46 / 120
留学準備編
01 新しい寮は□□屋敷(2017/12/8 改稿)
しおりを挟む
先日のアウリガの襲撃のさなか、アサヒは竜王として覚醒した。
アウリガの間者であることが露見して捕まったユエリ。彼女を助けるための一連の騒動は、アサヒが覚醒するきっかけとなった。竜王の権力を利用して、アサヒはユエリを救うことにも成功する。
島で女王と並んで重要な役割である「竜王」だが、表向きの統治は女王に任されており、竜王は裏方となるのが通例だ。一般庶民は竜王の顔や名前も知らず、竜王の所在を知っているのは竜騎士だけ、というのが空飛ぶ島の伝統である。
そのような訳で竜王に覚醒したと言っても、アサヒには表の権力はなく、ひとまずは今まで通りの生活を送ることになった。いずれは竜騎士達を統率する仕事を覚えることになるが、その前に学生として基礎教養を身につけなければならない。
ところで、今まで孤児出身の三等級として、ボロい学院の寮に住んでいたアサヒだったが、竜王に覚醒したアサヒをさすがにそこには住まわせられないとヒズミが言い出した。
住むうちにボロい寮にも愛着が沸いていたアサヒだったが、寮は老朽化しているし取り壊すと言われたら仕方がない。
せめて自分で新しい家を決めてやろうと、学院の午後に授業が無い日を見計らって、カズオミとユエリを連れて街で物件を探し歩くことにした。
アウリガの襲撃に見舞われた王都アケボノの街だが、早期にアサヒが敵の竜騎士を駆逐したので、被害は最小限に留まっていた。襲撃の爪痕はほとんど見受けられず、人々は賑やかに通りを行き交っている。
「……そういえば、俺ら以外にも寮に学生って住んでたっけ」
街を歩きながら、アサヒは思い出したように空を見上げる。
隣を歩くカズオミが眼鏡に手を当てながら答えた。
「ひとり、同じ三等級の人がいたはずだよ。すごい引きこもりで姿を見たことがないけど」
「へえ。じゃあ、最低でも5人以上、寝泊まりできる家が必要だな」
あのボロい寮に引きこもるなんて、どんな奴なのだろうと思いながら、アサヒは手元の紙に目を落とす。
空き家を紹介してくれる斡旋屋からもらった情報が、そこには書かれていた。
「うーん、予算どのくらいなんだろ。どっちにしても安い方が良いな」
学院の寮なのだから、費用は学院から出るのだろう。
アサヒはヒズミ経由で学院長と話して、寮の建物を選ぶ権利をもぎ取っていた。その時に予算についても話すべきだったのだろうが、アサヒの正体を知った学院長が物凄くへりくだった低姿勢で「もちろん竜王様の仰る通りに」としか言わなかったので、まともな話を諦めたのだった。
今まで大金を扱ったことのないアサヒには不動産の相場が分からない。ちなみに過去の竜王の記憶はそこまで細かくカバーしてくれない上に、数百年前なので物価が違う。
「どれどれ……一番最後の、すごく安いね」
「本当だ! じゃあここにしようか」
「ちょっと待ってアサヒ、安い物件には大概理由が……」
メモを手に話すアサヒとカズオミの後ろで、ユエリはぼんやりしていた。何日も牢屋に放り込まれたと思ったら、突然自由になって、気持ちが付いていかない。
「ユエリ? 大丈夫?」
「……平気よ。さっさと決めましょう」
心配そうに振り返るアサヒに返事をする。
彼女は今、巫女スミレの世話になっていた。他人の家というのは居心地が悪いので(しかも敵国の巫女の家)、新しい寮は彼女にとっても悪くない提案だった。
この先どうするにせよ、ピクシスを簡単に出ていけない以上、取るべき選択肢は限られている。
三人は街の南にある、物件リストで一番安い家に向かう。
そこは古い大きな洋館で、なぜこんな洋館が二束三文で売られているのか疑問に思うような、立派な二階建の庭付きの館だった。
「えー、値段の割には凄く良いじゃないか!」
「……アサヒ、さっきそこで話を聞いてきたんだけど、ここは幽霊が出るらしいよ」
「幽霊?」
カズオミの言葉を裏付けるように、洋館の二階の窓に白い影が映る。目撃してしまったユエリはぎょっとした。不自然な生暖かい風が吹いて、館の窓が一斉にガタガタ揺れる。
「どこだよ幽霊」
「ほら、あの窓に」
ユエリはアサヒに窓の方向を指し示すが、なぜかその一瞬で幽霊らしき人影は消えてしまった。風も止む。
「幽霊なんかどこにいるんだよ。まあ、何かいるとしても別に良いさ。人が増えるのは良いことだし!」
「いやアサヒ、人じゃないから」
「ほら、ヤモリもこの館が気に入ったみたいだ」
いつの間に移動したやら、ヤモリが洋館の壁を這っている。
古い洋館と壁を這う黒っぽいヤモリ。
似合い過ぎて怖い。
「ここにしよう!」
絶対止めておいた方が良い! とカズオミもユエリも思ったが、残念ながらこの一行の最高権力者はアサヒだった。良い買い物だとほくほく顔の彼を止められる者はここにはいなかった。
アウリガの間者であることが露見して捕まったユエリ。彼女を助けるための一連の騒動は、アサヒが覚醒するきっかけとなった。竜王の権力を利用して、アサヒはユエリを救うことにも成功する。
島で女王と並んで重要な役割である「竜王」だが、表向きの統治は女王に任されており、竜王は裏方となるのが通例だ。一般庶民は竜王の顔や名前も知らず、竜王の所在を知っているのは竜騎士だけ、というのが空飛ぶ島の伝統である。
そのような訳で竜王に覚醒したと言っても、アサヒには表の権力はなく、ひとまずは今まで通りの生活を送ることになった。いずれは竜騎士達を統率する仕事を覚えることになるが、その前に学生として基礎教養を身につけなければならない。
ところで、今まで孤児出身の三等級として、ボロい学院の寮に住んでいたアサヒだったが、竜王に覚醒したアサヒをさすがにそこには住まわせられないとヒズミが言い出した。
住むうちにボロい寮にも愛着が沸いていたアサヒだったが、寮は老朽化しているし取り壊すと言われたら仕方がない。
せめて自分で新しい家を決めてやろうと、学院の午後に授業が無い日を見計らって、カズオミとユエリを連れて街で物件を探し歩くことにした。
アウリガの襲撃に見舞われた王都アケボノの街だが、早期にアサヒが敵の竜騎士を駆逐したので、被害は最小限に留まっていた。襲撃の爪痕はほとんど見受けられず、人々は賑やかに通りを行き交っている。
「……そういえば、俺ら以外にも寮に学生って住んでたっけ」
街を歩きながら、アサヒは思い出したように空を見上げる。
隣を歩くカズオミが眼鏡に手を当てながら答えた。
「ひとり、同じ三等級の人がいたはずだよ。すごい引きこもりで姿を見たことがないけど」
「へえ。じゃあ、最低でも5人以上、寝泊まりできる家が必要だな」
あのボロい寮に引きこもるなんて、どんな奴なのだろうと思いながら、アサヒは手元の紙に目を落とす。
空き家を紹介してくれる斡旋屋からもらった情報が、そこには書かれていた。
「うーん、予算どのくらいなんだろ。どっちにしても安い方が良いな」
学院の寮なのだから、費用は学院から出るのだろう。
アサヒはヒズミ経由で学院長と話して、寮の建物を選ぶ権利をもぎ取っていた。その時に予算についても話すべきだったのだろうが、アサヒの正体を知った学院長が物凄くへりくだった低姿勢で「もちろん竜王様の仰る通りに」としか言わなかったので、まともな話を諦めたのだった。
今まで大金を扱ったことのないアサヒには不動産の相場が分からない。ちなみに過去の竜王の記憶はそこまで細かくカバーしてくれない上に、数百年前なので物価が違う。
「どれどれ……一番最後の、すごく安いね」
「本当だ! じゃあここにしようか」
「ちょっと待ってアサヒ、安い物件には大概理由が……」
メモを手に話すアサヒとカズオミの後ろで、ユエリはぼんやりしていた。何日も牢屋に放り込まれたと思ったら、突然自由になって、気持ちが付いていかない。
「ユエリ? 大丈夫?」
「……平気よ。さっさと決めましょう」
心配そうに振り返るアサヒに返事をする。
彼女は今、巫女スミレの世話になっていた。他人の家というのは居心地が悪いので(しかも敵国の巫女の家)、新しい寮は彼女にとっても悪くない提案だった。
この先どうするにせよ、ピクシスを簡単に出ていけない以上、取るべき選択肢は限られている。
三人は街の南にある、物件リストで一番安い家に向かう。
そこは古い大きな洋館で、なぜこんな洋館が二束三文で売られているのか疑問に思うような、立派な二階建の庭付きの館だった。
「えー、値段の割には凄く良いじゃないか!」
「……アサヒ、さっきそこで話を聞いてきたんだけど、ここは幽霊が出るらしいよ」
「幽霊?」
カズオミの言葉を裏付けるように、洋館の二階の窓に白い影が映る。目撃してしまったユエリはぎょっとした。不自然な生暖かい風が吹いて、館の窓が一斉にガタガタ揺れる。
「どこだよ幽霊」
「ほら、あの窓に」
ユエリはアサヒに窓の方向を指し示すが、なぜかその一瞬で幽霊らしき人影は消えてしまった。風も止む。
「幽霊なんかどこにいるんだよ。まあ、何かいるとしても別に良いさ。人が増えるのは良いことだし!」
「いやアサヒ、人じゃないから」
「ほら、ヤモリもこの館が気に入ったみたいだ」
いつの間に移動したやら、ヤモリが洋館の壁を這っている。
古い洋館と壁を這う黒っぽいヤモリ。
似合い過ぎて怖い。
「ここにしよう!」
絶対止めておいた方が良い! とカズオミもユエリも思ったが、残念ながらこの一行の最高権力者はアサヒだった。良い買い物だとほくほく顔の彼を止められる者はここにはいなかった。
19
あなたにおすすめの小説
ユニークスキルの名前が禍々しいという理由で国外追放になった侯爵家の嫡男は世界を破壊して創り直します
かにくくり
ファンタジー
エバートン侯爵家の嫡男として生まれたルシフェルトは王国の守護神から【破壊の後の創造】という禍々しい名前のスキルを授かったという理由で王国から危険視され国外追放を言い渡されてしまう。
追放された先は王国と魔界との境にある魔獣の谷。
恐ろしい魔獣が闊歩するこの地に足を踏み入れて無事に帰った者はおらず、事実上の危険分子の排除であった。
それでもルシフェルトはスキル【破壊の後の創造】を駆使して生き延び、その過程で救った魔族の親子に誘われて小さな集落で暮らす事になる。
やがて彼の持つ力に気付いた魔王やエルフ、そして王国の思惑が複雑に絡み大戦乱へと発展していく。
鬱陶しいのでみんなぶっ壊して創り直してやります。
※小説家になろうにも投稿しています。
明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。
彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。
最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。
一種の童話感覚で物語は語られます。
童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです
クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした
コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。
クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。
召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。
理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。
ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。
これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。
伯爵令息は後味の悪いハッピーエンドを回避したい
えながゆうき
ファンタジー
停戦中の隣国の暗殺者に殺されそうになったフェルナンド・ガジェゴス伯爵令息は、目を覚ますと同時に、前世の記憶の一部を取り戻した。
どうやらこの世界は前世で妹がやっていた恋愛ゲームの世界であり、自分がその中の攻略対象であることを思い出したフェルナンド。
だがしかし、同時にフェルナンドがヒロインとハッピーエンドを迎えると、クーデターエンドを迎えることも思い出した。
もしクーデターが起これば、停戦中の隣国が再び侵攻してくることは間違いない。そうなれば、祖国は簡単に蹂躙されてしまうだろう。
後味の悪いハッピーエンドを回避するため、フェルナンドの戦いが今始まる!
俺は何処にでもいる冒険者なのだが、転生者と名乗る馬鹿に遭遇した。俺は最強だ? その程度で最強は無いだろうよ などのファンタジー短編集
にがりの少なかった豆腐
ファンタジー
私が過去に投稿していたファンタジーの短編集です
再投稿に当たり、加筆修正しています
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
序盤でざまぁされる人望ゼロの無能リーダーに転生したので隠れチート主人公を追放せず可愛がったら、なぜか俺の方が英雄扱いされるようになっていた
砂礫レキ
ファンタジー
35歳独身社会人の灰村タクミ。
彼は実家の母から学生時代夢中で書いていた小説をゴミとして燃やしたと電話で告げられる。
そして落ち込んでいる所を通り魔に襲われ死亡した。
死の間際思い出したタクミの夢、それは「自分の書いた物語の主人公になる」ことだった。
その願いが叶ったのか目覚めたタクミは見覚えのあるファンタジー世界の中にいた。
しかし望んでいた主人公「クロノ・ナイトレイ」の姿ではなく、
主人公を追放し序盤で惨めに死ぬ冒険者パーティーの無能リーダー「アルヴァ・グレイブラッド」として。
自尊心が地の底まで落ちているタクミがチート主人公であるクロノに嫉妬する筈もなく、
寧ろ無能と見下されているクロノの実力を周囲に伝え先輩冒険者として支え始める。
結果、アルヴァを粗野で無能なリーダーだと見下していたパーティーメンバーや、
自警団、街の住民たちの視線が変わり始めて……?
更新は昼頃になります。
追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件
言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」
──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。
だが彼は思った。
「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」
そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら……
気づけば村が巨大都市になっていた。
農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。
「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」
一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前!
慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが……
「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」
もはや世界最強の領主となったレオンは、
「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、
今日ものんびり温泉につかるのだった。
ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる