死んだら転生なんて何処のお約束だよ

最強願望者

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第1章『まずは成長しましょう』

10話『はじめまして』

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「わふっ!」

リルの鳴き声で目を覚ます。
昨日は王都で食べ歩きをしていた。
豚の串焼きの様なものに、チェロスの様な砂糖が振り掛けられた棒状のお菓子。

「おはよう」

リルの頭を撫で、顔を洗ってから朝食を取る。
昨日買ってきたパンに、ジャムの様な果物を潰した物。
牛乳は無かったが、砂糖魔水と呼ばれる謎の飲み物を買ってきた。

「うへぇ・・・めちゃくちゃ甘いのに後味スッキリしてるぅ・・・」

まぁ、今言ったような味だった。
試しにリルに与えると思いの外好評。
ぺろぺろしていた。

「・・・動物の味覚とか良くわかんないや」

その一言に尽きる。


──午前9時校舎一階1年S組にて──

全員が教室に集まった。
教師は僕が来る前にはもういた。

「おはようございます。私がこのクラスを受け持つ事になりました、リューズ・シュトルゥスです。気軽にリューズ先生と呼んでください」

全員が揃ってから先生は話し始めた。
さっきまで何かを読んでニコニコしていたが、今は更にニコニコしている。

「では序列番号1番、カイン・ルシフィード・ダルタン君、前へ」

前に呼ばれ、僕はクラスを見渡す。
こうして見れば・・・見ても感慨深い事がない。
男女15人づつの30人編成だ。

「では、得意な武器や魔法、趣味や一言お願いします」

ちょっと、3歳児に期待しすぎじゃない?
まぁ、僕に掛かればそんなの造作もないけど。

「はじめまして、僕はカイン・ルシフィード・ダルタン、カインと呼んでください。得意な武器は鎌や剣、苦手なものは無いです。魔法は主に闇が得意です。趣味は従魔の育成です。これから長く関わって行くと思もいますが、何卒、僕には近寄らないようお願い致します」

人によっては長いと感じる自己紹介。
皆呆気に取られているが、先生は頻りに頷いている。
次々と名前が呼ばれて行き、全ての自己紹介が終わった。
まぁ、見事に誰も憶えてないけど。

「はい、ではこれから1年間よろしくお願いします。一時限目は校庭で行うので、早めに行くように」

それだけ言って、先生は出て行った。
出て行くのと同時にチャイムが鳴り、僕はゆっくりと立ち上がる。
そのまま外に出ようとすると、案の定声が掛かった。

「おい!カインとか言う奴!まてよ!」

まぁ、僕は無視して教室から出る。
止まる素振りさえ見せない。


教室の前で眠っていたリルに乗り、校庭に出ると、1年生と思われる少年少女が、バラバラに雑談していた。
僕に視線が集まるけど、多分リルの方が視線を集めている。

「はぁ、可哀想に」

前に体を倒して抱きつく。
羨ましそうに周りの生徒が見てくるが、僕は知らない。
リルは基本的に僕以外の人に触られる事を嫌う。
何故かは知らないが、多分潔癖症とか言う奴だろう。
僕は主だから仕方がなく・・・とか?

「グルルルル・・・」

ほら、手を出して来る生徒に威嚇してる。
僕はリルの首に手を当て、さするように撫でる。
暫くして木陰でリルにもたれていると、校庭の真ん中らへんから声が聞こえてきた。

「皆さん!これからレクリエーションを始めます!皆さん思い思いに遊び学んで下さい!」

要は公認のサボりタイムかな?
まぁ僕達はここで寝てるだけで良いんだけど。
放置してくれてるらしいし、このまま木陰ぼっこでも・・・

「おい!カイン!」

・・・させてはくれないらしい。
誰だっけと思って目を開けると、目の前に赤毛の気が強そうな女の子が立っていた。
・・・僕の嫌いなタイプだ。

「・・・」

ぼーっと眺めていると、赤毛の少女が僕の元に近付いて・・・
リルを見て踏みとどまった。
リルをナデナデしながらまた目を瞑る。

「おい!無視をするな!」

うるさいなぁとか思いながらリルにうるさいね?と言った。
すると、リルがのっそりと立ち上がり、吠えた。

「グゥァァァ!」

それだけで目の前の女の子もこちらを見ていた少年少女も目を逸らし、少し離れた所で遊びを再開した。
少女は思いっ切り怯え、走って取り巻きの侍女に泣き付いていた。

「ありがとう、リル」

僕は寝っ転がったリルに背を預け、礼を告げる。
「クルルルゥ」と何でもないように鳴き、腕に顔を埋めて寝てしまった。

「ふわぁぁ・・・」

僕は突然眠くなり、完全に体の力を抜く。
周りが少し明るくなったと感じた瞬間、僕は眠りに落ちた。
何だか今はよく眠れそうだ。

──side死神──

ふむ、なかなか感情が死んでるじゃないか。
儂も憐れみやら悲哀などの感情は無いが、彼の者はそれ以上に残酷かつ非道な事を平気で行える精神を持っておるな。

「クックック」

いかんいかん、面白過ぎて笑いが込み上げてきた。
彼の者がジョブの意味を理解した時が楽しみだ。

「主神様、吸血鬼の候爵様が面会を求めております」

黒い翼を背中に携え、無機質な顔をピクリとも動かさない女が死神に話し掛ける。
死神は立ち上がり、女に着いて行く。


「これはこれは死神様、御機嫌が宜しいようで」

とある部屋の中にいる1人の男、吸血鬼の中で最も強く、そして高い位の者だ。
ここに来れる者はこやつを抜いて後3人、彼の者も望めばここに来れる。
 
「うむ、継人が元気に感情を消し出しているのでな、儂も鼻が高い」

厳密に言うと感情を消すのでは無く別の感情でカバーしているだけなのだが・・・
この場でのカバーは覆うという意味だ。

「そうでございますか・・・私も何時か面会の時を作って頂けるので?」

「そうだな・・・何時か、な」

これから始まるのは吸血鬼と呼ばれる最強と、死神と呼ばれる人外の話し合い、または交渉。
・・・継人であるカインの為の、心無き死神の優しさであった。
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