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魔王の譚

茶番

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 偽エリザはローブから鋭いけりを少女に向けて放とうとしている。
 おい、まじか。女子供に容赦ねぇな。
 
 背中から刀を抜き偽エリザに斬りかかるが、偽エリザは蹴りの体勢からバク転、バク中を繰り返して斬撃を躱しつつ背後に飛び退いた。体操選手かよ。器用な奴だ。

 少女もリオン少年も特に怪我は無い様だ。いくら治癒すりゃ治るとは言え、女子供に怪我させるのは気が引ける。

「おい!何やってんだ!?」
 カールが俺に食って掛かる。
「今の斬撃!殺気がこもってたぞ!?それにエリザもどうした?なんでだ?」
 カールはまだ状況がつかめて無い様だ。さっきカルロスなりの自己紹介があったと思うんだが……カールには通じなかったのか?流石察しの悪い男だ。取り敢えず放っておこう。
 
「カール。相変わらずお前は察しが悪いなぁ。脳筋ここに極まれりって感じやな。そんなんやったらモテへんぞ。あ、モテてたらその歳まで独り身ってこと無いワナ」
 偽エリザはそういいながらカラカラと笑う。意見が合うな。俺もそう思うよ。
 
「おい、なんだよ。どうしたんだよ。エリザ!?お前おかしいぞ!!」
 カールは必死に呼びかけるが、それに対する偽エリザの反応はない。

「カール。お前はじっとしてろ。もうこいつはエリザじゃない。カルロスだ」
 カルロスのプレーンな能力を確認できる稀有な好機だ。できればカールにはしばらく大人しくしていてもらいたいもんだ。

「カルロスって……そんな訳ねぇだろ。エリザだよなぁ!?なあ。エリザ!!冗談だよな!?な?ちょっと悪戯心出してみただけだよな?」
 カールは懇願するような目で偽エリザに訴えかけている。随分ご執心だな。どうやらカルロスもそう思ったらしく終始やけっぱなしだ。

「なあってばぁ!!」
「うるさいなぁ!ええ加減に……っつ!」
 カールのおかげでカルロスの集中が一瞬途切れた。今が頃合いだな。ハルマン(さっきまで)の様子を見るとかなりの手練れだろう。スキルが無効化されているとはいえ気を抜けばやられるかもしれん。
 二度、三度急所めがけて斬撃を繰り出したが、カルロスはことごとくそれを躱してゆく。

「っておい。いきなり来るなぁ。にしても、然(さ)しものウルフさんでもちょっと気の迷いがあるんか?なんや温(ぬる)い太刀筋やで」
「減らず口は聞けるみたいだな」
 流石というべきか。本気を出さないと不味いかもしれんな。

「おい!お前確実に殺しに行ってるだろ!?仲間だぞ!エリザなんだぞ!」
 カールは相変わらず喚き散らしている。迫真の演技……ってわけじゃないが、良い感じだ。

「だからいい加減あきらめろ!エリザはカルロスの手に落ちた。取り戻す方法はわからん。が、奴を倒さなきゃ始まらんことだけは確かだ」
「そんな。取り戻す方法が分からないって……なんだよ。お前魔王なんじゃねぇのかよ!?」
 こんな時に魔王呼ばわりは酷いと思うが……まあ、カルロス捕縛の為に部下を犠牲にしてるからな。確かに魔王と言われれば反論できん。

 と、思ったのもつかの間。カールはわなわなと震えながら視線を地面に落としている。それだけなら特に気にも留めなかったが、奴の周囲を魔力の奔流が駆け巡る。太刀の柄がギリギリと鳴るほど強く握りしめられ、カールの周囲には靄のようなものが立ち上っていた。
 その靄は次第に濃度を増し、周囲に向かって熱気を放ち始める。

 視覚的にも魔力が見えるって……

 カールを中心として周囲に向かって風が吹き始めた。
 物理的にもか!?
 
「おい!カール!?」
 オットーが慌ててカールに駆け寄ろうとする。が、カールの勢いに押されて立ち止まる。
 Sランク風情じゃ近づくことも儘ならんだろうな。ありゃ暴走に近いぞ!?
 
 カールがゆっくり顔上げるとその瞳には魔方陣が浮かび、鈍く紫色に輝き始める。
 
「エリザを……かえせ」
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