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生方蒼甫の譚
墓地での相談
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ゴードンと向かい合い、強めの酒を酌み交わす。いやはや、神経節接続恐るべしですな。酔いまであるよ。泥酔ってわけじゃないけど、程よく酔える。これは「ゲーム界の革命だ」と言われてた理由もうなずける。そんなことに感動しながら、ゴードンの様子を窺う。
それほど酔ってはなさそうだが上機嫌だ。ちょいと探りを入れてみるか。
「なあ、あんたココに入って長いのかい?」
「ん?あ、ああ。ギルドに登録したのは15の時だなぁ。あの頃は王都の冒険者にあこがれてな。当時王宮英雄騎士団を辞めて冒険者になった奴が居るって騒ぎになったんだよ。奴は……」
ずいぶん饒舌に話してくれるが、今一つ俺の意図は伝わらなかったみたいだな。
「……ミノタウロスを撃退して北方に追いやっちまってナ。当時えれえ騒ぎになったもんさ。
……
いやぁ、でもお前さんたちはそのミノタウロスを倒しちまったんだもんな。世の中にはすげえ奴が居るもんだ」
そんなことを言いながらしみじみと酒をあおる。
ん~。もっと直接的に聞いてみるか。
「なあ、あんたの生まれは何処だ?俺は大阪生まれなんだが……」
「おお!お前もウサカか。実はな、俺もウサカ生まれなんだよ。俺が子供の頃はあんまり大きな町じゃなくてよ。王都にあこがれたもんだよ」
ああ、ウサカと勘違いされたか……。でも、日本人なら大阪って聞き取れるよな。日本人じゃないのか?自動翻訳入ってるのか?直球で聞いてみるか。
「あんた日本人か?」
「ん?ニュホンジュン?なんだ。それ?」
「いや、何でもない」
「なんだよ。もう酔ったのか。これからだぞ!」
その後も酒盛りは続いたが、ゴードンからそれらしい話を聞くことはできなかった。どうやらプレーヤーと言うわけでもなさそうだ。
ひとしきり呑んで盛り上がったところで、受付嬢がゴードンの部屋に怒鳴り込んできた。
「マスター!飲みすぎです!!いい加減にしてください!」
「あ、お、おう。すまねぇな。わかった。これでやめるよ」
なんだ?受付嬢の方が強いのか?
「ルークスさんもいい加減にしてください。いくらこの町を救った恩人と言っても、ギルドの二階で飲んで騒ぐのは感心できません」
「はい。すいません」
まあ、職場の上で酒盛りされちゃぁ迷惑だよな。すんません。
というわけで、シュンと縮こまったゴードンの部屋を後にする。
1階の受付まで来ると、冒険者でにぎわっていた。鉱山に財宝が出たことが噂になっているんだそうだ。
ま、そう言う設定なんだろう、と思いながら周囲を眺めると……
「ユーザー:キース 職業 Dランク冒険者 LV:11 HP:252/265 MP:26/26 MPPS:2 STR:38 ATK:55 VIT:54 INT:20 DEF:34 RES:29 AGI:16 LUK:63 スキル:連撃☆ 剣:Lv12 体術:Lv6』
「ユーザー:ジョナサン 職業 Dランク冒険者 LV:12 HP:212/225 MP:25/28 MPPS:2 STR:28 ATK:65 VIT:64 INT:30 DEF:64 RES:19 AGI:26 LUK:96 スキル:必中☆ 弓:Lv18』
ここに居る冒険者の半分以上、8人ほどがユーザーだった。ステータス自体はそれほど高くないが、MPとスキルを持っていて、NPCとは明らかに違っている。
酔いに任せてユーザーたちに話しかけようとしたら、さっきの受付嬢に怒られた。
「ルークスさん!酔ってみんなに絡まないでくださいよ!」
はぁい。すいませぇん。
まあ、話しかけたところでゴードンと同じ反応をされるのがオチだろう。なんだかそんな気がしていた。酔いの心地よさとは裏腹にもやもやした気分のまま冒険者ギルドを後にする。
外はもうすっかり日が暮れていた。俺は町の外れまで行くと、そこからヨウトに転移する。
……
ヨウトも静まり返っていた。従業員のほとんどが居なくなり、すっかり淋しくなった街並みを眺めながら墓地へと向かう。
「おう。ルークスか。久しいな」
「モース。久しぶり!」
この町に住むようになってすぐにサトシに紹介された。まあ、紹介されたというより、サトシは俺の事をなんやかんやで疑ってたんだろう。魔法を教えてやったのに酷い奴だ。モースに会わせて俺が信頼に足るか確認したんだと思う。
まあ、俺もパラメータは弄れるから、不可視属性パラメータの「NPCとの好感度」を限界まで上げていて事なきを得たけどな。
「なんじゃ、浮かぬ顔だな」
「さすが。鋭いね」
モースはNPCだが、他とは少々毛色が異なる。メタAIと直接やり取りができるようになっている。メタAIはゲーム進行にあたって全体を統括するAIだ。モース自身はその事を創造神だと思っているが……
「いやね。どーも俺の知らないところでいろいろと世界がいじられてるみたいなんだよな」
「人間風情には詮無き事よの。至高の御方のお考えはワシらにはわからんよ」
「至高の御方ときたか。」
そう言いながら、俺は天命の書板を取り出す。
「ほう。おぬしは天命の書板を授かったのか。至高の御方からの信頼が厚いんじゃの」
「そう言うもんかね。随分気に入らなそうだったけどな」
「そのような事はあるまい。そうでもなければ過ぎた代物じゃ、それは」
「ふーん」
そう言いながら天命の書板を覗き込む。今俺が望んでいるモノが何なのかわからない。それを見透かしたように書板には何も映っていなかった。磨きあげられた書板は鏡のように俺の顔を映すだけだ。書板を揺らすと周囲の景色も映り込む。ふいにモースの顔が映り込んだ。
「モース。お前鏡に映るのな」
「なんじゃ、人を化け物みたいに」
「違うのか?」
「まあ、人では無いから化け物と言われれば否定はできんが」
「ふっ」
その物言いが無性におかしくて笑みがこぼれた。
「少しは気が晴れたのか?」
「どうかな。結局何もわからん。俺にはサトシの事もわからなきゃ、今の研究がうまく行ってるのかもよくわかんよ」
そうつぶやいたとき、不意に書板に映ったモースの顔が不気味にゆがむ。
口角がつり上がり、口元からは不規則な牙が無数に見える。
マンティコア!
そう。マンティコアの顔だ。
俺は背筋に冷たい物を感じて書板に映るモースの顔から目が離せなくなっていた。
不気味な笑顔のモースは俺に語り掛ける。
「まあ、そう言わずに。全て順調ですよ。生方先生」
それほど酔ってはなさそうだが上機嫌だ。ちょいと探りを入れてみるか。
「なあ、あんたココに入って長いのかい?」
「ん?あ、ああ。ギルドに登録したのは15の時だなぁ。あの頃は王都の冒険者にあこがれてな。当時王宮英雄騎士団を辞めて冒険者になった奴が居るって騒ぎになったんだよ。奴は……」
ずいぶん饒舌に話してくれるが、今一つ俺の意図は伝わらなかったみたいだな。
「……ミノタウロスを撃退して北方に追いやっちまってナ。当時えれえ騒ぎになったもんさ。
……
いやぁ、でもお前さんたちはそのミノタウロスを倒しちまったんだもんな。世の中にはすげえ奴が居るもんだ」
そんなことを言いながらしみじみと酒をあおる。
ん~。もっと直接的に聞いてみるか。
「なあ、あんたの生まれは何処だ?俺は大阪生まれなんだが……」
「おお!お前もウサカか。実はな、俺もウサカ生まれなんだよ。俺が子供の頃はあんまり大きな町じゃなくてよ。王都にあこがれたもんだよ」
ああ、ウサカと勘違いされたか……。でも、日本人なら大阪って聞き取れるよな。日本人じゃないのか?自動翻訳入ってるのか?直球で聞いてみるか。
「あんた日本人か?」
「ん?ニュホンジュン?なんだ。それ?」
「いや、何でもない」
「なんだよ。もう酔ったのか。これからだぞ!」
その後も酒盛りは続いたが、ゴードンからそれらしい話を聞くことはできなかった。どうやらプレーヤーと言うわけでもなさそうだ。
ひとしきり呑んで盛り上がったところで、受付嬢がゴードンの部屋に怒鳴り込んできた。
「マスター!飲みすぎです!!いい加減にしてください!」
「あ、お、おう。すまねぇな。わかった。これでやめるよ」
なんだ?受付嬢の方が強いのか?
「ルークスさんもいい加減にしてください。いくらこの町を救った恩人と言っても、ギルドの二階で飲んで騒ぐのは感心できません」
「はい。すいません」
まあ、職場の上で酒盛りされちゃぁ迷惑だよな。すんません。
というわけで、シュンと縮こまったゴードンの部屋を後にする。
1階の受付まで来ると、冒険者でにぎわっていた。鉱山に財宝が出たことが噂になっているんだそうだ。
ま、そう言う設定なんだろう、と思いながら周囲を眺めると……
「ユーザー:キース 職業 Dランク冒険者 LV:11 HP:252/265 MP:26/26 MPPS:2 STR:38 ATK:55 VIT:54 INT:20 DEF:34 RES:29 AGI:16 LUK:63 スキル:連撃☆ 剣:Lv12 体術:Lv6』
「ユーザー:ジョナサン 職業 Dランク冒険者 LV:12 HP:212/225 MP:25/28 MPPS:2 STR:28 ATK:65 VIT:64 INT:30 DEF:64 RES:19 AGI:26 LUK:96 スキル:必中☆ 弓:Lv18』
ここに居る冒険者の半分以上、8人ほどがユーザーだった。ステータス自体はそれほど高くないが、MPとスキルを持っていて、NPCとは明らかに違っている。
酔いに任せてユーザーたちに話しかけようとしたら、さっきの受付嬢に怒られた。
「ルークスさん!酔ってみんなに絡まないでくださいよ!」
はぁい。すいませぇん。
まあ、話しかけたところでゴードンと同じ反応をされるのがオチだろう。なんだかそんな気がしていた。酔いの心地よさとは裏腹にもやもやした気分のまま冒険者ギルドを後にする。
外はもうすっかり日が暮れていた。俺は町の外れまで行くと、そこからヨウトに転移する。
……
ヨウトも静まり返っていた。従業員のほとんどが居なくなり、すっかり淋しくなった街並みを眺めながら墓地へと向かう。
「おう。ルークスか。久しいな」
「モース。久しぶり!」
この町に住むようになってすぐにサトシに紹介された。まあ、紹介されたというより、サトシは俺の事をなんやかんやで疑ってたんだろう。魔法を教えてやったのに酷い奴だ。モースに会わせて俺が信頼に足るか確認したんだと思う。
まあ、俺もパラメータは弄れるから、不可視属性パラメータの「NPCとの好感度」を限界まで上げていて事なきを得たけどな。
「なんじゃ、浮かぬ顔だな」
「さすが。鋭いね」
モースはNPCだが、他とは少々毛色が異なる。メタAIと直接やり取りができるようになっている。メタAIはゲーム進行にあたって全体を統括するAIだ。モース自身はその事を創造神だと思っているが……
「いやね。どーも俺の知らないところでいろいろと世界がいじられてるみたいなんだよな」
「人間風情には詮無き事よの。至高の御方のお考えはワシらにはわからんよ」
「至高の御方ときたか。」
そう言いながら、俺は天命の書板を取り出す。
「ほう。おぬしは天命の書板を授かったのか。至高の御方からの信頼が厚いんじゃの」
「そう言うもんかね。随分気に入らなそうだったけどな」
「そのような事はあるまい。そうでもなければ過ぎた代物じゃ、それは」
「ふーん」
そう言いながら天命の書板を覗き込む。今俺が望んでいるモノが何なのかわからない。それを見透かしたように書板には何も映っていなかった。磨きあげられた書板は鏡のように俺の顔を映すだけだ。書板を揺らすと周囲の景色も映り込む。ふいにモースの顔が映り込んだ。
「モース。お前鏡に映るのな」
「なんじゃ、人を化け物みたいに」
「違うのか?」
「まあ、人では無いから化け物と言われれば否定はできんが」
「ふっ」
その物言いが無性におかしくて笑みがこぼれた。
「少しは気が晴れたのか?」
「どうかな。結局何もわからん。俺にはサトシの事もわからなきゃ、今の研究がうまく行ってるのかもよくわかんよ」
そうつぶやいたとき、不意に書板に映ったモースの顔が不気味にゆがむ。
口角がつり上がり、口元からは不規則な牙が無数に見える。
マンティコア!
そう。マンティコアの顔だ。
俺は背筋に冷たい物を感じて書板に映るモースの顔から目が離せなくなっていた。
不気味な笑顔のモースは俺に語り掛ける。
「まあ、そう言わずに。全て順調ですよ。生方先生」
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