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魔王の譚

過剰反応

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 カールはエリザを見つめたまま腰を落とし攻撃態勢へと入る。
 いやいや!まてまて!!

「馬鹿野郎!!粉々にする気か!?」
 これは止めないとえらいことになる。俺は咄嗟にカールに斬りかかる。
 
 カールは一瞬後退して俺の斬撃を鼻先で躱しながらバク宙をかます、着地の反動を利用しエリザとの距離を詰める。どんな身体能力してやがんだ!?

「この考えなしがぁ!」
 カールの背後から蹴りを放つ。が、カールはそれもわずかな動作で躱しカルロスへと手を伸ばす。

 すると、カルロスはカールに向かって突っ込んできた。

「くっ!」
 カールが慌てて手を引き、そのままエリザの背後に回る。

 カルロスは煽るように、わざとぶつかろうとカールの進む先へと移動する。そのたびカールは後ろに飛び退き距離を取る。

「カール!落ち着け!」
 カールに叫ぶが全く聞く様子がない。バーサクでも罹(かか)ってるんじゃないかと心配になるレベルだ。

「どないした?打つ手なしか?その御大層な能力もエリザ相手には使えんか?」
 カルロスは不敵な笑みを浮かべながらカールを挑発するように両手でローブの裾を軽く持ち上げ、片足を一歩引き貴族令嬢のような挨拶をして見せる。
「ちきしょう!エリザ!聞こえてるか!頼む!元に戻ってくれ」
 カールはカルロスの周囲を高速で回りながら懇願する。が、当のカルロスは必死なカールの表情を見ながら大口を開けて笑い始める。

「ハハハハッ!良(え)えざまやなぁ!無敵の鍛冶屋が魔導士の嬢ちゃんの周りをまわってお願い事かぁ!」
 普段の上品な様子とは打って変わった下品な物言いと高笑い。その周りを攻撃することもできずカールがもどかしそうに飛び回っている。
 カールの「考え無し(ノープラン)」も困ったもんで、不用意にカルロスに向けて手を伸すもんだから、俺が止めなきゃならん。距離を取ろうとすればカルロスが距離を詰めてくるし。カルロスの右手には「業の指輪」が嵌っている。右手を切り落とされるとすべてが水の泡だ。俺は必死にカールを止める。
 そんな攻防がしばらく続いていると、その様子を遠巻きに見ていたオットーが頭を掻きながらあきれたようにカールに告げる。
「お前、全く話聞いてなかったろ……ったく。これだから……おい!カール。いい加減落ち着け!」
 オットーが堪らず声をかけるが、カールは逆切れする。

「これが落ち着いてられるかよ!エリザが……エリザ……が」
 カールがいら立ちとも諦めともつかない表情を見せる中、オットーとウルフはヤレヤレといった雰囲気でカールに近づく。

「ちゃんと説明したはずなんだがな。あれはエリザじゃない」
 俺は諭すようにカールに伝えるが、カールは納得しない。部下はちゃんと説明している。さっきのオットーの様子を見れば明らかだ。が、カールは聞いてなかったんだろうなぁ。予想通りと言えばそれまでだが……
 
「いや。でもエリザだろ!催眠術かなんかで……」
 経験者だろ?お前。
「お前も食らったじゃねぇか!覚えてねぇのか!?ありゃソウルスティールと同系列のスキルだ。中身が入れ替わってんだよ。外身はそのままでも、中はカルロスだ」
「ソウルスティール……ってことは……」
 やっとかよ。
「そうだ。どれだけ問いかけてももとには戻らん。体験してるお前が一番よくわかってんじゃねぇか!この馬鹿チンが!」
 俺はカールの横まで歩いてくると、カールの頭を思い切り叩く。

「ってぇ!何しやがんだ!」
「てめえが暴走するからだろうが!危うく粉微塵にしちまうところだろ!!」
「いや、さすがにそこまでは……でも……」
「いやいや。お前にとってエリザが大事だってことはよくわかったよ。お前の成長をうれしく思うぜ」
 俺は腕を組んでしみじみと思いにふける。
『な!エリザ。どうだ?言ったとおりだろ?むしろ俺が思ってたよりも想いは強かったんじゃないか?』
『……あ、いや。その……』
『どうした?なんかあったか?』
『なあ?サトシもそう思うよな』
『あ、いや……できれば、俺を巻き込まないでいただけると……』
『巻き込む?』
 なんだか煮え切らんな、二人とも。良い感じだったと思うんだが、と、遠くに見えるサトシとエリザを眺めてみると……

 ここからでもわかるくらいエリザは顔真っ赤にしてもじもじしてるな。

 いや。小学生か!俗に言う「おぼこい」って奴かな。
 ん~。やっぱりカールとお似合いなんじゃないかな。歳の差はあれど。まあ、両人が良ければ問題ないんじゃないかな。
 などと考えていると、カールから突っ込まれた。
 
「いや。お前俺の何を知ってんだよ!……ってこんなことしてる場合じゃねぇだろ!?」
 やっぱり思い出さんか。無理なもんなのかなぁ。まあ、それは良い。取り敢えずカルロスの事に集中しよう。取り敢えず捕縛は出来ている。後はサトシに任せるだけだ。
 
「いや。いいんだ。これで」
「よくねぇだろ!エリザをどうやって取り戻すんだよ!」
「えらい余裕やな。なんか作戦でも思いついたんか?」
 カルロスは俺を小ばかにしたように眺めながら、ゆっくりとカールに近づいてゆく。

 さて、頃合いだな。
 俺は腕組みを解き右手を高く挙げる。その様子をカルロスは不思議そうに見ている。
「なんや!?降参かぁ?」
 カルロスは口ではそう言いつつも疑念を抱いたようだった。周囲を警戒し動きを止る。
 いまだ。

「じゃあ。頼む」
『了解』
 サトシからの念話(チャット)が届いた。
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