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夜を越す
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僅かな揺れに目を覚ますと、海を見渡せる丸い窓から、これまた丸い月が見えた。
ヘイグが帰った後、俺はすぐに呪いに備えて寝ることにした。リュリュに言って用意してもらった食料を食べ、床に転がると、ヘイグの話を聞いて疲れていたせいかすぐに眠ることができた。
しかし、今日一日の睡眠時間が長いせいか、また夜中に目が覚めてしまった。幸い、まだ呪いの不調は見当たらないが、まるで真綿で首を絞められているようなストレスはどんどん溜まっていっている。
あの性格が悪いルシファザのことだ、今もどこかで俺の様子を見て楽しんでいるに違いない。そう思うと態度に出すのは癪に思えて、なんでもないフリをして再び目を瞑った。
一分、十分、一時間。
どちらかと言えば……というより、寝る、ということに関して今まで悩みがなかった俺は、寝れないということがどれだけ苦痛か初めて理解した。目を瞑っていても頭の中はどんどん冴えていき、目の前の闇を埋めるように映像が流れ始める。今まで起こったこと、印象深い出来事、そして、都合の良い妄想。
夜になり、俺を守るためのキスをするために部屋へと戻ってきたレクシリルはもぬけの殻になった光景に何を思うだろうか。リュリュの所へ走っていって問いただすんだろうか。必死な顔で俺を探してくれるだろうか。
そうだったら良いという思いと、そんな顔はして欲しくないという思いが拮抗する。我ながら本当に面倒臭いな、と思う。
自分がこんなに面倒臭い人間だなんて思ってもみなかった。そんな自分に気付けたのもレクシリルのせいでレクシリルのおかげだと思うと、この面倒臭さも大事にしたいと思った。
「…………レクシリル」
名前を呼ぶのはこれで最後にしようと、誰にも聞かれないように呟く。もう会うことは多分ないのだろうな、と漠然と理解すると締め付けられるように胸が痛くなってきた。
違和感に気付いたのはすぐだった。痛みはすぐに骨を伝い、脳をガンガンと揺さぶり始めた。
呪いだ、そう思った時には既に遅く、俺は両足をバタつかせながら呻いていた。今までの比ではない。容赦を無くしたルシファザの呪いはすぐにでも俺を殺そうとしていた。
考えてみればそうだ。ルシファザが俺を殺すことなんて容易く、俺の寿命は彼女の手のひら、機嫌次第なのだ。呪いが現れたということは、俺の動向を見ているのに飽きたのだろう。おもちゃにされるのが癪で何でもないフリをしていたのが完全に仇となった。
「ぐぅ……あ……」
出鱈目に動かしていた足が壁際に置いてあった貨物の木箱に当たる。がしゃんと音を立てて崩れ落ちると中に入っていた缶詰が床に転がった。
ゴロゴロと転がった缶詰はドアに当たり、勢いよく開いたドアによって部屋の隅へと跳ね飛ばされた。
「明世!? どうした!?」
駆け付けてくれたのはヘイグだった。
そう言えば彼は今夜は見張り番だとぼやいていた。そのため船室から離れた倉庫の僅かな物音にも気が付いたのだろう。しかし、駆け付けてくれたところでヘイグが出来ることは何もない。それどころかこの姿を見られたことで下船させられる可能性が出てきてしまった。
「明世!? おい、どうしたんだよ!?」
ヘイグは俺に駆け寄り肩を揺すった。外部からの刺激に痛みは増し、俺は言葉にならない息を吐いた。
「おれ、どうしたらいい……? おれに出来ること……」
想像もしていなかった緊急事態に半ば泣きそうになりながらヘイグは声を振るわせる。呪いに対してヘイグに出来ることは何もない。しかし、この状況を黙っておいてもらうことは出来るかもしれない。
俺は震える手でヘイグを手招きした。今の俺は大きな声が出せないため、顔を近付けるように促す。
「何……?」
ヘイグが俺の声を拾おうと顔を傾けた。
その時。
声がした。
ヘイグが帰った後、俺はすぐに呪いに備えて寝ることにした。リュリュに言って用意してもらった食料を食べ、床に転がると、ヘイグの話を聞いて疲れていたせいかすぐに眠ることができた。
しかし、今日一日の睡眠時間が長いせいか、また夜中に目が覚めてしまった。幸い、まだ呪いの不調は見当たらないが、まるで真綿で首を絞められているようなストレスはどんどん溜まっていっている。
あの性格が悪いルシファザのことだ、今もどこかで俺の様子を見て楽しんでいるに違いない。そう思うと態度に出すのは癪に思えて、なんでもないフリをして再び目を瞑った。
一分、十分、一時間。
どちらかと言えば……というより、寝る、ということに関して今まで悩みがなかった俺は、寝れないということがどれだけ苦痛か初めて理解した。目を瞑っていても頭の中はどんどん冴えていき、目の前の闇を埋めるように映像が流れ始める。今まで起こったこと、印象深い出来事、そして、都合の良い妄想。
夜になり、俺を守るためのキスをするために部屋へと戻ってきたレクシリルはもぬけの殻になった光景に何を思うだろうか。リュリュの所へ走っていって問いただすんだろうか。必死な顔で俺を探してくれるだろうか。
そうだったら良いという思いと、そんな顔はして欲しくないという思いが拮抗する。我ながら本当に面倒臭いな、と思う。
自分がこんなに面倒臭い人間だなんて思ってもみなかった。そんな自分に気付けたのもレクシリルのせいでレクシリルのおかげだと思うと、この面倒臭さも大事にしたいと思った。
「…………レクシリル」
名前を呼ぶのはこれで最後にしようと、誰にも聞かれないように呟く。もう会うことは多分ないのだろうな、と漠然と理解すると締め付けられるように胸が痛くなってきた。
違和感に気付いたのはすぐだった。痛みはすぐに骨を伝い、脳をガンガンと揺さぶり始めた。
呪いだ、そう思った時には既に遅く、俺は両足をバタつかせながら呻いていた。今までの比ではない。容赦を無くしたルシファザの呪いはすぐにでも俺を殺そうとしていた。
考えてみればそうだ。ルシファザが俺を殺すことなんて容易く、俺の寿命は彼女の手のひら、機嫌次第なのだ。呪いが現れたということは、俺の動向を見ているのに飽きたのだろう。おもちゃにされるのが癪で何でもないフリをしていたのが完全に仇となった。
「ぐぅ……あ……」
出鱈目に動かしていた足が壁際に置いてあった貨物の木箱に当たる。がしゃんと音を立てて崩れ落ちると中に入っていた缶詰が床に転がった。
ゴロゴロと転がった缶詰はドアに当たり、勢いよく開いたドアによって部屋の隅へと跳ね飛ばされた。
「明世!? どうした!?」
駆け付けてくれたのはヘイグだった。
そう言えば彼は今夜は見張り番だとぼやいていた。そのため船室から離れた倉庫の僅かな物音にも気が付いたのだろう。しかし、駆け付けてくれたところでヘイグが出来ることは何もない。それどころかこの姿を見られたことで下船させられる可能性が出てきてしまった。
「明世!? おい、どうしたんだよ!?」
ヘイグは俺に駆け寄り肩を揺すった。外部からの刺激に痛みは増し、俺は言葉にならない息を吐いた。
「おれ、どうしたらいい……? おれに出来ること……」
想像もしていなかった緊急事態に半ば泣きそうになりながらヘイグは声を振るわせる。呪いに対してヘイグに出来ることは何もない。しかし、この状況を黙っておいてもらうことは出来るかもしれない。
俺は震える手でヘイグを手招きした。今の俺は大きな声が出せないため、顔を近付けるように促す。
「何……?」
ヘイグが俺の声を拾おうと顔を傾けた。
その時。
声がした。
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