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(第二部)第四章 光と闇
03 蛙の合唱
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地上に降りた白い竜。
樹達が飛び降りると、白い竜はポンと音を立てて煙になった。
煙の中から白い小さなイタチが現れる。六枚の光の翅を広げ、イタチはふよふよ空中を浮遊した。
『おーやぶーん、おいら自分でこの姿に戻れるようになったんだぜ! 褒めて褒めて!』
「僕のことを親分と言うなと、何回言ったら分かるんだ」
樹は浮遊するイタチの首根っこを摘まんで揺らしながら、片手で眼鏡をかけ直した。同時に自分も開きっぱなしだった光の翅を消す。
ソフィーは森を見渡して呆然としている。
「どっちに行ったらいいか、分からないですぅ」
「おいおい、君の故郷だろ?!」
「だって随分変わっちゃってて……ふええ」
泣きそうになったソフィーに、突っ込みを入れた英司が慌てた。
森は静かでうっすら霧が掛かっている。
奥を見通そうとしても、同じような木々が続くばかりだ。
『イツキ、ここにおったか』
「アウル」
羽音がして、フクロウが降りてくる。
フクロウは樹が伸ばした腕に止まり、定位置の肩に移動した。
『オレイリアの森は封鎖されておる』
「やっぱり結界が張られてるのか」
『左様。数十年以上前に、何者も通さない強い結界をエルフ達が張り巡らしたそうじゃ。出入りできるのは精霊だけじゃが、精霊さえも迷うくらい複雑な迷路となっておる』
「僕も精霊だが……中途半端に人間の身体を持ってるから入れそうにないな。中に行く方法は無いのか」
『完全に内と外を遮断しておるのう。エルフも外から入れん』
「むう」
樹は腕組みした。
ここまで来たのに森の中のエルフに会えないとは、どうしたものか。
悩んでいると、辺りを見回していた英司が声を上げた。
「あ、なんかあっちに煙が」
英司が指す方向には白い煙が上がっている。
『あそこには、温かい水が湧く泉があるからのう』
「温かい泉……って温泉?!」
人間が煮炊きをして出している煙ではなく、自然の現象らしい。フクロウの言葉を聞いた地球生まれの三人は、顔を見合わせた。
「お風呂、入りたい」
詩乃が切実な声で言う。
男子二人は無言になった。ただソフィーだけがよく分からないので首を傾げている。
「おんせん?」
結局、エルフの里は逃げないし、温泉を見に行こうという話になった。
湯煙の方向へ斜面を上がっていく。
そこには滝壺のような場所があり、冷水の代わりに湯が流れていた。
人体に有害な水では無さそうだ。
安全だと分かった途端、詩乃がソフィーを引っ張ってお湯に入りたいと主張した。
「私、ソフィーちゃんと温泉に入ってくる! あんたたち、覗かないでよ」
「誰が覗くか!」
こうして女性二人は温泉に浸かることになり、樹と英司は温泉の下流で何かあったら動けるように待機することになった。
周囲に危険な気配も無さそうなので、樹は靴を脱いで素足を水に浸す。
上流から温水が流れてくるので気分は足湯だ。隣で英司も同じことをしている。
ちなみにフクロウは羽毛が湿気ると飛べなくなるからと、温水から離れた場所へアルファード王子と共に移動した。
お湯に入る文化が無いエターニアで生まれ育った王子は、温水に入るのが怖いらしい。さりとて、樹達から離れて森を歩くのは無謀だという分別はある。王子は樹達から少し距離を置いた場所で岩の上に座って暇そうにしていた。フクロウのアウルが王子の様子を見守っている。
無邪気なイタチの精霊は水に入ってバシャバシャ遊んでいる。
「……そういえば、詩乃さんは猫を抱えて入浴しにいったが、ラームの性別は」
「?」
「いや、いい。英司が知らなくても良い真実が世の中にはある……」
樹は湯気で眼鏡が曇るので、眼鏡を外して荷物の上に置く。
足湯のおかげで、二人とも常に無くリラックスモードになっている。上流の方から聞こえてくる女子の声に耳を澄ませながら、英司は眠そうな表情だ。
「なあ、樹。お前はいつぐらいから異世界来てたんだ? ちなみに俺は中学の頃」
「んー。僕は物心つく前から、かな。来てたと言っても精霊の世界だから、英司とは違うんだが」
「は? 物心つく前って赤ん坊じゃねえか」
「僕は生まれた時から、精霊としてこの世界にいたんだ」
苔むした岩に座って上を見上げる。
どこまでも深い緑が日光を遮っている。
異世界に生まれて初めて見た空もこんなだっただろうか、と樹は思った。
実際には記憶はおぼろで、精霊として過ごした十数年の思い出はとびとびにしか思い出せない。
樹の思い出は、いつも森の中で他の精霊達と遊んでいるシーンから始まる。
フクロウのアウルがいて、小さな精霊たちに囲まれて。木々の間を飛び回ったり、悪戯をしたり。ひたすら楽しかったと思う。
ぼうっとしていると、水場からゲコゲコと蛙の鳴き声がした。
『ゲコゲコ、イツキ様だ!』
『本当だー、初めて見た!』
『拝もうか?』
『歌おうか?』
『ゲーコゲーコ!』
水流の中に突きだした岩に、蛙が並んで鳴いている。
貯金箱くらいの大きさの蛙には二枚の光の翅。
どうやらこの水場の精霊らしい。
「君達、拝まないでいいし、歌わなくていいから。というか、歌……?」
ゲコゲコ合唱する蛙の精霊達に樹は苦笑する。
『だってー、初めて見たから興奮するー』
『生命の精霊様! 近くにいるだけで身体が暖まるー』
『めでたいゲコ!』
蛙の群れがピョンピョン跳び跳ねる。
ちょっとしたカオスになっている蛙達を眺めていた樹は、はっと思い付いた。これだけ精霊がいれば、何とかなるのではないか。
「君達、頼みがある。この森に住んでるエルフのところに行ける子はいるか?」
『エルフ?』
『知ってるゲコ!』
『エルフの女の子はたまに胡瓜をくれるゲコ!』
「じゃあ、僕らがここにいることをエルフに伝えてくれるかな?」
『任せてゲコ!』
騒々しい蛙達は「世界樹の精霊様の頼みなら!」と喜び勇んで散っていった。樹はこれで静かになったし一石二鳥だとほくそ笑む。
「お前はしれっと他の奴を顎で使うよなー。お前に頼まれると不思議と嫌な気分にはならないから、別にいいけど」
様子を見ていた英司が呆れたように呟いた。
樹は答えずに素足で水をゆっくりかき回す。
水面で飛び魚のようにイタチの精霊が跳ねるのを見物しながら。
樹達が飛び降りると、白い竜はポンと音を立てて煙になった。
煙の中から白い小さなイタチが現れる。六枚の光の翅を広げ、イタチはふよふよ空中を浮遊した。
『おーやぶーん、おいら自分でこの姿に戻れるようになったんだぜ! 褒めて褒めて!』
「僕のことを親分と言うなと、何回言ったら分かるんだ」
樹は浮遊するイタチの首根っこを摘まんで揺らしながら、片手で眼鏡をかけ直した。同時に自分も開きっぱなしだった光の翅を消す。
ソフィーは森を見渡して呆然としている。
「どっちに行ったらいいか、分からないですぅ」
「おいおい、君の故郷だろ?!」
「だって随分変わっちゃってて……ふええ」
泣きそうになったソフィーに、突っ込みを入れた英司が慌てた。
森は静かでうっすら霧が掛かっている。
奥を見通そうとしても、同じような木々が続くばかりだ。
『イツキ、ここにおったか』
「アウル」
羽音がして、フクロウが降りてくる。
フクロウは樹が伸ばした腕に止まり、定位置の肩に移動した。
『オレイリアの森は封鎖されておる』
「やっぱり結界が張られてるのか」
『左様。数十年以上前に、何者も通さない強い結界をエルフ達が張り巡らしたそうじゃ。出入りできるのは精霊だけじゃが、精霊さえも迷うくらい複雑な迷路となっておる』
「僕も精霊だが……中途半端に人間の身体を持ってるから入れそうにないな。中に行く方法は無いのか」
『完全に内と外を遮断しておるのう。エルフも外から入れん』
「むう」
樹は腕組みした。
ここまで来たのに森の中のエルフに会えないとは、どうしたものか。
悩んでいると、辺りを見回していた英司が声を上げた。
「あ、なんかあっちに煙が」
英司が指す方向には白い煙が上がっている。
『あそこには、温かい水が湧く泉があるからのう』
「温かい泉……って温泉?!」
人間が煮炊きをして出している煙ではなく、自然の現象らしい。フクロウの言葉を聞いた地球生まれの三人は、顔を見合わせた。
「お風呂、入りたい」
詩乃が切実な声で言う。
男子二人は無言になった。ただソフィーだけがよく分からないので首を傾げている。
「おんせん?」
結局、エルフの里は逃げないし、温泉を見に行こうという話になった。
湯煙の方向へ斜面を上がっていく。
そこには滝壺のような場所があり、冷水の代わりに湯が流れていた。
人体に有害な水では無さそうだ。
安全だと分かった途端、詩乃がソフィーを引っ張ってお湯に入りたいと主張した。
「私、ソフィーちゃんと温泉に入ってくる! あんたたち、覗かないでよ」
「誰が覗くか!」
こうして女性二人は温泉に浸かることになり、樹と英司は温泉の下流で何かあったら動けるように待機することになった。
周囲に危険な気配も無さそうなので、樹は靴を脱いで素足を水に浸す。
上流から温水が流れてくるので気分は足湯だ。隣で英司も同じことをしている。
ちなみにフクロウは羽毛が湿気ると飛べなくなるからと、温水から離れた場所へアルファード王子と共に移動した。
お湯に入る文化が無いエターニアで生まれ育った王子は、温水に入るのが怖いらしい。さりとて、樹達から離れて森を歩くのは無謀だという分別はある。王子は樹達から少し距離を置いた場所で岩の上に座って暇そうにしていた。フクロウのアウルが王子の様子を見守っている。
無邪気なイタチの精霊は水に入ってバシャバシャ遊んでいる。
「……そういえば、詩乃さんは猫を抱えて入浴しにいったが、ラームの性別は」
「?」
「いや、いい。英司が知らなくても良い真実が世の中にはある……」
樹は湯気で眼鏡が曇るので、眼鏡を外して荷物の上に置く。
足湯のおかげで、二人とも常に無くリラックスモードになっている。上流の方から聞こえてくる女子の声に耳を澄ませながら、英司は眠そうな表情だ。
「なあ、樹。お前はいつぐらいから異世界来てたんだ? ちなみに俺は中学の頃」
「んー。僕は物心つく前から、かな。来てたと言っても精霊の世界だから、英司とは違うんだが」
「は? 物心つく前って赤ん坊じゃねえか」
「僕は生まれた時から、精霊としてこの世界にいたんだ」
苔むした岩に座って上を見上げる。
どこまでも深い緑が日光を遮っている。
異世界に生まれて初めて見た空もこんなだっただろうか、と樹は思った。
実際には記憶はおぼろで、精霊として過ごした十数年の思い出はとびとびにしか思い出せない。
樹の思い出は、いつも森の中で他の精霊達と遊んでいるシーンから始まる。
フクロウのアウルがいて、小さな精霊たちに囲まれて。木々の間を飛び回ったり、悪戯をしたり。ひたすら楽しかったと思う。
ぼうっとしていると、水場からゲコゲコと蛙の鳴き声がした。
『ゲコゲコ、イツキ様だ!』
『本当だー、初めて見た!』
『拝もうか?』
『歌おうか?』
『ゲーコゲーコ!』
水流の中に突きだした岩に、蛙が並んで鳴いている。
貯金箱くらいの大きさの蛙には二枚の光の翅。
どうやらこの水場の精霊らしい。
「君達、拝まないでいいし、歌わなくていいから。というか、歌……?」
ゲコゲコ合唱する蛙の精霊達に樹は苦笑する。
『だってー、初めて見たから興奮するー』
『生命の精霊様! 近くにいるだけで身体が暖まるー』
『めでたいゲコ!』
蛙の群れがピョンピョン跳び跳ねる。
ちょっとしたカオスになっている蛙達を眺めていた樹は、はっと思い付いた。これだけ精霊がいれば、何とかなるのではないか。
「君達、頼みがある。この森に住んでるエルフのところに行ける子はいるか?」
『エルフ?』
『知ってるゲコ!』
『エルフの女の子はたまに胡瓜をくれるゲコ!』
「じゃあ、僕らがここにいることをエルフに伝えてくれるかな?」
『任せてゲコ!』
騒々しい蛙達は「世界樹の精霊様の頼みなら!」と喜び勇んで散っていった。樹はこれで静かになったし一石二鳥だとほくそ笑む。
「お前はしれっと他の奴を顎で使うよなー。お前に頼まれると不思議と嫌な気分にはならないから、別にいいけど」
様子を見ていた英司が呆れたように呟いた。
樹は答えずに素足で水をゆっくりかき回す。
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