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(第三部)第一章 夏の始まり
03 精霊の卵
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樹が現場に到着した時、複数の悪魔蛇が次々と精霊の卵を丸のみにしているところだった。卵を飲み込んだ悪魔蛇は、空中に開いた黒い円の中に吸い込まれるように消えていく。
そして黒い円の上空には、一人の少女が八枚の光の翅を広げて立っていた。
少女の長い髪は雪のように白く輝いていた。瞳は柘榴のような真っ赤で、身にまとっている黒いワンピースには銀のアクセサリーが付いている。
「やったわ、大漁よ! これで明日から特大の目玉焼きが食べられる!」
歓声を上げる少女の前に、樹はすたっと飛び降りた。
「そこまでだよ、死の精霊エルル」
魔物を操って、精霊の卵を強奪していたのは、死を司る最高位の精霊であった。以前に顔をあわせたこともあり、樹とは知り合いだ。
彼女の棲みかはここではなく、世界樹から遠く離れた場所、世界の果ての暗い地底にある。
樹が声を掛けると、エルルは魔物を操る手を止めた。
「精霊の卵を、目玉焼きにするって?」
「な、なによ。いいじゃない、これだけ沢山あるのだから、少しくらい」
エルルは精霊の癖に、なぜか魔物を作って同じ精霊を襲う、危険な思想の持ち主だ。
当然のように精霊たちから嫌われている。
樹は彼女と向かい合って、その非道な行為を糾弾した。
「卵は卵でも、精霊の卵を食べるだなんて酷いだろ! 確かにゆで卵は美味しい! スクランブルエッグやだし巻き玉子も大好きだ! オムライスもプリンも最高。だけど、それとこれとは話が別だよ!」
「う……異世界の卵料理は美味しそうね」
死の精霊エルルは樹が別の世界から来ていることを知っていた。
知らない卵料理の名前を聞いて、少し興味が惹かれたようだ。
「精霊の卵を返せ!」
樹の瞳が碧に光った。
世界樹の精霊の力が発動する。
枝に生えた蔓草が伸び上がり、蛇の魔物を拘束する。
蔓草は空に伸びて死の精霊エルルをも捕まえようとしたが、光の翅を広げた彼女は、さっと世界樹の枝から遠ざかる。
「もういいわ! ひとまずこれで勘弁してあげる!」
少女は空中で一回転すると、黒い円の中に飛び込んで姿を消した。どうやら、あの円はワープゲートのようなものらしい。
死の精霊の逃亡を見送った樹の隣に、少し離れて様子を見ていたフクロウのアウルが舞い降りる。
「逃げちゃった……本気で精霊の卵を食べるつもりかな」
『ううむ。死の精霊さまは何をするか分からんからのう……』
「卵を取り戻しに行きたい」
途中で阻止したものの、数個の卵は蛇の魔物もとい、死の精霊に奪われてしまった。
卵を取り戻しに世界樹の外に出たいというと、アウルは困ったように胸の羽を膨らませた。
『無理じゃよ、イツキ。精霊は精神生命体、自然に宿って自然と共生している生き物じゃ。宿っている本体から遠くに離れられん。世界樹の精霊であるお前も一緒じゃ』
「ちょっと待ってよ。なら、死の精霊はどうやってここまで来たのさ」
『死の精霊さまは、この世界で最も古い精霊じゃ。特別な力を持っておる』
異世界に来ているのに、樹はこの世界樹の外に出たことがない。外には人の住む国や、見たことのない世界が広がっているらしい。せっかく空を飛ぶ翅を持っているのに、そこに行くことができないなら意味がないじゃないか。
不満に思って膨れていると、涼しい女性の声が会話に割って入った。
「精霊が本体を離れて移動することは、可能です」
「アスファル」
アスファルは、青いドレスを着て白い髪をポニーテールのように頭の高い位置で結った、女性の精霊だった。背中の翅は六枚。翅の数で精霊の格は決まる。六枚翅は高位の精霊の証だ。
樹とエルルの八枚翅は、それより更に上の力を持つ精霊であることを表している。八枚翅の最高位の精霊は世界に数えるほどしかいない。
「到着が遅れ、卵を守ることができずに申し訳ありません、イツキさま。ご質問についてですが……精霊が本体から離れて活動するには、人間との契約が必要です」
『アスファル、イツキにそれは教えてはならんと』
「最高位の精霊は通常、人間と契約しませんからね」
樹は世界樹から離れる方法があると聞いて顔を輝かせたが、すぐに現実を悟った。
「人間、いないじゃん……」
そうなのだ。
ここ世界樹に住んでいるのは精霊たちと、アウルのような精霊と獣の中間のような霊獣ばかり。
人間は付近に一人も住んでいない。
『諦めるのじゃ、イツキよ……』
「やだっ! 僕は世界樹の外も見てみたいー!」
好奇心旺盛な樹は、子供らしく盛大に駄々をこねた。
アウルがおろおろする。
現実世界でも異世界でも、子供の樹は保護者の管理下に置かれていて、なかなか自由に行動できない。叶うなら、大人の目を盗んで冒険の旅に出かけたいところだ。
そして黒い円の上空には、一人の少女が八枚の光の翅を広げて立っていた。
少女の長い髪は雪のように白く輝いていた。瞳は柘榴のような真っ赤で、身にまとっている黒いワンピースには銀のアクセサリーが付いている。
「やったわ、大漁よ! これで明日から特大の目玉焼きが食べられる!」
歓声を上げる少女の前に、樹はすたっと飛び降りた。
「そこまでだよ、死の精霊エルル」
魔物を操って、精霊の卵を強奪していたのは、死を司る最高位の精霊であった。以前に顔をあわせたこともあり、樹とは知り合いだ。
彼女の棲みかはここではなく、世界樹から遠く離れた場所、世界の果ての暗い地底にある。
樹が声を掛けると、エルルは魔物を操る手を止めた。
「精霊の卵を、目玉焼きにするって?」
「な、なによ。いいじゃない、これだけ沢山あるのだから、少しくらい」
エルルは精霊の癖に、なぜか魔物を作って同じ精霊を襲う、危険な思想の持ち主だ。
当然のように精霊たちから嫌われている。
樹は彼女と向かい合って、その非道な行為を糾弾した。
「卵は卵でも、精霊の卵を食べるだなんて酷いだろ! 確かにゆで卵は美味しい! スクランブルエッグやだし巻き玉子も大好きだ! オムライスもプリンも最高。だけど、それとこれとは話が別だよ!」
「う……異世界の卵料理は美味しそうね」
死の精霊エルルは樹が別の世界から来ていることを知っていた。
知らない卵料理の名前を聞いて、少し興味が惹かれたようだ。
「精霊の卵を返せ!」
樹の瞳が碧に光った。
世界樹の精霊の力が発動する。
枝に生えた蔓草が伸び上がり、蛇の魔物を拘束する。
蔓草は空に伸びて死の精霊エルルをも捕まえようとしたが、光の翅を広げた彼女は、さっと世界樹の枝から遠ざかる。
「もういいわ! ひとまずこれで勘弁してあげる!」
少女は空中で一回転すると、黒い円の中に飛び込んで姿を消した。どうやら、あの円はワープゲートのようなものらしい。
死の精霊の逃亡を見送った樹の隣に、少し離れて様子を見ていたフクロウのアウルが舞い降りる。
「逃げちゃった……本気で精霊の卵を食べるつもりかな」
『ううむ。死の精霊さまは何をするか分からんからのう……』
「卵を取り戻しに行きたい」
途中で阻止したものの、数個の卵は蛇の魔物もとい、死の精霊に奪われてしまった。
卵を取り戻しに世界樹の外に出たいというと、アウルは困ったように胸の羽を膨らませた。
『無理じゃよ、イツキ。精霊は精神生命体、自然に宿って自然と共生している生き物じゃ。宿っている本体から遠くに離れられん。世界樹の精霊であるお前も一緒じゃ』
「ちょっと待ってよ。なら、死の精霊はどうやってここまで来たのさ」
『死の精霊さまは、この世界で最も古い精霊じゃ。特別な力を持っておる』
異世界に来ているのに、樹はこの世界樹の外に出たことがない。外には人の住む国や、見たことのない世界が広がっているらしい。せっかく空を飛ぶ翅を持っているのに、そこに行くことができないなら意味がないじゃないか。
不満に思って膨れていると、涼しい女性の声が会話に割って入った。
「精霊が本体を離れて移動することは、可能です」
「アスファル」
アスファルは、青いドレスを着て白い髪をポニーテールのように頭の高い位置で結った、女性の精霊だった。背中の翅は六枚。翅の数で精霊の格は決まる。六枚翅は高位の精霊の証だ。
樹とエルルの八枚翅は、それより更に上の力を持つ精霊であることを表している。八枚翅の最高位の精霊は世界に数えるほどしかいない。
「到着が遅れ、卵を守ることができずに申し訳ありません、イツキさま。ご質問についてですが……精霊が本体から離れて活動するには、人間との契約が必要です」
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樹は世界樹から離れる方法があると聞いて顔を輝かせたが、すぐに現実を悟った。
「人間、いないじゃん……」
そうなのだ。
ここ世界樹に住んでいるのは精霊たちと、アウルのような精霊と獣の中間のような霊獣ばかり。
人間は付近に一人も住んでいない。
『諦めるのじゃ、イツキよ……』
「やだっ! 僕は世界樹の外も見てみたいー!」
好奇心旺盛な樹は、子供らしく盛大に駄々をこねた。
アウルがおろおろする。
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そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
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