異世界で世界樹の精霊と呼ばれてます

空色蜻蛉

文字の大きさ
86 / 97
(第三部)第二章 星に願いを

07 世界樹に降る雨

しおりを挟む
 樹はたけしと雑談したりしながら午後の時間をつぶした。
 夕方、眠れそうだと判断した樹は布団に横になる。
 目を閉じて、朱里あかりのもとに飛ぶ前に、世界樹に寄ろうと思った。
 確かめなければならないことがある。



 世界の間の暗闇を通り抜けると、そこは緑豊かな世界樹の枝の上だった。
 フクロウのアウルはどこにいるだろう。
 会って聞いてみたい。
 もうすぐ会えなくなる、というのは本当かと。

「……」

 樹は光の翅を広げたが、飛び立てずにうつむいた。
 アウルにそれを聞いても大丈夫なのだろうか。
 もし期間限定の異世界人だと、アウルにも断定されてしまったら……どんな顔をして精霊たちと会えばいいのだろう。今まで樹ばかりが蚊帳かやの外だったのだ。

「分からないよっ! 聞いていいのかどうかも……」

 やけくそに枝を蹴って上昇する。
 がむしゃらに世界樹の天辺まで飛んでみた。
 世界樹の頂上からはどこまでも続く雲海が見渡せる。
 八枚の光の翅を広げて浮遊しながら、樹は異世界の美しく幻想的な光景を眺めた。
 風は冷たいが太陽の光は柔らかい。青々としげる世界樹の葉が風に揺れるたびに、涼やかな音色を奏でる。赤や青の原色の鳥たちが群れをなして空を飛んでいる。時折、精霊や霊獣が、枝と枝の間を行き来していた。

 世界樹の精霊としての樹はここで生まれた。
 皆と同じように精霊の卵から出てきたのだと聞いている。フクロウのアウルに、飛び方を教えてもらった記憶がある。この世界樹の天辺から見渡せる雲海は、見慣れた光景だった。
 幼い頃、何も知らない頃は、自分が世界樹の精霊として生まれたことを、当たり前のように自然に受け入れていた。けれど地球で知識を付け、ここが異世界だと知るごとに、自分と世界樹との距離は開いていく気がする。

『どうしたのですか?』

 無言で世界樹の天辺に立ち尽くす樹に気付いたのか、声が掛かった。
 振り向くとそこには、白いレースのような尾びれをなびかせて、タツノオトシゴのような姿の竜が空を泳いでいた。

「ヨナ」

 世界樹の枝に住む古竜の名前を、樹は呼んだ。
 皆は様付けで呼んでいるが、最高位の精霊である樹は呼び捨てでも良いと言われている。

「僕は大人になったら、ここにこれなくなってしまうの?」

 樹は心に秘めていた問を、ヨナに投げつけた。
 白い小さな古竜は少し間を置いて、答える。

『……その通りです』
「!」
『異世界の人間の子供である貴方が、世界樹の精霊でいられるのは、いっときの間だけ」

 ヨナの答えに、樹は悔しさや怒りを覚えた。

「なんで、教えてくれないのさ! 精霊武器のことも、人間との契約のことも! 僕のことなんてどうでもいいの?」
『違います。アウルは貴方が大切だからこそ、教えなかったのです!』

 常に静かなヨナが語尾を強めて言ったので、樹は驚いて言葉を失った。
 
『貴方に最後まで何も気にせずに楽しく過ごしてほしい、と。アウルの望みはただそれだけです。貴方には可能であれば、長く長く、世界樹にいてほしい。それが私たちの想いです』
「……」
『どうか、アウルを責めないでやってください』

 古竜ヨナはそう告げると、世界樹の枝の中にさっと姿を消した。
 
「……本当のことを言ったら、皆が傷つく……」

 異世界の人間の子供である樹が、この世界にずっといられないのは当然の道理で、くつがえせない世界の理なのだ。駄々をこねて皆を困らせるのは、きっとよくない。
 樹は拳を握りしめる。
 荒立つ心と呼応するように世界樹の枝がざわざわと鳴り、葉の先から小さな水滴が降り始めた。

『おおう、雨じゃ! イツキや、何か悲しいことがあったのか?』

 茶色い翼を広げて、フクロウのアウルが上昇してくる。
 
「……学校でね。ちょっと色々あったんだよ」

 樹は涙をぬぐうとアウルに向かって笑ってみせた。
 水滴がこぼれ続ける世界樹に下降する。

『ふーむ。ところでイツキ、昨日はどこに行っておったんじゃ』
「秘密!」
『なんと……』

 アウルは子供の反抗期に困り果てた親のように、考えあぐねてくちばしをカチカチ鳴らした。
 樹は構わずに話を強引に進める。

「今から外出するけど、内緒ね」
『イツキや、内緒とは……』
「じゃっ!」

 説教されないうちに、樹は精霊の力を使って外界に飛んだ。
 一時的に契約している朱里の気配をたどる。
 死の精霊が待つ地底の世界へ、樹は瞬間移動した。

しおりを挟む
感想 142

あなたにおすすめの小説

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“  瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  だが、死亡する原因には不可解な点が…  数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、 神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。