61 / 97
(第二部)第五章 君に贈る花束
04 魔界にて
しおりを挟む
酷い喉の渇きと目眩で、アルスは今にも死にそうな気分を味わっていた。
アルスは人ではなく魔族、吸血鬼に属している。吸血鬼という種族ならではの人間の女性を誘惑する甘い美貌は、長期間血を飲んでいないせいで陰っていた。紅茶色の長髪は乱れて散っている。
樹と再会した後、アルスは一旦魔界に帰った。
魔界にいずれ訪れるであろう樹を迎える準備をしようとしていたのだが、魔王に見つかってしまった。
現在の魔王であり、魔族にとって神にも等しい死の精霊エルルは、アルスを裏切者だと罵って、魔力を封じる鎖に繋ぎ、魔王城の牢獄に閉じ込めた。アルスは捕まってから血を飲めずに飢えている。
「……イツキ殿に、伝えなければ」
死の精霊エルルの企みを。
暗い牢獄の空気は淀んでいる。鎖で手足が動かせない。牢獄の見張りで醜いオークが立っている。オークは人間より一回り大きい、豚の顔をした鬼属のモンスターで魔族の一種だ。
オークは弱っているアルスを見て鼻を鳴らした。
「吸血鬼のお貴族様がざまあねえなあ、おい」
「……」
「魔王様もいないし、ぶひひ。今なら邪魔なお貴族様を片付けられるかも?」
ニヤリと笑ったオークが近付いてくる。
普段なら格下の魔物の無礼は許さないところだが、今のアルスは弱っている上に鎖で動けない。
黒く錆び付いた斧を持ったオークが迫る。
「ぶひひ……」
「……ちょっと、君」
唐突に、場違いなほど澄んだ青年の声がその場に響いた。
「そいつは僕の獲物なんだよ。譲ってくれないか」
「は?……ぶぎゃっ!」
オークは振り向きざま、剣で殴り倒された。
長剣を手にした碧の瞳の青年がそこに立っていた。
「イツキ殿……?」
「やあ、獲物というか、どれ……いや違う部下だったか」
「今奴隷と言いかけた?!」
「気のせいだよ」
樹は飄々と言うと、手にした剣で無造作にアルスを戒める鎖を断ち切った。崩れ落ちるアルスの肩口に、暖かい手が置かれる。
みるみる内に傷が癒えて、喉の渇きがやわらいだ。
「この感覚は久しぶりだ……やっぱりイツキ殿はすごい」
「元気になったらもう良いよな」
「もっと触って欲しいのだ」
「気持ち悪い」
アルスが動けるまで回復すると、樹はパッと手を離す。
名残惜しそうにするアルスから後ずさって半眼になった。
「ちゃっちゃと立って歩け、ほら」
「うう」
立ち上がったアルスは、樹の後を付いて牢獄を出た。
階段を登って牢獄エリアを出ると普通の城の廊下になる。
そこには金髪のエルフの少女が立っていた。
「アルスさん、久しぶりですぅ」
「ソフィー殿! 感動の再会を祝して口付けを! というか血をくれっ」
「いい加減にしろ」
後ろから樹に踏んづけられて、アルスは城の廊下とキスをした。
「ああっ、そこ肩がこってたのだ! もっと踏んで~」
「僕はマッサージ機じゃない! そろそろ真面目に話すぞ」
漫才めいた掛け合いを続けたかったアルスだが、樹の台詞の最後が真剣な声だったので諦めた。
「一応聞くけど、なんで捕まってたんだ?」
「魔族なのにイツキ殿に味方するのかと疑われて」
「あー、お前はどっちかというと僕の仲間だもんな」
どっちかと言わなくても、アルス自身はイツキに親近感を持っているので仲間のつもりだったのだが。
「……僕が留守の間、魔界を見ていてくれたんだろう。ありがとう」
ちょっと視線をそらしながら樹が言う。
アルスは感動した。
「イツキ殿から感謝の言葉が聞けるとは!」
「すっごーい、これがイツキの世界で言う、つんでれなんですね!」
「……君達の僕に対する認識が良く分かった」
便乗するように、ソフィーも異世界の言葉らしいよく分からない事を言う。樹には通じたようだ。
樹が不機嫌になったので、アルスは慌てて咳払いした。伝えたいことがあったのだった。
「イツキ殿、エルル様はどこに?」
「あいつならエターニアで、カノン王と天空神を封じる魔方陣でも書いてるんじゃないか」
「それはまずい」
アルスが突然、深刻な顔になったので、樹は不思議そうにした。
「別に神様が封じられても僕は痛くも痒くもないぞ」
「天空神だけなら良いのですが」
「他に何かあるのか?」
「実は……」
きょとんとする樹に向かって、アルスは死の精霊の近くにいたからこそ知り得た、彼女の真の目的について話し出した。
アルスは人ではなく魔族、吸血鬼に属している。吸血鬼という種族ならではの人間の女性を誘惑する甘い美貌は、長期間血を飲んでいないせいで陰っていた。紅茶色の長髪は乱れて散っている。
樹と再会した後、アルスは一旦魔界に帰った。
魔界にいずれ訪れるであろう樹を迎える準備をしようとしていたのだが、魔王に見つかってしまった。
現在の魔王であり、魔族にとって神にも等しい死の精霊エルルは、アルスを裏切者だと罵って、魔力を封じる鎖に繋ぎ、魔王城の牢獄に閉じ込めた。アルスは捕まってから血を飲めずに飢えている。
「……イツキ殿に、伝えなければ」
死の精霊エルルの企みを。
暗い牢獄の空気は淀んでいる。鎖で手足が動かせない。牢獄の見張りで醜いオークが立っている。オークは人間より一回り大きい、豚の顔をした鬼属のモンスターで魔族の一種だ。
オークは弱っているアルスを見て鼻を鳴らした。
「吸血鬼のお貴族様がざまあねえなあ、おい」
「……」
「魔王様もいないし、ぶひひ。今なら邪魔なお貴族様を片付けられるかも?」
ニヤリと笑ったオークが近付いてくる。
普段なら格下の魔物の無礼は許さないところだが、今のアルスは弱っている上に鎖で動けない。
黒く錆び付いた斧を持ったオークが迫る。
「ぶひひ……」
「……ちょっと、君」
唐突に、場違いなほど澄んだ青年の声がその場に響いた。
「そいつは僕の獲物なんだよ。譲ってくれないか」
「は?……ぶぎゃっ!」
オークは振り向きざま、剣で殴り倒された。
長剣を手にした碧の瞳の青年がそこに立っていた。
「イツキ殿……?」
「やあ、獲物というか、どれ……いや違う部下だったか」
「今奴隷と言いかけた?!」
「気のせいだよ」
樹は飄々と言うと、手にした剣で無造作にアルスを戒める鎖を断ち切った。崩れ落ちるアルスの肩口に、暖かい手が置かれる。
みるみる内に傷が癒えて、喉の渇きがやわらいだ。
「この感覚は久しぶりだ……やっぱりイツキ殿はすごい」
「元気になったらもう良いよな」
「もっと触って欲しいのだ」
「気持ち悪い」
アルスが動けるまで回復すると、樹はパッと手を離す。
名残惜しそうにするアルスから後ずさって半眼になった。
「ちゃっちゃと立って歩け、ほら」
「うう」
立ち上がったアルスは、樹の後を付いて牢獄を出た。
階段を登って牢獄エリアを出ると普通の城の廊下になる。
そこには金髪のエルフの少女が立っていた。
「アルスさん、久しぶりですぅ」
「ソフィー殿! 感動の再会を祝して口付けを! というか血をくれっ」
「いい加減にしろ」
後ろから樹に踏んづけられて、アルスは城の廊下とキスをした。
「ああっ、そこ肩がこってたのだ! もっと踏んで~」
「僕はマッサージ機じゃない! そろそろ真面目に話すぞ」
漫才めいた掛け合いを続けたかったアルスだが、樹の台詞の最後が真剣な声だったので諦めた。
「一応聞くけど、なんで捕まってたんだ?」
「魔族なのにイツキ殿に味方するのかと疑われて」
「あー、お前はどっちかというと僕の仲間だもんな」
どっちかと言わなくても、アルス自身はイツキに親近感を持っているので仲間のつもりだったのだが。
「……僕が留守の間、魔界を見ていてくれたんだろう。ありがとう」
ちょっと視線をそらしながら樹が言う。
アルスは感動した。
「イツキ殿から感謝の言葉が聞けるとは!」
「すっごーい、これがイツキの世界で言う、つんでれなんですね!」
「……君達の僕に対する認識が良く分かった」
便乗するように、ソフィーも異世界の言葉らしいよく分からない事を言う。樹には通じたようだ。
樹が不機嫌になったので、アルスは慌てて咳払いした。伝えたいことがあったのだった。
「イツキ殿、エルル様はどこに?」
「あいつならエターニアで、カノン王と天空神を封じる魔方陣でも書いてるんじゃないか」
「それはまずい」
アルスが突然、深刻な顔になったので、樹は不思議そうにした。
「別に神様が封じられても僕は痛くも痒くもないぞ」
「天空神だけなら良いのですが」
「他に何かあるのか?」
「実は……」
きょとんとする樹に向かって、アルスは死の精霊の近くにいたからこそ知り得た、彼女の真の目的について話し出した。
3
あなたにおすすめの小説
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
幼馴染の勇者が一般人の僕をパーティーに入れようとするんですが
空色蜻蛉
ファンタジー
羊飼いの少年リヒトは、ある事件で勇者になってしまった幼馴染みに巻き込まれ、世界を救う旅へ……ではなく世界一周観光旅行に出発する。
「君達、僕は一般人だって何度言ったら分かるんだ?!
人間外の戦闘に巻き込まないでくれ。
魔王討伐の旅じゃなくて観光旅行なら別に良いけど……え? じゃあ観光旅行で良いって本気?」
どこまでもリヒト優先の幼馴染みと共に、人助けそっちのけで愉快な珍道中が始まる。一行のマスコット家畜メリーさんは巨大化するし、リヒト自身も秘密を抱えているがそれはそれとして。
人生は楽しまないと勿体ない!!
◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。