【完結】侍女ニーナの備忘録~ツンデレ令嬢と朴念仁騎士のすれ違い恋事情~

蓮実 アラタ

文字の大きさ
3 / 5

3

しおりを挟む
「エヴァ様、素敵ですわ!これならきっとアレク様も見惚れるに違いありません!」


翌日、お茶の誘いに喜んで応じたエヴァ様のために私はエヴァ様の身支度を整えておりました。
エヴァ様はふわふわの桜色の髪を結い上げ、薄いピンクのふんわりしたドレスを着こなして、それはもう春の妖精がごとく愛らしさを醸し出しています。なんとお可愛らしいのかしら。
思わず女の私もエヴァ様に見惚れてしまいました。


「そうかしら?ありがとう、ニーナ」
「どういたしまして。では馬車もご用意できておりますので参りましょう」
「ええ」


私は念の為エヴァ様に同行することにいたしました。今回はオディマも控えています。
無事に仲直りして下さるとよいのですけれど。

ルイズ伯爵家とダグラス侯爵家は共に王都にあり、それほど距離も離れておりませんので馬車を使えばすぐに到着します。
ダグラス邸に着くと、色とりどりの花が咲きみだれる美しい庭園に通されました。
アレク様は庭園の一角にお茶の用意をしてお待ちしておりました。
今日はラフにシャツとスラックスという出で立ちです。
相変わらず何を着てもお似合いな方ですね。
アレク様はエヴァ様に気づくと手を振って歓迎してくださりました。

「ようこそエヴァ」
「お招き頂き、ありがとうございますわ。アレク様」


エヴァ様が腰をおってスカートの端をつまみ、挨拶をされるとアレク様はエヴァ様の手を取ってその甲にキスをされました。
挨拶を交わされるお二人はここまではいつも通りにこやかです。
問題はここからなのです。頑張ってください、と私はエヴァ様にほほ笑みかけ、下がります。
同じように側に控えているオディマの元までくるとその隣に並び、二人の会話に耳を傾けます。


「手紙、ありがとう。読んだよ。すまなかった、せっかくのデートだったのに」


まずはアレク様のターンのようですわ。自然な形で謝罪に入っています。出だしとしてはなかなかいいですわね。


「い、いいえ。私も言いすぎました。私のために時間を作ってくださったのに申し訳ありませんでした」


なかなかいい感じですわ。その調子です、エヴァ様!
私は拳を作ってぐっと握りました。


「今度、また挽回させてくれないか?私の可愛い婚約者」


まあ、可愛い婚約者ですって!頬を真っ赤にしたエヴァ様が目に浮かぶようですわ。


「え……あっ、え、--ええ。それなら応じないこともありませんわ!私の満足いくようなエスコートをなさる自信がおありのようですし、当然のそれに見合う素晴らしいプランがおありなのでしょう?昨日のデートはそりゃぁ酷いものでしたわ!」


あ、いけません。突然のアレク様の可愛い発言に照れすぎて混乱して悪い癖がではじめています。
私は慌てます。これは助けに行くべきなのでしょうか。


「いや、まだそこまで具体的なことは……だが、君の不快にさせるようなことはもうしないと誓う」
「まあ、おありでないのですか。誓うだけなら誰にも出来ましてよ。それに婚約者の好みくらい把握しておいてほしいものですわ!確かに昨日の劇は私の見たいものでしたけどアレク様は楽しんでいらっしゃらなかったようですし、アレク様にはどうでもいいことでしたわね!(今度はきちんとしたデートでエスコートしてほしいです。さりげなく私の好みを把握していてくださって、とても嬉しかったですわ。でもできるならアレク様ともっと話して楽しみたかったです)」
「それは……(エヴァが可愛すぎて、集中出来なかっただけだ)」
「いつもそうですわ!今日だって私を見て何とも思いませんの!?(せっかくアレク様のためにおめかししたのに褒めてもらえないなんて悲しいですわ)」
「いや……(エヴァは何を着ていても可憐で可愛すぎるんだ)」


ちなみに()内の気持ちは私とオディマによる内心の本音を私たちなりに解釈したものですわ。

「いつもそうですわ!アレク様は何も仰ってくれませんもの!私のこと本当は嫌いなんでしょう!?」


エヴァ様の叫びが庭園内に響き渡りました。これはエヴァ様が最も言いたかった本心でございましょう。そのまま泣き出してしまわれたようです。
私もオディマも行くべきかこのまま様子を見守るかでオロオロしていると、アレク様が大声をあげられました。


「それはない!ずっと好きだった!初めて見た時からずっと!」
「……--!本当ですか……?」
「ああ、ずっと好きだった。今も変わらない!」


(おおおおお!!)
私とオディマは思わず手を取り合いついに言った!と喜びました。

エヴァ様は泣き止んだようで、しばらくすると甘い嬌声が聞こえて来ました。
どうやらアレク様がキスをされているようです。

ひと安心した私とオディマは静かに側を離れます。しばらく二人きりにしておくべきでしょう。
と、そこで私は気づきました。オディマと手を繋いだままだったのです。
私は侍女という立場上、異性と接してこなかったわけではないのですがここまで直接的に触れたことはありませんでした。


「オディマ?もう手を離していいですか?」


私は恥ずかしくなって頬が赤くなるのを自覚しながら、オディマに切りだしました。
オディマはその言葉に立ち止まるとまず私の顔を見ます。
そうして次に握っている私の手を見ると、一層強く握り返してきました。
私はびっくりしてオディマを見つめます。


「オディマ?」
「ここの庭園、薔薇が綺麗なんだよな。主たちはしばらくあのままだろうし、その間暇だろ?せっかくだから見てまわろうぜ。案内するよ」
「え?ええ」


オディマに促されるまま、手を繋いで結局私たちは薔薇を見て回りました。
確かにオディマが言うだけあって美しく見応えがある薔薇たちだったのですが、私はオディマと手を繋いでいる状況に慣れず、ソワソワしてしまいます。
比較的オディマとの付き合いは長いのですが、手を握ることは今までありませんでしたのでドキドキしてしまいます。

(それにオディマの手。大きくてゴツゴツしていて、男っぽいわ)

アレク様の美貌に比べれば見劣りするように感じますが、そもそもオディマも少しウェーブがかった黒髪に、意志の強そうな青い眼、通った鼻筋と整った顔立ちをしているのです。
いつもはオディマも騎士団に在籍しているので騎士服を着ているのですが今日は従者としての格好でした。隙のない着こなしですらっとしていて格好いいです。

私はそこでオディマも「男」なんだな、と改めて思い余計に頬が赤くなりました。
私はオディマにバレないように目を伏せていたせいで、オディマが私を見て愛おしそうに微笑んでいたのに全く気づきませんでした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】25日に生まれた私は、運命を変える者――なんて言われても

朝日みらい
恋愛
25日に生まれた娘・アメリアは、子爵家に生まれながらも、地味で控えめな性格ゆえ家族から冷遇されていた。 一方、義妹セリーナは華やかで美しく、家の期待を一身に受ける存在。 アメリアはいつも彼女の衣裳合わせや楽譜の稽古相手として働かされていたが、それでも笑顔を絶やさない。 彼女の唯一の誇りは、亡き母から贈られた“25の暦石”の首飾り。 「25に生まれた子は、運命を変える力を持つ」と母に言われた言葉を胸にしまい込みながら――。

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)

柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!) 辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。 結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。 正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。 さくっと読んでいただけるかと思います。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

悪役令嬢まさかの『家出』

にとこん。
恋愛
王国の侯爵令嬢ルゥナ=フェリシェは、些細なすれ違いから突発的に家出をする。本人にとっては軽いお散歩のつもりだったが、方向音痴の彼女はそのまま隣国の帝国に迷い込み、なぜか牢獄に収監される羽目に。しかし無自覚な怪力と天然ぶりで脱獄してしまい、道に迷うたびに騒動を巻き起こす。 一方、婚約破棄を告げようとした王子レオニスは、当日にルゥナが失踪したことで騒然。王宮も侯爵家も大混乱となり、レオニス自身が捜索に出るが、恐らく最後まで彼女とは一度も出会えない。 ルゥナは道に迷っただけなのに、なぜか人助けを繰り返し、帝国の各地で英雄視されていく。そして気づけば彼女を慕う男たちが集まり始め、逆ハーレムの中心に。だが本人は一切自覚がなく、むしろ全員の好意に対して煙たがっている。 帰るつもりもなく、目的もなく、ただ好奇心のままに彷徨う“無害で最強な天然令嬢”による、帝国大騒動ギャグ恋愛コメディ、ここに開幕!

婚約者は無神経な転生悪役令嬢に夢中のようです

宝月 蓮
恋愛
乙女ゲームのモブに転生したマーヤ。目の前にいる婚約者はそのゲームの攻略対象だった。しかし婚約者は悪役令嬢に救われたようで、マーヤそっちのけで悪役令嬢に夢中。おまけに攻略対象達に囲まれている悪役令嬢も転生者で、何だか無神経発言ばかりで少しモヤモヤしていしまうマーヤ。そんな中、マーヤはゲームには関係ない隣国の公爵令息と仲良くなり……!? 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

不機嫌な侯爵様に、その献身は届かない

翠月るるな
恋愛
サルコベリア侯爵夫人は、夫の言動に違和感を覚え始める。 始めは夜会での振る舞いからだった。 それがさらに明らかになっていく。 機嫌が悪ければ、それを周りに隠さず察して動いてもらおうとし、愚痴を言ったら同調してもらおうとするのは、まるで子どものよう。 おまけに自分より格下だと思えば強気に出る。 そんな夫から、とある仕事を押し付けられたところ──?

処理中です...