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血を喰らうものたち
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それはとても蒸し暑い日であった。
昨日で15になったばかりのガイルは、朝早くから家で使う水を汲むために井戸へと向かう。
カラッと晴れた太陽の下で舞う砂は口の中にも瞼にも簡単に入り込む。
「ガイルは本当にまつげが長くて羨ましいわ」
生前母がそのようなことを言っていたことを思い出す。
男の自分にはよくわからぬが、やはり見目美しいと言うのは男女に関わらず羨望の眼差しになるのであろう。
自分としては筋肉をもっとつけ、いっそのこと毛深い男にでもなってしまいたかったが母に似た己はどちらかというと男の中では華奢な方であった。
家の大きな水入れの壺に使う分の水を入れ終わると川へ向かう。
昨日仕掛けた罠に魚がかかっているのを確かめに行くのだ。数か所罠を確かめに行けば、今日捕れた魚は五匹。一人暮らしのガイルが食べる分には十分の量であった。
ぽってりとした魚は白いお腹の部分がうっすら血がにじみ出たような色となっている。
すぐに腹を捌き内臓を取り出して中を川の水で洗う。
そうして下処理を終えた魚を自宅へ持ち帰ると、魚を調理場へ置き調味料を取りだした。
木でできた小さな器に、塩と胡椒、クミン、唐辛子、潰したにんにくを入れる。家の近くで取れる葉と玉ねぎをナイフで細かく切り刻み、レモンを絞る。
それを全て魚の腹に詰め終えて、味がしみ込むまで別の片づけや洗濯物を洗ったりした。
母が亡くなってからは、この家でたった一人で暮らしている。
お陰で炊事洗濯全てを自分で行っている。慣れてしまえば造作もないことだ。
魚に程よく味がしみ込んだ頃小麦粉を全体的にまぶし、それを油で揚げていく。
皿に盛ったそれを黙々と平らげた。
このあたりではよく作られる一般的な魚料理の一つだ。川魚、時には蟹なども捕れる。
朝食を食べ終えて、洗濯物を干していると国からお触れの通知が届いた。
中身を確認すれば近年、近隣国の戦争が激化し人手が足りぬのだと言う。相手国の中にはうまく魔物を扱う人間もいるようで魔物を使った攻撃も伴っている。多くの兵が命を落とし、それでも国は負けるわけにはいかない。その為、若い力ある男達に志願兵を募ったのだ。
その志願した際の給金が、ほそぼそと暮らすガイルには目玉が飛び出すほどの金額であった。
名のある兵士たちはもっと貰っているのではあるだろうが、この給金を貰えばしばらく生活に困らない額だった。ガイルは身体は華奢であれど病弱ではなく、さっそく知り合いの男のもとへと向かったのだ。
「お前は行くのか?志願兵」
「なんだ。ガイルのところにも届いたのか。こりゃあいよいよこの国危ないんじゃないか?」
そうガイルの呼び声にこたえたのは、幼い頃から仲のいいカディーラ・ジュンディーだった。
カディーラはガイルよりも体格がよく肌も褐色で、綺麗に筋肉がついており憧れの的でもあった。
「もしかしたら戦えそうな奴ら全部にこの便りを出しているかもな。見たか?この給金。本当に払ってくれるのかな?」
「カディが行くんなら、俺も行こうかなと思って。腕には自信があるし、何より数か月さえ我慢すればいいんだ。楽なもんだろ」
カディは、ちょうど家庭内で使用する肉捌き用の刀を研いでいて、それの切れ味を確かめていた。随分と使い古されたその刃は研ぐたびにすり減っていき、もうそろそろ新しいものに変えたほうがよさそうだった。
研ぎ終えた数本の刃を机に置いて、改めて俺が持ってきた便りとカディのもとへ届いた便りを二枚同じものを並べて机に置いて眺めた。俺もカディも現在一人暮らしで親はいない。妻を迎える気配も今のところないので数か月戦へ向かったとて心配はいらない。飼っている羊たちは、いつもお世話になっている同じ遊牧民のおじさんたちに預けておけばいい。すでに二人の心は決まっていた。
「出発は?」
「明朝?それまでに羊たちとかのお願いをしないと」
「そうだな。」
こうして俺とカディは二人、戦争のため臨時兵士に名乗りを上げたのだ。
最初の数日は訓練を行い、ある程度戦い方のいろはを教わったうえですぐさま戦場へ赴いた。
俺たちは基本的に魔物の相手であったり、味方が打ち漏らした残党兵を狩るなどを行った。
倒した魔物の中には希少価値の高い魔物もいて、毛皮や牙や角、肉なども余裕があれば持ち帰り金にする仲間もいた。特段咎める者はいない。戦場では全てが黙認状態であった。
中には戦いに巻き込まれた村にいた女子供を襲い、楽しむ下衆もいた。
俺たちは魔物から取れる魔石や毛皮などは持ち帰ることもあったが、あそこまで落ちたくはないと思いながらその場を後にしたものだ。
そうして戦いも激化し、まわりの人間も幾度か入れ替わる中俺達二人は奇跡的に生き残っていた。
危ない瞬間は何度かあった、俺が敵の矢に胸を貫かれた時もたまたま魔法師が近くにいて回復魔法で何とかなった。カディが魔物の巨大な足に潰されかけた際も、俺が投げた剣が運よく魔物の目に的中しよろめかせた瞬間に急いで助け出すことが出来た。
だがそんな幸運も毎回続くわけもなく、ある珍しく曇った日であった。
空は薄暗く、今にも天候が悪化しそうなぶ厚い雲。灼熱の大地の中戦って体力が消耗するよりは楽な戦いであった。その頃には怪我もなく魔物を倒すことが出来るようになってきて自分たちに力に過信していたことは否めない。いつものように牛のような突進してくる魔物を数体倒して、味方全員一呼吸を置いていた。持ち場が片付けば他の持ち場の者達の状況を見て加勢しに行くなり、そのまま補給場へ行き壊れた武器の交換や、今のうちに怪我をしている者は治療を受けに行くのだ。
「なぁ、本隊の状態って今どうなっているんだろうな?」
「さぁな、興味はないが。さっさと金を貰って帰りたいね俺は」
国と国の争いは良く分からない。けれど、攻められれば自分たちの生活に害を及ぼすために俺たちは国に協力しているだけで、相手の国に何らかの憎しみを持っているわけでも無かった。
こうした発想は珍しいのだろうか?ただ自分たちに被害が及ばなければいいのだと。俺はそれだけだったのだ。
足元に転がる魔石とこつんと足先で触り、それを拾おうと屈んだ時であった。
大地が揺れた。
「なんだ?!地が・・・・くそ、なんだこれ魔法か?」
「落ち着けガイル。ひとまずしゃがめ!こんな広範囲の地を揺らす魔法師がいるなんて・・・本隊の状況は?」
とてもじゃないが立っていられなかった。全員が膝をつき、どのぐらいの時間揺れていたのであろうか。揺れが次第に落ち着いてきてもまだ身体が揺れている気がする。
自然現象で大地が揺れるなどあり得ない。立ち上がれるほどの揺れが落ち着きを取り戻してすぐに俺たちは本隊へ向かった。
怪我人が続出しているであろう予測し、すぐに怪我人を運ぶ手が必要だと思った。
俺たちの部隊は手分けして包帯や使える武器の補充物資を運び本隊へ持って行った。
「っ・・・・!」
「これは・・・・」
その場所は本隊の末端がいる場所で。
国一番の兵達が集う場所の一つだったはずだ。
俺たちは立ち尽くした。赤い砂の大地にとても大きな抉れた穴が広がっていた。
その穴の底には煙が立ち上り、何らかの攻撃を受けた後だとわかる。数本ばかり穴の底に刺さる折れた味方の剣や武具が、そこにいたのだと教えてくれる。
「うあああああああああ!」
誰が叫んだかなんて覚えていない。己自身も叫んでいたかもしれない。
抉れた大地、そこにはすでに敵も味方も魔物すらいなかった。
ただ燃えるように立ち昇る煙と、その跡を残すのみ。
何が起きたのか、俺たちはただ茫然と立ち尽くしていた。
敵か味方が、魔法を放ちそれがこの結果なのか。
己は魔法すら使えぬただの人間にとってそれは理解の及ばない恐怖でしかない。
(こんな力・・・・)
味方すら滅ぼす力をあえて放ったのか、予想外の事態で攻撃魔法が暴発してしまったのか。もう聞くことは叶わない。
他の小部隊も加勢しに来たのか、後ろから新たにやってきた部隊が息をのんでいるのが聴こえる。
そして新たに数回、また地が揺れたのだ。
(狂っている・・・こんな戦い)
その日、ペルメル王国の兵の3割が壊滅した。
今思えばほぼ負け戦であった。
それでも貴族や王族は、駒を動かし戦略を練り悩む程度で現場のことなどつゆ知らず。
兵が減れば国の民から補充すればいい。その程度の考えであったのだ。
徐々に現場は困窮した。
本隊にいた有能な回復力のある魔法師達も多く亡くなってしまったがために、末端の寄せ集めの兵達まで人手は回らなくなった。大けがを追えばそれすなわち死である。軽傷も自分たちで簡易的な手当てしかできず皆が徐々に疲弊した。包帯すら最後には補充されなくなり、亡くなった人間の綺麗な衣服を奪いそれを破り包帯を作った。
恐ろしい魔法の力とはいえ、回復できる力があればとあの時は何度願ったことだろう。
志願兵となり仲良くなった奴が昨日死んだ。
女子供を襲い快楽に身を落としていた奴は随分前に。
今日は誰が死ぬのだろう。自分かもしくは別の人間か。脳すら何も考えたくなくてただ目の前の出来ることだけを機械的にこなすようになっていた。
食事も睡眠も極端に減らされて、もう満身創痍だった。
だからとは言いたくはない。己にとってあの光景は決して忘れてはならないのだから。
「ガイル!!」
「っ・・・・!!」
それは全てがゆっくりとした時間に感じられた。
多くの魔物を倒し終え、息を整えていた俺の近くの砂からいきなり現れたのは巨大なラムルアペプ。
アペプとは魔物の中でも凶暴性が特に高く、時には仲間さえかみ殺すほどの残虐さも持つ。そしてだからこそ決して人間に懐くことは無いと聞く。
つまり敵国の操る魔物ではない。きっと幾日も砂漠の上で血が流れ、まして先日大きな地を揺るがすほどの魔法を放っていれば地中深くにいる魔物を怒らせてしまってもおかしくは無かった。
初めてみる巨大なアペプ。その大きな口に生える牙が見えても俺の脚は動くことは出来なかった。
迫りくる大きな口に飲み込まれる寸前で身体は吹き飛ばされ、俺は一瞬状況が分からなかった。
地面に転がり顔をあげた瞬間に見えた光景は、カディがアペプに飲み込まれたあとであった。
アペプは人間一人飲み込むと、周りの傷ついた兵士たちも食おうと頭を動かした。
甲高い叫び声。
地面に転がるは、誰の脚か。
その靴は見慣れたカディのもの。彼は物を大切にし、すり減るまで使う癖があるのだ。靴底は随分とすり減って今にも破れそうであった。
「ぁ・・・・・、あぁ・・・」
恐怖。絶望。
俺は無我夢中でその化け物に向かって剣を振り下ろした。
柔らかくすこし湿り気のある皮に、支給品の剣は切り傷すら付かない。突き刺すもなお同じ。
長い身体はずるずると気にするまでもなく目の前の兵士を喰らっていく。
(早く・・・!早く・・・・!!!)
ただひたすらに意味もなく振るう刃。
己に降りかかるのは魔物の血ばかりではなかった。
頭に振り落ちる大量の血液が視界を奪う。
アペプの前で、一人の青年はあまりに無力であった。
(なぜ刃が通らない!早く、腹の中のカディを助けないと死んでしまう!!嫌だ!!!頼むから死んでくれ!!!!!!)
すでに剣は折れ、縋りつくようにしてアペプの腹を掴んでいた。
叫びがいつの間にか止んでおり、きっと次に腹に収まるのは自分であろうと涙した。
アペプは生ける伝説とも言われるほど長期間長く生き続ける。どのくらい実質生きるのか確かめられた者はいない。ただ、記録上残っているわかりやすい模様のアペプが一万年たった砂漠でも見られたと言われているだけだ。もっともっと生きるのかもしれない。こいつに飲み込まれて血肉になれば魔物の目を通してその時代を見るのだろうか。
「許さない・・・!!お前だけを生かすなど!!!友を返せ!!!」
その叫びと共に両の手が熱くなった。
驚き手を離せば、アペプの巨体がゆっくりと倒れ込む。
身体が浮くほどの大きな振動をたてアペプは息絶えた。原因はわからぬが喰われずに済んだらしい。
急いで捌きやすい口から腹にかけ捌く。体液塗れの中、意識は無かったがカディは奇跡的に生きていた。あとから喰われた兵士たちは胴体を食いちぎられたりしていてこと切れていたが、丸呑みされたのが幸いしたのだ。
「カディ・・・よかった。本当に・・・・」
抱きしめたその身体の重みと温かさは、紡いだ確かな命そのものであった。
その後カディは回復後、右足を失ったことで戦えなくなり、給金を貰い故郷へ戻ることとなった。
「衛生兵として残ってもよかったがな・・・」
「まぁ、命があって何よりだよ。俺の羊の世話もよろしくな」
「あぁ、お前が無事に戻ること祈ってるよ」
いつ死んだっておかしくはない。それでも幼い頃から知る友が目の前で果てることなく本当に良かったと思う。俺をかばって代わりに死にかけたことがガイルの中で罪悪感があったが、カディの療養中に話したことで早々に彼の痛い拳によりそれは払拭されていた。
「助けてくれたのもお前だろ?足一本で二人の命貰えたならありがたいよ」とカディは言う。
カディ以外喰われた兵士は皆死んだ。
なぜ、あの時急にアペプが死んだのか。それは分からない。ただ急に魔法の才が己に現れたとは思えぬ。なら、あの不思議な感覚は何であったか・・・。
「心配なら魔法師にそのうち相談してみるといい。お前が死なない力に目覚めたならそれでいいが。大丈夫さ、お前を一度助けてくれた力ならきっと悪いものじゃない」
杖を突き慣れないカディを支え、船に乗せた。
別れは惜しいがあとほんの数か月で俺の任期は終わる。そうすればまた会えるのだ。
漕ぎだすその姿を見えなくなるまで見送れば、あたりは夕焼けに染まり川は真っ赤に輝いていた。
砂時計の砂は決して増えることは無い。
時間きっちり零れ落ちる。
それはどうしてか。
器の中身が決まっているからだ。
それ以上でも以下にもならぬ。
器である硝子が割れぬ限りそれは永遠に変わらない。
だが、もしその器の大きさを自由に変えることが出来るのならばもはやそれは人知を超える。
だからこそ出来ぬのだ。
「え・・・・・、それはどういうことですか?」
俺は、よく怪我の治療をしてくれる魔法師にアペプに出会った時の話をしてみたのだ。
その話を聞いて自分の肉体の状況を診てくれ、自分の持つ値に異常は無いかと問われた。
戦いの日々で自分の力や値などを視ることなどすっかり頭から抜けていて改めて自分の値を確認すれば何故か生命値が異常な数値となっていたのだ。それを伝えればさらに詳細に調べられ、どうやらその謎の力によりアペプの生命値を奪ったのではないかという仮説が立てられた。
なぜ、そのような力を急に出来るようになったのか。興奮気味で聞いてくる魔法師に少々引きながらも思い当たる節を考える。ただ敵を倒しまくって生き延びてきただけでただそれだけだ。勿論矢を貫かれれば簡単に死ぬだろうし、燃やされれば絶望の業火の中で死ぬのだろう。不死では無いのだ。
「他の部隊と違うのは・・・俺たちの部隊は魔物を中心に倒せと命じられた部隊なので・・・・勿論残党兵を倒すこともやりましたし、それが特段何かに作用していたならカディだって起きているはず・・・」
他の兵達と大きく違いの述べるならばそのぐらいであった。
だが、それがやはり原因かもしれぬと魔法師は言う。
ガイルが魔物の血を大量に浴び続けたせいではないかと。浴び続けたことにより魔に近いものになったのではないかと、そう言うのだ。
確かに血を浴び続けて瘴気も常に纏い、魔に近いものになったならこの変な力が使えるようになったのも納得だ。カディは戦いのあとに気持ち悪いとすぐに血を拭っていたし、俺はどうせすぐまた汚れるのだからと放置していたきらいがある。他の兵士たちにも俺のような者も何人かいたが、すでに死んでしまったものにその力が使えたのかもはや確認することもできない。
「あと考えられる原因は君の生まれ持つ素質も合わさったのかもしれぬ。元よりその力は潜在的にあったのだ。だが、使う機会が無く眠っていた。そして今回命の危機に陥ったこと、そして魔の力を持つ瘴気と大量の血液を浴び続けたことが引き金となりそのような力として現れたのかもな。」
「生まれ持った潜在的な力。けど、つまり・・・俺は、魔物みたいになってしまうのか?」
「いや、そう落ち込むな!ガイル・バンダーク。それは新しい力!言わば人類が新たに発見した力なのだ!!それを有効的に使わずしてどうする!!これでお前は国を救う英雄になるやもしれん!!」
「英雄・・・ですか」
何が嬉しいのか実感も気持ちもついて行かない。
己の肉体が魔物と同義になってしまったと言うのに喜ばれる。
この力をうまく使いこなせれば戦争は早く終わるのだろうか?この目の前の魔法師に力を報告したその日から俺の能力は軍の隊長達に周知され、敵の生命力を奪う訓練を課せられたのだ。
翌日より俺は主に力を使いこなす方法を必死に学んだ。要は敵の生命力を奪うことを中心として動く。
一度コツを掴んでしまえば造作もなく、実験で何度も魔物の命を奪っていった。俺の力は前代未聞でその力を軍全員が持つことが出来れば簡単に戦争を終わらせられる。そう上は考えたのか俺の発言をもとにした魔物の血を大量に浴びる実験も他の兵士たちには行われたのだ。
俺が練習として魔物の生命力を奪い、使い終わったその死んだ魔物から血を抜き取り新兵が浴びるというもの。とても悍ましい光景で、生臭く瘴気も漂う。貴族出身の階級の高い兵士たちは当然やりたがらなかったので、実験のほとんどは俺のような寄せ集めの平民からなる志願兵がほとんどであった。
さもありなん。
「その後、血を浴び続けた彼らがどうなったかわかるか?」
そう、ガイルは問う。蓮人は息をのんだ。想像が出来てしまう、異様な光景だ。
その血を浴び続けた彼らは当然瘴気も受け続ける。そして魔に近づいて行ってしまうのだ。
「その生き残りが先ほどの末裔なのですね」
「そうだ」
ガイルの後ろで燃え続ける大きな焚火の中でパチリ何かが弾ける。
その表情は暗く影が落ちた。
「悍ましいものよ。当然のことだ。血を浴び続ければ魔に近づく。俺は偶発的にこの能力を得たが、全員がその力を得ることは出来なかった。ただ瘴気に侵され死んだ者、発狂し人間の意識が失われた者、肉体さえ変化し人間と呼べる存在ではなくなったもの。散々だ。魔に近づけてなお人間の意識が残り人間離れした破壊力などの力を得ることが出来たものは実験の、ほんの一握りだったのだ」
身体の変化は血と瘴気を浴びた量にもよって違ったが、大半は牙が鋭くなり、爪が猛獣のように伸びた。
人間より凶暴性がまし、血を見ると興奮する。それぐらいで何とか留めれば人間の意識を止められた。それ以上魔に近づいて行けばどんどん肉体は壊れ、やがて人の意識は消える。
それが分かったころにはかなりの人間を失っていたが、戦争ですでに損害を常に出している日常の中では俺たちの感覚は麻痺し、なんとも思っていなかった。
そうして人為的に作られた魔に近いものたち。それによって簡単に戦争は終わりを告げた。
戦う必要なんてない。近づけばあっさり死体と化す仲間たちに恐れをなし、敵国も降伏せざるを得ない。
これで、故郷に帰れると仲間と笑いあったのが若かったのだろうなとガイルは自傷気味にほほ笑んだ。
「戦争が終われば戦の為に使う危険な武器など不要。機嫌を損ねれば己の命を奪われるかもしれぬと邪心した貴族が国に進言したのだ。当然俺達も抗議した。国に忠義を尽くして歯向かうことはしないと。けれど平民の意見と貴族の意見では発言力が違う。俺たちの意見などそよ風にもならなかったのだ。」
貴族の中には敵から奪ったその膨大な生命力を貰い、永遠に生き続けることが可能であると提言した者もいた。
殺すのであれば未来の国の繁栄のために俺たちの身体をもっと有効的に使うべきだと魔法師達は問うた。
どれもこれも、俺たちの意見など関係ない。
そのことに俺たちは逃げ出したのだ。当然何人も捕まり虐殺・実験などその末路は悲惨だ。
闇に隠れ住むように、城を離れ、土の中に居を構えた。
魔に近いからといって、力が強いからといっても俺たちは人の子であった。
事実に絶望し、自ら命を絶ったものもいた。そう、悠久の時を生きられるとしても心の臓を貫けばあっさり死ねるのだ。不思議なものだろう?
一部の者達は故郷へ帰ると旅立っていくものもいた。彼らがその後どうなったかは俺にもわからぬ。
ただ、現在までその者達には再び相見えたことは無い。
「・・・・・」
「そうして少しずつ、残った者達で住処を増やし、隠れ住むようになって現在に至るわけだ」
そうぽつりと地面に落とされた言葉。
蓮人は一度地面を見つめ疑問を問うた。
「瘴気を消す方法は試されなかったのですか?」
「なに?」
「貴方の力は、私の力と同じ。与えることもでき奪うこともできる能力。それならば纏ってしまった瘴気を奪い仲間たちが魔に近いものと知らぬ人間のいる遠い地で生きることもできたはず。そうすれば地下に長期間住み続けることも無かったはずです。」
話を聞いていてますます能力は俺とセペドとほぼ同じであるガイル。
それならば長い時の中で他人の瘴気を奪うことを考え付かないはずはない。
なぜやらなかったのだろうかと聞きたかった。
「はっ、考えることは同じか・・・試したさ、お前の発言のように俺たちは魔に近いものになっていたため瘴気を常に纏っていた。これのお陰で普通の人間が傍にいれば長くは生きれぬ。だが、その方法を試そうとなった時は大分地下の暮らしに慣れていた頃であった。志願兵には女性の兵士も勿論いてその者と婚姻を結ぶものもいた。その子らが生まれながらに瘴気を発していることに気付いてやっと試そうとなったのだ」
「それで、どうなったのですか?」
「・・・・・」
ぱちりぱちり。
炎の燃える音がする。
灰色の煙は、立ち上りやがて空に向かって手を伸ばし消えていった。
「死んだのだ」
「え?」
「せめて何も知らぬ子らは健やかにあれと、瘴気を取ってあげたかった。だが、瘴気を取った直後赤子は死んだのだ。」
「な、ぜ・・・?」
誤って命を奪ったとは考えにくい。ただ、瘴気を取るだけならば蓮人もつい最近行ったばかりだからわかる。辛いのは引き受けた己の身だけで、実際ハックウェフダーは問題なく元気に動き回っていた。
目の前ほどの生命力を持つ男ならば、赤子の瘴気を取り込んだところでそれほど体に負担も無かったろうに。
「うかつであった。生まれながらに我らの魔の遺伝子を持って生まれた子らは、その瘴気も自分を構成する肉体の一部なのだ。つまり、後天的なものとは明らかに違う生命体なのだ。」
「そんな・・・・そんな人間がいるなんて・・・」
つまり、先天的に魔の力を持って生まれてしまった人間は、瘴気すら肉体の一部であり、それを奪えば死んでしまう。つまり、どんなに普通の人間と共に暮らしたくともその者達は一生地上の人間として暮らすことは叶わないのだ。
蓮人は己の考えの浅はかさに思わず奥歯を噛んだ。
考えていたのだ、いつの日にか国中の緑を取り戻し役目を終えた後のことを。
自分は緑化の能力以外では、この世界に不要な人間だ。ならばその後はどうやって生きようかと。
国から以前一生普通に暮らしても困らぬほどの金銭を貰ったことで予算の心配はなくなった。
だからせめてこの力が役立てるように、役目を終えたあとは魔物の瘴気を引き受けたりしながら国を回っていけばいづれ魔に侵された動物たちも人間と共に仲良く暮らせる日が来るのではないかと。
けれど、人間に害をなすと言われるその瘴気そのものを奪うことが出来ない生き物もいる。
それは蓮人の考えを見事に打ち砕く事実であった。
「さて、おおよそこれで我らの疑問は晴れたか?ならば改めて問おう。お前の連れだした魔物をどうか元の地に戻してはくれないか?」
「?どういう、ことでしょうか?」
話を聞けば、咎人というのはこのことだったらしい。
いつの日にかあの地に住みつく魔物を神の如く称える者が出てきており、それが心のよりどころになっていることも。ガイルにとってはただの魔物であるが、地上を悠然と駆け抜けるあの魔物があの地に留まること行為自体が珍しいことで、まるでそれがあの地を守っているように民の目には映っているのだとか。
「だが、今回起こした騒動は目に余る。本来できれば地上の者とことを犯してはならぬと言っていたのだが、どうにも一部の崇拝的な者達にとってお前の行動は神を独り占めしようとする愚か者と思っているようでな。それについては謝罪しよう。だが、閉鎖的な空間で長期間変わらぬ時を生きる者達に取っての拠り所が消える気持ちもわかるのだ。だからそれは出来ることならば少しでも叶えてやりたい気持ちもある。どうだ簡単なことであろう?」
「・・・・・そもそもに無理やりハックウェフダーを捕らえ連れて行っていったわけではありません。彼の者の自らの意志です。本来であればこちらもあの地で分かれる予定だったのです。貴方はあの地を守っているように見えると言った。それは貴方方に取ってあの地は特別な地であると?教えてくださりますか?」
そう、あの地を訪れたのは本来国の依頼で緑化しに行っただけなのだ。
魔物の遭遇や、己の負傷はその場での予想外の出来事である。
もし、あの地を汚されたくない事情がある民がいるならばきちんと国に報告せねばまた争いの火種になってしまうであろう。
その姿勢に少々きょとんとした表情を見せたのち、彼は小さく口を開いた。
「うむ。報告には少し誤解があったようだ。・・・あの地はな、我らにとって墓場なのだ」
昨日で15になったばかりのガイルは、朝早くから家で使う水を汲むために井戸へと向かう。
カラッと晴れた太陽の下で舞う砂は口の中にも瞼にも簡単に入り込む。
「ガイルは本当にまつげが長くて羨ましいわ」
生前母がそのようなことを言っていたことを思い出す。
男の自分にはよくわからぬが、やはり見目美しいと言うのは男女に関わらず羨望の眼差しになるのであろう。
自分としては筋肉をもっとつけ、いっそのこと毛深い男にでもなってしまいたかったが母に似た己はどちらかというと男の中では華奢な方であった。
家の大きな水入れの壺に使う分の水を入れ終わると川へ向かう。
昨日仕掛けた罠に魚がかかっているのを確かめに行くのだ。数か所罠を確かめに行けば、今日捕れた魚は五匹。一人暮らしのガイルが食べる分には十分の量であった。
ぽってりとした魚は白いお腹の部分がうっすら血がにじみ出たような色となっている。
すぐに腹を捌き内臓を取り出して中を川の水で洗う。
そうして下処理を終えた魚を自宅へ持ち帰ると、魚を調理場へ置き調味料を取りだした。
木でできた小さな器に、塩と胡椒、クミン、唐辛子、潰したにんにくを入れる。家の近くで取れる葉と玉ねぎをナイフで細かく切り刻み、レモンを絞る。
それを全て魚の腹に詰め終えて、味がしみ込むまで別の片づけや洗濯物を洗ったりした。
母が亡くなってからは、この家でたった一人で暮らしている。
お陰で炊事洗濯全てを自分で行っている。慣れてしまえば造作もないことだ。
魚に程よく味がしみ込んだ頃小麦粉を全体的にまぶし、それを油で揚げていく。
皿に盛ったそれを黙々と平らげた。
このあたりではよく作られる一般的な魚料理の一つだ。川魚、時には蟹なども捕れる。
朝食を食べ終えて、洗濯物を干していると国からお触れの通知が届いた。
中身を確認すれば近年、近隣国の戦争が激化し人手が足りぬのだと言う。相手国の中にはうまく魔物を扱う人間もいるようで魔物を使った攻撃も伴っている。多くの兵が命を落とし、それでも国は負けるわけにはいかない。その為、若い力ある男達に志願兵を募ったのだ。
その志願した際の給金が、ほそぼそと暮らすガイルには目玉が飛び出すほどの金額であった。
名のある兵士たちはもっと貰っているのではあるだろうが、この給金を貰えばしばらく生活に困らない額だった。ガイルは身体は華奢であれど病弱ではなく、さっそく知り合いの男のもとへと向かったのだ。
「お前は行くのか?志願兵」
「なんだ。ガイルのところにも届いたのか。こりゃあいよいよこの国危ないんじゃないか?」
そうガイルの呼び声にこたえたのは、幼い頃から仲のいいカディーラ・ジュンディーだった。
カディーラはガイルよりも体格がよく肌も褐色で、綺麗に筋肉がついており憧れの的でもあった。
「もしかしたら戦えそうな奴ら全部にこの便りを出しているかもな。見たか?この給金。本当に払ってくれるのかな?」
「カディが行くんなら、俺も行こうかなと思って。腕には自信があるし、何より数か月さえ我慢すればいいんだ。楽なもんだろ」
カディは、ちょうど家庭内で使用する肉捌き用の刀を研いでいて、それの切れ味を確かめていた。随分と使い古されたその刃は研ぐたびにすり減っていき、もうそろそろ新しいものに変えたほうがよさそうだった。
研ぎ終えた数本の刃を机に置いて、改めて俺が持ってきた便りとカディのもとへ届いた便りを二枚同じものを並べて机に置いて眺めた。俺もカディも現在一人暮らしで親はいない。妻を迎える気配も今のところないので数か月戦へ向かったとて心配はいらない。飼っている羊たちは、いつもお世話になっている同じ遊牧民のおじさんたちに預けておけばいい。すでに二人の心は決まっていた。
「出発は?」
「明朝?それまでに羊たちとかのお願いをしないと」
「そうだな。」
こうして俺とカディは二人、戦争のため臨時兵士に名乗りを上げたのだ。
最初の数日は訓練を行い、ある程度戦い方のいろはを教わったうえですぐさま戦場へ赴いた。
俺たちは基本的に魔物の相手であったり、味方が打ち漏らした残党兵を狩るなどを行った。
倒した魔物の中には希少価値の高い魔物もいて、毛皮や牙や角、肉なども余裕があれば持ち帰り金にする仲間もいた。特段咎める者はいない。戦場では全てが黙認状態であった。
中には戦いに巻き込まれた村にいた女子供を襲い、楽しむ下衆もいた。
俺たちは魔物から取れる魔石や毛皮などは持ち帰ることもあったが、あそこまで落ちたくはないと思いながらその場を後にしたものだ。
そうして戦いも激化し、まわりの人間も幾度か入れ替わる中俺達二人は奇跡的に生き残っていた。
危ない瞬間は何度かあった、俺が敵の矢に胸を貫かれた時もたまたま魔法師が近くにいて回復魔法で何とかなった。カディが魔物の巨大な足に潰されかけた際も、俺が投げた剣が運よく魔物の目に的中しよろめかせた瞬間に急いで助け出すことが出来た。
だがそんな幸運も毎回続くわけもなく、ある珍しく曇った日であった。
空は薄暗く、今にも天候が悪化しそうなぶ厚い雲。灼熱の大地の中戦って体力が消耗するよりは楽な戦いであった。その頃には怪我もなく魔物を倒すことが出来るようになってきて自分たちに力に過信していたことは否めない。いつものように牛のような突進してくる魔物を数体倒して、味方全員一呼吸を置いていた。持ち場が片付けば他の持ち場の者達の状況を見て加勢しに行くなり、そのまま補給場へ行き壊れた武器の交換や、今のうちに怪我をしている者は治療を受けに行くのだ。
「なぁ、本隊の状態って今どうなっているんだろうな?」
「さぁな、興味はないが。さっさと金を貰って帰りたいね俺は」
国と国の争いは良く分からない。けれど、攻められれば自分たちの生活に害を及ぼすために俺たちは国に協力しているだけで、相手の国に何らかの憎しみを持っているわけでも無かった。
こうした発想は珍しいのだろうか?ただ自分たちに被害が及ばなければいいのだと。俺はそれだけだったのだ。
足元に転がる魔石とこつんと足先で触り、それを拾おうと屈んだ時であった。
大地が揺れた。
「なんだ?!地が・・・・くそ、なんだこれ魔法か?」
「落ち着けガイル。ひとまずしゃがめ!こんな広範囲の地を揺らす魔法師がいるなんて・・・本隊の状況は?」
とてもじゃないが立っていられなかった。全員が膝をつき、どのぐらいの時間揺れていたのであろうか。揺れが次第に落ち着いてきてもまだ身体が揺れている気がする。
自然現象で大地が揺れるなどあり得ない。立ち上がれるほどの揺れが落ち着きを取り戻してすぐに俺たちは本隊へ向かった。
怪我人が続出しているであろう予測し、すぐに怪我人を運ぶ手が必要だと思った。
俺たちの部隊は手分けして包帯や使える武器の補充物資を運び本隊へ持って行った。
「っ・・・・!」
「これは・・・・」
その場所は本隊の末端がいる場所で。
国一番の兵達が集う場所の一つだったはずだ。
俺たちは立ち尽くした。赤い砂の大地にとても大きな抉れた穴が広がっていた。
その穴の底には煙が立ち上り、何らかの攻撃を受けた後だとわかる。数本ばかり穴の底に刺さる折れた味方の剣や武具が、そこにいたのだと教えてくれる。
「うあああああああああ!」
誰が叫んだかなんて覚えていない。己自身も叫んでいたかもしれない。
抉れた大地、そこにはすでに敵も味方も魔物すらいなかった。
ただ燃えるように立ち昇る煙と、その跡を残すのみ。
何が起きたのか、俺たちはただ茫然と立ち尽くしていた。
敵か味方が、魔法を放ちそれがこの結果なのか。
己は魔法すら使えぬただの人間にとってそれは理解の及ばない恐怖でしかない。
(こんな力・・・・)
味方すら滅ぼす力をあえて放ったのか、予想外の事態で攻撃魔法が暴発してしまったのか。もう聞くことは叶わない。
他の小部隊も加勢しに来たのか、後ろから新たにやってきた部隊が息をのんでいるのが聴こえる。
そして新たに数回、また地が揺れたのだ。
(狂っている・・・こんな戦い)
その日、ペルメル王国の兵の3割が壊滅した。
今思えばほぼ負け戦であった。
それでも貴族や王族は、駒を動かし戦略を練り悩む程度で現場のことなどつゆ知らず。
兵が減れば国の民から補充すればいい。その程度の考えであったのだ。
徐々に現場は困窮した。
本隊にいた有能な回復力のある魔法師達も多く亡くなってしまったがために、末端の寄せ集めの兵達まで人手は回らなくなった。大けがを追えばそれすなわち死である。軽傷も自分たちで簡易的な手当てしかできず皆が徐々に疲弊した。包帯すら最後には補充されなくなり、亡くなった人間の綺麗な衣服を奪いそれを破り包帯を作った。
恐ろしい魔法の力とはいえ、回復できる力があればとあの時は何度願ったことだろう。
志願兵となり仲良くなった奴が昨日死んだ。
女子供を襲い快楽に身を落としていた奴は随分前に。
今日は誰が死ぬのだろう。自分かもしくは別の人間か。脳すら何も考えたくなくてただ目の前の出来ることだけを機械的にこなすようになっていた。
食事も睡眠も極端に減らされて、もう満身創痍だった。
だからとは言いたくはない。己にとってあの光景は決して忘れてはならないのだから。
「ガイル!!」
「っ・・・・!!」
それは全てがゆっくりとした時間に感じられた。
多くの魔物を倒し終え、息を整えていた俺の近くの砂からいきなり現れたのは巨大なラムルアペプ。
アペプとは魔物の中でも凶暴性が特に高く、時には仲間さえかみ殺すほどの残虐さも持つ。そしてだからこそ決して人間に懐くことは無いと聞く。
つまり敵国の操る魔物ではない。きっと幾日も砂漠の上で血が流れ、まして先日大きな地を揺るがすほどの魔法を放っていれば地中深くにいる魔物を怒らせてしまってもおかしくは無かった。
初めてみる巨大なアペプ。その大きな口に生える牙が見えても俺の脚は動くことは出来なかった。
迫りくる大きな口に飲み込まれる寸前で身体は吹き飛ばされ、俺は一瞬状況が分からなかった。
地面に転がり顔をあげた瞬間に見えた光景は、カディがアペプに飲み込まれたあとであった。
アペプは人間一人飲み込むと、周りの傷ついた兵士たちも食おうと頭を動かした。
甲高い叫び声。
地面に転がるは、誰の脚か。
その靴は見慣れたカディのもの。彼は物を大切にし、すり減るまで使う癖があるのだ。靴底は随分とすり減って今にも破れそうであった。
「ぁ・・・・・、あぁ・・・」
恐怖。絶望。
俺は無我夢中でその化け物に向かって剣を振り下ろした。
柔らかくすこし湿り気のある皮に、支給品の剣は切り傷すら付かない。突き刺すもなお同じ。
長い身体はずるずると気にするまでもなく目の前の兵士を喰らっていく。
(早く・・・!早く・・・・!!!)
ただひたすらに意味もなく振るう刃。
己に降りかかるのは魔物の血ばかりではなかった。
頭に振り落ちる大量の血液が視界を奪う。
アペプの前で、一人の青年はあまりに無力であった。
(なぜ刃が通らない!早く、腹の中のカディを助けないと死んでしまう!!嫌だ!!!頼むから死んでくれ!!!!!!)
すでに剣は折れ、縋りつくようにしてアペプの腹を掴んでいた。
叫びがいつの間にか止んでおり、きっと次に腹に収まるのは自分であろうと涙した。
アペプは生ける伝説とも言われるほど長期間長く生き続ける。どのくらい実質生きるのか確かめられた者はいない。ただ、記録上残っているわかりやすい模様のアペプが一万年たった砂漠でも見られたと言われているだけだ。もっともっと生きるのかもしれない。こいつに飲み込まれて血肉になれば魔物の目を通してその時代を見るのだろうか。
「許さない・・・!!お前だけを生かすなど!!!友を返せ!!!」
その叫びと共に両の手が熱くなった。
驚き手を離せば、アペプの巨体がゆっくりと倒れ込む。
身体が浮くほどの大きな振動をたてアペプは息絶えた。原因はわからぬが喰われずに済んだらしい。
急いで捌きやすい口から腹にかけ捌く。体液塗れの中、意識は無かったがカディは奇跡的に生きていた。あとから喰われた兵士たちは胴体を食いちぎられたりしていてこと切れていたが、丸呑みされたのが幸いしたのだ。
「カディ・・・よかった。本当に・・・・」
抱きしめたその身体の重みと温かさは、紡いだ確かな命そのものであった。
その後カディは回復後、右足を失ったことで戦えなくなり、給金を貰い故郷へ戻ることとなった。
「衛生兵として残ってもよかったがな・・・」
「まぁ、命があって何よりだよ。俺の羊の世話もよろしくな」
「あぁ、お前が無事に戻ること祈ってるよ」
いつ死んだっておかしくはない。それでも幼い頃から知る友が目の前で果てることなく本当に良かったと思う。俺をかばって代わりに死にかけたことがガイルの中で罪悪感があったが、カディの療養中に話したことで早々に彼の痛い拳によりそれは払拭されていた。
「助けてくれたのもお前だろ?足一本で二人の命貰えたならありがたいよ」とカディは言う。
カディ以外喰われた兵士は皆死んだ。
なぜ、あの時急にアペプが死んだのか。それは分からない。ただ急に魔法の才が己に現れたとは思えぬ。なら、あの不思議な感覚は何であったか・・・。
「心配なら魔法師にそのうち相談してみるといい。お前が死なない力に目覚めたならそれでいいが。大丈夫さ、お前を一度助けてくれた力ならきっと悪いものじゃない」
杖を突き慣れないカディを支え、船に乗せた。
別れは惜しいがあとほんの数か月で俺の任期は終わる。そうすればまた会えるのだ。
漕ぎだすその姿を見えなくなるまで見送れば、あたりは夕焼けに染まり川は真っ赤に輝いていた。
砂時計の砂は決して増えることは無い。
時間きっちり零れ落ちる。
それはどうしてか。
器の中身が決まっているからだ。
それ以上でも以下にもならぬ。
器である硝子が割れぬ限りそれは永遠に変わらない。
だが、もしその器の大きさを自由に変えることが出来るのならばもはやそれは人知を超える。
だからこそ出来ぬのだ。
「え・・・・・、それはどういうことですか?」
俺は、よく怪我の治療をしてくれる魔法師にアペプに出会った時の話をしてみたのだ。
その話を聞いて自分の肉体の状況を診てくれ、自分の持つ値に異常は無いかと問われた。
戦いの日々で自分の力や値などを視ることなどすっかり頭から抜けていて改めて自分の値を確認すれば何故か生命値が異常な数値となっていたのだ。それを伝えればさらに詳細に調べられ、どうやらその謎の力によりアペプの生命値を奪ったのではないかという仮説が立てられた。
なぜ、そのような力を急に出来るようになったのか。興奮気味で聞いてくる魔法師に少々引きながらも思い当たる節を考える。ただ敵を倒しまくって生き延びてきただけでただそれだけだ。勿論矢を貫かれれば簡単に死ぬだろうし、燃やされれば絶望の業火の中で死ぬのだろう。不死では無いのだ。
「他の部隊と違うのは・・・俺たちの部隊は魔物を中心に倒せと命じられた部隊なので・・・・勿論残党兵を倒すこともやりましたし、それが特段何かに作用していたならカディだって起きているはず・・・」
他の兵達と大きく違いの述べるならばそのぐらいであった。
だが、それがやはり原因かもしれぬと魔法師は言う。
ガイルが魔物の血を大量に浴び続けたせいではないかと。浴び続けたことにより魔に近いものになったのではないかと、そう言うのだ。
確かに血を浴び続けて瘴気も常に纏い、魔に近いものになったならこの変な力が使えるようになったのも納得だ。カディは戦いのあとに気持ち悪いとすぐに血を拭っていたし、俺はどうせすぐまた汚れるのだからと放置していたきらいがある。他の兵士たちにも俺のような者も何人かいたが、すでに死んでしまったものにその力が使えたのかもはや確認することもできない。
「あと考えられる原因は君の生まれ持つ素質も合わさったのかもしれぬ。元よりその力は潜在的にあったのだ。だが、使う機会が無く眠っていた。そして今回命の危機に陥ったこと、そして魔の力を持つ瘴気と大量の血液を浴び続けたことが引き金となりそのような力として現れたのかもな。」
「生まれ持った潜在的な力。けど、つまり・・・俺は、魔物みたいになってしまうのか?」
「いや、そう落ち込むな!ガイル・バンダーク。それは新しい力!言わば人類が新たに発見した力なのだ!!それを有効的に使わずしてどうする!!これでお前は国を救う英雄になるやもしれん!!」
「英雄・・・ですか」
何が嬉しいのか実感も気持ちもついて行かない。
己の肉体が魔物と同義になってしまったと言うのに喜ばれる。
この力をうまく使いこなせれば戦争は早く終わるのだろうか?この目の前の魔法師に力を報告したその日から俺の能力は軍の隊長達に周知され、敵の生命力を奪う訓練を課せられたのだ。
翌日より俺は主に力を使いこなす方法を必死に学んだ。要は敵の生命力を奪うことを中心として動く。
一度コツを掴んでしまえば造作もなく、実験で何度も魔物の命を奪っていった。俺の力は前代未聞でその力を軍全員が持つことが出来れば簡単に戦争を終わらせられる。そう上は考えたのか俺の発言をもとにした魔物の血を大量に浴びる実験も他の兵士たちには行われたのだ。
俺が練習として魔物の生命力を奪い、使い終わったその死んだ魔物から血を抜き取り新兵が浴びるというもの。とても悍ましい光景で、生臭く瘴気も漂う。貴族出身の階級の高い兵士たちは当然やりたがらなかったので、実験のほとんどは俺のような寄せ集めの平民からなる志願兵がほとんどであった。
さもありなん。
「その後、血を浴び続けた彼らがどうなったかわかるか?」
そう、ガイルは問う。蓮人は息をのんだ。想像が出来てしまう、異様な光景だ。
その血を浴び続けた彼らは当然瘴気も受け続ける。そして魔に近づいて行ってしまうのだ。
「その生き残りが先ほどの末裔なのですね」
「そうだ」
ガイルの後ろで燃え続ける大きな焚火の中でパチリ何かが弾ける。
その表情は暗く影が落ちた。
「悍ましいものよ。当然のことだ。血を浴び続ければ魔に近づく。俺は偶発的にこの能力を得たが、全員がその力を得ることは出来なかった。ただ瘴気に侵され死んだ者、発狂し人間の意識が失われた者、肉体さえ変化し人間と呼べる存在ではなくなったもの。散々だ。魔に近づけてなお人間の意識が残り人間離れした破壊力などの力を得ることが出来たものは実験の、ほんの一握りだったのだ」
身体の変化は血と瘴気を浴びた量にもよって違ったが、大半は牙が鋭くなり、爪が猛獣のように伸びた。
人間より凶暴性がまし、血を見ると興奮する。それぐらいで何とか留めれば人間の意識を止められた。それ以上魔に近づいて行けばどんどん肉体は壊れ、やがて人の意識は消える。
それが分かったころにはかなりの人間を失っていたが、戦争ですでに損害を常に出している日常の中では俺たちの感覚は麻痺し、なんとも思っていなかった。
そうして人為的に作られた魔に近いものたち。それによって簡単に戦争は終わりを告げた。
戦う必要なんてない。近づけばあっさり死体と化す仲間たちに恐れをなし、敵国も降伏せざるを得ない。
これで、故郷に帰れると仲間と笑いあったのが若かったのだろうなとガイルは自傷気味にほほ笑んだ。
「戦争が終われば戦の為に使う危険な武器など不要。機嫌を損ねれば己の命を奪われるかもしれぬと邪心した貴族が国に進言したのだ。当然俺達も抗議した。国に忠義を尽くして歯向かうことはしないと。けれど平民の意見と貴族の意見では発言力が違う。俺たちの意見などそよ風にもならなかったのだ。」
貴族の中には敵から奪ったその膨大な生命力を貰い、永遠に生き続けることが可能であると提言した者もいた。
殺すのであれば未来の国の繁栄のために俺たちの身体をもっと有効的に使うべきだと魔法師達は問うた。
どれもこれも、俺たちの意見など関係ない。
そのことに俺たちは逃げ出したのだ。当然何人も捕まり虐殺・実験などその末路は悲惨だ。
闇に隠れ住むように、城を離れ、土の中に居を構えた。
魔に近いからといって、力が強いからといっても俺たちは人の子であった。
事実に絶望し、自ら命を絶ったものもいた。そう、悠久の時を生きられるとしても心の臓を貫けばあっさり死ねるのだ。不思議なものだろう?
一部の者達は故郷へ帰ると旅立っていくものもいた。彼らがその後どうなったかは俺にもわからぬ。
ただ、現在までその者達には再び相見えたことは無い。
「・・・・・」
「そうして少しずつ、残った者達で住処を増やし、隠れ住むようになって現在に至るわけだ」
そうぽつりと地面に落とされた言葉。
蓮人は一度地面を見つめ疑問を問うた。
「瘴気を消す方法は試されなかったのですか?」
「なに?」
「貴方の力は、私の力と同じ。与えることもでき奪うこともできる能力。それならば纏ってしまった瘴気を奪い仲間たちが魔に近いものと知らぬ人間のいる遠い地で生きることもできたはず。そうすれば地下に長期間住み続けることも無かったはずです。」
話を聞いていてますます能力は俺とセペドとほぼ同じであるガイル。
それならば長い時の中で他人の瘴気を奪うことを考え付かないはずはない。
なぜやらなかったのだろうかと聞きたかった。
「はっ、考えることは同じか・・・試したさ、お前の発言のように俺たちは魔に近いものになっていたため瘴気を常に纏っていた。これのお陰で普通の人間が傍にいれば長くは生きれぬ。だが、その方法を試そうとなった時は大分地下の暮らしに慣れていた頃であった。志願兵には女性の兵士も勿論いてその者と婚姻を結ぶものもいた。その子らが生まれながらに瘴気を発していることに気付いてやっと試そうとなったのだ」
「それで、どうなったのですか?」
「・・・・・」
ぱちりぱちり。
炎の燃える音がする。
灰色の煙は、立ち上りやがて空に向かって手を伸ばし消えていった。
「死んだのだ」
「え?」
「せめて何も知らぬ子らは健やかにあれと、瘴気を取ってあげたかった。だが、瘴気を取った直後赤子は死んだのだ。」
「な、ぜ・・・?」
誤って命を奪ったとは考えにくい。ただ、瘴気を取るだけならば蓮人もつい最近行ったばかりだからわかる。辛いのは引き受けた己の身だけで、実際ハックウェフダーは問題なく元気に動き回っていた。
目の前ほどの生命力を持つ男ならば、赤子の瘴気を取り込んだところでそれほど体に負担も無かったろうに。
「うかつであった。生まれながらに我らの魔の遺伝子を持って生まれた子らは、その瘴気も自分を構成する肉体の一部なのだ。つまり、後天的なものとは明らかに違う生命体なのだ。」
「そんな・・・・そんな人間がいるなんて・・・」
つまり、先天的に魔の力を持って生まれてしまった人間は、瘴気すら肉体の一部であり、それを奪えば死んでしまう。つまり、どんなに普通の人間と共に暮らしたくともその者達は一生地上の人間として暮らすことは叶わないのだ。
蓮人は己の考えの浅はかさに思わず奥歯を噛んだ。
考えていたのだ、いつの日にか国中の緑を取り戻し役目を終えた後のことを。
自分は緑化の能力以外では、この世界に不要な人間だ。ならばその後はどうやって生きようかと。
国から以前一生普通に暮らしても困らぬほどの金銭を貰ったことで予算の心配はなくなった。
だからせめてこの力が役立てるように、役目を終えたあとは魔物の瘴気を引き受けたりしながら国を回っていけばいづれ魔に侵された動物たちも人間と共に仲良く暮らせる日が来るのではないかと。
けれど、人間に害をなすと言われるその瘴気そのものを奪うことが出来ない生き物もいる。
それは蓮人の考えを見事に打ち砕く事実であった。
「さて、おおよそこれで我らの疑問は晴れたか?ならば改めて問おう。お前の連れだした魔物をどうか元の地に戻してはくれないか?」
「?どういう、ことでしょうか?」
話を聞けば、咎人というのはこのことだったらしい。
いつの日にかあの地に住みつく魔物を神の如く称える者が出てきており、それが心のよりどころになっていることも。ガイルにとってはただの魔物であるが、地上を悠然と駆け抜けるあの魔物があの地に留まること行為自体が珍しいことで、まるでそれがあの地を守っているように民の目には映っているのだとか。
「だが、今回起こした騒動は目に余る。本来できれば地上の者とことを犯してはならぬと言っていたのだが、どうにも一部の崇拝的な者達にとってお前の行動は神を独り占めしようとする愚か者と思っているようでな。それについては謝罪しよう。だが、閉鎖的な空間で長期間変わらぬ時を生きる者達に取っての拠り所が消える気持ちもわかるのだ。だからそれは出来ることならば少しでも叶えてやりたい気持ちもある。どうだ簡単なことであろう?」
「・・・・・そもそもに無理やりハックウェフダーを捕らえ連れて行っていったわけではありません。彼の者の自らの意志です。本来であればこちらもあの地で分かれる予定だったのです。貴方はあの地を守っているように見えると言った。それは貴方方に取ってあの地は特別な地であると?教えてくださりますか?」
そう、あの地を訪れたのは本来国の依頼で緑化しに行っただけなのだ。
魔物の遭遇や、己の負傷はその場での予想外の出来事である。
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「うむ。報告には少し誤解があったようだ。・・・あの地はな、我らにとって墓場なのだ」
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近々番外編をあげます。
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2022.05.28
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