49 / 97
(第二部)第四章 光と闇
04 温泉をめぐるあれこれ
しおりを挟む
アルファードは裕福の代名詞のような王族の生まれだが、お湯に入ったことはない。
だから彼は樹達の行動に大いに戸惑っていた。
アルファードにとっては、このメンバーの中で信頼出来るのは詩乃だけだ。しかし彼女は入浴に行ってしまった。女性の入浴を覗く訳にはいかない。樹と英司は温水の川に入って雑談している。見ず知らずの彼等に混ざって会話するのは、少々勇気が要る。
仕方なく、アルファードは彼等から少し離れたところで座り込む。
近くの枝でフクロウが羽繕いをしている。
「……暇そうだな」
川から上がってきた樹が声を掛けてくる。
「僕は王子だぞ。気安く話しかけるな」
アルファードは精一杯威嚇したが樹には当然、通用しない。
「王子がどうした。精霊の僕には関係ない」
碧の瞳の青年はそう言って、アルファードの腕の中に、胴の長い白い毛並みの生き物を押し込んだ。
「何これ?」
「イタチだ。ネコ目イタチ属に含まれる哺乳類。暴れるからしっかり持て」
『おやぶーん、酷いっすー!』
「放って置くと蛙や魚を襲って食べ始めるから、君に見張って欲しい」
強引に押し付けられたイタチは腕の中で暴れたが、それほど力は強くない。長い胴がうねうねして滑らかな毛並みが手に心地よい。
アルファードはイタチの触り心地に目を輝かせた。
「仕方ないな! 僕に任せろ」
『おい子供、もっと丁寧に扱えよ。そこ、そこ撫でてー。うひょひょ』
イタチの精霊クレパスを撫で回す少年の姿に、樹はひっそり笑みを浮かべる。詩乃が抱える猫をガン見している王子の姿に、動物が好きかと思ったが当たりだったようだ。ちょろい。
一方の女性陣、詩乃とソフィーは服を脱いで温泉に浸かっていた。
ソフィーは初めての温泉に最初戸惑っていたが、暖かい水に入ると気持ち良いことに気付いて、すっかりまったりしている。彼女は肩より少し長い金髪を邪魔にならないよう、ひとつにまとめて肩に流していた。
彼女の金髪を見て、不意に詩乃は、自分も髪が伸びたなと思った。
詩乃の髪は日本人の平均からするとやや明るい色だ。
伸びた毛先をいじりながら呟く。
「……樹君って真面目そうだから、覗きとかしなさそうだよね」
詩乃は身体を洗いながら下流の様子を伺う。
このメンバーの中で樹と詩乃は出会ったばかりで、お互いのことをよく知らない。
「見られたら何かマズイんですかぁ?」
ソフィーが無邪気に疑問を口にする。
「マズイかと言われたら、そりゃマズイというか……」
「おばあ様が、好きな男の子には裸で抱き付くと、好きになってもらえるって言ってました!」
「え、えらく積極的なおばあ様ね」
詩乃は顔を引きつらせる。
しかし、ソフィーの理屈で考えると。
「隠す意味ってあるのかしら……売り言葉に買い言葉で、頼まれたって覗くかって英司は言ってたけど。うう……」
「??」
「何でもない」
赤い顔を隠すように詩乃はお湯をかぶる。
近くの岩の上で背を向けていた猫が呆れたように尻尾を振って「にゃあ」と鳴いた。
覗いても本気で怒られない関係なのに覗きにいかない律儀な男子二人に、これ以上恋愛ストーリーが発展することもなく夜になるのであった。
結局、樹達一行は、温泉の近くで一晩野営することにした。
夜、詩乃は何となく眠れずにテントを抜け出した。
男女別のテントで、一緒に眠っていたソフィーは詩乃の行動に気付かず寝入っている。
夜の森は月明かりに照らされて意外に明るかった。
森に入っていくほど豪胆ではない詩乃は、テントから数歩の場所で、ただぼんやりと月を見上げた。
あんなに話したいと思っていたのに、機会がなくて英司とじっくり話せていない。異世界に来てから英司は何か隠し事があるようで、詩乃を避けている風でもある。
物思いに耽っていた詩乃の髪をさらさらと風が揺らした。
夜の風を冷たく感じて上着を引き寄せる。
ふと、詩乃は見上げた月の異変に気付く。
「月が、赤い……?」
先ほどまで薄いレモン色だった月が、不穏な色に変化していた。赤いインクを水面に落としたように、月面が揺らいで血の色に染まっていく。
ざっと強い風が吹き、鳥か何かの羽音が響いた。
木々の影から白い靄が現れる。
靄は直立歩行する白い人影に変わった。
「何なの……?!」
驚いた詩乃は後ずさる。
小石を踏んだ彼女の足音が、夜の森にやけに大きく響いた。
木々の間を歩いていた白い人影が詩乃に気付いたように振り返る。目も口も無いにも関わらず、彼等は詩乃を見た。
「こ、来ないで」
白い人影は詩乃に近付いてくる。
冷気を伴った腕をゆっくり伸ばす白い人影。
その腕が彼女に触れる前に、銀光の刃が閃いた。
「ストップ。これ以上は駄目だ」
静かな声が耳元を通りすぎる。
「樹君……?」
振り返った先には流麗な長剣を手にした青年の姿があった。
赤い月の下にも関わらず、その剣は清らかな碧の光を帯びている。今は眼鏡をしていない樹の瞳が鮮やかな翠玉の色に輝いた。
刃の先で白い人影が立ち止まる。
樹が醸し出す静かな威圧感を前に、こちらに寄って来ようとした複数の白い人影は、一定の距離を置いて戸惑ったように足踏みした。
だから彼は樹達の行動に大いに戸惑っていた。
アルファードにとっては、このメンバーの中で信頼出来るのは詩乃だけだ。しかし彼女は入浴に行ってしまった。女性の入浴を覗く訳にはいかない。樹と英司は温水の川に入って雑談している。見ず知らずの彼等に混ざって会話するのは、少々勇気が要る。
仕方なく、アルファードは彼等から少し離れたところで座り込む。
近くの枝でフクロウが羽繕いをしている。
「……暇そうだな」
川から上がってきた樹が声を掛けてくる。
「僕は王子だぞ。気安く話しかけるな」
アルファードは精一杯威嚇したが樹には当然、通用しない。
「王子がどうした。精霊の僕には関係ない」
碧の瞳の青年はそう言って、アルファードの腕の中に、胴の長い白い毛並みの生き物を押し込んだ。
「何これ?」
「イタチだ。ネコ目イタチ属に含まれる哺乳類。暴れるからしっかり持て」
『おやぶーん、酷いっすー!』
「放って置くと蛙や魚を襲って食べ始めるから、君に見張って欲しい」
強引に押し付けられたイタチは腕の中で暴れたが、それほど力は強くない。長い胴がうねうねして滑らかな毛並みが手に心地よい。
アルファードはイタチの触り心地に目を輝かせた。
「仕方ないな! 僕に任せろ」
『おい子供、もっと丁寧に扱えよ。そこ、そこ撫でてー。うひょひょ』
イタチの精霊クレパスを撫で回す少年の姿に、樹はひっそり笑みを浮かべる。詩乃が抱える猫をガン見している王子の姿に、動物が好きかと思ったが当たりだったようだ。ちょろい。
一方の女性陣、詩乃とソフィーは服を脱いで温泉に浸かっていた。
ソフィーは初めての温泉に最初戸惑っていたが、暖かい水に入ると気持ち良いことに気付いて、すっかりまったりしている。彼女は肩より少し長い金髪を邪魔にならないよう、ひとつにまとめて肩に流していた。
彼女の金髪を見て、不意に詩乃は、自分も髪が伸びたなと思った。
詩乃の髪は日本人の平均からするとやや明るい色だ。
伸びた毛先をいじりながら呟く。
「……樹君って真面目そうだから、覗きとかしなさそうだよね」
詩乃は身体を洗いながら下流の様子を伺う。
このメンバーの中で樹と詩乃は出会ったばかりで、お互いのことをよく知らない。
「見られたら何かマズイんですかぁ?」
ソフィーが無邪気に疑問を口にする。
「マズイかと言われたら、そりゃマズイというか……」
「おばあ様が、好きな男の子には裸で抱き付くと、好きになってもらえるって言ってました!」
「え、えらく積極的なおばあ様ね」
詩乃は顔を引きつらせる。
しかし、ソフィーの理屈で考えると。
「隠す意味ってあるのかしら……売り言葉に買い言葉で、頼まれたって覗くかって英司は言ってたけど。うう……」
「??」
「何でもない」
赤い顔を隠すように詩乃はお湯をかぶる。
近くの岩の上で背を向けていた猫が呆れたように尻尾を振って「にゃあ」と鳴いた。
覗いても本気で怒られない関係なのに覗きにいかない律儀な男子二人に、これ以上恋愛ストーリーが発展することもなく夜になるのであった。
結局、樹達一行は、温泉の近くで一晩野営することにした。
夜、詩乃は何となく眠れずにテントを抜け出した。
男女別のテントで、一緒に眠っていたソフィーは詩乃の行動に気付かず寝入っている。
夜の森は月明かりに照らされて意外に明るかった。
森に入っていくほど豪胆ではない詩乃は、テントから数歩の場所で、ただぼんやりと月を見上げた。
あんなに話したいと思っていたのに、機会がなくて英司とじっくり話せていない。異世界に来てから英司は何か隠し事があるようで、詩乃を避けている風でもある。
物思いに耽っていた詩乃の髪をさらさらと風が揺らした。
夜の風を冷たく感じて上着を引き寄せる。
ふと、詩乃は見上げた月の異変に気付く。
「月が、赤い……?」
先ほどまで薄いレモン色だった月が、不穏な色に変化していた。赤いインクを水面に落としたように、月面が揺らいで血の色に染まっていく。
ざっと強い風が吹き、鳥か何かの羽音が響いた。
木々の影から白い靄が現れる。
靄は直立歩行する白い人影に変わった。
「何なの……?!」
驚いた詩乃は後ずさる。
小石を踏んだ彼女の足音が、夜の森にやけに大きく響いた。
木々の間を歩いていた白い人影が詩乃に気付いたように振り返る。目も口も無いにも関わらず、彼等は詩乃を見た。
「こ、来ないで」
白い人影は詩乃に近付いてくる。
冷気を伴った腕をゆっくり伸ばす白い人影。
その腕が彼女に触れる前に、銀光の刃が閃いた。
「ストップ。これ以上は駄目だ」
静かな声が耳元を通りすぎる。
「樹君……?」
振り返った先には流麗な長剣を手にした青年の姿があった。
赤い月の下にも関わらず、その剣は清らかな碧の光を帯びている。今は眼鏡をしていない樹の瞳が鮮やかな翠玉の色に輝いた。
刃の先で白い人影が立ち止まる。
樹が醸し出す静かな威圧感を前に、こちらに寄って来ようとした複数の白い人影は、一定の距離を置いて戸惑ったように足踏みした。
8
あなたにおすすめの小説
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
幼馴染の勇者が一般人の僕をパーティーに入れようとするんですが
空色蜻蛉
ファンタジー
羊飼いの少年リヒトは、ある事件で勇者になってしまった幼馴染みに巻き込まれ、世界を救う旅へ……ではなく世界一周観光旅行に出発する。
「君達、僕は一般人だって何度言ったら分かるんだ?!
人間外の戦闘に巻き込まないでくれ。
魔王討伐の旅じゃなくて観光旅行なら別に良いけど……え? じゃあ観光旅行で良いって本気?」
どこまでもリヒト優先の幼馴染みと共に、人助けそっちのけで愉快な珍道中が始まる。一行のマスコット家畜メリーさんは巨大化するし、リヒト自身も秘密を抱えているがそれはそれとして。
人生は楽しまないと勿体ない!!
◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。
レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした
桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。