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しおりを挟むエヴァ様の婚約者であられるアレク・ダグラス様は今年で23歳になられる若き侯爵様でいらっしゃいます。
エヴァ様が17歳なので6歳年上の大人味溢れるクールで紳士な方です。背にサラサラ流れる青い髪に、透き通った切れ長の水色の瞳をされたそれはもう甘いマスクの美丈夫なのです。
そしてこの若さでこの国の騎士団の副団長をつとめる実力のある方であられます。その身分と美貌も相まって婚約者がいる今でも社交界のご令嬢方の憧れの的なのです。
エヴァ様とアレク様のご両親は非常に仲がよろしく、生まれた時から2人の婚約は決まっていたそうです。お二人が最初に出会ったのはアレク様が10歳、エヴァ様が4歳の時でした。
私はその当時、エヴァ様の話し相手として側に控えておりました。
お二人はご両親に紹介されたあと初めて顔を合わされたのです。
お二人はお互いを見つめて固まっておられました。あれは一目惚れだろうと私は確信しております。
しかし、お二人の初めての会話はそりゃあもう酷いものでした。
アレク様がエヴァ様を見つめてこう仰ったのです。
「ちっこいな。コロコロしていて芋みたいだ」
「なっ」
告げられた言葉にまだ当時4歳であられたエヴァ様はそりゃあもうショックを受けておいででした。
確かに小さくお可愛らしい方でしたけど、芋という例えはどうかと思います、アレク様。
しかしエヴァ様は次の瞬間には立ち直り、アレク様をきっと睨みながら言い返されたのです。
「あなただってただデカイだけじゃない。なんの表情も見せないお顔なんて気持ち悪いわ。ただ立ってるだけなんて邪魔じゃないの。まるで木偶の坊だわ」
エヴァ様、4歳ながら見事な切り返しです。
これにはアレク様も目を見開いて固まっておいででした。
そのあともずっとこんな調子なのでこの婚約は良くないのではと心配もしましたが、帰宅したあとエヴァ様は目を輝かせて仰いました。
「アレク様、素敵な方でしたわ!口を開くと無愛想だけどそこも素敵です!あまり話さない方なんですのね。クールで美しいなんてもっと素敵。私があの方と結婚できるなんて幸運だわ。……でも緊張したあまりひどいことを言ってしまったわ……きっと無礼な女だと思われているのでしょうね……どうしましょう……」
頬を紅潮させて語るエヴァ様。やっぱり一目惚れしていたんですのね、私の目に狂いはありませんでした。
けれどその目はみるみるうちに涙が溜まり、私を見上げます。
私はいたたまれなくなって提案をしました。
「アレク様についている従者のオディマは私のいとこですから、彼伝いでそれとなくエヴァ様の印象を聞き出したみますわ。これならどうでしょう」
エヴァ様は顔をグシャグシャにして泣きながら、私に是非お願いと告げるのでした。
私はすぐにオディマの元に向かいました。
オディマとは小さい頃からの付き合いなので気安く接することができます。
侯爵家についてオディマに要件があると門番さんに掛け合うと、私と面識のある馴染みの顔の方がすぐに通してくださいました。ありがたいことです。
オディマにはすぐに会えましたので要件を伝えました。するとオディマは笑顔になりました。何故でしょうか。
「あー、よかったー。うちの主もエヴァ嬢に嫌われたかもしれないってオロオロしててさー。エヴァ嬢見た瞬間これでもかってくらい凝視してたからこりゃ一目惚れしたなーって思ってたけどここまでとはね。もうずっとあれからエヴァ嬢のことばっかり気にして何も手についてないんだよ。ありゃ重症だね」
まぁ、アレク様もやはりそうでしたか。やはり私の目に狂いはありませんでした。
でもそれならなぜあんなにもぶっきらぼうな態度を取られたのでしょう。私は気になってオディマに訪ねました。
彼は苦笑いしながら答えてくれました。
「うちの主はクールであまり感情を表に出さないのは確かだけどあれでも普通な時は普通に接することができるんだ。それがエヴァ嬢に一目惚れしたせいか照れすぎてまともに話せないんだよ。しかも元々細かいことを気にしない性格のせいで女性の心の機微とかに疎い。だから余計にあんな接し方になるんだろ。我が主ながら情けなさすぎてやるせないな」
「なるほど。お互い似た者同士というわけね。あのお二人は」
「エヴァ嬢のあれも照れ隠しなんだろ?似た者同士すぎて逆にお似合いだな」
「ぜひ結ばれてもらわなければ」
鼻息を荒くする私にオディマはただ笑います。
「同感だ」
その時私はふとあることを思いつきました。オディマに思わず詰め寄ります。
「では協力いたしません?」
「ん?協力?」
オディマが首をひねります。私は両手をぐっと握りしめながら力説します。
「この2人がこんな調子ではいずれ婚約破棄になりかねません。そうならないように2人で情報交換しつつお二人を見守るのです。それはもう私はエヴァ様が妹のように可愛いですからお二人の恋が無事に実ってほしいのですわ。幸せになって頂きたいですもの」
オディマは私をしばらく見つめ後、腕を組みにやっと人の悪い笑みを浮かべました。
「面白そうだな。ノッた」
この言葉に私も満足してオディマににっこり微笑み返しました。
こうして私とオディマによる「対策会議」ははじまったのです。
--あれから10年以上経った今でも欠かさずに行われているのですけれど。
翌日私はそんなことを回想しながらエヴァ様からお預かりしたお手紙を持っていつものようにダグラス邸の執事に言付けてオディマを呼んでもらいました。
アレク様が屋敷に戻っているのは確認済なのですぐにオディマが出てきます。そしていつものように応接室のひとつに通されました。
オディマは私を見ると要件はわかっている、というふうに頷きながら話を切り出しました。
「要件は分かってるよ。昨日のデートのことだろう?いつも以上に凹んでたぞ。あんなに落ち込むなら普通に口説けって話なんだよな。相変わらず女性の気持ちを察してやれないなんて、我が主は本当に情けないな」
私はオディマの言葉に全くその通りだと思いましたが口にはしませんでした。
そんな事が出来ているのならば私は今ここにおりませんもの。
「アレク様はなんと?」
「いつも以上にめかしこんできたエヴァ嬢が可愛くて仕方なかった。エヴァ嬢が見たいと言っていた劇団のチケットを何とか取り寄せ一緒に見たのはいいが、エヴァ嬢が可愛すぎて劇に集中出来なかった。ご飯を食べる姿すら愛らしくて、可愛いしか言うことがない。だとさ。だからそれをエヴァ嬢に言えばいいだろって思わないか?それを口に出して言えばエヴァ嬢も喜ぶって何度も言ってんだけどなぁ……なんであんなになったかなぁ……」
「どうしてこんなに想い合ってるのに通じないのかしら。言葉って大事ね……」
「それは俺もこの二人を見てるとつくづく思うよ。本当に」
私が感慨深く呟くと、なぜかオディマが私を見て頷いています。
何故でしょうか。私は意味がわからずに首を傾げると、オディマは気にするなというように手を振ると話を戻しました。
なんだったのでしょう。
「まぁ、明日も主はお休みだしエヴァ嬢にお茶でもお誘いするのはどうだ?俺からは後で主に伝えておくよ。どうせ了承するだろうし」
「分かりましたわ。私もエヴァ様に伝えておきますわね。きっとお喜びになるわ」
「ところでヴィルニーナ。お前もそろそろ結婚とか考えないのか?」
私はキョトンとします。なぜいきなりそんな話になるのでしょうか。と思いつつも考えます。
結婚。そうですね。私は今20歳で普通に考えれば適齢期真っ盛りですしどちらかと言うとあと2、3年内に結婚しなければ「行き遅れ」と言われるような年齢になってしまいます。
でも別に私は今結婚したいと思うような殿方もいませんし、何よりエヴァ様に幸せになっていただく方が先決ですので自分の身の振り方を考えるより、やはりそちらを優先しますわね。
「別に、する必要を感じませんもの。私はエヴァ様が幸せになって下さるまで自分のことなんて考えられませんわ」
私の何よりの幸せはエヴァ様に笑顔で、幸せでいてくださること。
自分のことは二の次です。
「--やっぱり、何がなんでもあの二人にはくっついてもらわないとな。今のままだと俺の出る幕がない」
「何か言いましたか?オディマ」
オディマが呟いた言葉は、私には聞こえませんでした。
「いいや、なんでもない。それよりか今から伯爵家へ戻るんだろう?手紙を預かるついでに主にさっきのお茶のこと聞いてくるよ。一応エヴァ嬢の返事も聞いておきたいから俺も一緒に伯爵家へ向かうよ。少し待っていてくれ、送るから」
「ええ、ありがとう。オディマ」
私の都合でお邪魔したというのに紳士なオディマの言葉に私は感動しました。
一刻も早くエヴァ様の憂いを晴らしたかったので私はオディマの好意に甘えることにしました。
こういう所に気を使える男性は素敵だと思いますわ。
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