異世界で世界樹の精霊と呼ばれてます

空色蜻蛉

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(第三部)第一章 夏の始まり

04 同級生は正義のヒーロー

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 翌朝、何とか寝坊せずに起きられた樹は遅刻せずに学校に登校した。
 そして教室で待ち構えていた同級生の近藤武こんどうたけしに捕まった。

「各務! どうだって?」

 勢い込んで聞く武は興奮しているのか、肝心の聞く内容がすっぽり抜け落ちている。
 だが樹も昨日今日で渡されたチラシについて忘れるほど耄碌もうろくしていない。
 そこは彼の質問内容を察してあげる。

「サマーキャンプ?」
「そうだよ!」
「あー……」

 親は「行ってきなさい」と言っていた。
 しかし樹は夜、夢で異世界に渡っているのだ。
 同級生たちと泊りがけの旅行に行って、夜中に何かあった時、どう対応すればいいか予想がつかない。ここは断っておいた方が無難だろう。

「……やっぱり駄目だって」
「そんなあ! 各務だけが頼りなのにー!」

 武は眉を下げて目をうるませた。
 なぜか樹にたいそう期待していたようだ。

「他の友達と行けばいいじゃないか」
「嫌味で言ってるのか各務! 俺が友達少ないのを知ってて?」
「え、友達少ないの?」

 何となく教室内の他の生徒を見回してみる。
 目があった同級生は肩をすくめてみせた。うん、何だか分からないけど、それどういう意味だ。
 武は会話がずれてきたのを察知したらしく、強引に軌道修正した。

「うちの学校は中学受験する子が多いからさ、夏休み中は勉強するからサマーキャンプに行けないって」
「ああ、なるほど。僕は公立行くって宣言したもんね」
「そうだよ! 一緒に遊びに行こうぜ、なあ!」

 都会の学校だからか、武の言う通り中学受験する子供が多いようだった。
 このまま一人寂しい夏休みは絶対嫌だと、武は全身で訴えている。
 樹は彼の勢いに気圧されて後ずさった。
 その時、ガラリと扉が開いて、隣のクラスの女子生徒が姿を現した。

「私が一緒に行ってあげるわよ!」
「げっ、山梨朱里やまなしあかり……」

 気の強そうな太い眉の女の子が、両手を腰にあてて仁王立ちしている。
 彼女は長い髪をツインテールに結っており、可愛らしい小柄な体格をしていた。片手の手首に巻いたミサンガには丸っこいカエルのキーホルダーが付いている。
 隣のクラスの山梨朱里は、個性的な生徒として一部で有名である。
 彼女は別のクラスだというのに、ずかずかと遠慮なく樹たちの教室に侵入する。
 武は目を白黒させた。

「い、いや、頼んでないし」
「いじめられている君を、夏休み中、私が守ってあげる! 私は正義のヒーローだから!」
「な、何言ってるの? 俺いじめられてないし……正義のヒーロー?」

 強引に恩を着せられて、武はポカンとする。
 樹は突然の乱入を歓迎した。

「良かったじゃないか、近藤。一緒に行ってくれるって」
「ちょっと待って! 俺は各務に頼んでるのに! というか各務が良いのに!」
「聞き捨てならないわね。正義のヒーローである私よりも、このヒョロ男の方が良いって?!」

 朱里あかりは憤慨して樹を指さした。

「こいつ、絶対いざとなったら、君を見捨てて逃げるわよ」
「各務はそんなことしない!」

 武は樹を弁護して、朱里と睨みあった。
 おそらく昨日、先生から武をかばった件があるから、武は樹を信頼しているのだろう。樹としては、本当に厄介ごとになったら、場合によってはすたこらさっさと逃げる気満々なのだが。

「各務は凄く良い奴だ。この間も俺の落とした消しゴムを拾ってくれたし、給食のエビフライを譲ってくれた。それに理科室の水槽の魚に餌をあげているのを、俺は見た!」
「こ、近藤。消しゴム拾うのは普通だから。エビフライは僕エビが苦手だからだし、魚に餌をやったのは理科の先生に頼まれたからで……」
「何よそのくらい! 私なんかお年寄りに席を譲ったし、財布を拾って交番に届けたわ! あと外国人の観光客を浅草寺に連れていってあげたんだから!……本当は明治神宮に行きたかったみたいだけど」

 なぜか「どっちが良い人か」対決が始まってしまった。
 間に挟まれた樹はどうしようか悩む。

「なら! サマーキャンプで決着を付けましょう。どちらが本当の正義のヒーローなのか」
「各務は絶対に負けない」
「おーい。僕は行かないって……」

 二人の間で決着は付いたようだ。
 樹の意思は無視して話はまとまった。

 キーンコンカンコーン……。

 チャイムが鳴る。
 朱里は「逃げないでね!」と叫ぶと、素早く教室を出て行った。
 まるで嵐が去ったようだ。
 樹はそそくさと席についた。武が恨めしそうな顔で「サマーキャンプ来てくれよ」と念押しするのを聞かない振りをして。



 学生の一日はあっという間に過ぎる。
 学校の授業が終わり、樹は帰途についた。
 自宅に帰ってリビングに入った樹に、母親から声が掛かる。

「あ、樹。山梨さんのお母さんから電話が掛かってきて、サマーキャンプ行きますか?って聞かれたから、行きますって返事しといたわよ」
「何だって?!」
「手続きしておいたからー」

 母親同士の連絡網で、密かに話は進んでしまったらしい。
 外堀を埋められて樹は戦慄した。
 恐るべし、山梨朱里。
 これではサマーキャンプに行くしかないではないか。



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