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終章
告白
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「正直にっつっても、俺にわかることは限られてるぞ」
ルークスは観念してサトシにすべてを話そうと考えていた。実験として破綻していることは彼なりに薄々……というか、判ってはいたが認めたくなかったというのが正直なところだろう。ありていに言えば再度やり直すことがめんどくさくて逃げていた訳だ。
「じゃあ、まず……確認ですが、ルークスさんは管理者なんですか?」
サトシも何をどう質問していい物やら考えあぐねていると言ったところだったが、単刀直入に聞いてみた。
ルークスは天上を見上げると、少し考えて答える。
「まあ、管理してると言えば……管理してるな。一応俺の研究室の所有物って事になってるし」
「研究室?」
サトシがその言葉に食いついたとき、ルークスは失敗した事に気づいた。が、後の祭りである。全て話そうとは決めたが、実験の内容について話せば、サトシに大きなショックを与えるのではないかと感じていたからだ。
「ふうぅ」
ルークスは大きく深呼吸すると、ゆっくりとサトシに向かって話始める。
「なあ、サトシ。落ち着いて聞いてくれるか?」
「はい。どうぞ」
「あのな。この世界……ゲームなんだよ」
重々しくためを作ったうえでルークスはサトシに告げる。
すると、
「何をいまさら」
「は?」
サトシの意外な反応に、ルークスは着いて行けなかった。
「え?あー。へ?
あの。俺結構衝撃的な事言ったと思うんだけど……。なんで?」
その問いにサトシは事も無げに答える。
「なんで俺が気付いてないと思ったんですか?明らかにおかしいでしょ?この世界。むしろなんでみんな普通にしてるのかが不思議なくらいでしたよ」
サトシは呆れ気味にルークスに確認する。
「俺、ルークスさんに同意を求めてたんですけど……気づいてましたよね?なんか結構はぐらかされましたけど」
「え?あ、あれ俺に確認してたの?」
サトシとのやり取りを思い返して、ルークスは何度かそれらしい話を振られたことを思い出した。その都度彼はこの世界が仮想現実だと気づかれないように話を誤魔化していたが、まったく見当違いの対応だったようだ。
「正直なところ、ルークスさんに会うまで確信は持てなかったんですよ。まあ、NPCぽいのとプレーヤーっぽいのが居るなぁ位で」
「「な!?」」
ルークスとフリードリヒが口を開けたまま固まる。
「どうしました?なんかありました?」
「あ、いや」
サトシがNPCという言葉を発した驚きから回復できていない二人はしどろもどろになる。
「お前、気づいてたのか?」
「気づいてたのか……って、NPCの事っすか?
やだなぁ。気づかないわけないじゃないですか。明らかにAIじゃないっすか。会話してて違和感しか感じないでしょ?
まあ、これも今となっては慣れ切っちゃったんすよね、NPCとの会話。意外に心地よいと言うかなんと言うか。最初は気色悪かったですけどね。不気味の谷って言うんですかね。あれ。いや、顔とか姿かたちは全く問題ないんですけど、話してる内容が……ねぇ」
「最初はって。いつ頃までだ?」
ルークスは恐る恐る聞いてみる。するとサトシは笑いながら答える。
「そりゃ一番最初ですよ。俺の家族?ですかね。ゴブリンに殺された……」
「いや。重いな。その話重いぞ!お前の言葉は軽いが……お前どうなってんだ?おかしくなったか?」
ルークスが堪らず突っ込む。が、サトシはどこ吹く風と言わんばかりに言い返す。
「重いも何も、いきなり見ず知らずの……それもNPCと親子だとか幼馴染だとか言われても……「ん?」ってなりません?まあ、そんなもんなんだろうと割り切ってましたけど。
で、挙句タイムリープして何回も殺されるもんですから、なんか腹立って来て」
「家族って感覚は?」
「最初は全くなかったですよ。いや。まあ、何度も「父親だ」みたいなこと言われると多少精神的に来るものはありましたけどね」
サトシにも思うところがあったようだが、その気持ちを抑えて話を続ける。
「なんて言うんすかねぇ、こう、愛着的なもんです。やっぱ自分の家族とか、自分の持ち物とか愛着が湧くじゃないですか」
その言葉にルークスは少々戸惑っていた。
「いや、家族と持ち物が同格なのか?」
「別にそう言う訳じゃなくて。家族は大事ですよ。当然。でも、この世界の家族は仮初じゃないですか?そうすると、ある意味持ち物的な感情になるんですよ。
でも、持ち物に対しても想いが強くなると……ねえ?わかりません?この感覚」
と、サトシは言い表せない感覚を表情で伝えようとする。
「あれか、ブランケット症候群て奴か?」
「ああ、そんな感じです!」
「なんだ?そりゃ」
ルークスとサトシには通じるものがあったらしいが、フリードリヒには伝わらなかった。
「あれだよ。耳の長い犬が出てくる有名な漫画。見たことないか?いつも毛布を持ってる子供が居ただろ?あれだよ。特定の物に異常に執着するって奴」
「ふーん。そんなのがるのか」
フリードリヒは今一つピンと来ないような返事をしたところで、サトシが思い出したように話を戻す。
「話が逸れましたね。で、ルークスさん。研究室って言ってましたよね。ルークスさんは研究者なんですか?」
先ほどとは打って変わって、サトシが神妙な面持ちでルークスに詰め寄る。
ルークスはその様子をみて、ごまかせない雰囲気をかぎ取ったのだろう。また大きく一つ深呼吸をしてから、ゆっくりと答える。
「そうだ」
言葉を区切り、サトシの様子を窺う。
サトシは変わらずルークスをしっかりと見据えていた。
「何の研究……
いや。俺を観察してたんですね」
サトシは話しながらその事に気づくと、そこで一瞬目を伏せる。その様子にルークスは黙り込んだ。
重苦しい空気が流れる中、サトシは意を決したように話始めた。
「俺は実験体ですか?なんの実験です?」
「あ、ん~」
ルークスは何を見るわけでもなく視線を忙しなく動かしながら言葉を探す。が、喉に仕えて唸るような声しか出てこなかった。
「俺は……なんなんですか?」
サトシの言葉は僅かに怒気を含んでいた。苛立ちと言った方が良いかもしれない。
『自分が何者なのか』
哲学的な意味ではなく、ただ単純に物理的な意味で自分が何者なのかがわからない、その苛立ちが言葉に現れていた。
「データ……」
「え?」
「データだ。お前は被験者から読み取られた疑似人格だ」
ルークスは観念してサトシにすべてを話そうと考えていた。実験として破綻していることは彼なりに薄々……というか、判ってはいたが認めたくなかったというのが正直なところだろう。ありていに言えば再度やり直すことがめんどくさくて逃げていた訳だ。
「じゃあ、まず……確認ですが、ルークスさんは管理者なんですか?」
サトシも何をどう質問していい物やら考えあぐねていると言ったところだったが、単刀直入に聞いてみた。
ルークスは天上を見上げると、少し考えて答える。
「まあ、管理してると言えば……管理してるな。一応俺の研究室の所有物って事になってるし」
「研究室?」
サトシがその言葉に食いついたとき、ルークスは失敗した事に気づいた。が、後の祭りである。全て話そうとは決めたが、実験の内容について話せば、サトシに大きなショックを与えるのではないかと感じていたからだ。
「ふうぅ」
ルークスは大きく深呼吸すると、ゆっくりとサトシに向かって話始める。
「なあ、サトシ。落ち着いて聞いてくれるか?」
「はい。どうぞ」
「あのな。この世界……ゲームなんだよ」
重々しくためを作ったうえでルークスはサトシに告げる。
すると、
「何をいまさら」
「は?」
サトシの意外な反応に、ルークスは着いて行けなかった。
「え?あー。へ?
あの。俺結構衝撃的な事言ったと思うんだけど……。なんで?」
その問いにサトシは事も無げに答える。
「なんで俺が気付いてないと思ったんですか?明らかにおかしいでしょ?この世界。むしろなんでみんな普通にしてるのかが不思議なくらいでしたよ」
サトシは呆れ気味にルークスに確認する。
「俺、ルークスさんに同意を求めてたんですけど……気づいてましたよね?なんか結構はぐらかされましたけど」
「え?あ、あれ俺に確認してたの?」
サトシとのやり取りを思い返して、ルークスは何度かそれらしい話を振られたことを思い出した。その都度彼はこの世界が仮想現実だと気づかれないように話を誤魔化していたが、まったく見当違いの対応だったようだ。
「正直なところ、ルークスさんに会うまで確信は持てなかったんですよ。まあ、NPCぽいのとプレーヤーっぽいのが居るなぁ位で」
「「な!?」」
ルークスとフリードリヒが口を開けたまま固まる。
「どうしました?なんかありました?」
「あ、いや」
サトシがNPCという言葉を発した驚きから回復できていない二人はしどろもどろになる。
「お前、気づいてたのか?」
「気づいてたのか……って、NPCの事っすか?
やだなぁ。気づかないわけないじゃないですか。明らかにAIじゃないっすか。会話してて違和感しか感じないでしょ?
まあ、これも今となっては慣れ切っちゃったんすよね、NPCとの会話。意外に心地よいと言うかなんと言うか。最初は気色悪かったですけどね。不気味の谷って言うんですかね。あれ。いや、顔とか姿かたちは全く問題ないんですけど、話してる内容が……ねぇ」
「最初はって。いつ頃までだ?」
ルークスは恐る恐る聞いてみる。するとサトシは笑いながら答える。
「そりゃ一番最初ですよ。俺の家族?ですかね。ゴブリンに殺された……」
「いや。重いな。その話重いぞ!お前の言葉は軽いが……お前どうなってんだ?おかしくなったか?」
ルークスが堪らず突っ込む。が、サトシはどこ吹く風と言わんばかりに言い返す。
「重いも何も、いきなり見ず知らずの……それもNPCと親子だとか幼馴染だとか言われても……「ん?」ってなりません?まあ、そんなもんなんだろうと割り切ってましたけど。
で、挙句タイムリープして何回も殺されるもんですから、なんか腹立って来て」
「家族って感覚は?」
「最初は全くなかったですよ。いや。まあ、何度も「父親だ」みたいなこと言われると多少精神的に来るものはありましたけどね」
サトシにも思うところがあったようだが、その気持ちを抑えて話を続ける。
「なんて言うんすかねぇ、こう、愛着的なもんです。やっぱ自分の家族とか、自分の持ち物とか愛着が湧くじゃないですか」
その言葉にルークスは少々戸惑っていた。
「いや、家族と持ち物が同格なのか?」
「別にそう言う訳じゃなくて。家族は大事ですよ。当然。でも、この世界の家族は仮初じゃないですか?そうすると、ある意味持ち物的な感情になるんですよ。
でも、持ち物に対しても想いが強くなると……ねえ?わかりません?この感覚」
と、サトシは言い表せない感覚を表情で伝えようとする。
「あれか、ブランケット症候群て奴か?」
「ああ、そんな感じです!」
「なんだ?そりゃ」
ルークスとサトシには通じるものがあったらしいが、フリードリヒには伝わらなかった。
「あれだよ。耳の長い犬が出てくる有名な漫画。見たことないか?いつも毛布を持ってる子供が居ただろ?あれだよ。特定の物に異常に執着するって奴」
「ふーん。そんなのがるのか」
フリードリヒは今一つピンと来ないような返事をしたところで、サトシが思い出したように話を戻す。
「話が逸れましたね。で、ルークスさん。研究室って言ってましたよね。ルークスさんは研究者なんですか?」
先ほどとは打って変わって、サトシが神妙な面持ちでルークスに詰め寄る。
ルークスはその様子をみて、ごまかせない雰囲気をかぎ取ったのだろう。また大きく一つ深呼吸をしてから、ゆっくりと答える。
「そうだ」
言葉を区切り、サトシの様子を窺う。
サトシは変わらずルークスをしっかりと見据えていた。
「何の研究……
いや。俺を観察してたんですね」
サトシは話しながらその事に気づくと、そこで一瞬目を伏せる。その様子にルークスは黙り込んだ。
重苦しい空気が流れる中、サトシは意を決したように話始めた。
「俺は実験体ですか?なんの実験です?」
「あ、ん~」
ルークスは何を見るわけでもなく視線を忙しなく動かしながら言葉を探す。が、喉に仕えて唸るような声しか出てこなかった。
「俺は……なんなんですか?」
サトシの言葉は僅かに怒気を含んでいた。苛立ちと言った方が良いかもしれない。
『自分が何者なのか』
哲学的な意味ではなく、ただ単純に物理的な意味で自分が何者なのかがわからない、その苛立ちが言葉に現れていた。
「データ……」
「え?」
「データだ。お前は被験者から読み取られた疑似人格だ」
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