲るような姿勢に、今は喋っている場合ではないと理解する。
 レクシリルが元気になったらもう一度謝ろう。そして、自分の今の素直な気持ちを伝えよう。
 俺はレクシリルのことが嫌いじゃない、と。
 察しの悪いレクシリルには分かってもらえないかもな、と天邪鬼な自分の発言からは目を背ける。
 これが今の俺の限界なのだ。自分の心境の目まぐるしい変化に自分が一番ついていけていない。

「誰か人呼んできた方がいいか?」

 レクシリルは力なく首を横に振る。
 俺がいたとこでなんの役にも立たないかもしれない。そう思い始めた時。

「明世が嫌じゃなかったら、」

 また俺に確認から入る。そうさせてしまったのは自分だと思い至り、苦虫を噛み潰したような気持ちになる。

「なんだ?」
「明世が嫌じゃなかったら、熱収めるの、手伝って」
「分かった! すぐに準備して――」

 言い終わらない内に唇を塞がれた。
 抵抗する間も無く、腰を引き寄せられ、息をすることもままならない。
 密着する身体の間に確かな熱を感じ反射的に逃げ腰になる。しかし、レクシリルの腕はそれを許してはくれず、更に密着することとなった。
 熱を収めるの意味をようやく理解した俺はとんでもないことを二つ返事で了承してしまったと後悔した。しかし、依然辛そうなレクシリルを見て覚悟を決める。

「あのさ、俺……どうしたらいい?」

 穴があったら埋まりたいほど恥ずかしい質問をする。自分でもそれほどする方でもなく、しかもいつも何となくで済ましている為これが正解なのか未だに分かっていない。加えて、男女問わずそっち方面の経験が無いために、本当にどうしたらいいのか分からない。圧倒的に足りない知識量の前に俺はまごついていた。

「触って欲しい」

 レクシリルのお願いに少しだけ安心した。触るだけなら多分俺にもできる。それが気持ちいいかどうかは別として。
 レクシリルは自分で服を脱ぎ始めた。汗で張り付くそれを、煩わしそうに剥がしていく。俺はその様子をただただ眺める。レクシリルのしなやかな肌が露わになっていく度、俺の鼓動も早くなっていった。
 民族衣装の長い裾の下に隠れたそれをなるべく直視しないように手を伸ばす。僅かに触れた瞬間、レクシリルのくぐもった声が室内に響いた。
 気が動転した俺は思わず目線を寄せてしまった。
 こんな時に色々言及するのはどうかしていると思いながらも、自分のものとの差に唖然とする。
 本当に同じ器官なのかと疑いたくなるほどのそれは大きく肥大していた。
 余りの違いに一瞬怯みながら、しかし気を取り直して今度は両手で触れる。俺の体温より遥かに熱い熱がどんどん俺の方に流れてくるような気分がした。

「き、気持ち良いか……?」

 何を聞いているんだと自分を殴りたくなったが、そうでもしないと落ち着かなかった。レクシリルの声は最初の荒っぽいものから、男の俺でもドキドキするような艶っぽいのもに変わってはいたが、それだけでは判断材料が足りず、自信が持てなかった。

「…………キスして欲しい」

 俺の質問には答えず、レクシリルは強請るような声でそう言った。
 俺はどうしたら良いのか分からず、レクシリルの膝の上に跨ると手で扱いながら唇を寄せた。
 レクシリルの長い腕は再び俺を拘束し、シャツの裾から手を滑り込ませてきた。

「ンッ」

 口が閉じていたため恥ずかしい声は出なかったが、鼻から抜ける音だけでも俺が感じてしまったことはバレバレだった。
 背中をなぞられ腰が動く。自分が想定していない身体の動きにパニックになる。
 思わず手に力を込めると今度はレクシリルが喘ぎ声を上げた。そして仕返しのように噛み付くようなキスをされた。
 このままでは俺の方がまずい。
 少し前から自分の中に感じ始めていた熱が行き場をなくしはじめた。
 しかし、レクシリルの熱っぽい瞳は俺を逃してくれる様子はなく、俺も吸い込まれるように唇を寄せる。この気持ち良さを手放したくない。そう思った瞬間、俺の方が先に果てた。
 ビクビクと揺れる俺にレクシリルは一瞬驚き、そして何かを理解したような顔をした後、ぎゅっと眉根を寄せた。
 その一瞬の後、俺の手の中に放たれた熱が広がった。不思議と不快感は無く、それよりも大部分を占める感情があることに気がついた。
 おそらくもう終わった。そう思うのに離れることができない。
 レクシリルの顔を盗み見ると、申し訳なさそうな反省しているような表情をしていた。そんな顔をして欲しくなくて、俺は再び顔を寄せた。
 もう少しで唇が触れる、その手前で両頬を手で覆われた。
 今度はレクシリルは何も聞かなかった。
 俺たちはどちらともなく引き合うように触れるだけのキスをした。
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