異世界で世界樹の精霊と呼ばれてます

空色蜻蛉

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(第三部)第一章 夏の始まり

05 流星の話

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 樹も一緒にサマーキャンプに参加することになって、近藤少年はとても喜んだ。
 逆に樹はちょっと憂鬱だ。
 時期は梅雨をとっくに明けているが、雨天が続いてくれても良いと思う。夏休みが来てほしくない……というのは、サマーキャンプもそうだが、休みになると夜中にはしゃぐ弟に起こされたりすることが多くなるからだ。
 眠らなければ異世界に渡ることはできない。ということは、徹夜すると異世界には行けないのだ。
 異世界の大樹の上で、動物や精霊たちと遊ぶのは楽しい。樹は毎日夜を心待ちにしていた。

 学生生活の傍ら、異世界に通う日々が続く。
 粛々と夏休みが近づいてきた。
 あれから異世界では、悪魔蛇イビルスネークがちょくちょく世界樹の枝に出没するようになって、精霊たちは困っていた。死の精霊が持ち去った精霊の卵についても、外の世界の精霊たちと連絡をとって行方を追っているが、どうなったかさっぱり分からない。やっぱり目玉焼きにされてしまったんだろうか。

 そうして恐れていた夏休みはやってきてしまった。

 樹は仕方なく母親に準備してもらった鞄を持って、集合場所に向かった。
 サマーキャンプは旅行会社が企画している子供向けツアー旅行で、二泊三日で田舎へ行って川遊びや山登りをする内容になっている。
 
「各務ー! こっちこっち」

 坊主頭に野球帽を載せた近藤武こんどうたけしが、樹に向かって手を振る。
 隣には、でかい蛙の形のリュックサックを背負った山梨朱里やまなしあかりもいた。

「ふん。逃げずに来たようね」
「……逃げ道をふさいだのは君でしょ……」

 樹は小声でぼやいたが、彼女には聞こえていないらしい。
 集合場所に集まった子供は他の学校の生徒も十数人いて、同じ学校出身なのは樹たち三人だけのようだった。必然的に、三人で一緒に行動する流れになりそうだ。
 大人たちの誘導で樹たちはバスに乗せられた。
 サマーキャンプ用貸し切りバスは高速道路に乗り込み、都心を離れて山奥目指してひた走る。
 バスの前の方に立った大人の男性が、ガイド役を買って出てツアーの案内をしている。

「一日目は畑で野菜の収穫体験、二日目は川遊びの予定だよ。二日目の夜は、皆で星空を観察しよう! 今回はちょうど、ペルセウス座流星群を見られるんだぞ!」
「流星?」

 やっぱり夜にイベントがあるのかと、樹はがっかりしながら話を聞く。

「ペルセウス座流星群は、三大流星群のひとつだ。毎年、夏になると空に現れるんだよ。この流星はスイフト・タットルという彗星から生まれる。スウィフト・タットル彗星はずっと同じルートを巡回していて、定期的に地球に近付くんだけど、この軌道が逸れると地球にぶつかるんじゃないかって言われてるんだ」

 男性はそこで解説を切ってニヤリと笑った。

「彗星の軌道がいつずれるかは誰にも分からない。ひょっとすると、今年かもしれないよ。もし彗星が落ちてきたら恐竜絶滅の再現だ。人類は絶滅してしまうだろう」

 ガイド役の男性は大げさな手ぶりで宣言する。
 流星の話がいきなり人類絶滅に飛んで、小学生たちはポカンとした。
 誰かが冷静に反論した。

「何を言ってるんですか、おじさん。そんな急に星が落ちてくる訳ないじゃないですか」
「あはは! そうだなあ。今時のお子さんは現実的だ……」

 どうやら言ってみたかっただけらしい。
 意気消沈した男性は、大人しくバス内に設置されたテレビ画面の電源をONにした。アニメ映画のDVDが再生される。
 その動画に興味が無かった樹は座席にもたれて眠ることにした。
 目が覚めた頃、バスは自然豊かな農村に到着していた。
 同級生と共にバスを降りた樹は額の汗をぬぐう。

「山奥なのに暑い……」

 多少は暑さが緩和されているものの、涼しいとは言いがたかった。
 
「おお! 緑がいっぱい。すっげー!」
「……世界樹ほどじゃないけどね」
「ん? 何か言ったか各務」
「なんでもない」

 都会で生まれ育ったたけしは目を輝かせて周囲を見ている。
 実は異世界で自然には慣れている樹は冷静に田園風景を見渡した。世界樹は人の手の入っていない自然だが、ここはそうではない。苔むした石垣や澄んだ水が流れる側溝は人の手によるものだ。

「さあ、田舎のおじいちゃん、おばあちゃんと一緒に野菜の収穫をしよう!」

 荷物を旅館に置いた樹たちは、地元のボランティアの大人に指導を受けながら、畑に入って野菜を収穫することになった。

「あ、キュウリ、ぽきって折れちゃった」
「茎の部分をハサミで切ってとるんだよ。それにしても、普通は折れないんだけどねえ」

 朱里あかりは乱暴な手つきでキュウリをひねっている。
 周囲の大人が苦笑してその様子を見ていた。
 彼らを尻目に、樹は淡々と収穫したトマトを籠に放り込む。

「僕ら、結局、体よく畑仕事を手伝わされてるよね」
「……各務、手つきがプロだ。かっけー」

 隣で慣れない収穫作業に四苦八苦している武が、樹の手元を見て感心する。
 樹はあっという間にいっぱいになったかごを持って近くの大人に声をかけた。

「すいません、これ、どこに置いてくればいいですか?」
「おっ、摘むのが早いねえ。そうだね、あそこに見える小屋の中に、置いてきてくれるかい?」

 落ち着いた雰囲気の樹には任せて大丈夫だと思ったのか、その男性は指をさして倉庫の場所を教えてくれた。樹は「ありがとうございます」と言って、倉庫に向かった。
 このまましばらく涼しい場所で休憩しようか。
 実は計算高い樹は、炎天下の収穫作業をサボる口実ができたとほくそ笑む。
 倉庫の中に籠を置いていると、壁の外の世間話が聞こえてきた。

「……北野さん家のシロウ君。まだ戻ってないんだって」
「怖いねえ。やっぱりトキ婆さんが言う通り、神隠しなんだろうか」
「神隠しなんて今時、ありえないよ……」

 倉庫の壁は古い造りの土壁だ。
 ひんやりした土壁に背をもたれさせて、樹は世間話の続きに耳を澄ませる。
 何となく内容が気になったが、大人たちは会話を切り上げて農作業に戻っていったらしく、続きの話は聞き取れなかった。


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