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王子様をテンパリング?
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「主君~!あーけーてー!」
ドアの向こうから、歌うような声が聞こえる。
「はいはい」
イスから立ち上がりドアを開けると、陽気な笑顔を浮かべる見慣れた少年がそこに立っていた。
「よう、バレンタイン」
「えへへ、会いたかったよ主君」
少年は元よりもうんと眩しい笑顔を見せた。
クリーム色に、ショコラのような茶色のグラデーションがかかった髪。おとぎ話の王子様を思わせる赤色の服。そして、ハートが入ったクリストローゼの瞳。
この少年はバレンタイン。俺が作った、所謂人工精霊だ。
俺を『主君』と呼び慕ってくれるこいつとの出会いは、少し前に遡る。
もう2X歳になるというのに、彼女も友人もなんなら職もないクズ街道まっしぐらの俺。実家暮らしだが特に家族と話すこともなく、ネットの世界で意見を交わすのが唯一のコミュニケーションなんていう、そんな毎日。自分でもつまらない人生を送っていると思う。世には俺と同じ歳なのに彼女がいたり結婚してたり、挙句には子供もいたりなんていう人々が巨万といる。そんな人らのことを考えると、憂鬱で吐きそうだ。
———そんなある日のこと。いつも通り大型掲示板内をうろうろしていると、ふと面白そうな話題が目に止まった。
「人工、精霊……?」
なんでも、脳内に作った架空の人物と、さも実在する人間かのように会話をすることができるものだとか。
人との接触に飢え言い知れぬ寂しさを覚えていた俺にはタイムリーすぎる話題だった。少々———というか、かなり胡散臭く、オカルト色強めな内容だが、今の俺に実在する人間と会話をするとかそういうのは100%できるはずがない。でも誰かと話したくて、もういっそこの際オカルトでも幻覚でもなんでもよくなってきた。
斯くして、俺は『人工精霊』を作り出すことに決めたのだった。
さて。調べた作り方によると、まずは精霊の設定なんかを決めるところから始めるらしい。絵に描くのがいいらしいが、当然そんなスキルあるはずがないので、なんとなくのイメージを文章で書いてみる。
そうだな……。ベタだが、こう、優しくて愛に溢れてて、俺のことを慕ってくれて……みたいな……!ああでも女はダメだ。数年間ろくに他人と接してない彼女いない歴=年齢のクソ童貞が、仮に自分で生み出した架空の人物だとしても華の乙女を前にして正気でいられるはずがない。30秒で発狂する自信がある。ただの話し相手だし、男の方が気も合うだろ。
うーむ、そう思うと、なんか王子様みたいな奴だな。まあ、せっかくオカルトかつメルヘンチックな事するんならちょっとくらい非現実的な人物の方がお似合いだろう。リアリティ溢れる奴となんか話したくもねえわ。
……おっと。若干話が横に逸れつつあるが、とにかく優しくて愛情溢れる王子様系男子の精霊を作ろう。容姿は想像でなんとかなるだろ。
次に、人工精霊を作るにはその精霊を宿す『依り代』とやらが必要らしいと書いてある。パワーストーンがオススメらしいので、とりあえず机の端の方に置いてあったインカローズのパワーストーンを依り代にすることにした。
インカローズは、確か愛の循環を生み出すとかなんとかそんなやつだったような気がするが、如何せん高校の頃にノリで買ったものだから細かいことは覚えていない。でもまぁ、俺がイメージしている精霊のイメージとぴったりだし、どうせ何もせず置きっ放しにしておくくらいなら『依り代』という形で利用するのも悪くはないだろう。
少しして。2、3個ほどの工程を済ませ、お楽しみの精霊と話すところまで来た。何もない空間に向かって話しかける、というのは恥ずかしい気がして少々気が引けるが、そもそもこの歳のニートがこんなオカルトチックなことに手を出そうという時点で恥ずかしすぎることに気が付いたのでそれ以上考えるのをやめた。
まず、目の前に精霊がいると思い込む。王子様みたいな精霊が、今まさに俺の前に座っている。そして、そいつに話しかける。よし、まずは無難に……
「は、はじめまして」
……嗚呼、俺は一体何をやっているのか。いざ声に出してみると、あまりの恥ずかしさと異様さにそんな考えが頭をよぎる。だが、もう今更だ。気にしない気にしない。それから、相手が返事を返すところを想像する。
『はじめまして!』
よしよし。ええと、それから何を話そうか……。初対面の人間とは何を話すっけな。
そうだ、名前だ。
「君の名前は?」
『んー?名前はねー』
ここまで来てようやく気が付く。
こいつの名前を決めてなかった。ガキの頃飼いはじめた犬に『爆竹』とかいう名前を付けようとして叱られた経験のある俺にまともなネーミングセンスがあるとは思えない。かと言って、代わりに決めてくれる奴もいないし。
うんうん唸りながら、何か手掛かりになるものはないかと部屋を見渡すうちに、ふとカレンダーが目に止まった。そういえば、今日は2月14日———バレンタインデーだったな。
バレンタインデー……か。リア充のためだけのイベントということで完全に記憶から排除していたが、『愛』をモチーフにしたこいつには逆にピッタリなのかもしれないな。
『名前はね、バレンタイン!かわいい?』
ずいっと身を乗り出してくるバレンタイン。あくまで俺の想像だが。
「そうだな。まあ、かわいいんじゃないか」
とりあえず褒めてみると、『わーい!』と嬉しそうに両腕を上にかざして、大げさに喜んでいた。
……まあ、全て俺の以下略。
現時点ではそこにいると思い込み、自問自答を繰り返すような状態だが、そのうち勝手に返事が返ってきたり声が聞こえたり、最終的にはハッキリと姿が見えるようになったりするらしい。
本当にこんな調子で大丈夫なのか……?と半ば心配になりつつも、なんやかんやで俺とバレンタインの日常は始まったのである。
そして、それから1年ほどした今。姿形もハッキリと見え、声も聞こえる段階まで来た。本当に他人と同居しているような気分で、毎日が楽しくて仕方が無い。傍から見ればただのキチガイだがそんなものは関係ない、もはや精霊無しでは生きていけないほどになっていた。
「そうそう!バレンタインね、主君に話があったの!」
「話?」
高く甘いバレンタインの声に耳を傾けながら、元いた椅子に座り込む。
「あのね、今はバレンタインの他に、2人の精霊がいるでしょ?」
「?ああ」
そう、こいつの姿が見えるようになってから、数人で騒げたら楽しいだろうなぁなんて思い、『リボン』と『スパンコール』という2人の精霊を作り足したのだ。
「そいつらがどうかしたのか?」
「うん、あのね……」
バレンタインは少し視線を落とし、言いづらそうにモジモジしている。
「ハッキリ言うとね、あの2人、いらないと思うの」
「は?」
俺の瞳を真っ直ぐに見つめ、確かにそう言った。今までこいつがそういった、少し理解しがたいようなことを言ったことは一度もなかったし、おそらく何かの冗談だろうとしか思えなかった。
「はは、何言ってんだよ、バレンタイン。そういう冗談やめろって」
「ううん、冗談じゃないよっ。バレンタイン嘘つかないもん」
いじけたようにぷくっと頬を膨らませてみせる。
「そうは言ったって……。わかった、なら、なんで『いらない』なんて思ったのか、話だけは聞いてやるよ」
『いらない』と口にした時のバレンタインの目を思い返すと、なんだか只事じゃないような気がして。少しでも話を聞けばなんとなくバレンタインの状況は掴めるだろう。
「うん。あのね、主君はバレンタインを一番最初に作ってくれたでしょ?」
「うん」
「毎日毎日、『バレンタイン、バレンタイン』って楽しそうにお話ししてくれるの、すっごく嬉しかったの。バレンタインがお話ししてる時も、いつもちゃんと聞いてくれて、笑ってくれて、毎日楽しかったの!」
「そっか」
幸せそうに話してくるバレンタインを見ているとなんだかくすぐったい気持ちになり、頬をかきつつ微笑んでやると、バレンタインも笑ってくれた。だが、すぐに笑顔は曇ってしまった。
「……でも、それから、あの2人を作ったでしょ。主君はいつも通りそばにいてくれたし、バレンタインも2人と話すのは楽しかったよ。でも、でも」
「おい、ちょっと」
気が付くと、バレンタインの目に涙が溜まっていた。こいつの涙なんか見たことなかったのに。涙をぬぐって話を続ける。
「でも、2人と話す主君を見てるのは嫌だったの。バレンタインの大事な大事な主君を取られちゃった気がして」
そんなことない、そう声をかけてやろうとしたが、何故か声が出なかった。
「ねぇ、主君。主君にはね、バレンタインだけを見ててほしいな。主君———」
バレンタインが俺に近付き、そっと俺の胸に手を当てる。……なんで、触れてるんだ?
だが、不思議と悪い気はしなかった。それどころか、この上なく幸せで、それ以上深く考えたくなくなった。
「主君、大好きだよ主君」
ハートの浮かんだ瞳を揺らして、俺の方をじっと見つめるバレンタインの頬は、その瞳のように真っ赤に染まり、艶っぽい雰囲気を醸し出していた。
「主君はバレンタインのこと……
好き?」
誘惑するように、切なげな表情を見せるバレンタイン。不意に、きゅっと胸が締め付けられるような感覚がした。
ああそうか、俺は———
「愛してる、バレンタイン」
男同士で———ましてや、幻覚であるこいつと恋に落ちるなんて本来あってはならないことと分かっている。それでも、もう抜け出せない。
「ああ、主君……。主君、主君」
何度も何度も、愛おしそうに俺を呼ぶ姿がいじらしくて愛らしくて。
おもむろにパーカーのポケットからリボンとスパンコールの依り代を取り出し、そばにあったゴミ箱の中に放り込んだ。パリン、と割れるような音がしたが、もうそんなことは関係ない。こんなものいらないんだから。
「主君、これからもずーっと一緒だよ」
「ああ、当然だ。バレンタイン」
そう言って、バレンタインの頭を優しく撫でてやった。
ドアの向こうから、歌うような声が聞こえる。
「はいはい」
イスから立ち上がりドアを開けると、陽気な笑顔を浮かべる見慣れた少年がそこに立っていた。
「よう、バレンタイン」
「えへへ、会いたかったよ主君」
少年は元よりもうんと眩しい笑顔を見せた。
クリーム色に、ショコラのような茶色のグラデーションがかかった髪。おとぎ話の王子様を思わせる赤色の服。そして、ハートが入ったクリストローゼの瞳。
この少年はバレンタイン。俺が作った、所謂人工精霊だ。
俺を『主君』と呼び慕ってくれるこいつとの出会いは、少し前に遡る。
もう2X歳になるというのに、彼女も友人もなんなら職もないクズ街道まっしぐらの俺。実家暮らしだが特に家族と話すこともなく、ネットの世界で意見を交わすのが唯一のコミュニケーションなんていう、そんな毎日。自分でもつまらない人生を送っていると思う。世には俺と同じ歳なのに彼女がいたり結婚してたり、挙句には子供もいたりなんていう人々が巨万といる。そんな人らのことを考えると、憂鬱で吐きそうだ。
———そんなある日のこと。いつも通り大型掲示板内をうろうろしていると、ふと面白そうな話題が目に止まった。
「人工、精霊……?」
なんでも、脳内に作った架空の人物と、さも実在する人間かのように会話をすることができるものだとか。
人との接触に飢え言い知れぬ寂しさを覚えていた俺にはタイムリーすぎる話題だった。少々———というか、かなり胡散臭く、オカルト色強めな内容だが、今の俺に実在する人間と会話をするとかそういうのは100%できるはずがない。でも誰かと話したくて、もういっそこの際オカルトでも幻覚でもなんでもよくなってきた。
斯くして、俺は『人工精霊』を作り出すことに決めたのだった。
さて。調べた作り方によると、まずは精霊の設定なんかを決めるところから始めるらしい。絵に描くのがいいらしいが、当然そんなスキルあるはずがないので、なんとなくのイメージを文章で書いてみる。
そうだな……。ベタだが、こう、優しくて愛に溢れてて、俺のことを慕ってくれて……みたいな……!ああでも女はダメだ。数年間ろくに他人と接してない彼女いない歴=年齢のクソ童貞が、仮に自分で生み出した架空の人物だとしても華の乙女を前にして正気でいられるはずがない。30秒で発狂する自信がある。ただの話し相手だし、男の方が気も合うだろ。
うーむ、そう思うと、なんか王子様みたいな奴だな。まあ、せっかくオカルトかつメルヘンチックな事するんならちょっとくらい非現実的な人物の方がお似合いだろう。リアリティ溢れる奴となんか話したくもねえわ。
……おっと。若干話が横に逸れつつあるが、とにかく優しくて愛情溢れる王子様系男子の精霊を作ろう。容姿は想像でなんとかなるだろ。
次に、人工精霊を作るにはその精霊を宿す『依り代』とやらが必要らしいと書いてある。パワーストーンがオススメらしいので、とりあえず机の端の方に置いてあったインカローズのパワーストーンを依り代にすることにした。
インカローズは、確か愛の循環を生み出すとかなんとかそんなやつだったような気がするが、如何せん高校の頃にノリで買ったものだから細かいことは覚えていない。でもまぁ、俺がイメージしている精霊のイメージとぴったりだし、どうせ何もせず置きっ放しにしておくくらいなら『依り代』という形で利用するのも悪くはないだろう。
少しして。2、3個ほどの工程を済ませ、お楽しみの精霊と話すところまで来た。何もない空間に向かって話しかける、というのは恥ずかしい気がして少々気が引けるが、そもそもこの歳のニートがこんなオカルトチックなことに手を出そうという時点で恥ずかしすぎることに気が付いたのでそれ以上考えるのをやめた。
まず、目の前に精霊がいると思い込む。王子様みたいな精霊が、今まさに俺の前に座っている。そして、そいつに話しかける。よし、まずは無難に……
「は、はじめまして」
……嗚呼、俺は一体何をやっているのか。いざ声に出してみると、あまりの恥ずかしさと異様さにそんな考えが頭をよぎる。だが、もう今更だ。気にしない気にしない。それから、相手が返事を返すところを想像する。
『はじめまして!』
よしよし。ええと、それから何を話そうか……。初対面の人間とは何を話すっけな。
そうだ、名前だ。
「君の名前は?」
『んー?名前はねー』
ここまで来てようやく気が付く。
こいつの名前を決めてなかった。ガキの頃飼いはじめた犬に『爆竹』とかいう名前を付けようとして叱られた経験のある俺にまともなネーミングセンスがあるとは思えない。かと言って、代わりに決めてくれる奴もいないし。
うんうん唸りながら、何か手掛かりになるものはないかと部屋を見渡すうちに、ふとカレンダーが目に止まった。そういえば、今日は2月14日———バレンタインデーだったな。
バレンタインデー……か。リア充のためだけのイベントということで完全に記憶から排除していたが、『愛』をモチーフにしたこいつには逆にピッタリなのかもしれないな。
『名前はね、バレンタイン!かわいい?』
ずいっと身を乗り出してくるバレンタイン。あくまで俺の想像だが。
「そうだな。まあ、かわいいんじゃないか」
とりあえず褒めてみると、『わーい!』と嬉しそうに両腕を上にかざして、大げさに喜んでいた。
……まあ、全て俺の以下略。
現時点ではそこにいると思い込み、自問自答を繰り返すような状態だが、そのうち勝手に返事が返ってきたり声が聞こえたり、最終的にはハッキリと姿が見えるようになったりするらしい。
本当にこんな調子で大丈夫なのか……?と半ば心配になりつつも、なんやかんやで俺とバレンタインの日常は始まったのである。
そして、それから1年ほどした今。姿形もハッキリと見え、声も聞こえる段階まで来た。本当に他人と同居しているような気分で、毎日が楽しくて仕方が無い。傍から見ればただのキチガイだがそんなものは関係ない、もはや精霊無しでは生きていけないほどになっていた。
「そうそう!バレンタインね、主君に話があったの!」
「話?」
高く甘いバレンタインの声に耳を傾けながら、元いた椅子に座り込む。
「あのね、今はバレンタインの他に、2人の精霊がいるでしょ?」
「?ああ」
そう、こいつの姿が見えるようになってから、数人で騒げたら楽しいだろうなぁなんて思い、『リボン』と『スパンコール』という2人の精霊を作り足したのだ。
「そいつらがどうかしたのか?」
「うん、あのね……」
バレンタインは少し視線を落とし、言いづらそうにモジモジしている。
「ハッキリ言うとね、あの2人、いらないと思うの」
「は?」
俺の瞳を真っ直ぐに見つめ、確かにそう言った。今までこいつがそういった、少し理解しがたいようなことを言ったことは一度もなかったし、おそらく何かの冗談だろうとしか思えなかった。
「はは、何言ってんだよ、バレンタイン。そういう冗談やめろって」
「ううん、冗談じゃないよっ。バレンタイン嘘つかないもん」
いじけたようにぷくっと頬を膨らませてみせる。
「そうは言ったって……。わかった、なら、なんで『いらない』なんて思ったのか、話だけは聞いてやるよ」
『いらない』と口にした時のバレンタインの目を思い返すと、なんだか只事じゃないような気がして。少しでも話を聞けばなんとなくバレンタインの状況は掴めるだろう。
「うん。あのね、主君はバレンタインを一番最初に作ってくれたでしょ?」
「うん」
「毎日毎日、『バレンタイン、バレンタイン』って楽しそうにお話ししてくれるの、すっごく嬉しかったの。バレンタインがお話ししてる時も、いつもちゃんと聞いてくれて、笑ってくれて、毎日楽しかったの!」
「そっか」
幸せそうに話してくるバレンタインを見ているとなんだかくすぐったい気持ちになり、頬をかきつつ微笑んでやると、バレンタインも笑ってくれた。だが、すぐに笑顔は曇ってしまった。
「……でも、それから、あの2人を作ったでしょ。主君はいつも通りそばにいてくれたし、バレンタインも2人と話すのは楽しかったよ。でも、でも」
「おい、ちょっと」
気が付くと、バレンタインの目に涙が溜まっていた。こいつの涙なんか見たことなかったのに。涙をぬぐって話を続ける。
「でも、2人と話す主君を見てるのは嫌だったの。バレンタインの大事な大事な主君を取られちゃった気がして」
そんなことない、そう声をかけてやろうとしたが、何故か声が出なかった。
「ねぇ、主君。主君にはね、バレンタインだけを見ててほしいな。主君———」
バレンタインが俺に近付き、そっと俺の胸に手を当てる。……なんで、触れてるんだ?
だが、不思議と悪い気はしなかった。それどころか、この上なく幸せで、それ以上深く考えたくなくなった。
「主君、大好きだよ主君」
ハートの浮かんだ瞳を揺らして、俺の方をじっと見つめるバレンタインの頬は、その瞳のように真っ赤に染まり、艶っぽい雰囲気を醸し出していた。
「主君はバレンタインのこと……
好き?」
誘惑するように、切なげな表情を見せるバレンタイン。不意に、きゅっと胸が締め付けられるような感覚がした。
ああそうか、俺は———
「愛してる、バレンタイン」
男同士で———ましてや、幻覚であるこいつと恋に落ちるなんて本来あってはならないことと分かっている。それでも、もう抜け出せない。
「ああ、主君……。主君、主君」
何度も何度も、愛おしそうに俺を呼ぶ姿がいじらしくて愛らしくて。
おもむろにパーカーのポケットからリボンとスパンコールの依り代を取り出し、そばにあったゴミ箱の中に放り込んだ。パリン、と割れるような音がしたが、もうそんなことは関係ない。こんなものいらないんだから。
「主君、これからもずーっと一緒だよ」
「ああ、当然だ。バレンタイン」
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